北海道からの便り vol.7


夏の北海道からお届けします。

梅雨はない、台風は来ない、残暑はない。はずなのですが、

最近、ないものがある北海道。

ちょうど、大きな台風が3つ立て続けに去っていったところでしたためています。

今回は、2年ほど前から協働させていただいている下川の「森とイエ」プロジェクトをご紹介させていただきたいと思います。

最近完成した新しいパンフレット

最近完成した新しいパンフレット

「森とイエ」は地域の工務店と建築家が協働して、これからの北海道らしい住宅を創造するプロジェクトとして、活動を始めて5年が経ちました。森林の町、下川町に高断熱住宅の普及を進める工務店グループ「下川ECOな家づくり研究会」が発足したのがきっかけです。

そもそも下川町は冬期間は氷点下30度にもなる寒冷地で、暖かく快適な住まいを普及させることは、この地域の工務店にとっても重要なことでした。研究会メンバーは 全員が北方型住宅の技術者認定資格「BIS」の資格者で、安心の断熱・気密施工を行っています。

そのような中、地域の担い手であった工務店の業務は減少し、次第に体力を失いつつあります。私たちは、地域の工務店との協力をとおして、地域で仕事を生み、そして継続して家を守るしくみを作っています。「地域を守る人を育む」ような家づくりは、森とイエプロジェクトを通して実現したい夢のひとつです。

また、建築家が協働することで「自由で安心な家づくり」を実現したいと考えています。ライフスタイルが多様化して、それぞれの暮らし方に合わせた自由な家づくりが求められています。それは、魅力的なまちを育むきっかけ作りにつながります。

最後に、森とイエでは家づくりは文化であると捉え、「地域らしい住宅の創造」に取り組んでいます。地域で生まれた素材を活かしながら、地域の産業と協働し、色々な地域で森と暮らす家づくりが育つことを願って、その実践と普及の活動を続けています。

森とイエ通信 最新号

森とイエ通信 最新号

http://ur2.link/xUib
からダウンロード可能です。
バックナンバーは
http://moritoie.net/category/tsushin/
からどうぞ。

「森とイエ」は3つのポイントを大切にしています。

・地域の工務店がつくる地域住宅であること。
厳しい自然環境の中、暖かく快適な住まいを求めて、長年にわたる研究と実践によって育まれてきた「北方型住宅」の技術を習得し、普及させていきながら、安心の高気密・高断熱住宅を実現しています。

・地域での家づくりも建築家と協働しています。
より満足度の高い住宅を提供し、より良い住まいづくりを目指して、森とイエは建築家も共に企画・運営に関わっています。軒やひさしのあるデザイン、無落雪屋根、外装木材を修繕しやすいところに採用、外部建具は木製サッシを基本とする、薪ストーブやペレットストーブの設置、外構に燻煙処理枕木を採用するなどのデザインコードを設けて魅力ある空間を創造しています。

・森と生きる家を創造しています。
暮らしは文化を合言葉に、まちの森林資源を積極的に活用しながら、環境性能の高い地域住宅を創造しながら、断熱・気密などの性能だけではない価値ある家づくりを目指しています。

7月2日に開催した「家づくりの手道具展」のフライヤー

7月2日に開催した「家づくりの手道具展」のフライヤー

そして、「工務店コース」「建築家コース」「モデルプランコース」の選べる3つのコースを用意しています。
「工務店コース」は、地域工務店が初期の打ち合わせから設計、工事まで一貫して進めるコースです。建築家は工務店のプランニング(基本設計)のサポートにあたります。面談後、担当の工務店を選定できる安心のシステムです。
「建築家コース」は、建築家の提案力をフルに発揮して、初期段階の打ち合わせから設計・監理まで、建築家がフルサポートします。施工は地域工務店が担当して、プロセスを楽しみながら最も自由な家づくりが実現します。事前見学や面談で建築家を自由に選択できる仕組みです。
「モデルプランコース」は、リーズナブルながらも豊かな空間を持ったパッケージプランで、コストや仕様を明確にしながら、性能や思想は森とイエ基準です。

このような取り組みは、森とイエHP http://moritoie.net/ で随時発信しているほか、建設現場見学会や、森とイエ通信の発行、完成見学会や森とイエプロジェクトメンバーで企画運営するイベントなどで普及活動を多なっています。HPでは、実際に「森とイエ」で住まいを建てられたクライアントの生の声が、「オーナーズヴォイス」のコーナーで見ることができます。

7月2日には「家づくりの手道具展」を開催しました。家づくりに携わる職人の方々の心意気と、技術に支えられ、一棟づつ手作りされる私達の家づくりを、古くから家づく りに使われた数々の道具達を通して知っていただいたり、実際に携わってくださる職人さんの手の素晴らしさ を体感ししていただきたいというプロジェクトメンバーの熱い思いで実演や体験会が実現しました。

プロジェクトに関わってくださっている左官職人、野田 肇介さんの道具たち

プロジェクトに関わってくださっている左官職人、野田 肇介さんの道具たち

開催した体験ワークショップ。職人さんの実演や、餅つきも楽しい体験でした。

開催した体験ワークショップ。職人さんの実演や、餅つきも楽しい体験でした。

「森とイエ」はこれからも試行錯誤しながらですが、活動を広めていきたいと考えています。
下川地域だけでなく、同じ志を持ったいろんな地域で活動が芽吹いて、そしてネットワークがつながっていくと、さらにたくさんの方々に森とイエの住まいをお届けしていけるのではないかと模索中です。
今後とも活動を見守っていただければ幸いです。

130731_sakurai櫻井 百子(さくらい ももこ)

1973年北海道旭川市生まれ。北海道東海大学芸術工学部卒業後、都市計画事務所、アトリエ設計事務所を経て2008年アトリエmomo設立。子育てしながら、こころや環境にできるだけ負荷の少ない設計を心がけている。平成22年度 北海道赤レンガ建築奨励賞、2011年度 JIA環境建築賞 優秀賞 (住宅部門) 受賞。

[北海道からの便り バックナンバー]
・北海道からの便り vol.1
・北海道からの便り vol.2
・北海道からの便り vol.3
・北海道からの便り vol.4
・北海道からの便り vol.5
・北海道からの便り vol.6
・北海道からの便り vol.7
・北海道からの便り vol.8

2016年夏編第7弾 福島からの便りが届きました


福島の斉藤さんから、夏の便りが届きました。

今回は斉藤さんが暮らす福島の夏の風景を、特に東日本大震災で被害が大きかった地域を中心に寄せていただいています。

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『震災からちょうど5年5か月が経過した「山の日」の祭日を利用して、南から楢葉町→富岡町→大熊町・双葉町と福島第一原発に近い地域を視て、それから相馬市へと北上してきました。』

詳しくはこちらをご覧ください。

福島からの便りVol.3 『2011年 東日本大震災の被災地 “5年後の夏”』

福島からの便り vol.3 『2011年 東日本大震災の被災地 “5年後の夏”』


 

2011年3月11日に発生した東日本大震災により福島県では最大震度6強の地震を観測しました。沿岸部では大津波が到達し、広範囲に甚大な被害をもたらし、また、福島第一原子力発電所では津波による冷却装置の電源喪失により、水素爆発や原子炉格納容器の水蒸気を外気に逃すベント等により放射性物質が私たちの郷里にばら撒かれ、3月12日の夜には、福島第一原発から半径20km圏内の住民に避難指示が発令されました。

東日本大震災 原発事故から5年 ふくしまは負けない 2011~2016 : 福島民報社 より

東日本大震災 原発事故から5年 ふくしまは負けない 2011~2016 : 福島民報社 より

実際には、当時の風向きや降雨の状況により、福島第一原発から北西の方向に大量の放射性物質が飛散しました。
後に実状の線量により避難区域は再編され、福島第一原発が立地する大熊町と双葉町、北西に隣接する浪江町のほとんどは帰還困難区域に指定され、原則立入が制限されています。その他、居住制限区域や避難指示解除準備区域に指定されている区域もあります。

福島第1原子力発電所の位置

福島第1原子力発電所の位置と視察の経路

私が住んでいる福島市にも放射性物質が到達し、場所によっては高い値の線量が観測されました。特に子供を抱えている住民の中には県外に避難された方もいますが、現在は除染作業も進み、見た目には日常の生活が流れています。
あれから5年が経ち、福島市で生活しているとなかなか見えてこない福島県の沿岸部を、現在どの様になっているか実際に視に行き、“5年後の夏”をお伝えしたいと思いました。

震災からちょうど5年5か月が経過した「山の日」の祭日を利用して、南から楢葉町→富岡町→大熊町・双葉町と福島第一原発に近い地域を視て、それから相馬市へと北上してきました。

楢葉町

楢葉町は旧警戒区域の福島第一原発から20km圏内に位置しながら、福島第一原発から南に位置するため比較的線量が低く、現在は避難指示区域外となり、通常の生活を営むことができます。

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太平洋を目の前に臨める場所に来てみましたが、除染で出た汚染ゴミがうず高く積み上げられていました。

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その場所から反対側を臨むと、こちらにも汚染ゴミの仮置き場が広がっていました。ここは、津波の被害にあった耕作放棄地だと思われます。

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先程の場所から海岸を背に西へ車を走らせると、津波の高さを示す看板に出会いました。
看板の一番下の白いラインが津波の高さです。私の乗用車と同じくらいの高さです。
この辺りは一面海水に浸かったのだと想像すると、とても怖くなります。

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さらに西へと車を走らせると、津波の到達地点を示す看板に出会いました。
海岸からおおよそ1km離れた場所です。
未来の住民が津波の被害にあわないように、津波の被害を記憶に残すとても大切な看板だと思いました。

富岡町

次に訪れたのは、富岡町です。
富岡町は、福島第一原発のある大熊町の南側に接しています。富岡町は全てが避難区域に指定されており、福島第一原発に近い一部の地域は帰還困難区域となっており、現在も立ち入りが制限されています。
今回訪れた富岡駅は、その中でも比較的放射線量が低い避難指示解除準備地域に指定されています。

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富岡駅は眼下に太平洋を臨む場所に有り、津波の被害を受けてしまいました。
この場所は、津波によりプラットホームだけになってしまった富岡駅の現状です。
JR常磐線は現在この区間は不通となっており、平成32年に向けて復旧工事をしているようです。

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プラットホーム以外に駅近辺に残されていたのは、駅の利用者が使っていた駐車場の跡だけでした。また、後に設置された放射線量を測定するモニタリングポストがありました。
数値は0.202μ㏜(マイクロシーベルト)でした。
モニタリングポストは福島県内の各所に設置されており、福島市でも見ることができます。

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これは、無くなってしまった駅舎と駅前の様子です。手前の建物がかろうじて残っていますが、一階部分が破損しており、津波の高さをうかがい知ることができます。

大熊町・双葉町

次に、福島第一原発のある大熊町と双葉町へと向かいました。
大熊町と双葉町のほとんどが帰還困難区域に指定されています。
帰還困難区域は原則立入が制限されていますが、現在は除染が済んでいる国道6号線と常磐自動車道の通過は可能です。

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今回は国道6号線を通過してきました。
国道6号線に接続している道路や家屋、店舗の入り口などにはこのようにバリケードが設置されており、立入の制限がされています。所々に警察官も立っています。

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5年前から時間が止まってしまった国道6号線沿線の様子です。
建物や看板は朽ち、雑草が生い茂っています。

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国道6号線から福島第一原発を撮った写真です。
手前に広がる原野は、5年間放置され荒れ果ててしまった田畑です。
無情な時間だけが流れています。

相馬市

最後に訪れたのは、福島県沿岸の北部に位置する相馬市です。
福島市民の私にとっては、海水浴や海釣りなど、子供のころからとても馴染みのある場所です。

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相馬市には松川浦という天然の入り江があり、良好な漁場であるとともに、外海からの潮を守ってくれる穏やかな港湾にもなっています。

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水平線上に見える白いラインは津波の後に築かれた堤防です。以前ここには砂州があり、松川浦を潮から守っていましたが、津波はここを乗り越え砂州を押し流してしまい、一時外海と繋がってしましました。

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最後に、子供のころから何度も訪れた原釜尾浜海水浴場を訪れました。
震災前はこの時期になると海の家が立ち並び、海水浴客で賑わっていましたが、現在はその面影は全くなくなっていました。

震災以前の海水浴場の様子 - 相馬市 ホームページより

震災以前の原釜尾浜海水浴場の様子 - 相馬市 ホームページより

最後に

東日本大震災から5年が経ち、福島県の沿岸部は防潮堤(美観の問題はありますが・・・)や港湾等、復興が進んでいる場所もありますが、福島県には原発事故という特別な災害により、何にも手が付けられずに時間が止まってしまった場所もあります。
こうして意識して沿岸部の方にも訪れないと、正直なところ、同じ福島県に住みながらこちらの被災地の事を考えている時間はあまりありません。これからもこうして時々復興の状況を視に行き、少しでもこの震災について考える時間をつくりたいと思います。
この便りを読まれた方も、少しの時間でかまわないので、「フクシマ」を考えていただけたらと思います。


saitohirofumi@kkj齋藤史博(さいとう ふみひろ)

1973年福島県福島市に生まれる
1997年に新潟大学工学部建設学科卒業後、組織事務所を経て2006年に「さいとう建築工房」を設立。
無理をしない、素直な家づくりを目指して地元福島で頑張っています。
2013年に“かわまた「結の家」”にて、第6回JIA東北住宅大賞2012「優秀賞」、第8回木の建築賞「木の建築賞」を受賞。

■バックナンバー
福島からの便り Vol.1
福島からの便り Vol.2

2016年夏編第6弾 岐阜からの便りが届きました


写真1:自宅を南東より見る。周辺の豊かな緑とすだれで夏の暮らしを実現する。

写真1:自宅を南東より見る。周辺の豊かな緑とすだれで夏の暮らしを実現する。

岐阜の辻さんから、夏の便りが届きました。

辻さんは「岐阜県立森林文化アカデミー」の准教授として活躍する、環境と共生する家づくりの専門家です。

今回は自然エネルギーを活用したご自宅での夏の暮らしぶりについて、ご紹介いただいています。

詳しくはこちらからどうぞ。
■ 岐阜からの便りVol.1 岐阜南部の夏の暮らし

2016年夏編第5弾 富山からの便りが届きました


ゴーヤの緑陰

ゴーヤの緑陰

富山の川崎さんから、2度目となる夏の便りが届きました。

今回はご自宅での夏を涼しくすごす工夫から、黒部川の伏流水などを有効に活用したYKKの開発する「パッシブタウン」についてご紹介いただいています。

詳しくはこちらをどうぞ。

■富山からの便り Vol.4

岐阜からの便り vol.1 岐阜南部の夏の暮らし


 

岐阜県立森林文化アカデミーの辻です。私は兵庫県南部の小野市で生まれ育ち、大阪の大学、設計事務所を経て、2001年の森林文化アカデミー開学より、岐阜県に移り住んで16年目の夏を迎えています。

現在、築130年の小さな古民家を改修して住んでおり、いろいろ試行錯誤しながら土地の豊かさを享受し、心地よく、エネルギー消費を抑えて暮らしています。

写真1:自宅を南東より見る。周辺の豊かな緑とすだれで夏の暮らしを実現する。

写真1:自宅を南東より見る。周辺の豊かな緑とすだれで夏の暮らしを実現する。

まずは岐阜を概観してみます。一口に岐阜といっても、県北部は標高3000mを超える飛騨山脈が連なる一方、南部は木曽三川が流れる濃尾平野が広がっています。
このように標高差が激しいため、南部の岐阜市 平均気温が15.8℃に対し、北部の高山市 平均気温は11.0℃というように、気候も地域によって大きく異なります。(省エネ地域区分も高山市の3地域から岐阜市の6地域にまたがります。)
私の自宅のある関市(5地域)は、濃尾平野の北の端にあたり、平均気温14.6℃と比較的温暖な地域に位置します。
図1に最寄りの美濃気象観測所(赤い線)と近隣の大都市の名古屋気象観測所(グレー)と比較(1981~2010年の平均値)してみました。真ん中の線が平均気温、上下の線が最高、最低気温を示しています。

図1:美濃と名古屋の気温比較

図1:美濃と名古屋の気温比較

最も暑くなるのが8月で、最高気温は美濃の32.7℃に対して名古屋が32.8℃と山間部近いとはいえ、ほぼ同じくらい暑くなります。一方この時期に一番涼しいのは明け方で、美濃22.6℃に対して名古屋が24.3℃と2℃ほど低くなり、明け方の涼しさがありがたいです。
つまり、日中はしっかりと日射を遮蔽する必要があり、夕方から明け方にかけては涼しい外気をうまく取り込むと心地よく過ごせます。このようなデータは気象庁のHPから誰でも見ることができます。

では、夏のエネルギーはどこにどの程度使われているのでしょうか。

図2:5地域の月別エネルギー消費量の目安

図2:5地域の月別エネルギー消費量の目安

 

図2は総務省の家計調査から試算した我が家のある5地域、4人家族のエネルギーの月別変化です。
夏(7、8月)は、全体的にエネルギー消費が抑えられている月で、おおむね4.3GJ/月、使っています。
そのうち、家電や換気で50%程度、冷房、給湯で15%程度、照明12%程度、調理で8%程度の比率になっています。順番に省エネで豊かな暮らしを考えていきます。

まず、一番多い家電と換気ですが、使う機器を減らすのが一番手っ取り早いです。
我が家には、テレビがありませんが、最新の情報はインターネットで得ることができます。テレビの放映時間に合わせるのではなく、自分で時間をデザインすることができ、読書や家族の会話など、時間を有効に使うことができています。
また、家電の中で一番エネルギーを使うのは冷蔵庫ですが、我が家では太陽光発電0.3kW(1畳くらい)の太陽光発電を設置して、蓄電池と組み合わせてオフグリッドしています。もし、停電になっても冷蔵庫は作動しますので、リスク管理でも有効です。

次に夏特有の冷房ですが、基本は窓開けと天井扇、扇風機の活用です。この気流感によって、体感温度がぐっと下がります。私の家では、6月中旬から窓にすだれを設置して(写真1)、日射が入らない様にして、外気が涼しい時には通風、風がないときには天井扇(写真2)を活用しています。
通風のポイントは、室温より外気が涼しい時間帯は、しっかり風を入れてあげることです。最近では、室内にいながら外気温を読み取れるコードレス温湿度計も数千円で購入できます。
明け方には冷えた外気が入ってきて、少し寒いくらいになりますし、虫や鳥の鳴き声を聞きながら目覚めることになります。エアコン冷房は、窓を閉め切ることが基本のため、このような自然の関わりが少なくなってしまいます。

写真2:DCモーターの天井扇。省エネで揺らぎ効果が出せる。

写真2:DCモーターの天井扇。省エネで揺らぎ効果が出せる。

次に、給湯ですが、我が家は太陽熱温水器を活用しています。太陽の熱だけで、給湯機が全く必要ないくらいにお湯が取れます。よく晴れた日には沸きすぎることもしばしば。そんな時は、洗濯や掃除にも贅沢にお湯を活用します。

写真3:井戸小屋の屋根に乗せた真空管式太陽熱温水器と太陽光発電0.3kW(手前)

写真3:井戸小屋の屋根に乗せた真空管式太陽熱温水器と太陽光発電0.3kW(手前)

照明は、LEDか蛍光灯しか使っていません。これで普通に点灯してもエネルギー消費を削減できます。外灯はすべて独立した太陽光発電の人感センサー付き照明のため、配線の手間もありません。
最近ではクリア球のLEDなどデザインの選択肢が増え、空間に合わせた光が計画できます。

写真4:クリアタイプのLED照明の門灯

写真4:クリアタイプのLED照明の門灯

最後は調理ですが、室内でガスコンロを使用すると室温があがりますので、屋外での調理も併用します。我が家は、裏山があるので薪や竹を使ってロケットストーブを活用しています。
夕方涼しくなってきたときに外で調理をしながらの一杯は非常に贅沢な時間です。
かんたんな野菜洗いや庭の水まきは井戸も活用しています。冷たくて気持ちいいです。

写真5:井戸と屋外のカウンターテーブル

写真5:井戸と屋外のカウンターテーブル

写真6:ロケコ(鋼管ロケットストーブ)で調理

写真6:ロケコ(鋼管ロケットストーブ)で調理

特段、我慢することなく普通に住んでいるつもりですが、我が家の光熱費は月4000円程度。かなり安いと思いませんか。みんなが同じように暮らせるとは思えないけれど、少しの工夫でこのように、楽しみながらエネルギーを抑えた暮らしが実現できます。

160812_tsuji辻 充孝(つじ みつたか)
岐阜県立森林文化アカデミー准教授
Ms建築設計事務所を経て現職。共著に「木の家リフォームを勉強する本」「省エネ・エコ住宅設計究極マニュアル」。2013年~環境共生住宅パッシブデザイン効果検討委員、2014年 岐阜県人口問題研究会「空き家等活用部会」議長、2015年 カミノハウスにて地域住宅賞奨励賞受賞(建築研究所主催)。一級建築士。

富山からの便り vol.4


 

8月に入りました。当地でも盛夏を迎えています。皆々様に暑中お見舞いを申し上げます。このところの天気図を見ると太平洋の高気圧が日本を大きく覆うようになってきました。スカッとした夏空も素晴らしく嬉しいのですが、こうした日が続くと雨もまた恋しくなります。

我家では5月の連休明けにプランターにゴーヤの苗を植えました。ネットに這わせますが、どんどん大きくなり、今は日差しを遮る気持ちのよい緑陰を作ってくれています。

ゴーヤの緑陰

ゴーヤの緑陰

サンルームや家の中への日差しを調整してくれるグリーンカーテンともなり、網戸やスダレと併用し風通しの良い住まいを実践しています。大きな開口にスダレを下げるのは外から中は見えないし、中からは暑さをしのぐ涼しさも感じられます。外断熱材としての効果も大いにあるようです。

日差しを遮るスダレ

日差しを遮るスダレ

当地富山県では東の方角に北アルプス立山連峰が連なっています。先日友人たちと登ってきました。標高が100メートル上がると気温は0.6度下がるといわれますが、標高2千5百メートル程のところでの気温は10度台で爽快そのものでした。

奥大日岳稜線から剱岳(2999㍍)を望む

奥大日岳稜線から剱岳(2999㍍)を望む

立山から派生する大日連山の稜線にはまだ雪も残り周辺の高山植物はとてもやさしく、雄大な山岳景観は素晴らしいものでした。ただ、昨冬の雪が山でも少なかったとのことで、例年夏にも残る雪渓はとても小さく感じられました。
地元の電力会社では雪解けの水を利用する水力での発電が少なく、その分火力に頼ったことから決算に影響があったとの報道もありましたが、自然の恵みが温暖化によって様々に影響していることの課題も実感しました。

この北アルプスの山々からの急流が富山平野に何本も流れています。東から黒部川、片貝川、早月川、常願寺川、神通川、庄川、小矢部川です。かつてはこの急流河川の治水が大きな課題だったわけです。先人たちの多くの労苦とともに最近では災害も随分少なくなったように感じています。
一方、この河川からの恵みも多く、灌漑用水による稲作を中心とする農業や、水力による発電事業は富山県の発展に大きな貢献をしてきました。そして、この豊富な水は伏流水となって生活に様々な恩恵をもたらしてくれています。

先日、黒部川扇状地の広がる黒部市、入善町を訪ねてみました。広々とした田園に早くも膨らんだ稲穂が風に揺れていました。水路にはきらきら光る美しい水が流れ、豊かさが溢れているように感じられました。
この黒部川扇状地の末端部には処々に湧水があります。自噴しており地域の人達が大切に管理し生活用水として様々に利用されています。

絹の清水(しょうず)(黒部市生地地内)

絹の清水(しょうず)(黒部市生地地内)

また、入善町の海岸に近い湧水郡の辺りには「杉沢」と呼ばれる杉を中心とする植物群落が残されています。かつては多くの杉沢がありましたが、圃場整備などで激減し現在一箇所だけが「杉沢の沢スギ」として2.7haほどが保存されています。

杉沢の沢スギ(入善町吉原地内)

杉沢の沢スギ(入善町吉原地内)

30度を超える暑い日でしたが、この中に入ってみると鬱蒼とした杉林の中に伏流水が流れています。「涼しいな」と言うのが実感でした。かつては「生活の森」として建築用材や燃料の調達に。また、アケビや栗、山菜など食用の植物も多彩だったようです。

この黒部川の伏流水などを有効に活用したのがYKKの開発する「パッシブタウン」です。

パッシブタウン第1期街区南側外観(黒部市三日市地内)

パッシブタウン第1期街区南側外観(黒部市三日市地内)

ご縁が繋がり、4月に入居された第1期街区のTさん宅を訪問することが出来ました。春に訪れたときには玄関ドアーを開けるとふんわりとした暖かさを感じ、先日再訪したときには、逆にひんやりした感覚を持つことができました。

第1期街区では黒部の自然エネルギーを活用し、街区一体の暖冷房を実現させています。地下の機械室にはYKK工場からの木製廃材などを使った木製チップを燃焼させるバイオマスボイラーが設置され、また、地下20メートルから汲み上げる地下水を循環させる設備が置かれています。さらに、屋上には太陽熱を活用する温水設備も備えられています。
そして、バイオマス熱と太陽熱により各戸の暖房とあわせ給湯を。地中熱により冷房を行なうようになっています。
各住戸には廊下に幅が1メートルほどで、高さは天井まで届く壁パネルが設置され、また、居室には床材の下に床パネルが配置されています。

室内廊下に設置された壁パネル

室内廊下に設置された壁パネル

先日訪れたTさん宅では床をさわってみるとひんやりとした感触を実感することが出来ました。地下水を22度に調整し循環させているそうで、それ以下の温度にすると結露の問題があるとのことでした。壁パネルとあわせ室温を快適に集中管理しています。そんなことから、各戸での空調機器の設置は禁止されているとのことでした。

住棟には北側の共用廊下と南側の広いサンテラスがあり、断熱サッシや外断熱とあいまって可能な限りの省エネ設計が追及されているように感じました。
春や秋の快適な季節には窓を開け通風を十分取れるよう配慮し、更に車庫を地下に設けることで外部空間は植栽などで公園のように整備し良好に管理さています。
地域の風土の特性である豊富な地下水を自然エネルギーとして活かし、自然に親しむ心地よさを十分実感させてくれる「パッシブタウン第1期街区」です。

(なお、この街区の技術的事項ついてはYKK不動産株式会社による「パッシブタウン黒部モデル第一期街区複合賃貸住宅への太陽熱・地中熱・バイオマス熱利用による給湯・冷暖房・融雪設備設置事業」として公表されているので参照下さい。)
YKKグループ ニュースリリース(外部リンク)

工事中の第2期街区(左)と第3街区(右)

工事中の第2期街区(左)と第3街区(右)

現在、第2期街区は10月の完成を目指し工事中であり、更に第3期街区も工事に着手しています。この街区は既存の社宅2棟を活用したリノベーションモデルとして、ヨーロッパのパッシブデザインにも精通する森 みわ氏の設計による改修事業だと言うことです。①既存建築の外皮強化(断熱気密化)による温熱環境の根本的な改善や、②住戸バルコニーと屋上庭園での豊かな外部空間の創造、また、エレベーター、コミュニティキッチンの設置などが建築計画のポイントと紹介されています。平成29年6月の完成予定とされています。この街区もまた楽しみにしたいものです。

*

川﨑政善(かわさき まさよし)

1947年富山県生まれ。1970年芝浦工業大学建築学科卒業。日本住宅公団を経て1974年富山県庁へ。以来一貫して建築住宅行政に従事。2006年富山県住宅供給公社常務理事を経て、富山県建築設計監理協同組合相談役(2015年3月退任)。

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富山からの便り Vol.1
富山からの便り Vol.2
富山からの便り Vol.3

2016年夏編第4弾 阿智村からの便りが届きました


写真4北側水路のホタル

写真4北側水路のホタル

長野県の南部に位置する阿智村に住む中島さんから、夏の便りが届きました。

「阿智村は、標高400m~2100mの範囲に約6800人が暮らす、典型的な中山間地域です。
潮風漂う神奈川県横須賀市から移住し、山と川と田畑に囲まれた農村で暮らし始めて5年目。
最近になって徐々にではありますが、田舎で生活をするという事に頭と身体が慣れてきた、そんな気がしています。」

中島さんは東京では環境共生住宅の第1人者である岩村和夫氏が率いる設計事務所に所属し、環境と共生する住まいづくりについて従事した後、造園設計の会社に転職。
庭造りについても現場から学び、現在はアトリエタムロとして、住宅や店舗の庭づくりを行っています。

今回の夏の便りでは、そんな中島さんが生まれ育った横須賀から阿智村に移住した理由から、提供された古民家で行っている環境共生的な「涼しく暮らす工夫」についてご紹介いただいています。

詳しくはこちらをどうぞ

阿智村からの便り Vol.1

阿智村からの便り vol.1


 

長野県の南部に位置する長野県下伊那郡阿智村。
阿智村は、標高400m~2100mの範囲に約6800人が暮らす、典型的な中山間地域です。
潮風漂う神奈川県横須賀市から移住し、山と川と田畑に囲まれた農村で暮らし始めて5年目。最近になって徐々にではありますが、田舎で生活をするという事に頭と身体が慣れてきた、そんな気がしています。

「限界集落」という言葉が聞かれ始めてもう随分経ちますが、我が阿智村も過疎化・高齢化の進行、次世代への継承が出来なくなった農家の離農等々により、「限界」に近い集落が点在しています。

このような状況故に「集落を維持し、持続可能な村を目指すこと」が、昨今の村の最重要課題になっています。

限界集落化を予防するにはどうすればよいか。

余所から人を呼び、定住してもらえば良い。

それには住むところが必要になる。

住まい手がいなくなった空き家を利用すれば良い。

この発想が果たして「持続可能な村」に結びつく妙案かどうかの議論は置いておくとして、そんな村の移住定住政策に乗っかるように、この村での空き家暮らしが始まりました。

さて、この流れで中山間地域の現実や農村の衰退についてお話することも出来るのですが、ここでの趣旨から逸脱する恐れがあるため、今回は元空き家における暮らしと風土について触れたいと思います。

現在生活している元空き家。敷地面積約1700㎡、建物は木造平屋で築50年程度。主な仕様は以下の通りです。

図1 母屋平面図と仕様、改修項目

図1 母屋平面図と仕様、改修項目

また、放置され、建物の傷みが進んだ空き家の状態から、人がまあまあ快適に暮らせる状態にする為に、持ち主との折半で上記のような改修が必要でした。

当初行った改修項目の中に、環境共生技術の付加や省エネの為の項目はほぼありません。放置された空き家を改修する際に使えるコストは、多くの場合、最低限のインフラ整備で精一杯なのだと思います。

次に加えるとすれば、最低限の耐震改修といったところでしょうか。

とは言え、前記のような仕様の住宅で、現代のまあまあ快適な暮らしを実現したい。その為には、住まい手の工夫と努力、そして自然を楽しむ気持ちが必要になってきます。

今の時期、信州とは言え日中の気温は30度を大きく超える真夏日が続き、断熱性能の低い住宅内部の室温はぐんぐん上昇します。しかし、夕方になるとグッと気温が下がり夜間は20℃前後になります。

夕方から翌朝までの低温と涼風。これを最大限に利用しつつ、日中の猛暑をいくつかの工夫で乗り切る。これが夏の暮らしの最重要項目です。

例えば、冬の間に建物北側の竹林を整理し、春はタケノコを片っ端から掘り取ります。これも夏を過ごしやすくする為の大事な作業。放置されて竹が密集した竹やぶも、竹と竹の間隔を適正に保つ事で、風の通りを幾分か改善します。

図2 夏を過ごしやすくするための方法

図2 夏を過ごしやすくするための小さな工夫

写真1北側の竹林

写真1 母屋の北側に広がる竹やぶ

また、住宅南側の主庭兼駐車スペースは砕石下地雑草仕上げ(雑草はこま目に刈り込む)とする事で日中の熱気を蓄熱しづらく、大雨時には雨水をそこそこ浸透してくれます。

そして、夜間・不在時も含めて、適所の窓を開放し室内空気を滞留させない。これは地域のコミュニティが熟成し不審者が近づきにくい田舎ならではの荒業です。

視聴覚的な涼も夏を快適に暮らす大事な要素。

室内から見える植栽スペースには、初夏から秋にかけて涼し気なブルー系の花を咲かせる宿根草を配置。庭の片隅には大きなキンモクセイの木。その足元にはヤマアジサイとギボウシの柔らかい緑。植物は涼風を作り出す力と視覚的に涼を感じさせる力を併せ持ちます。初夏には刈り取ったラベンダーを軒下につるし、風が運んでくる爽やかな香りを楽しみます。

写真2 涼を感じるブルー系の宿根草

写真2 涼を感じるブルー系の宿根草

写真3 見た目と香りが鮮やかな軒下のラベンダー

写真3 見た目と香りが鮮やかな軒下のラベンダー

敷地周囲を流れる用水路の水音も、涼を感じさせる要素のひとつ。初夏には北側の小さな水路で数多くのホタルが飛び始めます。ホタルの光も夏の心地よい生活に貢献してくれます。

写真4 敷地北側の小さな水路に出現するゲンジボタル

写真4 敷地北側の小さな水路に出現するゲンジボタル

視聴覚的な涼で言えば、畦や庭、建物周囲の草刈りも当てはまると思います。

グングン伸びてうっそうとした雑草地、これだけでもかなり暑苦しく感じるものです。
我が家では、500㎡超の雑草地をかなりの頻度で刈り取っていますが、これには相当な労力を必要とします。それでも、涼を呼び込む為の労力対効果はかなり高いと思っています。

写真5 雑草はできるだけ背丈の低い状態に保つ

写真5 雑草はできるだけ背丈の低い状態に保つ

このように、元空き家にて、夏の暮らしの質を向上させるべく現在実践しているいくつかの工夫や対策は、どれも簡単で、ありふれていて、単独では効果の薄いものばかりですが、これらを組み合わせていくことが大きな効果を生み、田舎での生活そのものを豊かにしてくれているのだろうと信じています。

お盆が終わり田んぼの稲穂が色づき始めると、農村に待望の秋がやってきます。そして、少し厳しい冬。次回はそんな冬の季節の暮らしについてご紹介出来れば思います。

阿智村からの便り 特派員

nakajima_recent中島隆之

1975年1月神奈川県横須賀市生まれ
1997年北海道東海大学芸術工学部建築学科卒業。
設計事務所、造園会社等勤務の後、2009年横須賀市にてアトリエタムロ開設。
現在は長野県下伊那郡阿智村に移転し、主に住宅や店舗の庭づくりを行っています。

2016年夏編第3弾 奈良からの便りが届きました


奈良公園の鹿も木陰でひと休み。

奈良公園の鹿も木陰でひと休み。

「南禅寺の家」の設計者である豊田さんから、夏の便りが届きました。
今回は豊田さんが奈良で手がけた「ならやまの家」をご紹介いただいています。

ならやまの家は、一言で説明すると
「土壁と自然素材のゼロエネルギーハウス」です。
それに加えてお施主さんがスポーツ吹矢の講師であることから、
家の中に11mの吹矢のためのレーンを作ることになった豊田さん。

日常生活に違和感なくレーンをどう造ればいいのか?

さてこの難題を、豊田さんがどう解決したのか。
詳しくはこちらをご覧ください。

■ ならやまの家 夏の便り

奈良からの便りvol.1『ならやまの家 夏の便り』


 

トヨダヤスシ建築設計事務所 豊田です。今回で3期5回目となる便りは、奈良市左京に建つ「ならやまの家」を紹介します。

奈良といえば、一般的に思いつくのは「大仏」と「鹿」ではないでしょうか。先日も太陽がガンガン照る最中、奈良公園を散策してきました。奈良公園の鹿もバテたのか木陰でひと休みしています。

奈良公園の鹿も木陰でひと休み。

奈良公園の鹿も木陰でひと休み。

奈良公園には、外国の観光客がたくさんいらっしゃったので、もしかしたら、鹿せんべいを食べすぎてお腹が一杯で休憩していたのかもしれません。

ならやまの家が建つ奈良市左京は、京都と奈良の県境にあり「平城山」と呼ばれています。住宅地のほか、大手ハウスメーカーや銀行などの研究所が集まっている地域でもあります。この「平城山」は、「へいじょうざん」と読みそうですが、実は、これで「ならやま」と読みます

ならやまの家は、60代のご夫婦が住む住宅です。ご主人の伊藤吉郎さんは、ゼネコンからコンピュータ会社に転職され、定年退職後、構造設計事務所を開設された建築士さんでもあります。2013年に定年退職を機に土壁の家を建てたいと相談いただいたことから、家づくりのお手伝いをさせていただくことになりました。

ならやまの家がどんな家なのか一言で説明するなら、「土壁と自然素材のゼロエネルギーハウス」となります。地域材である奈良吉野・紀州の木材をふんだんに使いつつ、土壁背面に羊毛を充填し、家の断熱性を高め、冬暖かく夏涼しい、結露で困らない家を目指しました。伝統土壁を使いつつ家の断熱性能を上げ、太陽熱や太陽光を使いゼロエネルギーハウスへ。PCMと呼ばれる潜熱蓄熱材も利用し、無垢材の表面温度低下を防ぐ試みを行った事例でもあります。

和室~陽だまりスペース:夏は土壁効果でひんやり。

和室~陽だまりスペース:夏は土壁効果でひんやり。

書斎:木と土壁・漆喰で仕上げた土間空間。

書斎:木と土壁・漆喰で仕上げた土間空間。

平面計画で住まい手と一緒に悩んだのは、家の中に11mの吹矢のレーンを作る必要があったことです。実は、住まい手の奥様は、スポーツ吹矢の講師をされているそうで、生徒に吹矢を教えるということもあり、そのスペースを最優先で確保しなければいけないという難題がありました。そのうえで、日常生活に違和感なくレーンを造らないといけず、ここが計画の大きな分かれ目に。色々と模索しましたが、直線で11.4m×巾1.82mのスペースを確保しようと思うと、南に寄せて東西に長くするのが妥当だということになり、結果として、パッシブデザインとしては最適な形になりました。

リビング:吹矢レーンを11.4m確保。

リビング:吹矢レーンを11.4m確保。

性能は、UA値0.55W/m2K、Q値1.91W/m2K、ηC値1.8、ηH値3.3、一次エネ消費量設計値71.7GJ/年(低炭素基準値100.1GJ/年)です。特に注目すべきは、南面が全て開口部であるということです。床面積あたりの南面集熱開口部面積の割合は、18.1%と集熱面積が一般の住宅ではなかなか確保できない数値。さらには、これで耐震等級3が確保できているのですから、住まい手が構造設計者でなければ、この南面全面開口は成立しなかったでしょう。

集熱量は、南面全面開口にすることで確保できたため、残るは、断熱と蓄熱のバランスが重要となってきます。蓄熱要素は、木小舞土壁を使い、片面塗30mmと両面塗60mmを使い分け、LDKの壁全面に塗りました。土壁というと、家全体を土壁にしないといけないイメージがありますが、実はそうではなく、一部でも土壁を採用することで、土壁の持っている性能を効果的に発揮できます。土壁を建物全ての壁に使わず、主たる居室(LDK)を中心に採用することで、土壁の費用も低減でき、大工工事との調整もしやすく、コストパフォーマンスの高い家にすることができたわけです。

土壁に羊毛を充填し、夏の日射から土壁を保護する。

土壁に羊毛を充填し、夏の日射から土壁を保護する。

断熱は、自然素材つながりで羊毛を土壁背面に充填。その外側から透湿面材を張り、隙間を塞ぎ、耐震と断熱、防露、漏気に配慮しました。主たる居室(LDK)が一番、暖冷房を使う部屋ですので、ここを集中的に集熱、蓄熱、断熱性能を向上させることで日射熱利用によるエネルギー削減効果を狙った事例です。
一方で、南面全面開口なので、夏の日射遮蔽効果が気になるところです。ならやまの家は、日照シミュレーションで8月の上旬から中旬までLDK南面から室内に日差しが入らないよう軒の出を伸ばしました。

軒がある場合のシミュレーション

軒がある場合のシミュレーション

軒がない場合のシミュレーション

軒がない場合のシミュレーション

軒がでていないと、日射がたくさん室内に侵入してしまい、そうすることで冷房を常時運転しないといけない可能性がでてきます。地域によって、夏の日射をどの時期まで遮りたいかが違ってくるので、その時期をきちんと把握することが一番重要になります。
写真は、7月27日の様子です。日差しは、まだ室内に侵入していません。

南庭:軒を1.2m跳ね出しています。

南庭:軒を1.2m跳ね出しています。

陽だまりスペース:7月27日時点では、日射は室内に入っていない。

陽だまりスペース:7月27日時点では、日射は室内に入っていない。

シミュレーションは、実際とは違うという話をよく聞きますが、日照に関しては思いのほか合っているようです。

その地域で造られてきた家の形にはとても大切な意味があります。軒や庇がついている家が多いなら、軒庇をつけた家をつくるのが文化を継承する意味でも重要です。雨が多い地域、夏が暑い地域、雪が積もる地域、風が強い地域等、様々な要因があるので、地域性を読み取って、先人の知恵として受け継いでいかないといけないでしょう。

*
toyoda_1豊田保之/トヨダヤスシ建築設計事務所代表

1974年京都生まれ。瀬戸本淳建築研究室、Ms建築設計事務所を経て、2005年トヨダヤスシ建築設計事務所開設。岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師。京都造形芸術大学大学院非常勤講師。一般社団法人住宅医協会理事。代々続く左官職人の家に生まれた経歴から、土壁や漆喰など左官職を生かした家づくりを行っている。

「南禅寺の家」では、(財)建築環境・省エネルギー機構主催「第5回サスティナブル住宅賞」において「国土交通大臣賞〔新築部門〕」の他、第9回木の建築賞 木の住宅賞、第7回地域住宅計画賞 地域住宅計画奨励賞も受賞している。

★同じ著者の他の記事を読む

京都からの便りvol.1『南禅寺の家 夏の便り』
京都からの便りvol.2『南禅寺の家 冬の便り』
京都からの便りvol.3『赤穂市に建つ既存住宅の詳細調査』
京都からの便りvol.4『南禅寺の家 冬の便り』
・奈良からの便りvol.1『ならやまの家 夏の便り』
奈良からの便りvol.2『ならやまの家 冬の便り』
京都からの便りvol.5 『土壁と気候風土適応住宅』

2016年夏編第2弾 福岡からの便りが届きました


外の間ですごす小学生の娘

外の間ですごす小学生の娘

福岡の鈴木さんから、夏の便りが届きました。

鈴木さんはご夫婦で「アトリエ艸舎(そうしゃ)」という建築事務所をされています。
今回はアトリエ艸舎ならではの「外の間」についてご紹介いただきました。

「私たちのアトリエは九州・福岡の北部沿岸沿いにあり、夏は高温多湿で雨が多く、
冬は日本海側気候の影響を受け、曇天の日が多く北からの季節風が強い地域です。
1年を通して温暖なため、春は3月から初冬でも12月まで外を取り込んだ暮らしが可能です。
私たちは設計するほとんどの家に「外の間」とよぶ半屋外の空間を設けます。」

「外の間」とは、どんな空間なのでしょうか?

詳しくはこちらからご覧ください。
福岡からの便り Vol.1 『外の間』で暮らすこと

福岡からの便り vol.1 『外の間』で暮らすこと


 

私たちのアトリエは九州・福岡の北部沿岸沿いにあり、夏は高温多湿で雨が多く、
冬は日本海側気候の影響を受け、曇天の日が多く北からの季節風が強い地域です。
1年を通して温暖なため、春は3月から初冬でも12月まで外を取り込んだ暮らしが可能です。
私たちは設計するほとんどの家に「外の間」とよぶ半屋外の空間を設けます。

「外の間」とはどんな空間なのか・・・3つの家からご紹介します。

1.我が家の「外の間」

まずは私たちのアトリエ兼住宅の「外の間」から始めます。

外の間ですごす小学生の娘

我が家の「外の間」。私達家族がこの間を使わない日は1日だってありません。

小学生の娘がハンモックの下にあるちゃぶ台で何か絵を描いている風景です。
向こうには中学生の息子の誕生祝に植えた欅が14年の時を経て、
枝葉を拡げて、この空間を日差しや強風から守ってくれます。

私たち家族4人がこの間を使わない日は一日だってありません。

同じ敷地の隣に住む祖父母も孫に会いに料理をもってきてくれたり、
犬の散歩に連れ出しに来てくれます。

季節の良い日は、居間の建具を開け放し一つの大きな空間になります。

ここではハンモックに揺られながら本を読んだり、テーブルを出して食事をしたり、
勉強をしたりといろんな使い方ができます。

私たちにとって「外の間」は日々、生活する上で欠かすことのできない空間です。

2.久山町の「外の間」

次は福岡市の隣町・久山にある住宅の「外の間」です。

久山にある住宅の「外の間」

久山にある住宅の「外の間」

この久山の家の凄いところは、外階段を持つ立体的な2階建ての外の間であることです。
1階は水回りを持つくつろぐための外の間であるのに対し、
2階は本棚と椅子のある思考する外の間です。

2つの機能の異なる外の間が上下に重なっているところが、小さな街のようにも思えます。

最近では施主自ら建設したカフェと渡り廊下で繋げて、
お店の特等席としても活躍しているそうです。

緑を取り込んだ、アジアを思わせる、これ以上ないほどの開放感がこの家族の日常であり、隅々まで使いこなす暮らし力は本当に素敵なことです。

3.宗像市の「外の間」

3つ目は宗像市にある彫刻家の家の外の間です。

私たちがそれまで無意識に作ってきたこの穴の開いた空間を、
初めて外に開かれた間なんだと認識し、それ以降スタンダードになった空間です。

宗像市にある彫刻家の家の「外の間」

宗像市にある彫刻家の家の「外の間」

この家の外の間の面白さは、
生活する場とモノを作る場とのあいだに人間だけでなく、風や光などの自然そのものを呼び込む力があることです。

コンクリートの土間で、背景が石垣ということもあり、
庭や周りの風景にダイレクトにつながる感じはより原初的です。

冬は奥深く太陽が差し込みぽかぽかと、雨の日でも梁に架けたブランコで遊んだりできます。
玄関を兼ねているため一日中人が往来し、たたずむ空間です。

私たちの作るこの家たちは、ほとんど皆、この外の間を中心にプランニングしています。
かつての民家にあったように軒下や土間が座敷を中心に配置されたものではなく、むしろその空間たちが主役になる、そんな暮らしがあってもよいのではないかと思っています。

それを可能にしてくれる風土が、ここ福岡にはあります。

福岡からの便り 特派員 アトリエ艸舎 一級建築士事務所
sousya_recent鈴木達郎
1964年生まれ 静岡県出身
大阪芸術大学建築学科卒業
1996年アトリエ艸舎
2000年福岡に移住

鈴木美奈
1967年生まれ 福岡県出身
奈良女子大学生活経営学科卒業
Ms建築設計事務所にて木の家を学ぶ。
1996年アトリエ艸舎
2000年福岡に移住

 

福岡県遠賀郡岡垣町高倉1348-1
TEL093-282-7720
E-mailはこちら

2016年夏編第1弾 沖縄からの便りが届きました


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沖縄の松田さんから、夏の便りが届きました。

今回は断熱よりも遮熱が重要になる沖縄において、高い遮熱性能を持つ新しい建材についてご紹介いただいています。

「沖縄の中南部は、サンゴ礁のはたらきで形成された琉球石灰層からなるため、その河川や地下水では、カルシウム成分が増え、硬度の高い水となります。
いくつかの浄水場では、硬度低減化施設を導入し、カルシウムを取り除いています。その副産物を利用しているのです。」

さてどんな製品なのか?

詳しくはこちらから。 『沖縄からの便り Vol.7』

2016年夏編


[ご挨拶]

平素より一般社団法人 環境共生住宅推進協議会のホームページをご利用いただき、ありがとうございます。

『地域からの便り』は2007年から、日本・世界の各地域にお住まいの方から、環境と共生する暮らしの風景をお寄せいただいて参りました。8年目の今年も昨年に引き続き、日本国内における環境と共生する住まい作りについての新たな連載を開始します。

環境と共生する住まいづくりの専門家から、地域ならではの気候風土とそれに合わせて、少ないエネルギーや資源で快適に暮らせる住まいの作り方についてご寄稿いただきます。

地域は沖縄県那覇市、鹿児島県鹿児島市、福岡県遠賀郡岡垣町、奈良県奈良市、岐阜県関市、長野県阿智村、福島県福島市、北海道下川町の計8箇所を予定しております。

夏は7月~9月、冬は1月~3月と期間を限定してお届けしますので、更新をお楽しみに。

この連載を通じて、環境と共生する住まいづくりを考えていらっしゃる皆さまや、すでに取り組まれている皆さまの情報交流にもつながって行くことを願っております。

2016年夏編の連載を開始します


[ご挨拶]

平素より一般社団法人 環境共生住宅推進協議会のホームページをご利用いただき、ありがとうございます。

『地域からの便り』は2007年から、日本・世界の各地域にお住まいの方から、環境と共生する暮らしの風景をお寄せいただいて参りました。8年目の今年も昨年に引き続き、日本国内における環境と共生する住まい作りについての新たな連載を開始します。

環境と共生する住まいづくりの専門家から、地域ならではの気候風土とそれに合わせて、少ないエネルギーや資源で快適に暮らせる住まいの作り方についてご寄稿いただきます。

地域は沖縄県那覇市、鹿児島県鹿児島市、福岡県遠賀郡岡垣町、京都府京都市、岐阜県美濃市、長野県飯田市、福島県福島市、北海道下川町の計8箇所を予定しております。

夏は7月~9月、冬は1月~3月と期間を限定してお届けしますので、更新をお楽しみに。

この連載を通じて、環境と共生する住まいづくりを考えていらっしゃる皆さまや、すでに取り組まれている皆さまの情報交流にもつながって行くことを願っております。

沖縄からの便り vol.7


今年も暑い夏がはじまりましたね!

NASAの気象学者ギャビン・シュミット博士は5月14日、「4月の観測結果からすると、99%の確率で2016年は観測史上最高になる」とTwitterで指摘したそうですが、どうなるでしょうか。

今年の沖縄(那覇)は、7月中旬の時点で、真夏日は44日平均気温が30度以上の日は14日、最低気温が25℃以上だった日は、49日になります。でも、まだ猛暑日にはなったことありません。平均気温は高いけど、実際日影ならば立っていられない暑さではなく、汗が風にあたり心地よい空間になります。

影のないベンチには誰も座りません。

影のないベンチには誰も座りません。

日本列島の猛暑日を記録したニュースを見るたびに、沖縄は、案外涼しい方になってしまうかもしれませんね。

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空の色と海の色はとても涼しげです。

さて、暑い夏の日、高断熱の家はどうなっているでしょうか。エアコンをつければ、きっと少ない電力で効果を発揮して快適かもしれません。
では、エアコンをつけなかったらどうでしょうか。エアコンありきの生活になってしまうのではないかと心配しております。

沖縄県の生活所得は低く、その割に電気代は決して安くないので、なるべくエアコンをつけない生活をしようと心がけている家庭も少なくないと思います。
本来エアコンや暖房がなくても暮らしていける生活が、エアコンありきの生活になるというのは、環境的にはどうなのだろうと考えてしまいます。

沖縄では、高断熱だけど大きな開口があって熱の排出がしやすく風を取り込みやすい家、それが理想でしょうか。

「エアコンをつけたいときはすぐ効いて、窓を開けて風を通せば、すぐ熱を排出する。」

一見簡単そうに見えることですが、実際は、壁厚を薄くして熱容量を減らしたいけど、断熱するためには厚くする必要があります。
また、大きな開口から効率よく通風をもたらしたいけど、閉めたときに窓自体を高性能の断熱遮熱性を備えさせるというのは難しい事なのです。

というのも、沖縄県ではRC造が主体である以上、サッシは打設後測定してオリジナル発注するシステムなので、ただでさえ開口部には多額なコストがかかります。それに加えてガラスも、別発注して県外の工場で生産させて、となると、一般家庭には購入は大変難しい状況となります。

そんな沖縄では、やはり断熱よりも遮熱に力を入れる事が重要だとこれまでも書いてきましたが、今回はある遮熱材料のご紹介をしたいと思います。

高性能遮熱ブロック「サンガード・ホワイト」(伊是名ブロック工業)です。

コンクリート製の遮熱ブロックの表層部分に、炭酸カルシウムペレットとホワイトセメントに酸化チタンを混合し、約10mmの厚さで圧着した製品です。

ブロック表面の色が艶消しの淡色ホワイトなので、表面もコンクリート面に比べ熱くならず、光沢が少ないため、まぶしさも抑えられています。また、曲げ強度が強く、耐候性に優れているため、ブロック表面の経年劣化による遮熱性能の低下が抑えられます。

面白いと思うことは、ブロックの表面に塗布している炭酸カルシウムペレットです。

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浄水場の硬度低減化施設により除去される炭酸カルシウムペレット

沖縄の中南部は、サンゴ礁のはたらきで形成された琉球石灰層からなるため、その河川や地下水では、カルシウム成分が増え、硬度の高い水となります。
いくつかの浄水場では、硬度低減化施設を導入し、カルシウムを取り除いています。その副産物を利用しているのです。

この遮熱ブロックは、当法人が設計協力をした宮古島エコハウスの市街地型で使用し、芝生の上ですら暑くて歩けないのに、素足で歩いてもひんやり冷たいコンクリートブロックに驚きを隠せませんでした。

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宮古島エコハウスの市街地型の屋上で採用した。(撮影:NPO蒸暑地域住まいの研究会)

この遮熱ブロックは、敷いたあとの中の空気層の動きがないと、そこで蓄熱してしまうのではないかと議論をされたりもしました。(現在その通気について色々な方法で実験中です。詳しくは、(株)伊是名ブロック工業のブログをご覧ください。
(遮熱ブロックの可能性:http://izenabc.ti-da.net/

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(株)伊是名ブロック工業による施工後の通気に関する実験の様子(資料:伊是名ブロック工業)

遮熱ブロックA:50mmの断熱材と平板ブロックの上に遮熱ブロックを施工
遮熱ブロックB:そのまま設置(7年経過)
遮熱ブロックC:ブロックとブロックの間隔をあけてブロック内の通風を期待。
結果は以下の通り。

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平成28年7月17日各遮蔽材の屋根スラブ表面温度の比較(資料:伊是名ブロック工業)

またブロックを敷くということで、既存住宅には構造耐力上設置は難しいのではないかとの指摘もあります。

ただ私は個人的に、沖縄の珊瑚が暑さから救ってくれることに大変期待を抱いています。

以上 沖縄からの便りをお送りしました。

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「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年より特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事に就任。現在特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事長。

◇沖縄からの便り 他の記事を読む
・vol.1 2013年夏編
・vol.2 2014年冬編
・vol.3 2014年夏編
・vol.4 2015年冬編
・vol.5 2015年夏編
・vol.6 2016年冬編
・vol.7 2016年夏編
・vol.8 2017年冬編
・vol.9 2017年秋編

2016年冬編第7弾 里山長屋からの便りが届きました


冬枯れの風景の中に佇む里山長屋

冬枯れの風景の中に佇む里山長屋

藤野の山田さんから、冬の便りが届きました。
里山長屋がたたずむ枯れた風景を望みながら、山田さんが考えたのは「住宅の断熱気密論」について。

「~(前略)~住まいはある特定の機能だけを実現する場ではありません。自然と対峙するシェルターであると同時に、時には適切に外界と応答を繰り返しながら維持していく場でもあり、ひとが着る服の延長であったり、健康を育む場であり、風景であり、暮らしの思想を表現する場であり、云々。なにせ一筋縄ではいかないのです。

断熱気密性だけで住まいというものを規定しようとすると、途端に天の邪鬼的にやめてほしい、、、という気持ちがわき上がってきます。断熱材を厚くすればよい、というような単純な技術で住まいを論じることができるのだろうか?という疑問がいつもついてまわります。」

詳しくはこちらをご覧ください。
里山長屋からの便りVol.4~「あたたかな住まいのなかから考えた」

里山長屋からの便り vol.4『あたたかな住まいのなかから考えた』


冬枯れの風景の中に佇む里山長屋

冬枯れの風景の中にたたずむ里山長屋

私が暮らす里山風情の残る地域は、夏は緑あふれる場所となりますが、冬は逆に枯れた風景一色になります。窓の外に目をやると、そこは一面枯れ木と枯れ草以外見えず、みずみずしい感じは一切ありません。それでもこの枯れた絨毯の下には、都会の固さと冷たさとはまた違ったあたたかさが隠れているようです。

日本における季節に対する感性は、そうした「枯れた」風景にも情緒を慮る感覚をもちます。冬はなにもないのではなく、春をまつ生命の静かな胎動を確かに抱えているのでしょう。

さて、筆者はいま、断熱も蓄熱もしっかりとした、比較的暖かな我が家の室内からこの里山の風景をながめているわけですが、視線と意識は窓ガラスをぬけて、その先の草地、その向こうの山まで続いています。体はあたたかな安全な場所にあって、意識だけが外にある、という状況は確かに心地よく、安全な感じがあって好ましい、と思います。
この季節になると、住まいの熱環境をいかにあたたかく確保するか、という議論がことさら大切に感じられます。世の中は断熱、気密を充分確保するという議論に傾いていて、それはそのとおり、と思います。

だけども、です、、、。あたたかければそれでいいのか、、、、とも思うのです。

四季がしっかりとある日本の自然のなかで暮らしてきたひとびとの自然観は、言うまでもなく、「ひと×自然」が混然一体となった感性がDNAのなかに組み込まれています。現代の思考方法のもととなっている西欧の草原と荒れ地を背景に育まれた感性や思考回路とは違うことは和辻哲郎の「風土」論をもちださなくても、自明でしょう。

けれど、断熱気密論は技術論でありながら、この西欧的な感性のなかで語られていることが多いように思います。それは当然で、自然を客体化してその原理を抽出して、そこを対処すれば解決する、という現代の思考方法は、それはそれである意味正しいと思います。建築の環境工学を専攻してきた筆者にとって、それはその通り。
しかしながら、技術的、物理的要求はとりあえず、どんな建物になるか、ということにはあまり言及しません。とにかく、熱が漏れない方法を現在の知見を総動員して実現しろ、といいます。どんな意匠の住まいになるか、は温熱環境を理解していない設計者の怠慢である、とまで言われかねないのです。

施設系の建築物は、前稿(里山長屋からの便りVol.3~住まいの温熱環境を科学的に理解する時代)でも言及しましたが、ある特定の目的をもって使用するものですから、そのエネルギー消費量や快適性を最適化し、最大の利便性、利益性を確保するのは当然でしょう。しかしながら、「住まい」という建築はそうした施設系建築物とは決定的に違います。住まいはある特定の機能だけを実現する場ではありません。自然と対峙するシェルターであると同時に、時には適切に外界と応答を繰り返しながら維持していく場でもあり、ひとが着る服の延長であったり、健康を育む場であり、風景であり、暮らしの思想を表現する場であり、云々。なにせ一筋縄ではいかないのです。

断熱気密性だけで住まいというものを規定しようとすると、途端に天の邪鬼的にやめてほしい、、、という気持ちがわき上がってきます。断熱材を厚くすればよい、というような単純な技術で住まいを論じることができるのだろうか?という疑問がいつもついてまわります。
断熱気密ばかりが一人歩きすると、家が閉じます。住まいの外側の状況に住まい手がうとくなります。地域の気候風土とともに歩む、暑さ寒さもある程度受け入れる、というような感性や住まい感、暮らし観のようなことが段々置き去りにされる気がするのです。

結局は省エネルギーな暮らしを実現すればよいのですから、そうした暮らしができるひとは必ずしも断熱を強要される必要はないでしょう。(世代をまたいで住まいを使っていく場合の温熱観の世代間の共有についてはまた別稿にて。)多様な方法論で省エネを実現していければよいと思うのです。そもそもこうした断熱論議をお手本にしている欧米に比べて、平均的な日本の住まいにおける暖房用のエネルギーはよっぽど低いのです。(北海道など北方地域は除いて)

技術的な議論はともすると、感性の部分を置いてきぼりにします。こと住まいの建築に関しては両方を同時並行的にバランスよく考えていく必要があるように思います。

暖かな室内から冬枯れの里山を望む

あたたかな室内から冬枯れの里山を望む

「住まいの温熱環境の課題は、もはや環境工学だけでは解決できないのでは?」

これは伝統的な木造家屋についての研究を長年されてきたある先生のお言葉です。
この言葉がいま、筆者の心に響いています。

自然との関係性を大事にし、合一を旨としてきた日本の住まい方の感性と、省エネ性がちょうどよくバランスする着地点を探りたいものです。

里山長屋がたたずむ枯れた風景を望みながら、そんな雑感を持った次第です。

kinei_yamada山田貴宏(やまだ たかひろ)

早稲田大学建築学科都市環境工学修了。清水建設、長谷川敬アトリエを経て、現在ビオフォルム環境デザイン室主宰。主に国産材と自然素材を中心とした、地産地消でかつ伝統的な木の家造りを中心とした建築/環境設計を行う。パーマカルチャーのデザイン手法・哲学を背景とした住環境づくりをめざす。建物とそれを取り巻く自然/コミュニティまで含めた幅広い環境と場づくりがテーマ。
著書:「畑ついているエコアパートをつくろう」(自然食通信社 共著)、「里山長屋をたのしむ」(学芸出版社)

◇里山長屋からの便り バックナンバー
・里山長屋からの便りvol.1『夏編』
・里山長屋からの便りvol.2『冬編』
・里山長屋からの便りvol.3『住まいの温熱環境を科学的に理解する時代』
・里山長屋からの便りvol.4『あたたかな住まいのなかから考えた』

2016年冬編第6弾 広島からの便りが届きました


広島市の向山さんから、冬の便りが届きました。

今回は西中国山地、冬の寒さが厳しく積雪が1m以上にもなる「山頂脊梁部」にご自身が設計した住宅、「湖畔の家」をご紹介いただきました。

写真7

写真7

「(前略)~依頼を受けすぐに現地に足を運びましたが、仕事を受けることを躊躇するほどの水をたっぷり含んだ重い2mほどの積雪がありました。周囲の別荘は屋根から地面まで雪で覆われて、凍った雪で窓ガラスが割れている家もありました。」

そんな現状と、現地の方々のヒアリングを経て、向山さんが決めたこととは?
詳しくはこちらをご覧ください。

■広島からの便り Vol.2

広島からの便り vol.2


広島で住宅を設計すること(2)

■すまいの「かたち」2 ―湖畔の家ー

前回の夏編で紹介しました西中国山地、冬の寒さが厳しく積雪が1m以上にもなる「山頂脊梁部」に設計した住宅です。施主は関西から移り住んで来られるご夫婦でした。日本各地を廻られて、この場所を選んだのは、四季の移り変わり・美しさをはっきりと感じられたからとのことでした。依頼を受けすぐに現地に足を運びましたが、仕事を受けることを躊躇するほどの水をたっぷり含んだ重い2mほどの積雪がありました。周囲の別荘は屋根から地面まで雪で覆われて、凍った雪で窓ガラスが割れている家もありました。そんな現状と、現地の方々のヒアリングを経て決めたことは、次の四つです。この四つのテーマをはっきりと意識した「かたち」をつくることに集中しました。

1.閉じた床下空間はつくらず、風通しをよくして湿気から家を守ること
2.アプローチ側に屋根の雪は落とさず、積雪時のアプローチを容易にすること
3.冬の光を存分に取り込むこと
4.木の断熱性を生かした開口部をつくること

(図1)湖畔の家の「4つのテーマ」を断面で現したもの

(図1)湖畔の家の「4つのテーマ」を断面で現したもの

現地にお住いの方々から、コンクリート基礎の内側の床下空間は湿気で大変なことになるとの話を聞き、下駄状のコンクリート壁によって持ちあげられたフラットスラブ(プラットフォーム)の上に片流れの木造を組むこととしました。

■結果

1.北側の谷側の森から上がってくる湿気はこの浮いたプラットフォームの下を通って、南の道路側に抜けていきます(写真1)。

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写真1

2.屋根に積もった雪は南側のアプローチには落ちませんが、さらに、プラットフォームとアプローチの階段、道路側の駐車スペースには、雪が降るとセンサーによって暖房が作動する融雪暖房が施され、雪が積もりにくくなっています。除雪なしで中への出入りが可能となります(写真2)。

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写真2

3.北に傾斜した片流れですから、南には大きな開口部が設けられます。冬季には、奥まで冬の光が届きます。軒も深く、真夏にはほとんど直射日光が入りません(図1)。2階のロフトはこの家の縁側空間です。布団干しにも最適で、ゲストの寝室ともなります(写真3)。

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写真3

4.内部は、杉仕立てにしているため、造作材と建具も杉でつくりました。FIX(Lo-E)+板戸の組み合わせです。板戸は断熱材を杉の面材でサンドイッチしてつくりました。この方式の優れている点は断熱・気密に優れているだけではなく、スクリーンを降ろしたまま板戸の微調整で通風をコントロールできる点にあります。(写真4)

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写真4

■ 内からの風景

北の森に面した開口部は同じく板戸の部分をガラス戸としています。茶の間に座ると、順行の光で美しい森が見える北の窓(写真5)と、縦長のFIXガラスと板戸の組み合わせで木立がきれいに見える南の窓(写真6)を両方楽しむことが出来ます。

写真5

写真5

写真6

写真6

 ■  真冬と真夏の風景

真冬は寝雪も含めると、2m近い積雪があります。しかし、陽光はしっかりと家の中に導かれます(写真7)。

写真7

写真7

夏には通風板戸が大活躍します。山風が風速を上げて通風スリットを通り抜けます。(写真8)

写真8

写真8

■その後

北側の森に面した開口部として、小さなバルコニー(喫煙用)を設けていましたが、2年後に、ここにデッキを増設しました。森に浮かんだすばらしい場所が生まれました。大きく張り出した軒のおかげで、雪も積もりません。目の前を滑り落ちてゆく落雪の迫力は見ごたえがあるとのこと。冬以外の季節、朝食はこちらで召しあがっておられるようです。

写真9

増設したデッキ


torumukoyama広島からの便り 特派員
向山 徹(むこうやま とおる)

1960年 山梨県生まれ
1985年 東北大学工学部建築学専攻修士課程修了
1985年 清水建設(株)設計本部
2000年 向山徹建築設計室設立
2012年 広島工業大学建築工学科 准教授

★広島からの便り バックナンバー
広島からの便り vol.1
・広島からの便り vol.2

2016年冬編第5弾 福島からの便りが届きました


福島の斎藤さんから、冬の便りが届きました。

今回は斎藤さんが設計した「かわまた“結の家”」を訪ね、冬の暮らしについて取材していただきました。

雪の中の“かわまた「結の家」”

雪の中の“かわまた「結の家」”

雪景色の中の「かわまた“結の家”」はとても美しく、薪ストーブを家の中心に設えた、冬ならではの暮らしぶりも素敵です。

詳しくはこちらをどうぞ。

福島からの便り Vol.2

福島からの便り vol.2


“かわまた「結の家」”訪問取材

この冬はエルニーニョ現象の影響で全国的に暖冬となり、各地のスキー場などでは雪不足に悩まされていましたが、年が明けて一転、週末毎に南岸低気圧が猛威をふるい、1月18日には日本各地で大雪に見舞われ、1月24日には奄美大島では115年ぶりとなる降雪が観測されました。福島も例にもれず毎年の冬の傾向がつかめず、地球規模での環境の変化に戸惑うばかりです。

そんなおり、南岸低気圧の到来により積雪が予想される1/30に、前回の夏編で紹介した“かわまた「結の家」”に取材を依頼し訪問してきました。

川俣へ向かう道中

川俣へ向かう道中

天気予報の通り、1/30は前日からの降雪により、私の住む福島市では10cm程度の積雪がありました。福島市の東南に隣接する伊達郡川俣町でも同じような積雪があり、“かわまた「結の家」”に向かう道中は積雪と渋滞により通常の1.5倍くらいの時間を要しました。

雪の中の“かわまた「結の家」”

雪の中の“かわまた「結の家」”

到着すると、“かわまた「結の家」”は借景の小山と一体となって一面銀世界に包まれていました。

薪小屋

敷地の東側と南側に設けた薪小屋は生け垣を兼ねており、春が近づくにつれて薪が減り隙間が増えていきます。母屋が薪小屋の隙間から見えてくるようになると春の到来となります。薪ストーブの冬の営みが感じられる“薪小屋兼生け垣”です。

薪小屋兼生け垣

薪小屋兼生け垣

薪ストーブ

“かわまた「結の家」”の暖房設備は薪ストーブ一台のみです。玄関から入ってすぐの土間スペースに鎮座しており、全館を緩やかに温めています。背面のコンクリート壁は外断熱の蓄熱体です。

“かわまた「結の家」”の暖房設備は薪ストーブ一台のみ

“かわまた「結の家」”の暖房設備は薪ストーブ一台のみ

温度・湿度の測定

普段の薪ストーブの生活をご主人に伺ったところ、夜の9時頃に最後の薪をくべてから就寝、朝は5時頃に起床して、まずは薪をくべるところから一日が始まるとのことでした。

薪をくべるご主人

薪をくべるご主人

ということで、ご家族の協力のもと1/30~1/31の室内と室外の気温と湿度を測定し、“かわまた「結の家」”の室内環境の性能を実証してみることにしました。

2016年1月30日~1月31日の室内と室外の気温

2016年1月30日~1月31日の室内と室外の気温

起床時の1/31の朝5時に氷点下1℃まで外気温が下がったにもかかわらず、1/30の就寝時の夜9時の24.7℃から21.4℃までしか下がらず、かなり蓄熱性のあることが分かりました。

断熱材

夏編でも触れましたが、“かわまた「結の家」”では蓄熱性と吸放湿性に優れている、木質繊維系の断熱材を採用しています。

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蓄熱性のある断熱材で建物を包んであげれば、薪ストーブで緩やかに温められた建物が夜間に冷えてしまうことを防いでくれるので、薪ストーブと相性が良いだろうと判断しこの断熱材を採用しました。測定の結果、ねらい通りの効果を発揮していました。

016年1月30日~1月31日の室内と室外の湿度

016年1月30日~1月31日の室内と室外の湿度

一方で、冬の結露対策の為にこの断熱材の吸放湿性に期待していましたが、かなりの乾燥状態にあることが分かり、薪ストーブが室内を乾燥させていることがうかがえます。
長男はより暖かい2階の子供部屋の乾燥になじめず、離れのアトリエで寝泊まりしているそうです。諸条件を整理する必要はありますが、薪ストーブを採用する場合の課題も見えてきました。
申し訳ないと思いつつ長男には離れでの寝泊まりを楽しんでもらうことに期待します。

離れのアトリエ

離れのアトリエ

離れのアトリエ

離れのアトリエと母屋の「結の家」


saitohirofumi@kkjkkj特派員

齋藤史博(さいとう ふみひろ)

1973年福島県福島市に生まれる
1997年に新潟大学工学部建設学科卒業後、組織事務所を経て2006年に「さいとう建築工房」を設立。
無理をしない、素直な家づくりを目指して地元福島で頑張っています。
2013年に“かわまた「結の家」”にて、第6回JIA東北住宅大賞2012「優秀賞」、第8回木の建築賞「木の建築賞」を受賞。

バックナンバー
福島からの便り Vol.1

2016年冬編第4弾 北海道からの便りが届きました


北海道の櫻井さんから、冬の便りが届きました。
今回は趣向を変えて、櫻井さんが数年前から実行委員として関わっていらっしゃる「JIA・テスクチャレンジ設計コンペ」について、ご紹介ただいています。

第6回の募集ポスター

第6回の募集ポスター

このコンペは、「日本建築家協会(JIA)北海道支部と、北海道の厳しい自然のもとで育まれた環境技術と共に全国的に独創的な外断熱工法を提案されている株式会社テスクさんで、毎年共同で主催している環境型設計競技(コンペ)」で、
「特徴的なのはJIA北海道支部の主催するコンペの中でも、毎年時流の風を捉えた社会性の高いテーマ設定をしているところ。

櫻井さん曰く、『「設計者の環境的感性を育てると共に、その豊かな創造力で次世代における建築の価値を広く問う」ことが目的になっています。』ということで、今回は第6回の選考会の様子などもご紹介いただいています。

詳しくはこちらをどうぞ。

北海道からの便り Vol.6

北海道からの便り vol.6


今回のお便りはどんな内容にしようか悩んだのですが、いつもとちょっと趣向を変えて、数年前から実行委員として関わらせていただいている「JIA・テスクチャレンジ設計コンペ」のことをご紹介しようと思います。

このコンペは、日本建築家協会(JIA)北海道支部と、北海道の厳しい自然のもとで育まれた環境技術と共に全国的に独創的な外断熱工法を提案されている株式会社テスクさんで、毎年共同で主催している環境型設計競技(コンペ)です。

第6回の募集ポスター

第6回の募集ポスター

これまで6回開催されたのですが、
第1回 「北海道をおいしく食べる場/空間」
第2回 「北海道の森と建築〜くらし・資源・生命・観光などとも共振する空間」
第3回 「寒冷地の仮設住宅」〜持続可能な暮らしに向けて〜
第4回 「寒冷地で共有する住まいのかたち」−自立する未来に向けて−
第5回 「五感リノベ」−身体感覚を活かしたリノベーションで北国のポテンシャルを引き出せ!−
第6回 「不便が気持ちのよい住まい」

歴代のテーマを見ていただいてわかるように、このコンペの特徴的なのはJIA北海道支部の主催するコンペの中でも、毎年時流の風を捉えた社会性の高いテーマ設定をしているところで、「設計者の環境的感性を育てると共に、その豊かな創造力で次世代における建築の価値を広く問う」ことが目的になっています。

第6回の募集要項

第6回の募集要項

応募は、北海道在住で、建築に携わる方及び学生(連名応募の場合、北海道在住1名以上)としているのですが、最近は北海道在住の方とチームを組んで首都圏や関西からエントリーをいただいたり、意匠と環境を専攻する学生さんたちのコラボチーム、他のコンペにない特徴的なテーマ設定に惹かれて応募してくださる方々も増えてきました。

応募登録、作品提出ともに年々伸びてきていて、昨年の第6回では、56作品の応募に対して、49作品の提出があり、通常応募の30%程度が作品提出数と認識していたのですが、87.5%の作品提出をいただいたことで、実行委員や審査委員の方々もまさにうれしい悲鳴をあげていたところです。

もうひとつ、実行委員として感じているこのコンペの面白いところであり苦労するところは、テーマ設定をどれだけ社会性を含みつつ、北海道の地域性を取り込みながら解釈の幅をもたせるか。というところです。

何回も打ち合わせを重ねていく中で、自分の職能が社会的にどんな立ち位置で、どんなことを求められ、また何ができているのか。普段仕事を黙々と進めているミクロな目線から、社会を俯瞰するような大きな目線で話をすることで、また逆にミクロなところが見えてきたりすることが面白いのです。

ただ会議室で話し合うだけでなく、ちょっと目先を変えて趣向を変えて、そのプロセスも楽しみあいながら進めています。

終盤から審査委員の方々にも加わっていただき、審査員の目線からも意見をもらって組み立てていくことで、主催者側の意図が伝わりやすく、結果たくさんの方々応募してくださることにつながればと、第7回のテーマ設定を進めているところです。

第6回の公開審査の模様

第6回の公開審査の模様

第6回の公開審査の模様

第6回の公開審査の模様

コンペの審査は、公開であることに重きを置いているのもこのコンペの特徴の一つです。

2011年にオープンした、札幌駅と大通り駅をつなぐ地下歩行空間(チカホ)の広場が会場です。応募全作品をパネル展示するだけでなく、プレゼンテーションや質疑応答を、一般の方々が行き交う空間で行っています。

最終選考に残った7~10作品の応募チームによるプレゼンと審査委員とのやり取りは盛り上がり、毎回道内の環境系研究者にお願いしている審査委員長からは、たぶん想定外であろう質問が飛び交って、

普段設計の実務に携わっている私たちもハッとするような意見が交わされるエキサイティングな場となっています。

公開審査の模様や応募作品は、Facebookページでリアルタイムに公開されていますので、ぜひ覗きに来てください。どなたでも見ていただけるページです。いいね!ボタンを押していただければ、これから始まる第7回の模様も垣間見ていただけることと思います。

毎回進化を重ねているこのコンペを、さらに盛り上げるべく第7回は審査方法に工夫を加えて準備を進めているところですので、見守っていただけたら幸いです。もちろん、応募いただけたらもっと素晴らしいことですね。お待ちしています。

「JIA・テスクチャレンジ設計コンペ」Facebookページhttps://www.facebook.com/Jiatesukucompe/

130731_sakurai北海道からの便り-特派員/櫻井 百子(さくらい ももこ)

1973年北海道旭川市生まれ。北海道東海大学芸術工学部卒業後、都市計画事務所、アトリエ設計事務所を経て2008年アトリエmomo設立。子育てしながら、こころや環境にできるだけ負荷の少ない設計を心がけている。平成22年度 北海道赤レンガ建築奨励賞、2011年度 JIA環境建築賞 優秀賞 (住宅部門) 受賞。

[北海道からの便り バックナンバー]
・北海道からの便り vol.1
・北海道からの便り vol.2
・北海道からの便り vol.3
・北海道からの便り vol.4
・北海道からの便り vol.5
・北海道からの便り vol.6
・北海道からの便り vol.7
・北海道からの便り vol.8