里山長屋からの便り~夏編


里山長屋完成予想図(絵:中村秀夫)

里山長屋完成予想図(絵:中村秀夫)

2011年、神奈川県の相模原(旧藤野町)に伝統的な木組みで、「里山長屋」という木造の集合住宅をつくりました。

できるだけ環境に負荷をかけない、そして住民同士、地域や周辺環境との関係性のある家づくりをしよう、ということで建てられた「環境とコミュニティ」をテーマとした長屋形式の住まいです。

そして筆者もその住民として住むこととなり、この里山長屋に引っ越して、早くも4回目の夏をむかえることになりました。 この里山長屋は当初より、エアコンに頼らない暮らしをしよう、ということを念頭に設計しました。

里山長屋竣工直後(写真:砺波周平)

里山長屋竣工直後(写真:砺波周平)

伝統的な竹小舞土壁の仕様を伝統的技術として継承しよう、という意図はもちろんのこと、もうひとつ大事なテーマとして、土壁の温熱環境特性に着目したい、ということがあります。土壁がもつ特性を、現代の暮らしのスタイルにもあう状況を模索し、あらたな意味付が必要と思ったからです。

従来より建物の蓄熱性が室内の温熱環境をコントロールするのに大切であることはわかっていましたが、伝統的な土壁の家の蓄熱性についても最近ほうぼうでその温熱環境特性の検証がはじまっているようです。
土は申し分無く蓄熱容量が大きい素材ですので、うまく蓄熱特性を活用してあげれば、従来のような冬に「寒い」民家、というイメージは払拭できると思います。

この里山長屋では、伝統的な竹小舞土壁の仕様を採用しました。ここでは外壁側は真壁を採用せず、杉板の大壁として、土壁と外壁の板壁の間に断熱材をほどこし、いわゆる外断熱の仕様としました。

断熱材は、最終的には「土に還る」ということを大事なテーマとして、ウッドファイバーと羊毛を使用しました。(それぞれ約50ミリずつ、合計約100ミリ)屋根の断熱と合わせて、断熱性能としては、これで次世代省エネ基準をクリアしています。

ちなみに、この羊毛断熱材はウールマーク認定工場でつくっている、ということで、そのメーカーさんより「ウールマーク」認定証が送られてきました。つまりウールマーク付きの家です。 ここで大事なのは、断熱性能そのものだけではなく、それがキチンと土の蓄熱を助けていることだと思います。 そうすることで、土が冷えれば冷えた状態が維持し、暖まれば暖まった状態が持続することが期待できます。よく言われる、蔵のなかの温熱環境の状況です。

これまでの夏の状況で、すでに「蓄冷」の状況は十分確認できました。
現在これを書いているのは8月の暑いさなかで、外気温は14時で31℃になっています。
それに対して、室温は26℃。冷房の設定温度が28℃ですから、それに比べても冷房が不要ですが、何よりも体が楽なのは、室内の壁など周囲温度が室温と同等の温度なので、輻射的にも体が暑く感じない、ということです。

里山長屋 筆者自宅内観(写真:砺波周平)

里山長屋 筆者自宅内観(写真:砺波周平)

実はこうした状況をつくるには、ちょっとした工夫が必要です。
朝方、部屋が冷えた状態で、建具を全てむしろ締めてしまい、外気温が上昇しても、その熱気が室内に入ってくるのを防ぐ状況をつくってあげることです。我が家は南面の開口部には冬の断熱も兼ねて引き込み式の障子を備えていますので、それも締めてしまいます。

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障子による断熱/蓄熱(写真:砺波周平)

 

夏場の8月の太陽高度は夏至の6月より大分下がってきていますから、庇の長さの状況によっては少し室内に日差しがはいってきます。それを遮光する意味でも障子は実は重要です。 そうすることで、朝方の部屋が冷えた状態を保ってくれるのです。

もうひとつ、それを実現するための重要な作業があります。
それは夜、できるだけ家を開放し、夜間の冷たい空気を室内に引き込んであげることです。いわゆる「ナイトパージ」というやつですね。

里山長屋は周囲をヒノキ林や広葉樹の林に囲まれていて、林の中の微気象は多少気温が低いことや、藤野という場所は緑が多い山間地であることもあって、夜になるといわゆるヒートアイランド現象がなく、すーっと冷えます。都心で熱帯夜と言っているような日でも、里山長屋の周辺では明け方には20℃近くまで外気温が冷えるのです。

林と緑に囲まれた里山長屋

林と緑に囲まれた里山長屋

これを使わない手はありません。 二階の寝室の窓は網戸にして積極的に通気をうながし、家を夜間に冷やし、蓄冷しておくことで、次の日の昼間もひんやりした室内の状況を確保することができるのです。こうして、里山長屋では4戸全戸でいわゆるエアコンなしの暮らしをしています。

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積極的な通風策(写真:砺波周平)

夜、窓をあけておくと、いろいろな野生動物や虫の鳴き声も聞こえてきます。ホトトギスは夜鳴く、ということはここに引っ越してきて知りました。
また、あのかわいい顔をしたムササビの鳴き声は以外とかわいくないものです。

そうした建物の周りの環境とのつながりを感じながら、文字通りその環境がもっているポテンシャルを家のなかのコントロールにも生かす、しかも省エネというはこの上ない贅沢だと感じます。

家の前に菜園。自給と微気象形成の一石二鳥。

家の前に菜園。自給と微気象形成の一石二鳥。

都会のように、夜になっても厳しい環境においてはむずかしい選択かもしれませんが、逆にいうといかに都会の建物外部のデザインも重要かつ必要か、ということでしょう。

kinei_yamada山田貴宏(やまだ たかひろ)

早稲田大学建築学科都市環境工学修了。清水建設、長谷川敬アトリエを経て、現在ビオフォルム環境デザイン室主宰。主に国産材と自然素材を中心とした、地産地消でかつ伝統的な木の家造りを中心とした建築/環境設計を行う。パーマカルチャーのデザイン手法・哲学を背景とした住環境づくりをめざす。建物とそれを取り巻く自然/コミュニティまで含めた幅広い環境と場づくりがテーマ。
著書:「畑ついているエコアパートをつくろう」(自然食通信社 共著)、「里山長屋をたのしむ」(学芸出版社)