南禅寺の家 夏の便り Vol.1


今年の6月、中庭でカマキリの赤ちゃんが生まれたようです。入居後2年半が経ち、緑も深く生物も増え、豊かな庭に育ちつつあります。庭師さんが言う「庭の完成は3年」までもう少しです。

南禅寺の家の中庭で生まれた小さな命たち

南禅寺の家の中庭で生まれた小さな命たち

家が完成したのは、2011年10月8日。この30日ほど前から庭づくりが始まりました。庭に使う石は、建物解体時に保管しておいたもの。大きな石は3本の丸太を組み、チェーンを使って移動させます。設置場所は軒下なので、そんな奥まで移動できるのかと思いきや、そこはさすがプロの庭師さん、いとも簡単に石を設置されました。が、石の表情が気に入らないのかもう一度やり直し。数度繰り返して、ようやく気に入った石の顔が正面に向き、次の作業へ。図面では表せない庭師の技をみたような気がします。試行錯誤を繰り返し、入居までになんとか形になりました。その後の樹木は、紅葉の時期を少しだけ楽しみ、春に向けて冬眠です。

庭づくりの様子。試行錯誤しながら丁寧に作業を進める。

庭づくりの様子。試行錯誤しながら丁寧に作業を進める。

(左)施工後 (右)施工から8ヶ月後の様子。

(左)施工後 (右)施工から8ヶ月後の様子。

5ヶ月後の3月、まちに待った春です。樹木が一斉に活動を始め、地苔も生えてきました。住まい手は、各季節の花がたのしめるようにと庭師さんにお願いされたので、順々に花が咲いていきます。私が、同年6月に訪問した際は、木々が育ち池も完成していました。

池は、屋根からの雨水を利用し水を貯め、ボウフラ対策としてメダカを放たれていました。しばらくして、メダカの数が減っていることに気が付かれたのですが、大雨で排水口に流れてしまったのかと心配をする一方で、猫や鳥に食べてられているのでは?と想像されたそうです。数カ月後、何故か池に沢蟹が死んでいるのを見つけられたことから、もしや、メダカがいなくなったのは、メダカと沢蟹が格闘をした結果だったのかも?と自然の摂理を感じずにはいられませんでした。

ボウフラ対策として池に放たれたメダカの数がなぜか減っていく。

ボウフラ対策として池に放たれたメダカの数がなぜか減っていく。

この土地は、琵琶湖疏水の綺麗な水が前面道路の側溝を流れており、そこに住む沢蟹が庭を伝って中庭の池までやってくるようです。住まわれる方が大切に手入れをすることで植物も元気に育ち、生物も引き寄せられるのかもしれません。

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この家は土壁でできています。土壁というと、建築のプロは、竹小舞を掻いて土を塗る日本の伝統的な工法をイメージしますが、一般の方は、外部のモルタルや内壁の薄塗りも「土壁」という認識に変わりつつあります。理由は簡単で、建売やハウスメーカーともに、外壁はサイディング、内壁はクロスが主流であり、壁を塗るという行為自体が少なくなっていることにあります。そんな中、住まい手は、アレルギー体質を改善したいがため、昔からある土壁を選択されました。住まい手が家づくりにかけた思いは、本サイトの「くらしかた・すまいかたvol.19」を是非御覧ください。

土壁にかかるコストと工期の問題を解決すべく、様々な試行錯誤を繰り返しながら作業を進めた。

土壁にかかるコストと工期の問題を解決すべく、様々な試行錯誤を繰り返しながら作業を進めた。

この家の土壁は、左官職人である父と共に試行錯誤してできあがりました。一般的に竹小舞土壁は、竹の上に土を表と裏に塗り仕上げますが、今回は、木小舞の上、土を片面だけ塗る方法を採用し、土の背面に断熱材を充填することにしました。土壁は、コストと工期が問題で使われなくなっていると言われているため、その2点を再優先で解決する方法として実践したわけです。

木小舞の上、片面だけに土を塗る。

木小舞の上、片面だけに土を塗る。

木小舞に土を塗るコツは2点あり、1つ目は竹小舞のように土が絡みつく隙間を大きく開けること、2つ目は荒土を塗ることです。昔は、木摺(隙間が6mm程度)の上に中塗り土を塗っていたため、木と木の隙間に土を絡みつかせることができず、剥がれの原因にもなったと父は言います。実践した木小舞片面土塗りの隙間は、土の種類や粘り、硬さによっても変わりますが、24mm程度開け土を絡みつかせるのがよさそうです。

土を塗った木小舞を外側から見た様子。木と木の隙間は24mmとした。

土を塗った木小舞を外側から見た様子。木と木の隙間は18mm以上必須。

では、木小舞に中塗り土を塗ってはどうか?と父に聞いてみると、それもNGとのこと。荒土は粘りが強く藁スサがあることで小舞に絡みつき、厚みをつけることができます。土に入れた藁スサがコンクリートでいう鉄筋の役目をしてくれるので土が剥がれにくいのですが、中塗り土の場合、藁スサは細かいものを使用するので、木小舞に塗る土としては不適のようです。

次に、木小舞片面土塗りの弱点を聞いてみると、やはり片面塗り(裏返しをしない)というのが気になるようでした。裏返し塗りをしないことで、耐候性が悪くなり、木が反ったり劣化しやすいのではないか?と。そこで、木小舞と土を強烈な日射から保護するために、土壁の背面に羊毛の断熱材を充填することにしました。

土壁の背面に羊毛の断熱材を充填し、木小舞と土を強烈な日差しから保護している。

土壁の背面に羊毛の断熱材を充填し、木小舞と土を強烈な日差しから保護した。

昔は、土や木しかなかったのでそれらで家が傷まないように保護していたのですが、現代は、断熱材という優れた素材があり、それを使うことで土壁の劣化を和らげると同時に、住まいの室内環境を快適にする素材として利用したわけです。さらにその上から、透湿性がある構造用面材を張り、剛構造として耐震性を確保。これで現代の土壁が完成です。結果、左官職人の父と設計者の私が、お互いの意見を出しあい生まれたのが、断熱材を充填した木小舞片面土塗りとなりました。

 

最後に、この住まいの庭は庭師さんの遺作、土壁は父の遺作となりました。技術や伝統はもちろんのこと、職人が家づくりに立ち向かう意思を受け継ぐことができ、かけがえのない住まいとなったことに感謝したいと思います。

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toyoda_1豊田保之/トヨダヤスシ建築設計事務所代表

1974年京都生まれ。瀬戸本淳建築研究室、Ms建築設計事務所を経て、2005年トヨダヤスシ建築設計事務所開設。岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師。京都造形芸術大学非常勤講師。一般社団法人住宅医協会理事。代々続く左官職人の家に生まれた経歴から、土壁や漆喰など左官職を生かした家づくりを行っている。
「南禅寺の家」では、(財)建築環境・省エネルギー機構主催「第5回サスティナブル住宅賞」において「国土交通大臣賞〔新築部門〕」の他、第9回木の建築賞 木の住宅賞、第7回地域住宅計画賞 地域住宅計画奨励賞も受賞している。