イタリアからの便り vol.2 『イタリアの家づくり』


今年もあと僅かとなると何故かせわしくなる今日この頃、皆さんお元気ですか?イタリアでも冬の冷たい空気が流れて雪が舞う中、今はクリスマスに向けて大忙しです。イタリアのマンマは何日も前からパーティの用意を始めるのです。イタリア人にとってクリスマスは大切な日、神に感謝し祈ります。また一年幸せでいられますようにと家族でゆっくり過ごします。大切な日に家族みんなで一緒にいるための家もまた大切。今回は彼らの家づくりを取材しました。

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もうすぐクリスマスパーティの始まりです

アパートメントの一室を内装リフォーム、郊外の古い家屋を購入して全面リフォームが主流ですが、いずれも景観条例が厳しいのもまた事実。アパートメントについては構造を触らなければ、まあだいたいのことはOK!ですが、歴史保存地区内の建物の場合は壁を塗装するにも許可が必要になります。実際は許可を待っていたらお墓に入っちゃうわよ!と黙って塗ってしまう方が多いとか。それでも何百年も前に建てられた家を引き継いで大事に住む文化には脱帽ですね。

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(左)鎧戸付きの窓が多い中おしゃれな窓の家 (右)廊下がそのままキッチン

少し郊外に行くと、昔は農家だったけど・・・という感じの古い家屋が点在しています。改修は骨組みだけ残して建て替えたり、まっさらな土地にして最初から立て直したりすることもあります。風土を守るための法律が多いイタリアでは、改修に厳しい条例が多いようです。屋根瓦は同じものを使う、出来れば古屋の材をリサイクルして使う、同じ面積は当たり前、同じ仕様、つまり納屋は納屋、倉庫は倉庫など部屋の造りにも規制があります!それでも自分たちの手でリフォームを手掛ける人々は残っていた瓦やテラコッタの床材をひとつひとつ丁寧に磨いて使っています。もちろん壊れてしまったものは新品を足すわけですが、それも似た材を一生懸命探すようです。

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(左)1600年代の農家の家:購入した時の様子 (右)リフォーム後の姿

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(左右)キャンティ地区ワイナリー兼住宅:家族所有の土地に建っていた家は崩壊していたため一から造り直した

新築が少ないイメージのイタリアですが、チェントロと呼ばれる歴史保存地区の外では新しい建物が増えています。
新興住宅地と呼ばれる海沿いの町、ぺーザロでは広範囲にわたり1950-60年に開発されました。ここはバカンスを過ごす町としても有名、別荘として使っている家族も少なくはありません。新しい家であっても内装リフォームには規制があります。ある友人は2階建ての屋根裏を部屋に変えてしまいました!本当はNGですが、収納を居住に変えるための変更申請(+役所への寄付金)でOKが出ました!マフィアの国イタリアではお金で解決できることも多いようですよ!!

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(左)ペーザロの新興住宅地:珍しい宅地開発 (右)屋根裏部屋を改造して居室に

建築業界では天然建材の使用を推奨し、太陽光パネルやパッシブハウスも人々の目に触れるようになってきました。近年、環境配慮型住宅認定制度が法律化されクラスA+、A、B、C〜とレベル付けられるようになっていて、省エネルギーに貢献する設計が求められています。100%義務ではないのですが、審査は国の機関Casa clima(カーサクリマ)が行っており、設計者や施工者に向けてエコハウス計画の情報公開やセミナーも行っています。

Casa clima
http://www.agenziacasaclima.it/it/casaclima/casaclima.html

Casa climaは、まだ限られた州内の制度ですが、このレベル設定もその土地土地の温度、湿度などによって規定数値が異なります。国の建築法規が第一優先、そして州の法規のもと、エコハウスが生まれ始めているのです。それでも既存の石造りの家はそう簡単に改修できなかったり、耐震建築法に基づくと壁厚が大きかったりと苦悩します。例えば以下に挙げる邸宅は地下を掘った時に出た石材を壁に使い、屋根や天井にクリ材を使うなどしてエコに貢献しています。そして外壁厚は何と450mm!レンガ積150、断熱材140、外壁仕上げ材の石160、これによって外部の寒暖さの影響をほとんど受けない断面仕様となっています。耐震は中規模地震対応、断熱はエコロジー計画の大事な要素です。

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(左)トスカーナの別荘:SPAPLAN設計 (右)漆喰塗装、天然石仕様もエコハウスの要素である

太陽光パネルの設置は大幅なコストアップに繋がるため、まだまだ富裕層の邸宅に限られますが、対応しやすい壁材や屋根材の工夫から徐々に浸透しています。北イタリア、特にオーストリアとの国境近くでは木材を多く利用し、Aクラスを取得できる個人邸、集合住宅やホテルなどが建設されています。ログハウスのように全面的に使う方法と、装飾材として飾柱、ルーバーや手摺りなどのポイントに使う方法に分かれるようです。木材はレンガ積やコンクリート基礎での施工に比べ加工が楽、スピードも速く、二酸化炭素を吸収する天然材料として現在急速に発展しているようです。外部だけでなく、窓枠やドア、家具にも木材を多く使っています。また植栽計画も重要、大気を浄化する樹種や光合成の効果など配慮した庭づくりを勧めています。トレントを中心に活動している建築家グループに最近の作品を紹介してもらいました。この個人低は見事にA+、最高レベルを取得しています。

Burnazzi Feltrin architetti e Paolo Pegoretti architetto
(ブルナッツィ フェルトゥリン アルキテッティ &パオロ ペゴレッティ アルキテット)
http://www.burnazzi-feltrin.it/
http://www.gruppopegoretti.com/

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(左)トレント(州都)の個人邸 (右)北イタリアの山々と澄んだ青空を臨む

Casa climaでは宿泊施設に対してもエコの適応制度を進めています。住宅と違い、大きな3つの条件をクリアすることが環境に配慮したホテルと言えるのです。ポイント制で100項目中、自然(気候/生態、天然資源)50、生命(快適に過ごす/文化)30、透明性(コスト、品質)20としています。

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北イタリアのオーストリアとの国境近くの町、ボルツァーノの5つ星ホテル、2件とも健康と快適な滞在を提供する宿泊施設である。
写真はCasaClimaのHPより引用

北イタリアと言うとミラノやヴェネツィアが観光地として有名且つ一般的になっていますよね?日本ではあまり知られていないトレンティーノ・アルタ・アディジェ、トレントやボルツァーノなどドイツやオーストリアとの国境付近への旅行も是非してみたいです。新たな風景に出会えることでしょう。

そしてもうひとつ、新しいエコハウスのお話。今年の初夏、フィレンツェ初!クラスAを取得したアパートメント(17世帯分譲)がドゥオモが見える中心地に誕生しました。新聞や雑誌、地元のメディアでも大きく取り上げられました。取得には多くの書類、図面、相当の時間がかかったようです。自治体やエネルギー庁のバックアップを受け、苦労した結果です。ソーラーパネルを中心の新システムを導入、断熱や通気、換気のスムーズな関係を確保しました。インパクトゼロをうたい町の汚染に繋がる有害物質を排出しない建築物として話題です。

Caccimati社  http://www.cacciamani.it/
竣工写真だけでなく施工中の様子やメディアのインタビューなど配信している(英・伊)

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(左)通気性の優れるトラバーチン材を採用 (右)カーサクリマのラベル“クラスA”

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(左)施工中の様子 (右)フィレンツェの中心、花の大聖堂ドゥオモが見える
写真はCacciamani社HPより引用

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※この記事は2010年にご寄稿いただいたものです。紹介している記事は寄稿当時のものです。

特派員:安部彩英子(AMBE SAEKO 一級建築士/ランドスケープデザイナー)
大手ゼネコン設計部を退職後、イタリア・フィレンツェへ渡り庭園学の専門学校入学。平行してピストイアにある造園事務所にてガーデンデザインのアルバイトの日々。1年後ローマに移住し、在伊日本大使館営繕室に1年ほど臨時職員として勤務。館内のリニューアル工事に関わると共に日本大使公邸の庭園修復を手掛ける。
現在は夫と一緒に会社を立ち上げデザイン業務遂行中。4歳の娘の母、東京暮らし。

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