富山からの便り vol.4


 

8月に入りました。当地でも盛夏を迎えています。皆々様に暑中お見舞いを申し上げます。このところの天気図を見ると太平洋の高気圧が日本を大きく覆うようになってきました。スカッとした夏空も素晴らしく嬉しいのですが、こうした日が続くと雨もまた恋しくなります。

我家では5月の連休明けにプランターにゴーヤの苗を植えました。ネットに這わせますが、どんどん大きくなり、今は日差しを遮る気持ちのよい緑陰を作ってくれています。

ゴーヤの緑陰

ゴーヤの緑陰

サンルームや家の中への日差しを調整してくれるグリーンカーテンともなり、網戸やスダレと併用し風通しの良い住まいを実践しています。大きな開口にスダレを下げるのは外から中は見えないし、中からは暑さをしのぐ涼しさも感じられます。外断熱材としての効果も大いにあるようです。

日差しを遮るスダレ

日差しを遮るスダレ

当地富山県では東の方角に北アルプス立山連峰が連なっています。先日友人たちと登ってきました。標高が100メートル上がると気温は0.6度下がるといわれますが、標高2千5百メートル程のところでの気温は10度台で爽快そのものでした。

奥大日岳稜線から剱岳(2999㍍)を望む

奥大日岳稜線から剱岳(2999㍍)を望む

立山から派生する大日連山の稜線にはまだ雪も残り周辺の高山植物はとてもやさしく、雄大な山岳景観は素晴らしいものでした。ただ、昨冬の雪が山でも少なかったとのことで、例年夏にも残る雪渓はとても小さく感じられました。
地元の電力会社では雪解けの水を利用する水力での発電が少なく、その分火力に頼ったことから決算に影響があったとの報道もありましたが、自然の恵みが温暖化によって様々に影響していることの課題も実感しました。

この北アルプスの山々からの急流が富山平野に何本も流れています。東から黒部川、片貝川、早月川、常願寺川、神通川、庄川、小矢部川です。かつてはこの急流河川の治水が大きな課題だったわけです。先人たちの多くの労苦とともに最近では災害も随分少なくなったように感じています。
一方、この河川からの恵みも多く、灌漑用水による稲作を中心とする農業や、水力による発電事業は富山県の発展に大きな貢献をしてきました。そして、この豊富な水は伏流水となって生活に様々な恩恵をもたらしてくれています。

先日、黒部川扇状地の広がる黒部市、入善町を訪ねてみました。広々とした田園に早くも膨らんだ稲穂が風に揺れていました。水路にはきらきら光る美しい水が流れ、豊かさが溢れているように感じられました。
この黒部川扇状地の末端部には処々に湧水があります。自噴しており地域の人達が大切に管理し生活用水として様々に利用されています。

絹の清水(しょうず)(黒部市生地地内)

絹の清水(しょうず)(黒部市生地地内)

また、入善町の海岸に近い湧水郡の辺りには「杉沢」と呼ばれる杉を中心とする植物群落が残されています。かつては多くの杉沢がありましたが、圃場整備などで激減し現在一箇所だけが「杉沢の沢スギ」として2.7haほどが保存されています。

杉沢の沢スギ(入善町吉原地内)

杉沢の沢スギ(入善町吉原地内)

30度を超える暑い日でしたが、この中に入ってみると鬱蒼とした杉林の中に伏流水が流れています。「涼しいな」と言うのが実感でした。かつては「生活の森」として建築用材や燃料の調達に。また、アケビや栗、山菜など食用の植物も多彩だったようです。

この黒部川の伏流水などを有効に活用したのがYKKの開発する「パッシブタウン」です。

パッシブタウン第1期街区南側外観(黒部市三日市地内)

パッシブタウン第1期街区南側外観(黒部市三日市地内)

ご縁が繋がり、4月に入居された第1期街区のTさん宅を訪問することが出来ました。春に訪れたときには玄関ドアーを開けるとふんわりとした暖かさを感じ、先日再訪したときには、逆にひんやりした感覚を持つことができました。

第1期街区では黒部の自然エネルギーを活用し、街区一体の暖冷房を実現させています。地下の機械室にはYKK工場からの木製廃材などを使った木製チップを燃焼させるバイオマスボイラーが設置され、また、地下20メートルから汲み上げる地下水を循環させる設備が置かれています。さらに、屋上には太陽熱を活用する温水設備も備えられています。
そして、バイオマス熱と太陽熱により各戸の暖房とあわせ給湯を。地中熱により冷房を行なうようになっています。
各住戸には廊下に幅が1メートルほどで、高さは天井まで届く壁パネルが設置され、また、居室には床材の下に床パネルが配置されています。

室内廊下に設置された壁パネル

室内廊下に設置された壁パネル

先日訪れたTさん宅では床をさわってみるとひんやりとした感触を実感することが出来ました。地下水を22度に調整し循環させているそうで、それ以下の温度にすると結露の問題があるとのことでした。壁パネルとあわせ室温を快適に集中管理しています。そんなことから、各戸での空調機器の設置は禁止されているとのことでした。

住棟には北側の共用廊下と南側の広いサンテラスがあり、断熱サッシや外断熱とあいまって可能な限りの省エネ設計が追及されているように感じました。
春や秋の快適な季節には窓を開け通風を十分取れるよう配慮し、更に車庫を地下に設けることで外部空間は植栽などで公園のように整備し良好に管理さています。
地域の風土の特性である豊富な地下水を自然エネルギーとして活かし、自然に親しむ心地よさを十分実感させてくれる「パッシブタウン第1期街区」です。

(なお、この街区の技術的事項ついてはYKK不動産株式会社による「パッシブタウン黒部モデル第一期街区複合賃貸住宅への太陽熱・地中熱・バイオマス熱利用による給湯・冷暖房・融雪設備設置事業」として公表されているので参照下さい。)
YKKグループ ニュースリリース(外部リンク)

工事中の第2期街区(左)と第3街区(右)

工事中の第2期街区(左)と第3街区(右)

現在、第2期街区は10月の完成を目指し工事中であり、更に第3期街区も工事に着手しています。この街区は既存の社宅2棟を活用したリノベーションモデルとして、ヨーロッパのパッシブデザインにも精通する森 みわ氏の設計による改修事業だと言うことです。①既存建築の外皮強化(断熱気密化)による温熱環境の根本的な改善や、②住戸バルコニーと屋上庭園での豊かな外部空間の創造、また、エレベーター、コミュニティキッチンの設置などが建築計画のポイントと紹介されています。平成29年6月の完成予定とされています。この街区もまた楽しみにしたいものです。

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川﨑政善(かわさき まさよし)

1947年富山県生まれ。1970年芝浦工業大学建築学科卒業。日本住宅公団を経て1974年富山県庁へ。以来一貫して建築住宅行政に従事。2006年富山県住宅供給公社常務理事を経て、富山県建築設計監理協同組合相談役(2015年3月退任)。

バックナンバー
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富山からの便り Vol.2
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