広島からの便り vol.2


広島で住宅を設計すること(2)

■すまいの「かたち」2 ―湖畔の家ー

前回の夏編で紹介しました西中国山地、冬の寒さが厳しく積雪が1m以上にもなる「山頂脊梁部」に設計した住宅です。施主は関西から移り住んで来られるご夫婦でした。日本各地を廻られて、この場所を選んだのは、四季の移り変わり・美しさをはっきりと感じられたからとのことでした。依頼を受けすぐに現地に足を運びましたが、仕事を受けることを躊躇するほどの水をたっぷり含んだ重い2mほどの積雪がありました。周囲の別荘は屋根から地面まで雪で覆われて、凍った雪で窓ガラスが割れている家もありました。そんな現状と、現地の方々のヒアリングを経て決めたことは、次の四つです。この四つのテーマをはっきりと意識した「かたち」をつくることに集中しました。

1.閉じた床下空間はつくらず、風通しをよくして湿気から家を守ること
2.アプローチ側に屋根の雪は落とさず、積雪時のアプローチを容易にすること
3.冬の光を存分に取り込むこと
4.木の断熱性を生かした開口部をつくること

(図1)湖畔の家の「4つのテーマ」を断面で現したもの

(図1)湖畔の家の「4つのテーマ」を断面で現したもの

現地にお住いの方々から、コンクリート基礎の内側の床下空間は湿気で大変なことになるとの話を聞き、下駄状のコンクリート壁によって持ちあげられたフラットスラブ(プラットフォーム)の上に片流れの木造を組むこととしました。

■結果

1.北側の谷側の森から上がってくる湿気はこの浮いたプラットフォームの下を通って、南の道路側に抜けていきます(写真1)。

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写真1

2.屋根に積もった雪は南側のアプローチには落ちませんが、さらに、プラットフォームとアプローチの階段、道路側の駐車スペースには、雪が降るとセンサーによって暖房が作動する融雪暖房が施され、雪が積もりにくくなっています。除雪なしで中への出入りが可能となります(写真2)。

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写真2

3.北に傾斜した片流れですから、南には大きな開口部が設けられます。冬季には、奥まで冬の光が届きます。軒も深く、真夏にはほとんど直射日光が入りません(図1)。2階のロフトはこの家の縁側空間です。布団干しにも最適で、ゲストの寝室ともなります(写真3)。

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写真3

4.内部は、杉仕立てにしているため、造作材と建具も杉でつくりました。FIX(Lo-E)+板戸の組み合わせです。板戸は断熱材を杉の面材でサンドイッチしてつくりました。この方式の優れている点は断熱・気密に優れているだけではなく、スクリーンを降ろしたまま板戸の微調整で通風をコントロールできる点にあります。(写真4)

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写真4

■ 内からの風景

北の森に面した開口部は同じく板戸の部分をガラス戸としています。茶の間に座ると、順行の光で美しい森が見える北の窓(写真5)と、縦長のFIXガラスと板戸の組み合わせで木立がきれいに見える南の窓(写真6)を両方楽しむことが出来ます。

写真5

写真5

写真6

写真6

 ■  真冬と真夏の風景

真冬は寝雪も含めると、2m近い積雪があります。しかし、陽光はしっかりと家の中に導かれます(写真7)。

写真7

写真7

夏には通風板戸が大活躍します。山風が風速を上げて通風スリットを通り抜けます。(写真8)

写真8

写真8

■その後

北側の森に面した開口部として、小さなバルコニー(喫煙用)を設けていましたが、2年後に、ここにデッキを増設しました。森に浮かんだすばらしい場所が生まれました。大きく張り出した軒のおかげで、雪も積もりません。目の前を滑り落ちてゆく落雪の迫力は見ごたえがあるとのこと。冬以外の季節、朝食はこちらで召しあがっておられるようです。

写真9

増設したデッキ


torumukoyama広島からの便り 特派員
向山 徹(むこうやま とおる)

1960年 山梨県生まれ
1985年 東北大学工学部建築学専攻修士課程修了
1985年 清水建設(株)設計本部
2000年 向山徹建築設計室設立
2012年 広島工業大学建築工学科 准教授

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