富山からの便り Vol.1


はじめまして、富山からの便りをお届けします。

富山県は本州の中程、日本海に突き出た能登半島に囲まれた富山湾に面しています。

西は能登半島に繋がる丘陵地を挟んで石川県、東は北アルプスが海に落ちる親不知の新潟県、南には3千メートル級の立山連峰が連なり、長野県、岐阜県と境を接しています。

三方を山に囲まれ、そこに源を発する黒部川や常願寺川、神通川、庄川、小矢部川などで形成された平野が広がっています。

その、ちょうど中央に富山市があり、どの方向へも一時間程度で到達できるコンパクトな地形が富山県の特徴となっています。

気候は冬季には積雪のある日本海型気候で全域が豪雪地帯に指定されています。(山間地では一部特別豪雪地帯となっている。)

一方、夏は暑くそして多湿であり、特に日本海に低気圧があるときなど、南風が吹きフェーン現象となり35度を超えることもしばしばです。

富山県には教科書にも掲載されている、五箇山の「合掌造り」集落や、「散居」と呼ばれる砺波平野に点在する屋敷林に囲まれた「アズマダチ」の農家住宅があります。

合掌造り 菅沼集落

合掌造り 菅沼集落

合掌造りは3メートルを超えることもある豪雪地域での暮らしを守るための工夫された様式であり、散居も庄川扇状地で農業を営む灌漑や冬の豪雪、夏の南風を防ぐ「カイニョ」と呼ばれる杉を中心にした屋敷林など、また冠婚葬祭の宗教行事など日常、非日常に対応できる風土に根ざした暮らしの中から、営々と築かれてきたものです。

散居遠景 砺波平野を国道304号線から望む。「散居」とは、広大な耕地の中に民家(孤立荘宅)が散らばって点在する集落形態

散居遠景 砺波平野を国道304号線から望む。「散居」とは、広大な耕地の中に民家(孤立荘宅)が散らばって点在する集落形態を意味する言葉。

カイニョ(屋敷林)に囲まれたアズマダチ(切妻造り)の屋敷

カイニョ(屋敷林)に囲まれたアズマダチ(切妻造り)の屋敷

その他にも、高岡市旧市街地の土蔵造りの街並みや、伏木、岩瀬の北前船の寄港した歴史的街並み、また真宗の名刹「瑞泉寺」の門前町として形成された井波町等々、富山の気候風土に根ざした街並みが大切にされています。

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昭和20年代、敗戦直後からの復興は建築基準法と建築士法で律せられ、合えば良し、合わなければ駄目となりました。伝統や様式、職人技も必要なくなり、大工棟梁も資格ある建築士の支配下に置かれることになりました。

全国一律の基準で律せられ、どの地方の住宅も似たようなものが建てられることになりました。近代的な住まい方に合った必要最小限の機能と性能を持った住宅が追求され「一世帯一住宅」の達成が目標とされました。

昭和50年代になり漸く、これではどうもということになりました。「地域に根ざした」「気候・風土に合った」「伝統や文化を踏まえ」・・・そんなことを実践するようになりました。

富山でも重い湿った雪に負けない住宅のあり方などが模索されました。五箇山地方の大豪雪地帯での「楽雪住宅」の試みは雪下ろしの苦労から解放される提案となりました。

楽雪住宅

楽雪住宅

また、八尾町では国が提唱された「HOPE計画」制度をいち早く活用し、伝統ある家並みの復権に取組みました。八尾の大工さんたちが呼応し「八匠」を組織し、自分たちで宅地造成から住宅建設まで手がけた「八尾かざみ台」の団地は今に至る八尾町の住まいのあり様をモデルとして示したものでした。

かざみ台近況 富山市八尾町

かざみ台近況 富山市八尾町

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かざみ台近況 富山市八尾町

その他にも県内では様々な企画や提案がなされ地域らしい住宅や街づくりの啓発プロジェクトが実践されて来たのです。

ところが、現実はどうでしょうか。最近開発された住宅団地に行って見ました。写真から富山らしさの特徴を捉えることが出来ますか。家々にカーポートが見えます。雪のことを考えたら屋根つきの車庫はどうしても必要なのです。あと、道路上の融雪装置。その程度でしょうか。

最近の団地 富山市婦中町地区

最近の団地 富山市婦中町地区

団地には地場のホームビルダーや全国区のハウスメーカーの住宅が覇を競うように建ち並んでいます。どこも、売りは「地震に強い」「高気密・高断熱」「省エネルギー」・・・ともかく頑丈につくり、暖房・冷房がよく効く住宅が求められるようです。

八尾の大工さんたちが造った「かざみ台」を訪ねてみました。街路樹や庭木も立派になり、その佇まいや雰囲気にホッとする気分にさせられました。

諏訪町近況 富山市八尾町

諏訪町近況 富山市八尾町

八尾町旧町にある諏訪町界隈ではその街並みが大きく変わりました。「八匠」の試みが町民のそれぞれに理解され、順次順次今のようになってきたものです。

殆んど奇跡のように感じてしまいます。八尾ならではの特殊解ということなのでしょうか。

地域らしい住宅を建てよう、隣り近所のことも意識して建てよう、まちなみの美しさを共有しよう・・・などということを皆が共有していくことは本当にむつかしいことなのです。

建築住宅行政に永年携わってきた身には何か忸怩たる思いが交錯します。

 

終わりに最近の富山でのニュースを紹介します。YKK株式会社がこのほど着工した「パッシブタウン黒部モデル」です。

YKKの資料によれば、黒部における自然エネルギーを活用したハイエネルギーへの依存を抑えた集合住宅と商業施設によるまちづくりで、未来に向けた地域における暮らしを提案するプロジェクトであると紹介されています。

黒部モデル(写真は全てYKK提供)

黒部モデル(写真は全てYKK提供)

事業のコンセプトとして、「21世紀の持続可能な社会にふさわしいローエネルギーのまちと住まい実現する」と謳われ、太陽、風、緑、水といった自然のポテンシャルを活かし、パッシブデザインを追求し、地域との共生をめざすことが紹介されています。

当面第1期として、複合型賃貸集合住宅36戸が計画され、来年9月の竣工予定とされています。小玉祐一郎氏、宮城俊作氏の設計とのことで、その完成が大いに期待されます。

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川﨑政善(かわさき まさよし)

1947年富山県生まれ。1970年芝浦工業大学建築学科卒業。日本住宅公団を経て1974年富山県庁へ。以来一貫して建築住宅行政に従事。2006年富山県住宅供給公社常務理事を経て、現在富山県建築設計監理協同組合相談役。