岐阜からの便り vol.1 岐阜南部の夏の暮らし


 

岐阜県立森林文化アカデミーの辻です。私は兵庫県南部の小野市で生まれ育ち、大阪の大学、設計事務所を経て、2001年の森林文化アカデミー開学より、岐阜県に移り住んで16年目の夏を迎えています。

現在、築130年の小さな古民家を改修して住んでおり、いろいろ試行錯誤しながら土地の豊かさを享受し、心地よく、エネルギー消費を抑えて暮らしています。

写真1:自宅を南東より見る。周辺の豊かな緑とすだれで夏の暮らしを実現する。

写真1:自宅を南東より見る。周辺の豊かな緑とすだれで夏の暮らしを実現する。

まずは岐阜を概観してみます。一口に岐阜といっても、県北部は標高3000mを超える飛騨山脈が連なる一方、南部は木曽三川が流れる濃尾平野が広がっています。
このように標高差が激しいため、南部の岐阜市 平均気温が15.8℃に対し、北部の高山市 平均気温は11.0℃というように、気候も地域によって大きく異なります。(省エネ地域区分も高山市の3地域から岐阜市の6地域にまたがります。)
私の自宅のある関市(5地域)は、濃尾平野の北の端にあたり、平均気温14.6℃と比較的温暖な地域に位置します。
図1に最寄りの美濃気象観測所(赤い線)と近隣の大都市の名古屋気象観測所(グレー)と比較(1981~2010年の平均値)してみました。真ん中の線が平均気温、上下の線が最高、最低気温を示しています。

図1:美濃と名古屋の気温比較

図1:美濃と名古屋の気温比較

最も暑くなるのが8月で、最高気温は美濃の32.7℃に対して名古屋が32.8℃と山間部近いとはいえ、ほぼ同じくらい暑くなります。一方この時期に一番涼しいのは明け方で、美濃22.6℃に対して名古屋が24.3℃と2℃ほど低くなり、明け方の涼しさがありがたいです。
つまり、日中はしっかりと日射を遮蔽する必要があり、夕方から明け方にかけては涼しい外気をうまく取り込むと心地よく過ごせます。このようなデータは気象庁のHPから誰でも見ることができます。

では、夏のエネルギーはどこにどの程度使われているのでしょうか。

図2:5地域の月別エネルギー消費量の目安

図2:5地域の月別エネルギー消費量の目安

 

図2は総務省の家計調査から試算した我が家のある5地域、4人家族のエネルギーの月別変化です。
夏(7、8月)は、全体的にエネルギー消費が抑えられている月で、おおむね4.3GJ/月、使っています。
そのうち、家電や換気で50%程度、冷房、給湯で15%程度、照明12%程度、調理で8%程度の比率になっています。順番に省エネで豊かな暮らしを考えていきます。

まず、一番多い家電と換気ですが、使う機器を減らすのが一番手っ取り早いです。
我が家には、テレビがありませんが、最新の情報はインターネットで得ることができます。テレビの放映時間に合わせるのではなく、自分で時間をデザインすることができ、読書や家族の会話など、時間を有効に使うことができています。
また、家電の中で一番エネルギーを使うのは冷蔵庫ですが、我が家では太陽光発電0.3kW(1畳くらい)の太陽光発電を設置して、蓄電池と組み合わせてオフグリッドしています。もし、停電になっても冷蔵庫は作動しますので、リスク管理でも有効です。

次に夏特有の冷房ですが、基本は窓開けと天井扇、扇風機の活用です。この気流感によって、体感温度がぐっと下がります。私の家では、6月中旬から窓にすだれを設置して(写真1)、日射が入らない様にして、外気が涼しい時には通風、風がないときには天井扇(写真2)を活用しています。
通風のポイントは、室温より外気が涼しい時間帯は、しっかり風を入れてあげることです。最近では、室内にいながら外気温を読み取れるコードレス温湿度計も数千円で購入できます。
明け方には冷えた外気が入ってきて、少し寒いくらいになりますし、虫や鳥の鳴き声を聞きながら目覚めることになります。エアコン冷房は、窓を閉め切ることが基本のため、このような自然の関わりが少なくなってしまいます。

写真2:DCモーターの天井扇。省エネで揺らぎ効果が出せる。

写真2:DCモーターの天井扇。省エネで揺らぎ効果が出せる。

次に、給湯ですが、我が家は太陽熱温水器を活用しています。太陽の熱だけで、給湯機が全く必要ないくらいにお湯が取れます。よく晴れた日には沸きすぎることもしばしば。そんな時は、洗濯や掃除にも贅沢にお湯を活用します。

写真3:井戸小屋の屋根に乗せた真空管式太陽熱温水器と太陽光発電0.3kW(手前)

写真3:井戸小屋の屋根に乗せた真空管式太陽熱温水器と太陽光発電0.3kW(手前)

照明は、LEDか蛍光灯しか使っていません。これで普通に点灯してもエネルギー消費を削減できます。外灯はすべて独立した太陽光発電の人感センサー付き照明のため、配線の手間もありません。
最近ではクリア球のLEDなどデザインの選択肢が増え、空間に合わせた光が計画できます。

写真4:クリアタイプのLED照明の門灯

写真4:クリアタイプのLED照明の門灯

最後は調理ですが、室内でガスコンロを使用すると室温があがりますので、屋外での調理も併用します。我が家は、裏山があるので薪や竹を使ってロケットストーブを活用しています。
夕方涼しくなってきたときに外で調理をしながらの一杯は非常に贅沢な時間です。
かんたんな野菜洗いや庭の水まきは井戸も活用しています。冷たくて気持ちいいです。

写真5:井戸と屋外のカウンターテーブル

写真5:井戸と屋外のカウンターテーブル

写真6:ロケコ(鋼管ロケットストーブ)で調理

写真6:ロケコ(鋼管ロケットストーブ)で調理

特段、我慢することなく普通に住んでいるつもりですが、我が家の光熱費は月4000円程度。かなり安いと思いませんか。みんなが同じように暮らせるとは思えないけれど、少しの工夫でこのように、楽しみながらエネルギーを抑えた暮らしが実現できます。

160812_tsuji辻 充孝(つじ みつたか)
岐阜県立森林文化アカデミー准教授
Ms建築設計事務所を経て現職。共著に「木の家リフォームを勉強する本」「省エネ・エコ住宅設計究極マニュアル」。2013年~環境共生住宅パッシブデザイン効果検討委員、2014年 岐阜県人口問題研究会「空き家等活用部会」議長、2015年 カミノハウスにて地域住宅賞奨励賞受賞(建築研究所主催)。一級建築士。