京都からの便りvol.4『南禅寺の家 冬の便り』


トヨダヤスシ建築設計事務所 豊田です。今回で4回目の便りとなります。
夏の便りは、既存住宅の調査のお話でしたが、冬の便りは、2015年の夏と冬に紹介した南禅寺の家のその後をお伝えします。

南禅寺の家は、家が完成してから4年と3ヶ月ほど経ちました。今年で5回目の冬ですが、これまでにない暖冬な年となりました。1月初旬に訪問すると、はじめに出迎えてくれたのは、シャラの木の芽です。

シャラの芽が春を待ち構えています。

シャラの芽が春を待ち構えています。

春が早くこないか、辛抱強く待っている様子が伺えます。

家づくりを進める中、住まい手は、季節の花が楽しめる樹木を植えてくれるよう庭師さんに依頼をしました。マンサク(2月)やトサミズキ(3月)、サンショウ(4月)は黄色い花が咲き、シャラ(6月)やムクゲ(8月)は白い花、モミジ(11月)やサザンカ(11月)は赤い花が咲きます。その他、ミツバツツジ(紫5月)やスイカズラ(6月)、カラタネオガダマ、ナンテン、カツラなどが植わり、日々の生活を楽しませてくれます。

黄色い花を咲かせてくれるトサミズキは樹高3mほどに。

黄色い花を咲かせてくれるトサミズキは樹高3mほどに。

玄関前のカツラの木は、今の時期は少しさみしげですが、春になるとハート型の葉っぱが可愛く顔を出してくれます。紅葉の時期には、黄色く色づき、この家にとってシンボリックな存在です。
視線を足元に向けると地ゴケがビッシリ。

グレーチングの間から地ゴケが広がります

グレーチングの間から地ゴケが広がります

グレーチングの間から水が湧くように生えてきています。スギゴケもたくさん植えて頂いたのですが、場所によって成長の度合いが変わり、上手く育たないコケもちらほら。その一方で、地ゴケの地場力に驚かせれます。地ゴケが、このまま石積みに広がっていくとうれしいなあと期待をしつつ、自然の成り行きを楽しみにしたいと思います。

さて、年始に、京都市が勧める平成の京町家の取材のため、南禅寺の家に訪問しました。市の担当の方と一緒に熱環境の先生がいらっしゃって、なにやら奇妙な機械で測定されています。

リビングのPMVを計測

リビングのPMVを計測

詳しく聞いてみると、気温、湿度、気流、熱放射、代謝量、着衣量を考慮したPMVなる指標を測定できるそうです。高価そうな機械ですが、面白そうなデータがどんどん取れていきます。取材を受けている際は、エコアンを可動させていたのですが、エアコンを止めて床暖房だけにした場合も測定をするようにお願いしました。ほんの2時間ほどの取材でしたが、エアコンを止めたあとでも、-0.5<PMV<+0.5におさまっていたようです。

温湿度計も設置することになりました。

温湿度計

温湿度計

この温湿度計がなかなか優れていて、電池がなくなってもデータが消えないそうです。竣工時に設置させて頂いた温湿度計は、電池がなくなると保存されていたデータ全てが消えてしまい、次の冬まで待つはめに。冬が終わり、機器を回収する日には、背筋が凍るような瞬間を迎えるかもしれないという恐怖があったのですが、その不安もなくなるようです。

和室は、使用頻度が低いため温度11.2度、湿度58%と室温は少し低め。隣家の影響もあり南の陽が入らない客間で、かつ、現場製作の木製建具も使っているので、やはり室温は上がりにくいようです。ただ、一昨年の話ですが、12月末に生花が、1ヶ月以上も元気に花を咲かせていたようです。

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12月に生けた花

客間は、生花にとって心地よい温度と湿度だったのかもしれません。人にとってはどうなのでしょうね。

庭に植えているモミジの枝を見ると、昨年同様カマキリが卵を生んでいおり、今年の春にはたくさんの子カマキリが誕生しそうです。

カマキリのタマゴ

カマキリのタマゴ

池を見ると、春夏秋と元気に泳いでいたメダカは、小石の中に隠れてじっと春を待ち構えています。

池のメダカは小石の間に隠れています。

池のメダカは小石の間に隠れています。

サワガニも石の隙間に隠れているのかどこにも見当たりません。こうした環境を実感すると、自然に対して順応する動植物達とは違い、冬に活発に動ける人間は、とても寒さに強い生物なんだと考えさせられます。

最後に、唯一この家でシクジった事例を紹介します。それは脱衣室の床素材です。

脱衣室の床素材は土間コン+タイル

脱衣室の床素材は土間コン+タイル

お風呂と脱衣室の間の土台が腐りやすいので、脱衣室の床を土間コンにタイル仕上げとしたのですが、入浴時に服を脱ぐととても寒い。一方で、夏はとても涼しくて快適なので、素材の蓄熱性もうまく使わないといけないなと反省。この話を聞いてからは、居室の熱容量は多めにし、非居室の熱容量は少なめに設計するよう心がけるようになりました。

竣工してから、住まい手宅に伺った回数は、すでに10数回を数えます。

冬のお庭。樹木も冬眠中。

冬のお庭。樹木も冬眠中。

取材や見学会などでこちらから無理をお願いすることがほとんどですが、訪問すると建築業界の宿命か、どこかに問題がないか探してしまうという悲しいサガ。計算すると1年に3回はメンテンナンスに伺っているようなもの。維持管理という点では、とてもよくできた「家を長持ちさせるサイクル」なのかもしれません。

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toyoda_1豊田保之/トヨダヤスシ建築設計事務所代表

1974年京都生まれ。瀬戸本淳建築研究室、Ms建築設計事務所を経て、2005年トヨダヤスシ建築設計事務所開設。岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師。京都造形芸術大学非常勤講師。一般社団法人住宅医協会理事。代々続く左官職人の家に生まれた経歴から、土壁や漆喰など左官職を生かした家づくりを行っている。

「南禅寺の家」では、(財)建築環境・省エネルギー機構主催「第5回サスティナブル住宅賞」において「国土交通大臣賞〔新築部門〕」の他、第9回木の建築賞 木の住宅賞、第7回地域住宅計画賞 地域住宅計画奨励賞も受賞している。

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