能代からの便りvol.4『世界基準にのりにくい裏日本北部の冬の極小日射地域』


■冬の日射特性
東北日本海側北部の冬の気候特性は日射量が極めて少なく積雪寒冷なことである。
筆者が住む秋田県能代市の冬の1月の日照時間は東京の約1/5である。寒さでは暖房度日数D18−18でみると約倍である。
東京の約1/5の日照時間で困るのは、日射熱を暖房エネルギーに大きく頼る事ができない。

■日射取得が大きい寒川の家(神奈川県)と仙台市の家
冬に日射が豊富な地域のQ値=1.2W/m2Kの資料1の寒川の家では殆ど暖房をしていない。極めて外気温が寒い時しか床下エアコン暖冷房の暖房を使っていないという。無暖房に近い状態ではかなり無理があると思うが、その地域の農家は未だに炬燵で生活をしている家が少なからずあるそうだ。日射取得で室温が24℃前後になり、その熱は蓄熱効果もあり、翌朝でも18℃前後は保つ。

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資料1 寒川の家(神奈川県)

3.11の災害時の仙台から三陸地域でのQ値=1.3W/m2K前後の高性能な家は寒い時期の10日間でも資料2のように最低室温が15℃前後であった。

資料2

資料2

仙台市若林区Q値=1.4W/m2Kの家は資料3のように寒い時で零下4℃〜零下5℃で平均外気気温は2℃前後の中で室温は平均18℃前後であった。日射時の日射取得と蓄熱効果による。

資料3

資料3

■日射極小値でのパッシブハウス計画
日射が極小の能代で世界基準のドイツのパッシブハウス研究所のパッシブハウスの認定を受けようとしているが相当に困難である。外壁の断熱は厚520mm40K相当品、桁上の断熱は厚700mmグラスウール40K相当品、基礎の立上がりの断熱は厚400mm(200+200mm)の防蟻EPS、 コンクリート底盤下の断熱は厚200mmの防蟻EPSです。窓の熱貫流率のUw値は0.75W/m2K、熱交換換気システムの効率は90%、漏気回数は0.6回/hの仕様である。この仕様でQ値は0.76W/m2K、 U値は0.17W/m2Kであり相当床面積は35坪である。その結果が暖房負荷が14.52kWh/m2で基準の15kWh/m2をギリギリに切っている。この仕様は日本では稀な高仕様で、費用対効果が著しく悪く認定を受ける必要を悩んでしまう。能代での仕様は、外壁の断熱は厚300mmグラスウール24K、桁上の断熱は厚400mmグラスウール24K、基礎の立上がりと底盤下の断熱は厚100mmの断熱が現状では適切に考える。

パッシブハウスはドイツのパッシブハウス研究所が考えた基準であり、その自然の温熱環境が大きいと思われる。暖房度時の元になる外気温は山形から函館ほどの地域に当たる。能代もその地域に入っているので、暖房負荷を15kWh/m2以下にするには至難の業なのは大きな原因は外気温ではなく、日射量の大小と家の大きさと南面の大きさのバランスと考えられる。
以前はドイツの日射量が北部東北日本海側の地域の半分と考えていて、能代では日射取得からドイツより暖房負荷が少なくすむと考えていた。しかし、実際はドイツの方の日射量が多かった。

資料4

資料4

能代の暖房期間の冬の12月から2月の3ヶ月間の南面日射量は113kWh//m2(資料4)である。太平洋側の盛岡では247kWh//m2(資料5)で能代の2.19倍、東京では301kWh//m2(資料6)で能代の2.66倍、ライプチッヒでは160kWh//m2で能代の1.42倍、ミュンヘンでは144 kWh//m2(資料6)で能代の1.27倍ある。(日本の全体参考は資料7)

資料5

資料5

資料6

資料6

資料7

資料7

これがやはり暖房期間の晩秋の11月と早春の3月と4月の3ヶ月間の能代の南面日射量は230kWh//m2である。盛岡では267kWh//m2で能代の1.16倍、東京では237kWh//m2で能代の1.03倍、ライプチッヒでは211kWh//m2で能代の0.92倍、ミュンヘンでは216 kWh//m2で能代の0.94倍ある。この晩秋と早春の期間の南面日射量は各地域でほぼ同量である。真冬の寒く暖房エネルギーが必要な3ヶ月の時期に、暖房負荷を軽減する日射が極小なのであった。その時期でも窓の熱収支は東京では大きくプラスになり能代では全体ではプラスだがその時期には大きくマイナスになっている。

この家の仕様で盛岡では暖房負荷が5.23W/m2Kでパッシブハウスの基準を簡単にクリアしている。仙台では暖房負荷が1.36Wh/m2でパッシブハウスの基準を楽に満たす。東京では暖房負荷が0.22W/m2Kで無暖房住宅である。これほど窓からの日射量が大幅に暖房負荷に影響を与えている事が知れる。
窓の熱収支を良くするには、窓の熱貫流率Uwを0.8W/m2K以下にする事、窓と躯体の取り合いのΨinstallをより小さくし熱損失を少なくする事、窓枠の見附を小さくしガラスなどの日射取得量をより大きくする事が必要である。そうしたバランスの良い窓を資料8のように南全面に近い大きな開口部にする必要がある。夏の日射遮蔽は外付ブラインドで行う。能代ではそうでなければ暖房負荷が15kWh/m2以下にならなく、世界基準にのらない。

資料8

資料8

温熱燃費計算は「建もの燃費ナビ」による

130828nisikata西方里見(にしかた さとみ)

1951年秋田県能代市生まれ。1975年室蘭工業大学工学部建築工学科卒業後、青野環境設計研究所を経て、1983年西方設計工房開設。
2004年設計チーム木(協)代表理事。
2013年 建築知識700号記念「日本の住宅を変えた50人+α」に選定。
著書は「最高の断熱・エコ住宅をつくる方法」「「外断熱」が危ない」「プロとして恥をかかないためのゼロエネルギーのつくり方」等がある。

◇バックナンバー
能代からの便りVol.1 『東北日本海側北部の夏をすごす』
能代からの便りVol.2 『東北日本海側北部の冬をすごす』
能代からの便りVol.3 『東北日本海側北部の寒冷住宅の夏は窓の日射遮蔽』
・能代からの便りvol.4 『世界基準にのりにくい裏日本北部の冬の極小日射地域』

里山長屋から冬の便りが届きました

アサイド


雪景色 一シーズンに何回かはしっかりと雪が降ります。朝方はマイナス5、6℃まで下がる気候。それでも断熱と土壁の蓄熱とで朝でも15℃ぐらいをキープ。

雪景色 一シーズンに何回かはしっかりと雪が降ります。朝方はマイナス5、6℃まで下がる気候。それでも断熱と土壁の蓄熱とで朝でも15℃ぐらいをキープ。

里山長屋の設計者兼住人の山田さんから、冬の里山長屋についてご紹介いただきました。
里山長屋はパーマカルチャーのデザイン手法・哲学を背景に設計されたコーポラティブ住宅です。

詳しくはこちらをどうぞ。

里山長屋からの便り vol.2『冬編』


長屋周辺 冬の様子:菜園はちょっとさびしいが、南側の栗の木や雑木の葉がおち、たっぷりと日差しが建物と土地にあたる。

長屋周辺 冬の様子:菜園はちょっとさびしいが、南側の栗の木や雑木の葉がおち、たっぷりと日差しが建物と土地にあたる。

「里山長屋」は2011年の1月に竣工しましたから、その年を数えると、5回目の冬をすごしていることになります。これまで、冬季の暖房エネルギーにかかる費用などを記録してきました。暮らし方の差はあるとしても、我が家ではワンシーズン平均して2万円台半ばで済んでいます。恐らく一般平均家庭の半分くらいなのではないでしょうか。

この建物では、伝統的な木組みと竹小舞土壁を構造に採用していますが、従来のこうした造りでできている古い民家などは、「寒い、暗い」といったことから、残念ながらどんどん打ち捨てられているのが現状です。伝統的な造り方をしていても、現代的にどう暖かく過ごし、省エネな状況をつくりだすことがこの建物のテーマですが、鍵はやはり土壁の蓄熱作用にあるようです。

この住まいの仕様は、竹小舞土壁の外側に約100ミリの断熱材を施しています。そうすることで、土がもつ蓄熱作用をより一層生かすことができます。断熱をしないと、土壁の蓄熱作用は却って逆に冷えた状態が持続し、(夏はそれを利用しているのですが)なかなかあたたかさを実感できません。

里山長屋の我が家では、土に蓄熱させている熱源は二つあります。一つは暖房装置で、これはペレットストーブを使用しています。夜間や朝早い時間の寒く感じるとき、このストーブをつけます。土がじわりと暖められていくので、急速に室温があがる、というわけではありませんが、いったんあたたまると、そのあたたかさが持続します。

もう一つの熱源は太陽です。いわゆるパッシブデザインによって、南側の開口部を大きくとっています。昼間たっぷりと日差しが室内にはいることで、その熱を土壁が吸収してくれるのです。また、太陽の光があたる床面の温度を計測すると35℃前後まであがっていることがわかります。太陽熱を活用する方法としては、屋根の板金面で集熱する仕掛けも採用しています。できるだけ昼間の太陽熱を冷える夜まで蓄えておくことで、ストーブをつける時間を少なくすることで省エネにつながっています。ペレットという循環型の木質資源を利用しているとはいえ、限りある資源を大切に使いたいものです。

夜、20℃まで暖め、ストーブを切って翌朝の起床時に、外気温がマイナス5℃くらいでも室温は15℃くらいに保たれています。これだと寝間着のままでも朝起きることができますね。

雪景色 一シーズンに何回かはしっかりと雪が降ります。朝方はマイナス5、6℃まで下がる気候。それでも断熱と土壁の蓄熱とで朝でも15℃ぐらいをキープ。

雪景色 一シーズンに何回かはしっかりと雪が降ります。朝方はマイナス5、6℃まで下がる気候。それでも断熱と土壁の蓄熱とで朝でも15℃ぐらいをキープ。

冬の室内の温熱環境を保つためには、もちろん蓄熱作用だけに頼っていては不十分です。平均的な住宅の熱ロスは主に窓面からが大きいのです。カーテンを引いて、窓面の断熱をすることもよいのですが、和の風情を大事にするなら、やはりしつらいとしては障子がよいのではないか、と思います。

窓のガラス面の冷輻射も防いでくれるので、断熱効果とあわせて、輻射環境も整えてくれます。カーテンに比べて手入れもしやすく、始末がよいのではないか、と思います。日本の住まいの開口部の仕掛けとしては複数の建具をたて込む工夫があります。すなわち、雨戸は雨を防ぐ仕掛けと同時に冬は熱損失を抑える効果もあります。
費用が許せばこうした複層的な開口部の仕組みにしたいと思います。里山長屋では残念ながら雨戸までは敷設できていませんが、補足的に、小さい窓には中に空気層が仕込まれた断熱ブラインドを採用しています。

昨今はいわゆる高断熱を指向することが多くなってきました。断熱をすることで熱損失を少なくする、というのはもとより異存はありませんが、断熱材をできるだけ厚くすればよいか、ということには少し立ち止まって検討する必要があります。
いわゆる北方系の気候風土では、寒さ対策が一義的に大事になりますので、まず断熱ありきということはよいと思いますが、温暖地以南では断熱のし過ぎで夏場の室内環境が却って冷えない、という状況も招きかねません。
冬場に何℃で暮らしたいか、ということを想定し、それに見合った断熱の状況をつくっていくことが必要でしょう。現在はそうした状況をシミュレートできるツールも充実してきましたので、その地域の気候風土にあった断熱というものを追求したいものです。

外部環境も大切です。夏場、冷気だまりという微気象を形成していた北側の桧林は、冬場は冷たい北風から建物が冷えるのを防いでくれます。また夏に建物に木陰を提供してくれていた南側の栗の木は、今度は葉を落とし、日差しを建物まで届けてくれます。建物の外部環境の自然、植生もうまくデザインしてあげることで、冬の厳しさを少し緩和してくれる効果を生むことができます。

いまの時期、里山長屋の菜園は多少葉ものがあるだけで寂しい感じです。雨水を貯めておくタンクもほとんど稼働していません。春をじっと待ちながら、籠って暮らす感じです。

冬は閉じ、夏は開く、という四季に応じた建物のしつらいを変化させながら対応していく、というのが、日本の住まいのあり方のように思います。

*

kinei_yamada山田 貴宏(やまだ たかひろ)
早稲田大学建築学科都市環境工学修了。清水建設、長谷川敬アトリエを経て、現在ビオフォルム環境デザイン室主宰。主に国産材と自然素材を中心とした、地産地消でかつ伝統的な木の家造りを中心とした建築/環境設計を行う。パーマカルチャーのデザイン手法・哲学を背景とした住環境づくりをめざす。建物とそれを取り巻く自然/コミュニティまで含めた幅広い環境と場づくりがテーマ。
著書:「畑ついているエコアパートをつくろう」(自然食通信社 共著)「里山長屋をたのしむ」(学芸出版社)

◇里山長屋からの便り バックナンバー
・里山長屋からの便りvol.1『夏編』
・里山長屋からの便りvol.2『冬編』
・里山長屋からの便りvol.3『住まいの温熱環境を科学的に理解する時代』
里山長屋からの便りvol.4『あたたかな住まいのなかから考えた』

近江八幡から冬の便りが届きました

アサイド


冬の小舟木ミネルギーハウス 冬季、午前中の日射取得はあまり得意ではありません。

冬の小舟木ミネルギーハウス 冬季、午前中の日射取得はあまり得意ではありません。

近江八幡に住む飯田さんから、小舟木エコ村の冬の住まいについての便りが届きました。

竣工から1年経った小舟木ミネルギーハウスの太陽光発電量や電気・ガス・水道の消費量、CO2収支などの実測値を具体的に提示しながら、当初の目標をどう達成したのか、また今後への課題についてまでを詳しくご紹介いただいています。

詳しくはこちらをご覧ください。

近江八幡からの便り vol.4


2013年夏号より湖国・滋賀からの便りを担当させて頂いております。近江八幡に立地する、民間の環境共生型コミュニティづくり事業「小舟木エコ村」にまつわるプロジェクト紹介を絡めながら、実践的な取組を紹介します。

冬の小舟木ミネルギーハウス 冬季、午前中の日射取得はあまり得意ではありません。

冬の小舟木ミネルギーハウス 冬季、午前中の日射取得はあまり得意ではありません。

●小舟木ミネルギーハウスのエネルギー実測値

今回は「小舟木ミネルギーハウス」が竣工後丸1年経過しましたので、CO2排出量やエネルギー消費量の実測値について紹介しようと思います。パッシブハウスやミネルギー基準に相当するの住宅の実測値公開はまだ数が少ないと思うので、参考になればと思います。
今回ご紹介する数値は、建物内に設置されているpanasonicのモニタリングシステムによる電気(総消費、発電、買電、売電)、ガス、水の2014年の年間計測データに基づいています。
(小舟木ミネルギーハウスの詳しい仕様については2014年冬号をご覧下さい。)

この冬、近江八幡では平年より早い初雪を観測し、降水量がかなり多い冬を迎えています。太陽光になかなか恵まれない日々が続いており、丁度この1月から2月にかけて最も気温が下がる時期を迎えます。

彦根地方気象台ホームページ
http://www.jma-net.go.jp/hikone/kikou/kikou.html

滋賀県の冬の気候は日本海型の北部と太平洋型の南部に大別されます。近江八幡はどちらかと言うと南部の特長が強く出ると思うのですが、至近の東近江(蒲生)のアメダスにもあるように最低気温が零下となる日が出現し、夏に紹介した「湖陸風」と呼ばれる琵琶湖への軸線に沿って吹く卓越風が北北西から吹きます。特に小舟木エコ村のように、周囲に山など風を遮るものが無い集落には強い風が吹き付けてきます。断熱や気密についての性能が快適さに大きく影響を与える地域であることは疑いありません。

この小舟木エコ村に立地する小舟木ミネルギーハウスの主な負荷別の熱源は
・給湯:太陽熱+プロパンガス
・空調:空気熱ヒートポンプ(電気)
・換気:第1種換気(顕熱交換型)
・調理:プロパンガス
となっています。

モニタリングシステムは分電盤とガスおよび水道メーターと連携し、家全体のエネルギーおよび水消費量、CO2排出量(削減量)を計測してくれています。

2014年の年間積算データを見てみると
・太陽光発電量5,401kWh(うち、売電分が3,890kWh)
・電気消費量3,880kWh
・ガス消費量93.6㎥
・水消費量183.2㎥という結果です。

太陽光発電量5,401kWh(うち、売電分が3,890kWh)

太陽光発電量5,401kWh(うち、売電分が3,890kWh)

電気消費量3,880kWh

電気消費量3,880kWh

ガス消費量93.6㎥

ガス消費量93.6㎥

水消費量183.2㎥

水消費量183.2㎥

単位量あたりCO2換算すると、排出1,916kg-CO2、削減2,322kg-CO2となります。

省CO2収支

CO2収支

 

●カーボンマイナスを達成。空調エネルギーは?

上記より、家全体としては運用段階として1年間単位でカーボンマイナスを実現していることがわかります。出力4.29kWの太陽光発電と4㎡の集熱パネルをもつ太陽熱温水器もしっかり働いてくれているように思います。

では、空調に消費したエネルギー量はどうでしょうか。モニタリングシステムの回路08(換気分)で293kWh、また回路19(暖冷房分)で1,161kWhでした。

回路08(換気分)で293kWh

回路08(換気分)で293kWh

回路19(暖冷房分)で1,161kWh

回路19(暖冷房分)で1,161kWh

以上から空調に消費した年間1,454kWhを全て購入電力で賄ったと仮定し1kWhあたり27円で計算すると、年間4万円弱で我慢することなく全館空調ができたことになります。(中間期は換気のみの運転です。)

昨年は、暖冷房用ヒートポンプの室外機の設置場所に問題があったため、冬季に本来の性能を発揮できなかったことを差し引いても、目標とする省エネ基準に即して設計/施工された建物は、期待どおりの結果が出ることが実証できたように思います。

●ドイツの研究者からの最初のアドバイス

このような結果もふまえ、私自身も世界水準の断熱気密住宅の建設することを心からおすすめします。そんな私が家づくりに臨むにあたって、協力してくれたドイツの研究者の最初のアドバイスは、「ミネルギーやパッシブハウスにチャレンジすることは価値あることだが、それが目的にならないように。あくまで目標達成の手段であることを忘れてはならない。」というものでした。これは当時の私にとって、非常に示唆に富んだものでした。

そして、家を建てる目的を改めて考えてみると、多くの方が「健康」な暮らしのため、という結論に至ると思います。住宅業界ではヒートショックをはじめ、カビやダニなどのアレルギー対策等、健康と断熱気密性能の関係性についての研究成果や話題が一般化してきました。「健康」のためにお金をかけることは納得しやすい反面、実際にかけられる予算は限られています。また事例も少なく、どの程度予算をかければ良いのかを判断することが難しいと感じられているお施主さんは多いのではないでしょうか。

●施主の立場からみた現時点の課題と注意すべきこと

そこで、施主の立場から現時点で課題と感じている事や、注意すべきことについて少し記してみます。

ひとつは冬季の乾燥です。小舟木ミネルギーハウスでは、壁に土壁、断熱材に木質繊維、気密シートに透湿防水シートと、外壁から室内まで透湿抵抗の低い素材のみで壁や屋根を構成しているのですが、室内の相対湿度は40〜45%で推移し、不足気味となりました。顕熱型の熱交換換気システムの採用が主な原因と考えていますが、調湿性能に優れた壁とはいえ、熱と同様、躯体そのものが水分を発生するわけではないことは注意すべき点です。そこで、この冬は気化式の加湿器を運転してみたところ室温21〜22℃、湿度50%付近で安定し、より低い暖房温度設定でも快適に感じるようになりました。将来的には換気システムのエレメントを全熱型に交換し、顕熱型との快適さやエネルギー消費量の比較をしたいと考えています。

ふたつめは施主のセンサー、つまり快適さの「物差し」をどうつくるか、ということです。これはより本質的な課題です。特に高水準の断熱気密住宅の設計にあたっては、家族や、施主と設計士あるいは工務店の間には、この物差しがない、もしくはあってもバラバラであるという前提にたって臨むことが重要です。

「物差し」をつくるには「快適さ」を「体験」すること。遠回りのようですが、これが一番早いと思います。私たち家族も国内外の様々な高性能住宅を主に冬場に訪問しました。有名な建築家や設計士の説明や、研究者の論文以上の説得力をもつのは、最終的に自分自身の感覚です。住宅設計の接客をしていると、性能については男性に関心の高い方が多いように見受けられますが、実際の性能に敏感なのは女性や高齢者のほうが多く、家族で訪れることも有効です。

そして現場にたって、「(表面温度+室温)÷2=20℃で本当に快適か?」など温度や湿度、建物の性能を自分自身が数値で掴むことが大切だと思います。「高断熱高気密の住宅はヒートショックを防ぎ、風邪をひきにくくなる。」といった説明はわかりやすいのですが、実際に快適かどうかは個人や年齢によっても異なりますし、机上の計算だけでは測りきれない部分があります。

その際、暖冷房を生活スタイルとセットで考えると良いと思います。例えばエアコンと温冷水ラジエーターとを比較すると、どちらも空気熱ヒートポンプを活用しており省エネ効果が期待できますが、空気をかき混ぜるのはエアコンが有利、静けさや気流感の少なさやカビの抑制ではラジエーターが有利となります。このように設備の選び方によっても快適さの質に違いが出てきます。

コストパフォーマンスに優れ計算に便利なエアコンが優秀なことに異論はありませんが、一歩立ち止まって、床暖房をはじめとした輻射暖房や薪ストーブなどのあたたかみ、換気における音や臭いの対策、日射取得に有利な広い敷地、蓄熱材料、縁側など、設備や素材、空間を使いこなす工夫、あるいは朝日を浴びて起きるなど生活の姿として、自分なりの「快適さ」の物差しを持つということが重要です。

このように「物差し」を身につける事で、断熱や気密の数値の仕様を理解するとともに、敷地や設備、全体的な家の姿を明確にすることができます。

●「物差し」の近い人と家を建てる

そうして自分と似たような「物差し」を持っているところで家をたてれば、家づくりで失敗するリスクは極めて低くなります。インターネットで検索すると、省エネ建築について大御所と呼ばれる先生から、ハウスメーカーや工務店に至るまで実に多くの建築家や設計士の方にアクセスできますが、地域からの便りでも紹介されているように、地域ごとに求められる性能や建築方法は異なります。設計士や工務店側が数値的な物差しを示せない場合は論外ですが、その地域で断熱や気密について実績を積んでいる設計士や工務店は、満足できる物差しを持っている可能性が高いのではないでしょうか。

また、地域に根ざした材料やデザイン、そして住宅が備えるべき「安心」して暮らすための知恵や工夫の蓄積については、やはりその土地に訊ねる、倣うと言う事が大切に思います。

●最後に

日本の土蔵をヒントとしたミネルギーハウスの取り組みは、上記のプロセスを試行錯誤しながら実現に至ったものです。

優れた設計士、施工会社の協力の賜物であることは言うまでもありませんが、建築家でも設計士でもないただの施主として、これから同じように施主となろうとしている方に取って「物差し」づくりの場として、少しでも役に立つ事ができればと願っております。

(小舟木未エネルギーハウスは2015年2月現在、ミネルギー・Pエコの認定手続を再開中です。)

*

飯田氏近影飯田 航(いいだ わたる)
株式会社プラネットリビング勤務
1978年長野県諏訪市生まれ。東京農工大学農学部卒。卒業後「小舟木エコ村」の事業化に携わり、事業会社である株式会社地球の芽取締役を務めた後、現職。
2013年にエコ村にミネルギー基準の住宅を完成、居住中。

岐阜県美濃地域から冬の便りが届きました

アサイド


撮影場所:木造建築スタジオ内

撮影場所:木造建築スタジオ内

岐阜県中津川市加子母(かしも)の中島さんから、美濃地域からの便り「冬場の身の廻りの温度変化」が届きました。

中島さんが「人」がどのような温度変化のなかで生活をしているかを知るために行った身の廻りの温湿度測定。
夏編に引き続き、温度変化の大きな冬場も測定を行ったそうです。

詳しい結果は中島さんのお便りをご覧ください。
美濃地域からの便りVol.2~冬場の身の廻りの温度変化~

美濃地域からの便り vol.2~冬場の身の廻りの温度変化~


東京にて家造りに携わっている私は、年末年始は故郷の岐阜県中津川市加子母(かしも)へ帰省しました。例年の1月に比べ冷え込みが厳しく、元旦の朝方6~7時頃は外気温-14℃。その時に父親の寝室は-4℃まで下がりました。そんな温度環境の中で寝起きをしている父親が本当に心配ですが、本人は何を言っても聞く耳を持たず。私の温熱環境に配慮した家造りのゴールは、身内に温熱環境の大切さを理解して貰う事かもしれません・・・。

さて前回ブログで報告した、夏に行った身の廻りの温湿度測定。「人」がどのような温度変化のなかで生活をしているかを知る為にはじめたこの測定も、温度変化のデータ分析を通してはじめての気付きも多く、沢山の学びのあるものになりました。

そうした経験から、温度変化の大きな冬場にも測定を行いました。この時期は上下温度差が大きくなると考え、今回は頭・腰・足の3ヵ所にデータロガーを取付け、24時間肌身離さず測定を行いました。

撮影場所:木造建築スタジオ内

撮影場所:木造建築スタジオ内

データロガーは、夏同様に人体(測定者)の温湿度が影響しないよう、データロガーボックスを制作。周囲を薄ベニア材で囲み背面はスタイロ系断熱材を使用。何をしていた時の温度変化かを把握する為、測定と並行して自分の行動と時刻やその時の体感を記しました。

※頭部のデータロガーのみ、入浴時には浴室内温度、就寝時には寝室の室温を測定。

※頭部のデータロガーのみ、入浴時には浴室内温度、就寝時には寝室の室温を測定。

1月10日・午後10時の測定開始から翌日同時刻までの結果で、生活(測定)範囲になったのは大きく分けて3ヵ所。木造建築スタジオ(学校)・通学(徒歩)・美濃の家(築55年木造の2世帯借家)でした。

断熱性能が低く室温が低い美濃の家。この季節は帰宅後すぐに炬燵で暖を取る事が多く、炬燵使用時には足部と腰部の温度が上昇しているのが分かります。頭部の温度(8℃)が室温と考える事が出来ます。

ここ数年、新聞・ニュースや雑誌などでも見かける機会が増えた入浴時のヒートショック。このグラフにデータとしては出ていませんが、脱衣室(4~5℃)から浴槽のお湯に出入りする入浴前後は、着衣を脱いで40℃近い温度変化に身を置く事から脱衣室・浴室を温かく保つことの重要性が伺えます。

また就寝時の布団内は32℃前後を推移しており、起床と共に室温まで一気に温度が下がっており、美濃の家を出る所で最大温度差(約30℃)になっています。布団から出た時の急激な温度変化から、夜中・朝方にトイレに行きたくなり、室温の下がった廊下を通ってトイレを使う際にも、入浴時と同じく危険が伴うという事が分かります。

またPC作業などをしていても足元の冷えを感じる木造建築スタジオ内では、机に座った状態でも頭部・足部の上下間で6~7℃の温度差があり、常に足元に冷えを感じています。温度変化が急激なのは、建物内の部屋から部屋への移動や、違う建物にあるトイレ(ほぼ屋外と同じ温度)へ移動する時にも、短時間で大きな温度変化を記録していました。

夏に比べて、より大きな温度変化の中に身を置いている冬の生活。測定前から何となくイメージする事が出来ていた部分もありましたが、自身で測定を行い、数値をグラフ化する事で、細かな温度変化の波や、グラフには表れない事も含め、驚きの結果になりました。
寒い日には脱衣・浴室・廊下・トイレが0℃付近になる美濃の家での生活。この測定を通してヒートショックという存在が身近なものになったように思います。

ヒートショックを身近に感じるようになり、その予防を考える中で、入浴時の温度変化を少なくするために手軽にできる方法として紹介される事が多い、シャワー貯湯によって浴室を暖める効果についても測定してみました。浴室は建物南西の一畳タイプの在来浴室。

浴室(青い丸の位置)は建物南西の一畳タイプの在来浴室。

浴室(青い丸の位置)は建物南西の一畳タイプの在来浴室。

温度条件がなるべく近くなる日に、蛇口貯湯・シャワー貯湯を2日に分けて行い、浴室内の温度変化と、貯湯後の浴槽の湯温を測定。

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どちらも室温5℃前後から貯湯を開始して、17分後にお湯はり完了。浴室温度差(10℃)に対して、お湯の温度差(0.7℃)はほぼ近い温度だった事が分かります。浴室が1畳と狭く気積が小さい為、暖まり易かった事がありますが、ここまで効果が大きいのは予想外でした。湯温の差が少なかった事もあり、驚き・喜びと共に身体的負担の軽減に効果がある事が分かりました。

夏・冬の測定を通して、一般的に言われている温度変化に、身を持って体験する事で、より一層理解を深める事が出来ました。これらの測定データや、笑ってしまうような失敗談も含めて、住まい手さんへ温熱環境を楽しく(分かり易く)伝えながら、今後も快適性に配慮した家造り組んで行きたいと思います。

nakajima中島 創造(なかしま そうぞう)

(株)中島工務店 東京支店勤務。
1980年岐阜県中津川市加子母(かしも)生まれ。現場監督として木造建築に携わり、温熱環境に配慮した家造りに出会い、岐阜県立森林文化アカデミー 木造建築スタジオに入学。在学中は身の廻りや古民家の温度変化など、さまざま実測を行う。2012年同校卒業後、現職。岐阜県加子母(かしも)地域発信の家づくりに携わると共に同地域を巡るツアー等を通して、国内における森林の現状や地域木材について知って貰う活動も行う。

[美濃地域からの便り バックナンバー]
美濃地域からの便りVol.1 ~夏場の身の廻りの温度変化~

 

沖縄から冬の便りが届きました

アサイド


屋根の上の給水タンク

屋根の上の給水タンク

2015年冬編の連載第4弾として、
那覇市在住の松田さんから「沖縄からの便り」が届きました。

今回の話題は「低炭素建築物の認定」について。
沖縄県は住宅も一戸建て住宅より共同住宅の割合が他府県に比べ大きく、
全国より少し早めに省エネ法対象建築物認定が始まりそうです。

沖縄からの便り Vol.4 については、こちらからどうぞ。

沖縄からの便り vol.4


ここ二、三日ぽかぽかしていて、日中は20℃を超える暖かい日が続いていました。桜もポツリポツリ咲きはじめ、タンポポやすみれもあちらこちらに顔を出しています。

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さて、皆さんは低炭素建築物の認定を始めていますか?

改正省エネ法のロードマップによると2020年までにすべての建築物が、省エネ基準に関わってきます。沖縄県は、住宅も一戸建て住宅より共同住宅の割合が他府県に比べ大きく、全国より少し早めに省エネ法対象建築物認定が始まりそうです。

 

「都市の低炭素化の促進に関する法律(エコまち法)」に基づく低炭素建築物の認定制度については、平成24年12月より開始しています。住宅性能評価・表示協会のホームページによると全国で、平成24年度には154件公布、平成25年度には2112件、平成26年度(あと二か月残っていますが)は現在1892件公布されているようです。

残念なことに、沖縄県からは平成24年度0件、平成25年度1件、平成26年度2件しか公布できていません。

原因はなんでしょうか。低炭素建築物の認定に対する設計者の認識がまだ薄いということもあります。沖縄では家を建てるときハウスメーカーや工務店よりも、個人の設計事務所に依頼するのが一般的です。その場合は、その設計者の意識次第ということになります。

さて、実際に認定するに向けて何がネックになっているか検討してみました。

認定基準としては、定量的評価項目と選択的項目に分けられていますが、実際モデル住宅を計算してみて、一番クリアが難しかったのは、定量的評価項目の「外皮の熱性能」に関することでした。

(※国土交通省「低炭素建築物認定制度パンフレット」より)

※国土交通省「低炭素建築物認定制度パンフレット」より

沖縄県は、RC造の住宅が約9割を占めています。建具のサッシュなどはコンクリート打設後、型枠を外した後、個々に計測し全て特注することが通常です。ガラスも全て特注サイズですので、単価が安く加工のしやすい単板ガラスがメインです。

(※国土交通省「低炭素建築物認定制度パンフレット」より)

※国土交通省「低炭素建築物認定制度パンフレット」より

また日射遮蔽に関する措置に関して、沖縄では(沖縄からの便りvol.3でも紹介しました)花ブロックを利用することも多いのですが、これを算入しようとすると、材料選択時に材料種別の熱伝導率の項目がないので困難です。

構造に関しても定義しにくい半外部空間が多く、また混構造も少なくなく、複雑化していて計算しにくいということも言えます。またリビングと寝室等が一体空間化しているワンルームのような空間も多く、居室面積の計算では不利になる傾向があります。

半外部空間の住宅

半外部空間の住宅

※国土交通省「低炭素建築物認定制度パンフレット」より

※国土交通省「低炭素建築物認定制度パンフレット」より

選択的項目に関しては、①は、節水型トイレを採用すればコストもそんなに高くなく選択できます。

問題はこれ以外に何を選択すればいいのかです。

②の雨水・井戸水・雑排水の利用のための設備も、コストや設置に制限があります。

エネルギーマネジメントにおいても、③HEMSや④太陽光発電は導入設備が高価で、たとえ太陽光パネルを設置していても蓄電池がなければ選択できません。ちなみに今後沖縄電力は太陽光の買電をしなくなるので太陽光を導入するとなると蓄電池の設置も必要となるので、更に導入設備かかる費用は高価になります。敷地が広く庭等の面積が多ければ、⑤ヒートアイランド対策は簡易に導入できそうです。

躯体の低炭素化に関しては、⑥の品確法の住宅性能評価書を交付していれば選択も容易に可能、また⑦木造に関しては、木造にすればそれだけで選択項目になるので良いのですが、土地によっては適さなかったり、猛烈な台風時のことを考慮すると住むのをためらったりする方もまだまだ多いです。

そうなると⑧のフライアッシュセメント等も材料として、少し高価にはなりますが、今後期待できそうです。

節水の話も出てきたので、沖縄の水事情について少しお話ししたいと思います。

沖縄県は多くの離島を抱え、古くから水不足に悩まされてきました。平成6年以来給水制限は行なわれていませんが、昭和56年から昭和57年にかけての大渇水ではなんと326日間も給水制限が続きました。

沖縄がサンゴ礁の台地でできた地域であることは、ほとんどの人がご存知かと思いますが、このサンゴ礁の台地は保水力が非常に低いのです。また雨が梅雨や台風時に集中して降ること、河川が短く急で、雨の約70%が海や地下に流れてしまうことも、水不足の原因になっています。

それに加えて沖縄の人口密度の高さです。那覇市、浦添市、宜野湾市に至っては東京並の人口密度であり、水不足に拍車をかけているのです。人口や観光客は増え、社会様式も変化し、水を多く使う社会になっています。

街の中の家にはそれほど多く見かけませんが、少し郊外に行くと、殆どといってもいいほど、屋根にタンクがのっています。

屋根の上の給水タンク

屋根の上の給水タンク

近年は、ダム開発が進み、かつてと比べると水不足で悩まされることも少なくなりましたが、根本的に水不足になりやすい環境であることには変わりありません。空梅雨などのときには未だに給水タンクが活躍しています。

話を戻しますが、そう考えると低炭素認定基準の選択項目②の雨水・井戸水または雑排水の為の設備の設置も将来的にも期待できるかもしれません。

沖縄での省エネ住宅の普及に向けて課題はまだまだ多いですが、ひとつひとつ解決して、エネルギーをなるべく使わなくても暮らしていける住まいを増やしていけたらいいなと思っています。

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「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年より特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事に就任。現在特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事長。

◇沖縄からの便り 他の記事を読む
・vol.1 2013年夏編
・vol.2 2014年冬編
・vol.3 2014年夏編
・vol.4 2015年冬編
・vol.5 2015年夏編
・vol.6 2016年冬編
・vol.7 2016年夏編
・vol.8 2017年冬編
・vol.9 2017年秋編

富山から冬の便りが届きました


雪景色 高岡市郊外

雪景色 高岡市郊外

富山県富山市の川崎さんから、冬の便りが届きました。

富山県は本州の中ほど、日本海に突き出た能登半島に囲まれた富山湾に面しています。

気候は冬季には積雪のある日本海型気候で、全域が豪雪地帯に指定されています。
(山間地では一部特別豪雪地帯となっている。)

そんな雪の多い富山の気候風土に合わせた住まいやまちづくりの工夫についてご紹介いただいております。

詳しくはこちらからどうぞ。

「富山からの便り Vol.2」

富山からの便り vol.2


雪景色 高岡市郊外

雪景色 高岡市郊外

平成27年の新春を迎えました。当地富山の今冬は12月上旬から周期的に冬型の気圧配置となり雪が降っています。
元旦も雪の中でしたが、富山市内では40センチメートルほど、山間地ではもっと積もっていることと思われます。

冬には天気予報のたびに「西高東低」の等圧線を目にします。大陸に高気圧があり、千島列島あたりに低気圧があります。日本海を越えて北西の風が吹き付けるわけです。
先日、氷見海岸から富山湾を眺める機会がありました。雪模様の中、海面からゆげが湧きたっています。「ケアラシ」と呼びますが、感動の風景でした。大陸の乾燥した冷気が日本海を渡る間にこうして雪雲が発達するのかと実感したものです。

ケアラシ 氷見海岸

ケアラシ 氷見海岸

当地では例年、1月下旬が一番の積雪を記録するので、この原稿が皆様の目に触れるころにはもっと多いかもしれません。
雪が降ると朝起きてまっ先にやらなければならないのは雪かきです。玄関周りや車の出入り口などは最低頑張らなくてはなりません。近くに小川などがあればそこに落としますが、捨てる場所がないと邪魔にならない所に山積みにするなど本当に大変です。

道路除雪 玄関入り口に堆積した雪

道路除雪 玄関入り口に堆積した雪

道路は主要な道は県や市で除雪車を出し車は通れますが、脇によけられた雪の山は近くの者で始末しなければなりません。歩道が問題で誰かが歩くと踏み跡ができ、ここを辿ることになります。
子供たちが通学の時間までにこの踏み跡が大きくなっていれば良いのですが、もっと積もると、やむを得ず車の通る道路の脇を通るしかなくなります。とても危険なので心配になります。

雪の日の車道と歩道 歩道には融雪設備がある

雪の日の車道と歩道 歩道には融雪設備がある

そんなことから、当地では道路上の融雪装置が普及しています。市街地の主要道路の混雑が想定される場所などに設置されています。井戸を掘り、地下水を汲み上げ、道路に散水するのです。これで降った雪を溶かします。横断歩道など周辺はびしょびしょになりますが交通の安全には相当効果があります。
生活道路、地域の細街路にも融雪設備が普及しています。富山市では設置に際し二分の一の助成制度があります。この制度を活用して地域で融雪組合を組織し、消雪装置を整備しているのです。設備工事費や管理費、電気料等で各戸の負担はありますが、このおかげで、相当に助かっています。
歩道にも設置できるので、歩く人にも大助かりです。設置されている地域とそうでない場所では天国と地獄かと思われるほどです。
ただ問題もあり、地下水を大量に汲み上げるのでこれが大変心配なことでもあります。

道路上の消雪状況

道路上の消雪状況

雪国の暮らしでは、1メートルを超える程の積雪になると、屋根雪おろしを心配しなければなりません。山間地では一冬数回も雪おろしをする必要に迫られます。幸い近年平野部の積雪はそんなに積もらなくなっていることと併せ、2メートルの雪にも耐えられる構造の「載雪型住宅」が普及していることから、とても助かっています。

一方、屋内の暮らしで一番困るのは洗濯物です。近年浴室に乾燥設備を備える例も聞きますが、そんなに普及しているとも思われません。居間のストーブの前で乾かすなど大変苦労するところです。
少し飛びますが70年代、公営住宅は「標準設計」と呼ばれる仕様で建設されていました。最低居住水準をクリアーするもので当時の公団などが開発した基準で一律にきめられていたものです。
狭いのでやむを得ず洗濯機をバルコニーに置くなどしていました。冬は寒いし、物干しも風雪に晒されるし、各自が樹脂製の波板などでバルコニーを囲っていました。それぞれが勝手に行なうのでそれは見るに耐えない外観となっていたものです。

昭和50年ごろだったか、これを何とかしたいということで、富山県型「標準設計」を作るにあたり、地元メーカーであるYKK(現YKK・AP)の技術陣の協力を得てバルコニーの一部に「サンルーム」を新たに設置しました。雪害防除の「特例加算」ということで国の支援の対象にもしていただきました。当時、全国で始めての試みだったと記憶しています。

県営住宅で初めて試作したサンルーム 古寺団地

県営住宅で初めて試作したサンルーム 古寺団地

それから30年余りが経過し、今では民間マンションをはじめ当地では集合住宅にはサンルームが当たり前となったほどです。地域の気候に合った集合住宅のスタイルが広く普及してきたことは本当に心嬉しいことです。

近年の公営住宅 上市町稗田町営住宅

近年の公営住宅 上市町稗田町営住宅

仕事柄市町村役場を訪ねることがあります。先日県東部の町役場に行く機会がありました。玄関を入るとふわっと温かく感じます。見ると人だまりのロビー空間にペレットストーブが備えてあります。近年の間伐材の活用促進などから行政が盛んに進めているものです。地球温暖化対策など環境面からの効果も大いに期待されています。

役場ロビーのぺレットストーブ 立山町役場

役場ロビーのぺレットストーブ 立山町役場

私事になりますが拙宅でも薪ストーブを使っています。30年ほど前からの実践です。知り合いなどを通じ山で木を貰いうけることから始まります。チェーンソーで輪切りにします。場所にもよりますが、斧で割るところまで山でやった方がとても気持ちが良いのです。自宅まで運び込み、これを野積みにし乾燥させなければなりません。2~3年経ったものが燃料となります。よく乾いてない薪をストーブにくべても水気が出るばかりで、そんなに熱く燃えないのです。そんなことで、順繰りに備蓄しながら薪を使用していくわけです。

ストーブは11月下旬ごろから3月までがシーズンです。当初は鋳物製の暖炉を使いましたが、炎はもちろん薪のはぜる音や煙の匂いがなんとも心地良いものです。ただ、欠点があって薪の消費量が半端ではありません。どんどん薪をくべないと温かくならず、とても燃費が悪いのです。

薪ストーブ 自宅居間

薪ストーブ 自宅居間

今使っている二代目はアメリカ製で、いわゆる薪ストーブと呼ばれるものです。欧米ではストーブにも排気ガス規制があるとのことで、技術開発が進み、密閉した炉の中で空気量を調整し、二次燃焼室もあります。燃費も良好です。
ガラス越しになり、薪の音も聞こえませんが、輻射熱の温かさはなんとも気持ちが良いものです。結露はないし、干し物はたちまち乾いてくれます。炎を眺めていると誠に心持がよく、自前で調達した薪であるからなおさらなのです。

*

川﨑政善(かわさき まさよし)

1947年富山県生まれ。1970年芝浦工業大学建築学科卒業。日本住宅公団を経て1974年富山県庁へ。以来一貫して建築住宅行政に従事。2006年富山県住宅供給公社常務理事を経て、現在富山県建築設計監理協同組合相談役。

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富山からの便り Vol.1

京都からの便り vol.2『南禅寺の家 冬の便り』


2015年元日から、京都市内は大雪に見舞われました。気象庁の過去の気象データを確認すると3日に22cmの積雪。61年ぶりの大雪だそうです。2日の昼頃、墓参りを兼ねて帰省したのですが、道路の雪も融けかけており思ったほどではなかったので、3日の記録的大雪は、深夜だったのかもしれません。

夏に生まれたカマキリが卵を産んだ模様。

夏に生まれたカマキリが卵を産んだ模様。

さて、昨年のクリスマス前に竣工4年目を迎えた南禅寺の家に訪問しました。
今年の紅葉は、雨の影響か色付きが良かったそうで、永観堂や哲学の道も観光客で賑わっていたようです。

南禅寺の家。紅葉前11月の様子。

南禅寺の家。紅葉前11月の様子。

この日の平均気温は約6度。寒さが増したことで、池のメダカもじっと動かず冬支度に突入です。4度目の冬は、羊毛と土壁の調湿・蓄熱効果もあってか、結露もほとんどなく、暖房も良く効き快適に過ごされています。完成した年の冬は、家が冷えきり部屋を暖めるのに苦労されたようですが、数年経つと室温も安定し、今はとても居心地が良いとのこと。ただ、家を出るのが億劫になってしまうので気をつけないといけないようです。(笑)

まずは、土壁の施工時期について、少し話をしておければと思います。南禅寺の家は、5月頃に土を塗ったので外気温の影響はなかったのですが、冬に土を塗る場合、土の水分が凍るなど何か問題があるのか左官職人さんに聞いてみました。まず、そもそもの話で「今は、温暖化しているので、冬に塗っても凍りにくいのでは?」との回答。早速、気象庁の過去の気象データから、京都市の最高最低気温の変遷をグラフ化してみました。最高最低気温ともに上昇傾向にありますが、特に最低気温は約-10度から約-3度へと上がっておりグラフを見ても上昇率が高いのがわかります。職人さんの言うとおり、水も凍りにくい時代になっているようです。

別の職人さんに土壁が凍ったことがあるか聞くと、「忘れもせん。30年前の1月に土壁が凍って、えらい目にあったわ!」とのこと。詳しく話を聞くと、内外真壁造で外部の土を塗った際、土壁の表面が寒さで凍り、暖かくなった次の日に水分が溶けて流れだし、土壁周囲を汚したそうです。なかなかリアルな話です。もう一人、別の職人さんに聞くと、「水分が凍っても土は剥がれたりはせん。仕上がりが鳥の足みたいな模様になる。」とのこと。
まとめると、仕上がりにどう影響をするのかが職人さんには重要で仕上がりを綺麗にしたいなら、冬に塗る際は温度に注意し塗るのが良いようです。

京都市の最高最低気温変遷

京都市の最高最低気温変遷

南禅寺の家は、土壁の背面に羊毛を充填することで、暖かく涼しい・結露で困らない家づくりを目指しました。(土壁の詳細は、『南禅寺の家 夏の便り』をご覧ください。)

筆者は、子供の頃、土壁でできた京町家に住んでおり、「家の寒さ=隙間風」というイメージが先行していました。同世代の友人に聞いても、
「俺ん家、土壁やしめっちゃ寒い。隙間から外見えるしな。」
とのこと。土壁の悪いイメージを払拭し、伝統的な土壁を後世に伝えるためには、イノベーションしかない!と思い、土壁と羊毛とのハイブリッドを実践しました。もちろんただ単に、壁に羊毛を入れれば良いというわけでもなく、家全体の断熱バランスを考慮し、家の性能をQ値=2.7W/㎡K程度として家づくりを進めました。

竣工後、土壁に羊毛を加えた効果がどの程度か知るために、温湿度計を6機設置させて頂き、約2年間の計測をしました。測定結果を見ると、冬の一番寒い日で、主たる居室の自然室温(朝7時頃の外気と室温の差)は約12度、非居室は約9度と、それなりの室温です。客間である和室は、使用頻度が少ない上、日射も入りにくいことから、約4度と低い。サーモカメラでLDKと和室の土壁を撮影してみると土壁の断熱・蓄熱効果もあり、壁の表面温度の違いがはっきりわかります。

LDKの土壁・2013年1月撮影。

LDKの土壁・2013年1月撮影。

和室の土壁・2013年1月撮影。

和室の土壁・2013年1月撮影。

一方、1年間の光熱費・使用量は、室温の割に暖房機器の使用頻度もそれほど多くなく、とても省エネルギーな暮らしをされています。住まい手に冬の暮らし方を伺ったところ、起床後、エコアンでLDKを暖め、室温が上昇すれば電源をOFFにし、温水床暖房に切り替え。その後は、床暖房をON・OFFしつつ、夕方以降は、起床時と同様にエアコンと床暖房をうまく使い分け生活をされています。住宅・住戸の外皮性能の計算プログラムで一次エネルギー消費量を見える化すると、基準値728 MJ/㎡年、設計値642 MJ/㎡年となり、実測値552MJ/㎡年と比較すると、基準値比較約24%減、設計値比較14%減となりました。暖房は、それぞれ約2割を占めており、約100~120 MJ/㎡年程度です。

南禅寺の家1年間の一次エネルギー使用量実測値

南禅寺の家1年間の一次エネルギー使用量実測値

結果的に、断熱性を向上するのは大切ですが、エネルギー消費量から見ても住まい手にあった適切な性能設計が必要のようです。省エネルギーな暮らしをされる方であれば、「断熱性はこのぐらいの性能で」快適性を求める方には、「このぐらいで」といった感じです。住まい手がどのタイプなのか探る方法は、設計段階のヒアリングに加え、日々の光熱費・使用量が重要であると言えるでしょう。

南禅寺の家 設計時の一次エネルギー消費量

南禅寺の家 設計時の一次エネルギー消費量

エネルギーと伝統的な土壁、どちらもあと5年で大きな岐路を迎えそうです。100年後、後世の建築史家に汚点を残したと言われないよう活動していきたいと思います。

*

toyoda_1豊田保之/トヨダヤスシ建築設計事務所代表

1974年京都生まれ。瀬戸本淳建築研究室、Ms建築設計事務所を経て、2005年トヨダヤスシ建築設計事務所開設。岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師。京都造形芸術大学非常勤講師。一般社団法人住宅医協会理事。代々続く左官職人の家に生まれた経歴から、土壁や漆喰など左官職を生かした家づくりを行っている。
「南禅寺の家」では、(財)建築環境・省エネルギー機構主催「第5回サスティナブル住宅賞」において「国土交通大臣賞〔新築部門〕」の他、第9回木の建築賞 木の住宅賞、第7回地域住宅計画賞 地域住宅計画奨励賞も受賞している。

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南禅寺の家Vol.1 夏の便り

 

北海道から冬の便りが届きました


冬支度も着々と (2014.12)

冬支度も着々と (2014.12)

北海道の櫻井さんから、冬の便りが届きました。
今回の話題は、余市エコカレッジのプロジェクトです。

櫻井さんはこの余市のプロジェクトに2012年から足掛け3年、『里山長屋からの便り』のビオフォルムの山田さんと小樽の風のふ設計室の今井さんと共に設計チームとして関わってきたそうです。

このプロジェクトの発足からエコカレッジの完成までを詳しくご紹介していただいています。櫻井さんからのお便りはこちらからどうぞ。

北海道からの便り vol.4

 

2015年冬編の連載を開始します

アサイド


[ご挨拶]

平素より一般社団法人 環境共生住宅推進協議会のホームページをご利用いただき、ありがとうございます。

『地域からの便り』は2007年から、日本・世界の各地域にお住まいの方から、環境と共生する暮らしの風景をお寄せいただいて参りました。8年目となる2015年は日本国内における環境と共生する住まい作りについての情報を昨年に引き続き発信して参ります。

地域は夏編(7月〜9月)と同様、沖縄県那覇市、滋賀県近江八幡市、京都府京都市、秋田県能代市、北海道下川町等の計8箇所から、2015年1月〜3月期間を限定して冬編の便りをお届けします。

この連載を通じて、環境と共生する住まいづくりを考えていらっしゃる皆さまや、すでに取り組まれている皆さまの情報交流にもつながって行くことを願っております。

2015年冬編の第1弾は北海道からの便りです。
詳しくはこちらをどうぞ。

2015年1月15日
一般社団法人 環境共生住宅推進協議会

2015年冬編


[ご挨拶]

平素より一般社団法人 環境共生住宅推進協議会のホームページをご利用いただき、ありがとうございます。

『地域からの便り』は2007年から、日本・世界の各地域にお住まいの方から、環境と共生する暮らしの風景をお寄せいただいて参りました。8年目となる2015年は日本国内における環境と共生する住まい作りについての情報を昨年に引き続き発信して参ります。

地域は夏編(7月〜9月)と同様、沖縄県那覇市、滋賀県近江八幡市、京都府京都市、秋田県能代市、北海道下川町等の計8箇所から、2015年1月〜3月期間を限定して冬編の便りをお届けします。

この連載を通じて、環境と共生する住まいづくりを考えていらっしゃる皆さまや、すでに取り組まれている皆さまの情報交流にもつながって行くことを願っております。

2015年1月
一般社団法人 環境共生住宅推進協議会

カテゴリー: 未分類

北海道からの便り vol.4


夏に引き続き最北の北海道からお届けします。

今年も寒い冬がやってきました。
前回お知らせしていた余市エコカレッジのご報告をさせていただこうと思います。このプロジエクトは2012年から足掛け3年。里山長屋からの便り~夏編を執筆されていたビオフォルムの山田さん、小樽の風のふ設計室の今井さん(http://www.kazenohu.com/index.html
と3人で設計チームとして関わらせて頂きました。

余市エコカレッジを丘の上から見渡す(2012.5)

余市エコカレッジを丘の上から見渡す(2012.5)

フィールドワークを通してこの場の魅力探しをしながら、まちの縁側育くみ隊代表理事でありまち育ての語り部である延藤安弘先生にもアドバイスを頂きながらデザインミーティングを重ねつつ方向性を探って行きました。

計画が進むに連れて夢も膨らみますし、それについて語り合うのも楽しい時間なのですが、同時に進める資金計画や事業計画とバランスを、とても苦しみながららすりあわせて行き、ようやく現実的なところが見えてきました。マスタープランを一度に叶えようとすると3億円かかるという驚きの試算に絶句しつつも、まずは何が最優先なのか、そこでどんな活動がしたいか、できるのか、計画にはどのくらい資金が必要で、費用対効果や、収益と回収期間がどれくらいか。検討を重ねるミーティングが続きました。

パーマカルチャーの考え方をお手本にしながらマスタープラン作り(2012.7)

パーマカルチャーの考え方をお手本にしながらマスタープラン作り(2012.7)

山田さんにパーマカルチャーの考え方をレクチャーしていただきながらこの土地の魅力を活かしたマスタープランをつくりました。

そんな中、私たちはまず進めるべき活動として、「持続可能な地域」を実現するための学び合いと、それを仕事や仕組みとして体現する実践の場を作るところからはじめようと決めました。ここでようやく「エコカレッジ」づくりに目標を絞り込み、敷地内にあるコモンハウス(写真1の赤い屋根の農家住宅)を改修することから計画を進めることにしました。

コモンハウスの改修計画のひとつ(2013.1)

コモンハウスの改修計画のひとつ(2013.1)

コモンハウスのサーベイから改修案を持ち寄り、環境配慮の項目も含めて必要な要素を絞り込んで行く。元々の空間が大きいため、改修費用もかなりかかる試算となった。

結果、ゴミを出さない姿勢や既存のものを大切にすることも活動の骨組みとして大切だけれども、建物としてコモンハウスへの思い入れはあまりないこと、老朽化の進んだ建物に多額の費用をかけてもその後の活動での回収に時間がかかること、「エコカレッジ」の目玉となる学び舎の機能に特化した場の整備が急務なことなどから、コンパクトで環境負荷の少ない学び舎を新築することとなりました。

学び舎基本計画(2013.1)

学び舎基本計画(2013.1)

大きなスパンを木組で美しく見せながら、使用する木材のほとんどを道産材でまかない、シンプルでコンパクトなワンルーム空間となりました。研修機能をメインにしっかり断熱気密を行うことで環境負荷を最小限にし、厳しい冬も含めた四季の環境を快適に過ごすことができます。

その後、実施設計を経て限られた予算に合わせるために苦渋の設計変更をしつつ、クラウドファンディングでさらなる資金集めも平行して行い、雪解けを待っていよいよ着工。地盤を掘削し始めたところで大量のがれきが出て来たり、棟梁が入院してしまったりとアクシデントが続きましたが、無事上棟を迎えて、関係者一同感無量。たくさんの地域の方々にもお祝いしていただき、竣工に向けてますます士気が高まったのでした。

学び舎上棟式(2014.8)

学び舎上棟式(2014.8)

道産材の骨組みが美しく立ち上がりました。屋根の色は上棟式の参加者で投票して決定。施工して下さった武部建設さんの秘蔵の古材も近隣の納屋を解体したもので、棟梁自ら材の由来を丁寧に説明して下さいました。ホッとしたのもつかの間、ここからまた大変だったんです。

工事費が大変限られている中、工務店さんの承諾をいただき、断熱材入れ、内壁の漆喰施工、床張り、塗装工事はセルフ工事です。人手のの確保や工程管理に苦労しながら、暑い中での工事は本当に大変でした!

学び舎セルフ工事(2014.8〜9)

学び舎セルフ工事(2014.8〜9)

まずは道産カラマツでできているウッドファイバー(木の繊維 http://www.kinoseni.com)
を軸組内に100mm、外張りで100mm自分たちで入れて行きます。内壁はケンコート施工。学生さんたちがずいぶん頑張ってくれました。床は全国床張り協会(http://yukahatter.jp)のみなさんが棟梁の丁寧な指導のもと奮闘!これらもエコカレッジの学びのプログラムの一環です。

学び舎完成(2014.10)

学び舎完成(2014.10)

きれ道産カラマツのワイルドな外壁を背景にいに咲いたコスモスと学び舎。

試行錯誤しながらも10月にはセルフ工事もほぼ終わり、無事お引き渡しすることができました。お披露目会では代表の坂本純科さんがこれまでのプロセスをまとめた感動大作が上映され、感激ひとしお。既に始まっていた研修プログラムも回を重ねながら、まだ課題はいくつかあるものの空間を上手に使いこなして下さっているようです。

学び舎お披露目会(上)と研修開始(下)(2014.10)

学び舎お披露目会(上)と研修開始(下)(2014.10)

運用が始まり、初めての厳冬期を迎えつつあるエコカレッジから近況報告を伺いました。余市は北海道の中でも豪雪地帯。雪よけの竹格子や寒さを乗切るための薪集めなど、周到に準備されていました。優れた断熱気密性能で薪の使用量も少なく、朝晩ちょっと焚けば快適。
11月末:外気温マイナス6℃。学び舎は15.5℃(暖房なし)
12月末:5日間留守にした学び舎は、さすがに5~6℃まで冷えていた。(体感温度は10℃くらい)
ちなみにコモンハウスはマイナス3~4℃。
1月初め:10日間留守にして夜帰宅したときの室温が10~11℃。
(外気温マイナス6℃、
コモンハウスが1℃)
この日は外も暖かいので、朝だけストーブ焚いて
あとは暖房要らずとのこと。

今シーズンを快適に乗切っていただけそうです。

冬支度も着々と (2014.12)

冬支度も着々と (2014.12)

最後に、この余市エコカレッジはこのような場を目指しています。
1.環境負荷の少ない食の生産や住まいに必要な適正技術を学び、家庭や地域における実践
者を育てます。
2.一人ひとりの個性が発揮されるとともに、組織やコミュ二ティの中で互いの多様性を
尊重しながら協調するためのコミュニケーションやグループワークを学びます。
3.貧困や環境破壊を産むグローバル経済に対して、地域で分かち合い・支え合うための
「しごと」や「仕組み」を提案し、実践の基盤を創ります。

今年度は周囲の門学地域の皆さんとの連携も始まりそうですし、春からは学び舎に取付けたコンポストトイレや廃水浄化システムが活躍するはずです。暖房と煮炊きを兼ねる手作りのかまどを作ることも今後の活動の中で実現して行く予定で、とても楽しみです。

学び舎は一般向けの公開講座や大学、企業などのグループ研修のほか、各種会議やイベントの会場として利用していただけます。利用条件についてはお問い合わせください。

問い合わせ先:NPO法人北海道エコビレッジ推進プロジェクト
札幌事務所 :札幌市中央区宮ヶ丘2丁目⒈−1−303
電話:011−640-8411 FAX:011−640-8422
余市事務所 :余市郡余市町1963
坂本 純科  junkasakamoto@gmail.com

130731_sakurai北海道からの便り-特派員/櫻井 百子(さくらい ももこ)

1973年北海道旭川市生まれ。北海道東海大学芸術工学部卒業後、都市計画事務所、アトリエ設計事務所を経て2008年アトリエmomo設立。子育てしながら、こころや環境にできるだけ負荷の少ない設計を心がけている。平成22年度 北海道赤レンガ建築奨励賞、2011年度 JIA環境建築賞 優秀賞 (住宅部門) 受賞。

[北海道からの便り バックナンバー]
・北海道からの便り vol.1
・北海道からの便り vol.2
・北海道からの便り vol.3
・北海道からの便り vol.4
・北海道からの便り vol.5
・北海道からの便り vol.6
・北海道からの便り vol.7
・北海道からの便り vol.8

2014年夏編、連載完了のお知らせ


[ご挨拶]

平素より一般社団法人 環境共生住宅推進協議会のホームページをご利用いただき、
ありがとうございます。

地域からの便りは、環境と共生する住まいづくりの専門家から、
地域ならではの気候風土とそれに合わせて、少ないエネルギーや資源で
快適に暮らせる住まいの作り方についてご寄稿いただくコンテンツです。

本年度は沖縄県那覇市、滋賀県近江八幡市、京都府京都市、秋田県能代市、
北海道下川町等の計8箇所から、まずは夏編のお便りをお寄せいただきました。
2014年夏編は第8弾『美濃地域からの便り』を最後に終了させていただきます。

2015年冬編は、1月〜3月にお届けする予定です。
しばし時間が開きますが、またの更新をお楽しみに。

この連載を通じて、環境と共生する住まいづくりを考えていらっしゃる皆さまや、
すでに取り組まれている皆さまの情報交流にもつながって行くことを願っております。

2014年夏編を見逃した方はこちらからどうぞ。
第1弾 沖縄からの便り Vol.3
第2弾 南禅寺の家 夏の便り Vol.1
第3弾 近江八幡からの便り Vol.3
第4弾 北海道からの便り Vol.3
第5弾 能代からの便りVol.3 『東北日本海側北部の寒冷住宅の夏は窓の日射遮蔽』
第6弾 富山からの便り Vol.1
第7弾 里山長屋からの便り~夏編
第8弾 美濃地域からの便りVol.1~夏場の身の廻りの温度変化

2014年9月10日
一般社団法人 環境共生住宅推進協議会

美濃地域から、夏の便りが届きました


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美濃地域(岐阜県)の中島さんから、「夏場の身の廻りの温度変化」と題した夏の便りが届きました。

中島さんは岐阜県加子母(かしも)地域発信の家づくりに携わると共に同地域を巡るツアー等を通して、国内における森林の現状や地域木材について知って貰う活動も行っています。

中島さんは「断熱・気密などの躯体性能などを数値化する事で、心地良さを「定量的」に表す取り組みが行われ、温熱環境の向上と健康との関係性が確認されはじめていました。しかし、それらを一般の住まい手さんに伝えようとした時に、沢山の数字と単位が並び「温熱環境」を分かり易く伝える事の難しさも感じていました。」ということから、自身の廻りの温湿度を測定することを始めたそうです。

この夏の便りでは、その測り方から心地よいと感じる温度や湿度等について、詳しく解説いただいています。

詳しい内容は下記よりどうぞ。
◇美濃地域からの便り~夏場の身の廻りの温度変化

美濃地域からの便りVol.1~夏場の身の廻りの温度変化


現場監督という立場で木造建築に携わりながら、温熱環境に配慮した家づくりに出会い、学びはじめた2010年。

当時は、新たに建築された建物の性能や室内外の温度差、部屋ごとの温度変化などをまとめたデータは多く存在するものの、「人」が生活する際に、どのような温度変化の中で暮らしているというデータが少ない事に気付きました。

また断熱・気密などの躯体性能などを数値化する事で、心地良さを「定量的」に表す取り組みが行われ、温熱環境の向上と健康との関係性が確認されはじめていました。しかし、それらを一般の住まい手さんに伝えようとした時に、沢山の数字と単位が並び「温熱環境」を分かり易く伝える事の難しさも感じていました。

また温熱環境に興味を持ち学び始めた私自身も、残念ながら数字が苦手で、どちらかといえば文系より。

そんな私でも、自らが身の廻りの温湿度を測定する事で、普段どのような温度変化の中で生活をしているかを把握し、どれくらいの温湿度の際に心地良い・暑い・寒いと感じるかの感覚をつかむ事で、それらを住まい手さんに楽しく伝える何らかのヒントになるのではと考えました。

そこで、データロガー(測定機器)を腰からぶら下げ、朝起きてから寝るまで食事・トイレ・入浴の際も四六時中肌身離さず生活して、温湿度の測定を行いました(入浴の際には水に濡れない場所に設置して浴室の温湿度を測定)

データーロガー

データーロガー

 

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人体につけたデーターロガー

データロガーは、人体(測定者)の温湿度が影響しないよう、データロガーボックスを制作。周囲を薄ベニア材で囲み背面はスタイロ系断熱材を使用。測定と並行して、自分の行動と時刻をひかえました。

美濃の家(測定者の住まい):築55年以上 木造2階建ての2世帯借家

美濃の家(測定者の住まい):築55年以上 木造2階建ての2世帯借家

夏(9月)の身の廻りにおける温度変化は次のようになりました。その中でも温度変化が大きかった9月17日を取り上げてみます。

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この日は温熱環境に関するイベントお手伝いの為、車で名古屋に移動。日中はイベントスタッフとして建物と外部との行き来が多かった一日でした。

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睡眠時(在宅時)の緩やかな温度変化とは対照的に、家を出た時点で少し温度が下がりますが、そこからどんどんと温度が上がり、車内にて最高気温32.6℃を記録。これは腰部に取りつけていたデータロガーが、腰と座席の間の温度を拾った為と考えられます。

車内には5名が乗車しており、20℃設定で空調設備が稼働していた、当日の車内温度は23~24℃前後であると推測できます。身体の部位によって大きな温度差(10℃前後)となっています。(※参考:普通の皮膚の表面温度は30~33℃、密着していると36℃くらいまで上がる)

次にイベント参加時は建物内部から外部、外部から内部への行き来が多く、一日を通しての温度変化の波が一番荒くなっています。最後に帰り道(車移動)で5℃近く温度が下がっているのは、夕食でお店に入った事によるもの。帰宅後は温度変化は落ち着き、入浴時も殆ど温度変化は見られません。

一日をとおしてみると、美濃の家を出たのを境に、温度変化の波が激しくなっているのが分かります。また外出時は施設内の空調によって、短い時間で急激な温度変化に身を置いていた事が分かります。外部から建物内に入る際に大きな温度変化(温度が下がる)があり、建物から外部へ出る際の温度変化(温度が上がる)も同じく大きな温度変化になっています。

一般的に、冬場に比べると気づきにくい(感じにくい)温度変化であるものの、外を歩き回って汗をかいた場合には、温度差以上に身体を冷やしてしまいます。これらから夏場も身体にかかる負担が大きくなる事が分かります。

人間の身体は歳と共に、暑さ・寒さを感じにくくなる。各地で35℃を超える日が続く近年の夏。熱中症は勿論の事、温度変化によって体調を崩す事にも注意をしなければなりません。

驚きの冬場の温度変化については2015年冬編にてお伝えします。

nakajima中島 創造(なかしま そうぞう)

(株)中島工務店 東京支店勤務。
1980年岐阜県中津川市加子母(かしも)生まれ。現場監督として木造建築に携わり、温熱環境に配慮した家造りに出会い、岐阜県立森林文化アカデミー 木造建築スタジオに入学。在学中は身の廻りや古民家の温度変化など、さまざま実測を行う。2012年同校卒業後、現職。岐阜県加子母(かしも)地域発信の家づくりに携わると共に同地域を巡るツアー等を通して、国内における森林の現状や地域木材について知って貰う活動も行う。

里山長屋から、夏の便りが届きました


林と緑に囲まれた里山長屋

林と緑に囲まれた里山長屋

神奈川県相模原(旧藤野町)にある「里山長屋」の山田さんから、夏の便りが届きました。

「里山長屋」は、できるだけ環境に負荷をかけない、そして住民同士、地域や周辺環境との関係性のある家づくりをしよう、ということで建てられた「環境とコミュニティ」をテーマとした長屋形式の住まいです。

お便りをくれた山田さんも最初は設計者としてこのプロジェクトに関わっていたそうですが、最終的には住民として住むこととなり、この里山長屋に引っ越して、早くも4回目の夏をむかえることになりました。

詳しくはこちらからどうぞ
◇里山長屋からの便り~夏編

里山長屋からの便り vol.1『夏編』


里山長屋完成予想図(絵:中村秀夫)

里山長屋完成予想図(絵:中村秀夫)

2011年、神奈川県の相模原(旧藤野町)に伝統的な木組みで、「里山長屋」という木造の集合住宅をつくりました。

できるだけ環境に負荷をかけない、そして住民同士、地域や周辺環境との関係性のある家づくりをしよう、ということで建てられた「環境とコミュニティ」をテーマとした長屋形式の住まいです。

そして筆者もその住民として住むこととなり、この里山長屋に引っ越して、早くも4回目の夏をむかえることになりました。 この里山長屋は当初より、エアコンに頼らない暮らしをしよう、ということを念頭に設計しました。

里山長屋竣工直後(写真:砺波周平)

里山長屋竣工直後(写真:砺波周平)

伝統的な竹小舞土壁の仕様を伝統的技術として継承しよう、という意図はもちろんのこと、もうひとつ大事なテーマとして、土壁の温熱環境特性に着目したい、ということがあります。土壁がもつ特性を、現代の暮らしのスタイルにもあう状況を模索し、あらたな意味付が必要と思ったからです。

従来より建物の蓄熱性が室内の温熱環境をコントロールするのに大切であることはわかっていましたが、伝統的な土壁の家の蓄熱性についても最近ほうぼうでその温熱環境特性の検証がはじまっているようです。
土は申し分無く蓄熱容量が大きい素材ですので、うまく蓄熱特性を活用してあげれば、従来のような冬に「寒い」民家、というイメージは払拭できると思います。

この里山長屋では、伝統的な竹小舞土壁の仕様を採用しました。ここでは外壁側は真壁を採用せず、杉板の大壁として、土壁と外壁の板壁の間に断熱材をほどこし、いわゆる外断熱の仕様としました。

断熱材は、最終的には「土に還る」ということを大事なテーマとして、ウッドファイバーと羊毛を使用しました。(それぞれ約50ミリずつ、合計約100ミリ)屋根の断熱と合わせて、断熱性能としては、これで次世代省エネ基準をクリアしています。

ちなみに、この羊毛断熱材はウールマーク認定工場でつくっている、ということで、そのメーカーさんより「ウールマーク」認定証が送られてきました。つまりウールマーク付きの家です。 ここで大事なのは、断熱性能そのものだけではなく、それがキチンと土の蓄熱を助けていることだと思います。 そうすることで、土が冷えれば冷えた状態が維持し、暖まれば暖まった状態が持続することが期待できます。よく言われる、蔵のなかの温熱環境の状況です。

これまでの夏の状況で、すでに「蓄冷」の状況は十分確認できました。
現在これを書いているのは8月の暑いさなかで、外気温は14時で31℃になっています。
それに対して、室温は26℃。冷房の設定温度が28℃ですから、それに比べても冷房が不要ですが、何よりも体が楽なのは、室内の壁など周囲温度が室温と同等の温度なので、輻射的にも体が暑く感じない、ということです。

里山長屋 筆者自宅内観(写真:砺波周平)

里山長屋 筆者自宅内観(写真:砺波周平)

実はこうした状況をつくるには、ちょっとした工夫が必要です。
朝方、部屋が冷えた状態で、建具を全てむしろ締めてしまい、外気温が上昇しても、その熱気が室内に入ってくるのを防ぐ状況をつくってあげることです。我が家は南面の開口部には冬の断熱も兼ねて引き込み式の障子を備えていますので、それも締めてしまいます。

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障子による断熱/蓄熱(写真:砺波周平)

 

夏場の8月の太陽高度は夏至の6月より大分下がってきていますから、庇の長さの状況によっては少し室内に日差しがはいってきます。それを遮光する意味でも障子は実は重要です。 そうすることで、朝方の部屋が冷えた状態を保ってくれるのです。

もうひとつ、それを実現するための重要な作業があります。
それは夜、できるだけ家を開放し、夜間の冷たい空気を室内に引き込んであげることです。いわゆる「ナイトパージ」というやつですね。

里山長屋は周囲をヒノキ林や広葉樹の林に囲まれていて、林の中の微気象は多少気温が低いことや、藤野という場所は緑が多い山間地であることもあって、夜になるといわゆるヒートアイランド現象がなく、すーっと冷えます。都心で熱帯夜と言っているような日でも、里山長屋の周辺では明け方には20℃近くまで外気温が冷えるのです。

林と緑に囲まれた里山長屋

林と緑に囲まれた里山長屋

これを使わない手はありません。 二階の寝室の窓は網戸にして積極的に通気をうながし、家を夜間に冷やし、蓄冷しておくことで、次の日の昼間もひんやりした室内の状況を確保することができるのです。こうして、里山長屋では4戸全戸でいわゆるエアコンなしの暮らしをしています。

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積極的な通風策(写真:砺波周平)

夜、窓をあけておくと、いろいろな野生動物や虫の鳴き声も聞こえてきます。ホトトギスは夜鳴く、ということはここに引っ越してきて知りました。
また、あのかわいい顔をしたムササビの鳴き声は以外とかわいくないものです。

そうした建物の周りの環境とのつながりを感じながら、文字通りその環境がもっているポテンシャルを家のなかのコントロールにも生かす、しかも省エネというはこの上ない贅沢だと感じます。

家の前に菜園。自給と微気象形成の一石二鳥。

家の前に菜園。自給と微気象形成の一石二鳥。

都会のように、夜になっても厳しい環境においてはむずかしい選択かもしれませんが、逆にいうといかに都会の建物外部のデザインも重要かつ必要か、ということでしょう。

kinei_yamada山田貴宏(やまだ たかひろ)

早稲田大学建築学科都市環境工学修了。清水建設、長谷川敬アトリエを経て、現在ビオフォルム環境デザイン室主宰。主に国産材と自然素材を中心とした、地産地消でかつ伝統的な木の家造りを中心とした建築/環境設計を行う。パーマカルチャーのデザイン手法・哲学を背景とした住環境づくりをめざす。建物とそれを取り巻く自然/コミュニティまで含めた幅広い環境と場づくりがテーマ。
著書:「畑ついているエコアパートをつくろう」(自然食通信社 共著)、「里山長屋をたのしむ」(学芸出版社)

◇里山長屋からの便り バックナンバー
・里山長屋からの便りvol.1『夏編』
・里山長屋からの便りvol.2『冬編』
・里山長屋からの便りvol.3『住まいの温熱環境を科学的に理解する時代』
里山長屋からの便りvol.4『あたたかな住まいのなかから考えた』

富山から夏の便りが届きました


「散居」とは、広大な耕地の中に民家(孤立荘宅)が散らばって点在する集落形態

「散居」とは、広大な耕地の中に民家(孤立荘宅)が散らばって点在する集落形態

富山県富山市の川崎さんから、夏の便りが届きました。

富山県は本州の中ほど、日本海に突き出た能登半島に囲まれた富山湾に面しています。

気候は冬季には積雪のある日本海型気候で、全域が豪雪地帯に指定されています。
(山間地では一部特別豪雪地帯となっている。)
その一方で、夏は暑く多湿で、特に日本海側に低気圧があると南風が吹き、フェーン現象となり35度を超えることもしばしばです。

そんな富山の気候風土に合わせた住まいづくりについて、歴史的な民家の構成から、「HOPE計画」制度を活用した「八尾かざみ台」、そして自然の恵みを追求した「パッシブタウン黒部モデル(事業者:YKK株式会社)2015年9月竣工予定)まで幅広くご紹介いただいております。

詳しくはこちらからどうぞ。

「富山からの便り Vol.1」

富山からの便り vol.1


はじめまして、富山からの便りをお届けします。

富山県は本州の中程、日本海に突き出た能登半島に囲まれた富山湾に面しています。

西は能登半島に繋がる丘陵地を挟んで石川県、東は北アルプスが海に落ちる親不知の新潟県、南には3千メートル級の立山連峰が連なり、長野県、岐阜県と境を接しています。

三方を山に囲まれ、そこに源を発する黒部川や常願寺川、神通川、庄川、小矢部川などで形成された平野が広がっています。

その、ちょうど中央に富山市があり、どの方向へも一時間程度で到達できるコンパクトな地形が富山県の特徴となっています。

気候は冬季には積雪のある日本海型気候で全域が豪雪地帯に指定されています。(山間地では一部特別豪雪地帯となっている。)

一方、夏は暑くそして多湿であり、特に日本海に低気圧があるときなど、南風が吹きフェーン現象となり35度を超えることもしばしばです。

富山県には教科書にも掲載されている、五箇山の「合掌造り」集落や、「散居」と呼ばれる砺波平野に点在する屋敷林に囲まれた「アズマダチ」の農家住宅があります。

合掌造り 菅沼集落

合掌造り 菅沼集落

合掌造りは3メートルを超えることもある豪雪地域での暮らしを守るための工夫された様式であり、散居も庄川扇状地で農業を営む灌漑や冬の豪雪、夏の南風を防ぐ「カイニョ」と呼ばれる杉を中心にした屋敷林など、また冠婚葬祭の宗教行事など日常、非日常に対応できる風土に根ざした暮らしの中から、営々と築かれてきたものです。

散居遠景 砺波平野を国道304号線から望む。「散居」とは、広大な耕地の中に民家(孤立荘宅)が散らばって点在する集落形態

散居遠景 砺波平野を国道304号線から望む。「散居」とは、広大な耕地の中に民家(孤立荘宅)が散らばって点在する集落形態を意味する言葉。

カイニョ(屋敷林)に囲まれたアズマダチ(切妻造り)の屋敷

カイニョ(屋敷林)に囲まれたアズマダチ(切妻造り)の屋敷

その他にも、高岡市旧市街地の土蔵造りの街並みや、伏木、岩瀬の北前船の寄港した歴史的街並み、また真宗の名刹「瑞泉寺」の門前町として形成された井波町等々、富山の気候風土に根ざした街並みが大切にされています。

*      *      *

 

昭和20年代、敗戦直後からの復興は建築基準法と建築士法で律せられ、合えば良し、合わなければ駄目となりました。伝統や様式、職人技も必要なくなり、大工棟梁も資格ある建築士の支配下に置かれることになりました。

全国一律の基準で律せられ、どの地方の住宅も似たようなものが建てられることになりました。近代的な住まい方に合った必要最小限の機能と性能を持った住宅が追求され「一世帯一住宅」の達成が目標とされました。

昭和50年代になり漸く、これではどうもということになりました。「地域に根ざした」「気候・風土に合った」「伝統や文化を踏まえ」・・・そんなことを実践するようになりました。

富山でも重い湿った雪に負けない住宅のあり方などが模索されました。五箇山地方の大豪雪地帯での「楽雪住宅」の試みは雪下ろしの苦労から解放される提案となりました。

楽雪住宅

楽雪住宅

また、八尾町では国が提唱された「HOPE計画」制度をいち早く活用し、伝統ある家並みの復権に取組みました。八尾の大工さんたちが呼応し「八匠」を組織し、自分たちで宅地造成から住宅建設まで手がけた「八尾かざみ台」の団地は今に至る八尾町の住まいのあり様をモデルとして示したものでした。

かざみ台近況 富山市八尾町

かざみ台近況 富山市八尾町

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かざみ台近況 富山市八尾町

その他にも県内では様々な企画や提案がなされ地域らしい住宅や街づくりの啓発プロジェクトが実践されて来たのです。

ところが、現実はどうでしょうか。最近開発された住宅団地に行って見ました。写真から富山らしさの特徴を捉えることが出来ますか。家々にカーポートが見えます。雪のことを考えたら屋根つきの車庫はどうしても必要なのです。あと、道路上の融雪装置。その程度でしょうか。

最近の団地 富山市婦中町地区

最近の団地 富山市婦中町地区

団地には地場のホームビルダーや全国区のハウスメーカーの住宅が覇を競うように建ち並んでいます。どこも、売りは「地震に強い」「高気密・高断熱」「省エネルギー」・・・ともかく頑丈につくり、暖房・冷房がよく効く住宅が求められるようです。

八尾の大工さんたちが造った「かざみ台」を訪ねてみました。街路樹や庭木も立派になり、その佇まいや雰囲気にホッとする気分にさせられました。

諏訪町近況 富山市八尾町

諏訪町近況 富山市八尾町

八尾町旧町にある諏訪町界隈ではその街並みが大きく変わりました。「八匠」の試みが町民のそれぞれに理解され、順次順次今のようになってきたものです。

殆んど奇跡のように感じてしまいます。八尾ならではの特殊解ということなのでしょうか。

地域らしい住宅を建てよう、隣り近所のことも意識して建てよう、まちなみの美しさを共有しよう・・・などということを皆が共有していくことは本当にむつかしいことなのです。

建築住宅行政に永年携わってきた身には何か忸怩たる思いが交錯します。

 

終わりに最近の富山でのニュースを紹介します。YKK株式会社がこのほど着工した「パッシブタウン黒部モデル」です。

YKKの資料によれば、黒部における自然エネルギーを活用したハイエネルギーへの依存を抑えた集合住宅と商業施設によるまちづくりで、未来に向けた地域における暮らしを提案するプロジェクトであると紹介されています。

黒部モデル(写真は全てYKK提供)

黒部モデル(写真は全てYKK提供)

事業のコンセプトとして、「21世紀の持続可能な社会にふさわしいローエネルギーのまちと住まい実現する」と謳われ、太陽、風、緑、水といった自然のポテンシャルを活かし、パッシブデザインを追求し、地域との共生をめざすことが紹介されています。

当面第1期として、複合型賃貸集合住宅36戸が計画され、来年9月の竣工予定とされています。小玉祐一郎氏、宮城俊作氏の設計とのことで、その完成が大いに期待されます。

*

川﨑政善(かわさき まさよし)

1947年富山県生まれ。1970年芝浦工業大学建築学科卒業。日本住宅公団を経て1974年富山県庁へ。以来一貫して建築住宅行政に従事。2006年富山県住宅供給公社常務理事を経て、現在富山県建築設計監理協同組合相談役。

秋田県能代市から、夏の便りが届きました。


資料1:南側の窓に設置したは外付ブラインド

資料1:南側の窓に設置したは外付ブラインド

秋田県能代市の西方さんから、夏の便りが届きました。

『東北日本海側北部の寒冷住宅の夏は窓の日射遮蔽』と題して、夏を過ごしやすくする地域的手法の中でも、特に窓の日射遮蔽は長い庇や簾やグリーンカーテンや外付ブラインド・窓内蔵ブラインドや日射遮蔽ガラスなどで行うことの重要性を解説いただいています。

屋根の芝置屋根の潜熱利用と日射遮蔽、基礎断熱の床下の冷地熱の利用、外壁の板張りと通気層での日射遮蔽、通風などと組み合わせて、超高性能(Q値が1.0W/m2K前後)な高断熱・高気密住宅の夏を過ごしやすくする大きな割合の窓の日射遮蔽を主に紹介していただきました。

詳しくはこちらからどうぞ
能代からの便りVol.3 『東北日本海側北部の寒冷住宅の夏は窓の日射遮蔽』

能代からの便りvol.3 『東北日本海側北部の寒冷住宅の夏は窓の日射遮蔽』


■高断熱・高気密住宅は夏に暑いという誤解

夏の高断熱・高気密住宅は暑いとされているがそんな事はない。暑いのは中途半端な高断熱・高気密住宅である。

昨年の「地域からの便り」夏は「東北日本海側北部の夏をすごす」をテーマに、夏を過ごしやすくする地域的手法を総花的に紹介した。その中でも窓の日射遮蔽は長い庇や簾やグリーンカーテンや外付ブラインド・窓内蔵ブラインドや日射遮蔽ガラスなどで行うことが重要である。

他に屋根の芝置屋根の潜熱利用と日射遮蔽、基礎断熱の床下の冷地熱の利用、外壁の板張りと通気層での日射遮蔽、通風などである。

今回は超高性能(Q値が1.0W/m2K前後)な高断熱・高気密住宅の夏を過ごしやすくする大きな割合の窓の日射遮蔽を主に紹介する。

■超高性能(Q値が1.0W/m2K前後= U A値=0.37W/m2K前後)住宅の夏の過ごし方

Q1住宅とはNPO新木造住宅技術研究協議会が、国の25年省エネルギー基準の暖房消費エネルギーの1/3以上の高性能住宅をいう。このクラスになると冬の暖かさ以上に、夏の暑さ涼しさ対策を考えないと欠陥住宅になる。最も効果的なのは窓からの日射を遮蔽する事である。

日射遮蔽の工夫がないと南側の大きな開口群からの日射熱は極めて大きく、私のアトリエは日射透過率45%の日射遮蔽ガラスを使っているが、日射が少ない冬の30分ほどの日射でもオーバーヒートしてしまう。南側の窓には外付ブラインドを設置(資料1)し涼しく快適な夏を過ごしている。夏を凌ぎやすくするには窓の日射遮蔽が重要である。

資料1:南側の窓に設置したは外付ブラインド

資料1:南側の窓に設置した外付ブラインド

窓の日射遮蔽は、基本的には長い庇で日射遮蔽を行うが、敷地や予算の問題や建物の東西の振れにより庇が有効でない場合には庇を設けない事がある。しかし窓の日射遮蔽は不可欠で、低廉簡易な簾・ゴーヤや朝顔等のグリーンカーテンや外付ブラインドや外付けシェードで行う。

ここでは、長い庇で窓の日射遮蔽するタイプのQ1住宅刈和野と庇が短く外付ブラインドや外付けシェードで窓の日射遮蔽をするタイプのQ1住宅秋田旭川の典型的な2タイプを紹介する。

■Q1住宅刈和野の場合

資料2:長い庇で窓の日射遮蔽するタイプのQ1住宅刈和野

資料2:Q1住宅刈和野外観:長い庇で窓の日射を遮蔽するタイプ

性能仕様
・場所:秋田県大仙市刈和野 3地域(旧Ⅱ地域)U A値=0.56W/m2K(Q値=1.9W/m2K)
・性能:U A値=0.37W/m2K(Q値=0.91W/m2K)
・暖房負荷:26.3kWh/m2 冷房負荷(冷房必須期間):6.05kWh/m2
・天井:桁上断熱グラスウールブローイング厚400mm
・壁:高性能16Kグラスウール220mm(付加断熱120mm+充填断熱100mm)
・基礎:基礎立上り部分は断熱防蟻EPS厚100mm、底盤下部分は同厚150mm
・窓:PVCサッシArLow-Eトリプルガラス(南側は高透過ガラス、東西は遮熱ガラス)
・換気:熱交換換気システム

南側の2階は屋根の長い庇で、南側の1階はバルコニーで窓の日射遮蔽を行っている。東西は庇が無いが窓を小さくしかも遮熱ガラスを使っている。

資料4

資料4:Q1住宅刈和野の庇による夏至の12:00時の影

資料4のように南側の夏至の前後は長い庇とバルコニーで効果的に日射遮蔽が行われている。
その結果はDD27℃の冷房負荷(冷房必須期間):6.05kWh/m2と極めて少ない。冷房費は一夏で6,000円程度である。
家庭生活の実際では通風等で多少の暑さや時間は我慢をするので冷房は必要ない。
資料5のように春分や秋分には窓面積の半分強ほどの日射が入るが、この時期はカーテンや通風等で対応が出来る。冬は資料6のように長い庇でも日射は良く入る。

資料5

資料5:Q1住宅刈和野の春分・秋分の12:00時の影

資料6

資料6:Q1住宅刈和野の冬至の12:00時の影

■  Q1住宅秋田旭川の場合

資料3:庇が短く外付ブラインドや外付けシェードで窓の日射遮蔽をするタイプのQ1住宅秋田旭川

資料3:庇が短く外付ブラインドや外付けシェードで窓の日射遮蔽をするタイプのQ1住宅秋田旭川

性能仕様
・場所:秋田県秋田市 4地域(旧Ⅲ地域)U A値=0.75W/m2K(Q値=2.4W/m2K)
・性能:U A値=0.38W/m2K(Q値=1.07W/m2K)
・暖房負荷:22.4kWh/m2
・冷房負荷(冷房必須期間):外付ブラインド等有り= 7.54kWh/m2
・外付ブラインド等無し=11.49kWh/m2
・天井:桁上断熱グラスウールブローイング厚400mm
・壁:高性能24Kグラスウール200mm(付加断熱100mm+充填断熱100mm)
・基礎:基礎立上り部分は断熱防蟻EPS厚60mm、底盤下部分は同厚60mm
・窓:南側は木製サッシ高透過ペアガラス、他は木製サッシArLow-Eトリプルガラス
・南東・南西部分は外付ブラインドかシェードの設置
・換気:熱交換換気システム

敷地一杯に建物が建ち、落雪空間を確保するために庇を短くしているので庇では窓の日射遮蔽が出来ない。また庇が南北方向はほぼ45度振れているので、低高度の朝日や夕日が窓を直撃する。こうした場合の南東と南西の窓の日射遮蔽は外付ブラインドや外付シェードが有効である。

その結果はDD27℃の冷房負荷(冷房必須期間):7.54kWh/m2(1260.3kWh/m2)と極めて少ない。冷房費は一夏で8,000円程度である。この場合も家庭生活の実際では通風等で多少の暑さや時間は我慢をするので冷房は必要ない。

■  外付ブラインドの有効性

アトリエの窓の外付ブラインドと日射遮蔽ガラス等の有効性を日射強度計測器で計って見た(資料7・8)。

資料7

資料7:日射強度計測の様子

資料8:計測機

資料8:各種の計測機

結果が資料9である。
外付ブラインドとガラスが無い場合の0.40%に減ずるので非常に効果が大きい。

資料9:計測結果(クリックすると別ウィンドウで大きな表を見ることができます。)

資料9:計測結果(クリックすると別ウィンドウで大きな表を見ることができます。)

また、外付ブラインドが無い場合の窓の日射遮熱ガラスの室内側表面温度は約34.1℃であり、外付ブラインドがある場合の表面温度は約31.3℃である。南面の外壁の室内側表面温度は30.7℃なので窓からの輻射との温度差は0.6℃しかなく極めて少なく快適である。

南面で外付ブラインドが無いペアガラスの日射強度は453W/m2Kなのだが外付ブラインドで日射遮蔽を行うと日射強度が14.0W/m2Kまで少なくなり、差は439W/m2Kになる。巾1間のテラス戸は約3.5m2のガラス面があるので、1箇所当たりのテラス戸の日射強度の差が約1500W/m2Kになる。これが2箇所あると3,000W/m2Kの日射強度が室内に入る。これを0にするには木造の12帖のエアコン並みの冷房能力が必要になり、夏を涼しくするに如何に外付ブラインドが有効なのかが知れる。

私のアトリエはQ値が1.5kWh/m2でQ1住宅ほどの性能は無いが、写真のように南面に外付ブラインドを設置し12畳用のエアコン1台で41.5坪の空間を涼しくしている。

130828nisikata西方里見(にしかた さとみ)

1951年秋田県能代市生まれ。1975年室蘭工業大学工学部建築工学科卒業後、青野環境設計研究所を経て、1983年西方設計工房開設。
2004年設計チーム木(協)代表理事。
2013年 建築知識700号記念「日本の住宅を変えた50人+α」に選定。
著書は「最高の断熱・エコ住宅をつくる方法」「「外断熱」が危ない」「プロとして恥をかかないためのゼロエネルギーのつくり方」等がある。

◇バックナンバー
能代からの便りVol.1 『東北日本海側北部の夏をすごす』
能代からの便りVol.2 『東北日本海側北部の冬をすごす』
・能代からの便りVol.3 『東北日本海側北部の寒冷住宅の夏は窓の日射遮蔽』
能代からの便りvol.4 『世界基準にのりにくい裏日本北部の冬の極小日射地域』