近江八幡からの便り Vol.3


2013年夏号より湖国・滋賀からの便りを担当させて頂いております。近江八幡に立地する民間の環境共生型コミュニティづくり事業「小舟木エコ村」と、そこにまつわるプロジェクトのご紹介を絡めながら、実践的な取組を紹介させて頂きます。

冬号で紹介した小舟木エコ村に立地する小舟木ミネルギーハウス。植栽が植わり、住まいらしくなってきました。

冬号で紹介した小舟木エコ村に立地する小舟木ミネルギーハウス。植栽が植わり、住まいらしくなってきました。

ここ近江八幡も、ほぼ平年並みとなる梅雨明けを迎えて蒸し暑い夏がやってきました!彦根地方気象台ホームページの記載によれば、毎年7月下旬から8月にかけて最も気温があがる時期を迎えることになります。

◇彦根地方気象台ホームページ(外部リンク)
http://www.jma-net.go.jp/hikone/kikou/kikou.html

滋賀県は周囲を山に囲まれており、地勢的には夏に高温となりやすい盆地でありながら、気象条件が比較的温和とされているのは、やはり中央に位置する琵琶湖のおかげと言って良いでしょう。特に「湖陸風」と呼ばれる琵琶湖への軸線に沿って吹く卓越風は、滋賀県の気候を特長づける存在です。

自立循環型住宅設計ガイドラインの気象データ資料【滋賀県】*にもあるように、近江八幡に地理的にも最も近い蒲生(東近江)観測所のデータをみると、琵琶湖から陸に吹く「湖風」と、陸から琵琶湖に吹く「陸風」の存在が、特に夏に顕著に表れています。湖と陸の気温差によって生まれるこのふたつの風は、前者は朝に、後者は夕方にと交互に吹くことで、琵琶湖周辺の気温変化を緩やかにする役割を担っています。

◇自立循環型住宅設計ガイドラインウェブサイト内 気象データ*
http://www.jjj-design.org/technical/meteorological.html

 

この湖陸風の効用を最大限取り入れるように設計された建物のひとつに、「近江八幡エコハウス」があります。

 

パース

パース

 

この建物は湖国エコハウス地域普及事業(近江八幡市:21世紀環境共生型住宅普及活動事業(平成21年度環境省補助事業))によって、地域のモデルハウスとして建設されたものです。

(※事業内容は 湖国エコハウス地域普及事業のHPをご覧下さい。)
http://kokoku-ecohouse.net/

 

外観/伝統的な焼スギを採用した落ち着いた外観

外観/伝統的な焼スギを採用した落ち着いた外観

外観/北面にも縁側や広い庇がかけられている。

外観/北面にも縁側や広い庇がかけられている。

外観/南面屋根に太陽光発電3.88kWと太陽熱温水用集熱パネルを搭載

外観/南面屋根に太陽光発電3.88kWと太陽熱温水用集熱パネルを搭載

 

近江八幡エコハウスが立地する小舟木エコ村の北北西の方向、約3kmのところに琵琶湖が位置しております。小舟木エコ村の区画道路は、建物を素直に配置すると琵琶湖からの風を自然と効率的に取り込むことができる方角となっており、かつ近江八幡エコハウスは建物中央に「通り土間」が設けられているため、素晴らしい通風を実感できます。近江八幡でも外気温が35℃を超える日はありますので、熱を帯びた風が蒸し暑く感じることもありますが、汗をかいたところに風が吹くので、体感的にはまだ気持ちのよい熱さと言えます。

平面図

平面図

最も厳しい暑さとなるのは「湖風」から「陸風」に風向きが変わる途中の「凪」の時間帯です。お昼前後に多いのですが、この風が完全にとまってしまう時が一番ツラく、「通り土間」にいても、汗がダラダラと出ることがあります。

もちろん、近江八幡エコハウスは地域区分に即した次世代断熱基準を当然クリアする仕様で建設されていますし、出力3.88kWの太陽光発電がついているので、自給された電力でエアコンを使用することもできます。高断熱気密住宅での過ごし方のアドバイスにある、「夜間から朝方にかけて冷気を取入れたら窓を閉切って高効率エアコンで過ごす。」という方法も適用できます。

エネルギーの見える化のため、太陽熱&太陽光発電+オール電化されている

エネルギーの見える化のため、太陽熱&太陽光発電+オール電化されている

しかしながら、実際に近江八幡エコハウスを訪れた多くの方は、「通り土間」周辺では多少気温が暑くとも窓を開け放して通風をとる方法が、より体感的に気持ち良いと感じておられるのではないでしょうか。実際に、この夏から団体視察の対応を2階のセミナールームではなく、「通り土間」でおこなうようにしたところ、涼しいと好評でした。温度と湿度、断熱性能や気密性能の数値とともに、風になびく葦の葉のサラサラとした音や、自分がかいている汗の量、吹く風の強さなど、他にも様々な要素が作用して。涼しさを感じていることに気づかれると思います。

通り土間が風の通り道となり、二つの空間をつないでいる。

通り土間が風の通り道となり、二つの空間をつないでいる。

冬には建具を閉めて、風をシャットアウトする工夫も。

冬には建具を閉めて、風をシャットアウトする工夫も。

また、リビングやダイニングといった間取りに縛られること無く、フレキシブルに様々な生活シーンに対応できるような空間としても「通り土間」は欠かせない魅力となっています。しかも冬には、風を通さないよう、建具も備えています。

通り土間を挟んだ内観の様子。杉板にホタテ貝の貝殻の成分で仕上げられている。

通り土間を挟んだ内観の様子。杉板にホタテ貝の貝殻の成分で仕上げられている。

ヨシを活用した夏冬兼用の建具や、版築の土壁が自然をより身近に感じさせてくれる。

ヨシを活用した夏冬兼用の建具や、版築の土壁が自然をより身近に感じさせてくれる。

その他にも、近江八幡エコハウスには、特産のよしずの他、北側に面した縁側など時間によって、より気持ちよく過ごせる場所もありますし、南面と北面には豊かな植栽が広がっており、屋根に設置された太陽熱給湯器によって、夏にはシャワーをほぼ浴び放題です。実際に居住したら、もっと快適に過ごすことができるように思います。

よしずは滋賀県特産の太くて丈夫なもの。

よしずは滋賀県特産の太くて丈夫なもの。

日射や視線を遮るとともに、風情が感じられる。

日射や視線を遮るとともに、風情が感じられる。

 

私自身も前号で紹介しましたがミネルギー基準の家や、パッシブハウスなどをはじめとして、省エネ住宅といえば、まず断熱や気密といった外皮性能+日射取得率+高効率エアコン+熱交換型換気など、数値や効率性に目がいきがちです。厳しい気候条件にある程その効果が大きいことは疑いありませんし、自然を失った結果であるにせよ、都市部や市街地もまた厳しい気候条件にあるため、建物の数値や効率性につい目がいきがちなのはやむを得ないのかもしれません。

一方で、近江八幡のように自然環境がある程度豊かなところでは、そこを丹念に設計に盛り込むことで、建物の性能を極端に高めなくとも夏に涼しい「場所」から涼しい生活をつくることができる可能性があります。近江八幡エコハウスはその可能性を、滋賀県固有の特長である琵琶湖の「風」を中心に示してくれているように思います。機会があれば是非近江八幡エコハウスを訪ねてみて下さい。

*

飯田氏近影飯田 航(いいだ わたる) 株式会社プラネットリビング勤務
1778年長野県諏訪市生まれ。東京農工大学農学部卒。
卒業後「小舟木エコ村」の事業化に携わり、事業会社である
株式会社地球の芽取締役を務めた後、現職。
2008年より特定非営利活動法人エコ村ネットワーキング副理事長。

 

◇近江八幡からの便り バックナンバー
Vol1.2013年夏の便り
Vol2.2014年冬の便り