能代からの便りvol.2 『東北日本海側北部の冬をすごす』


■冬の気候特性
東北日本海側北部の冬の気候特性は日射量が極めて少なく積雪寒冷なことである。
筆者が住む秋田県能代市の冬の1月の日照時間は東京の約1/5である。寒さでは暖房度日数D18−18でみると約1/2である。最新積雪深さではこの数年は20cmから40cmであり、平成18年の豪雪では92cmであった。内陸部の横手や湯沢の豪雪地域は2m以上である。最低温度は-10℃だが、太陽がでないので日中も零下の凍てつく真冬日が多い。風も強く平均風速5.1m/s、風速10m/s以上の地吹雪も多い。

写真1.地吹雪後のアトリエ

写真1.地吹雪後のアトリエ

東京の約1/5の日照時間で困るのは、日射熱を暖房エネルギーに大きく使えない事、鉛色のどんよりとした曇り空が続き外も室内も暗く陰鬱な期間が長い。そのせいか自殺率が全国一である。寒さによる脳卒中も全国一である。他には冬に太陽光発電や太陽熱給湯が役立たない事である。

■窓を大きく、少ない日射を最大限に使う
陰鬱さをなくするには開口部を断熱性能の良い窓で大きく、しかも天空の光を室内にいれることである。どんよりとした曇り空の天空の光でも室内に入ると明るく。高窓などから光を入れる工夫が昔からある。

写真2.昔ながらの光を取り入れる手法

写真2.昔ながらの光を取り入れる手法

写真3.現代の工夫。吹抜けた2階の高さに大窓をつくり外付けブラインドでライトシェルフにする。

写真3.現代の工夫。吹抜けた2階の高さに大窓をつくり外付けブラインドでライトシェルフにする。

写真3は現代の工夫で、吹抜けた2階の高さに大窓をつくり外付けブラインドでライトシェルフにする。外付けブラインドは夏には日射遮蔽の役目を果たす。天空の光がスラットに反射し、吹抜けた天井の奥深くまで柔らかい天空の光が届き、階下に降り注ぐ。

写真4.

写真4.日本海沿岸の多雪地域の家屋に見られる、能動的な空間を組み込んだ土縁

日本海沿岸の多雪地域では家屋に能動的な空間を組み込んだ土縁の伝統がある(写真4)。

写真5.

写真5.土縁と高窓を組み込んだ現代の家の例

窓を大きくするにしても暖房用消費エネルギーが大きくならないように熱計算・消費エネルギー計算のQPEXや建もの燃費ナビで熱計算をしながら窓の大きさや性能の仕様、屋根や外壁等の断熱仕様を決める。

冬に極めて日射が少ない12月中旬以降と1月と2月中旬まではこの地位域でも、窓の熱貫流率のUw値が1.0W/m2K以下の高性能窓になると表面温度が高く冷輻射が少なく快適でしかも窓が大きい方が省エネルギーになる。

冬のそれ以外の12月初旬と11月と2月下旬以降と3月と4月は日射が多くなり、Uw値が1.5W/m2K前後では窓が大きくてもさほどのダメージにならない。少ない日射を有効に使いたい。

写真6.

写真6.

写真6は南壁に日射熱取得壁を設け、ガラス面や外壁面の表面温度を下げずに更に有効に役立てている。

■平成25年省エネルギー基準の3倍から4倍以上の性能
平成25年省エネルギー基準(旧次世代省エネ基準世代)の性能レベルで全館暖房を行うと、それ以下の性能の住宅の間欠暖房の消費エネルギーの倍になる。それでは省エネルギーにならないので性能を3倍から4倍以上にしたい。それがQ1.0住宅である。
そのためには下記の項目があげられる。

1.屋根や壁の熱損失を減らすのに断熱材の厚さを増す。
屋根や壁を写真7のように付加断熱する。

写真7

写真7

2.窓の熱損失を減らすのに高性能な窓を使う。
断熱スペーサーのUw値が1.5〜1.0W/m2K以下の高性能窓を使う。

3.常時換気による熱損失を減らすのに省エネルギー熱交換換気システムを使う。
電力消費量がDCモーターの熱交換換気システムや地熱を利用した熱交換換気システムを使う。

4.窓を大きくするなど日射を有効に使う。
上述の窓を大きく、少ない日射を最大限に使う項目を参照。

5.高性能で簡易な暖房機器を使う。
筆者は3kW程度のエアコンを床下に設置する床下エアコン暖房(冷房)を図1のように工夫をしている。寒冷地では霜取時間が極めて少ない寒冷地用エアコンを使う必要がある。

写真8

図1

エアコンの暖気で基礎断熱のコンクリートや床面を蓄熱しながら暖め、床面からの22℃〜25℃の低温輻射と床下からの低温温風で全室暖房をする。そのためにはエアコンの微弱な風量が床下全面に行き渡りするように 写真8 のような内部に基礎の立ち上がりが無い基礎断熱にする。

写真9

写真8

暖房の省エネルギーは上述のようにほぼ果たせるようになったので、残った問題は冬に寒冷で日射が少ない地域での給湯の省エネルギーである。これは換気排熱を回収しヒートポンプで3倍の熱量をつくり給湯にする工夫をしている。余った熱は暖房の補助にする。

130828nisikata西方里見(にしかた さとみ)

1951年秋田県能代市生まれ。1975年室蘭工業大学工学部建築工学科卒業後、青野環境設計研究所を経て、1983年西方設計工房開設。
2004年設計チーム木(協)代表理事。
2013年 建築知識700号記念「日本の住宅を変えた50人+α」に選定。
著書は「最高の断熱・エコ住宅をつくる方法」「「外断熱」が危ない」「プロとして恥をかかないためのゼロエネルギーのつくり方」等がある。

◇バックナンバー
能代からの便りVol.1 『東北日本海側北部の夏をすごす』
・能代からの便りVol.2 『東北日本海側北部の冬をすごす』
能代からの便りVol.3 『東北日本海側北部の寒冷住宅の夏は窓の日射遮蔽』
能代からの便りvol.4 『世界基準にのりにくい裏日本北部の冬の極小日射地域』