美濃地域からの便り vol.2~冬場の身の廻りの温度変化~


東京にて家造りに携わっている私は、年末年始は故郷の岐阜県中津川市加子母(かしも)へ帰省しました。例年の1月に比べ冷え込みが厳しく、元旦の朝方6~7時頃は外気温-14℃。その時に父親の寝室は-4℃まで下がりました。そんな温度環境の中で寝起きをしている父親が本当に心配ですが、本人は何を言っても聞く耳を持たず。私の温熱環境に配慮した家造りのゴールは、身内に温熱環境の大切さを理解して貰う事かもしれません・・・。

さて前回ブログで報告した、夏に行った身の廻りの温湿度測定。「人」がどのような温度変化のなかで生活をしているかを知る為にはじめたこの測定も、温度変化のデータ分析を通してはじめての気付きも多く、沢山の学びのあるものになりました。

そうした経験から、温度変化の大きな冬場にも測定を行いました。この時期は上下温度差が大きくなると考え、今回は頭・腰・足の3ヵ所にデータロガーを取付け、24時間肌身離さず測定を行いました。

撮影場所:木造建築スタジオ内

撮影場所:木造建築スタジオ内

データロガーは、夏同様に人体(測定者)の温湿度が影響しないよう、データロガーボックスを制作。周囲を薄ベニア材で囲み背面はスタイロ系断熱材を使用。何をしていた時の温度変化かを把握する為、測定と並行して自分の行動と時刻やその時の体感を記しました。

※頭部のデータロガーのみ、入浴時には浴室内温度、就寝時には寝室の室温を測定。

※頭部のデータロガーのみ、入浴時には浴室内温度、就寝時には寝室の室温を測定。

1月10日・午後10時の測定開始から翌日同時刻までの結果で、生活(測定)範囲になったのは大きく分けて3ヵ所。木造建築スタジオ(学校)・通学(徒歩)・美濃の家(築55年木造の2世帯借家)でした。

断熱性能が低く室温が低い美濃の家。この季節は帰宅後すぐに炬燵で暖を取る事が多く、炬燵使用時には足部と腰部の温度が上昇しているのが分かります。頭部の温度(8℃)が室温と考える事が出来ます。

ここ数年、新聞・ニュースや雑誌などでも見かける機会が増えた入浴時のヒートショック。このグラフにデータとしては出ていませんが、脱衣室(4~5℃)から浴槽のお湯に出入りする入浴前後は、着衣を脱いで40℃近い温度変化に身を置く事から脱衣室・浴室を温かく保つことの重要性が伺えます。

また就寝時の布団内は32℃前後を推移しており、起床と共に室温まで一気に温度が下がっており、美濃の家を出る所で最大温度差(約30℃)になっています。布団から出た時の急激な温度変化から、夜中・朝方にトイレに行きたくなり、室温の下がった廊下を通ってトイレを使う際にも、入浴時と同じく危険が伴うという事が分かります。

またPC作業などをしていても足元の冷えを感じる木造建築スタジオ内では、机に座った状態でも頭部・足部の上下間で6~7℃の温度差があり、常に足元に冷えを感じています。温度変化が急激なのは、建物内の部屋から部屋への移動や、違う建物にあるトイレ(ほぼ屋外と同じ温度)へ移動する時にも、短時間で大きな温度変化を記録していました。

夏に比べて、より大きな温度変化の中に身を置いている冬の生活。測定前から何となくイメージする事が出来ていた部分もありましたが、自身で測定を行い、数値をグラフ化する事で、細かな温度変化の波や、グラフには表れない事も含め、驚きの結果になりました。
寒い日には脱衣・浴室・廊下・トイレが0℃付近になる美濃の家での生活。この測定を通してヒートショックという存在が身近なものになったように思います。

ヒートショックを身近に感じるようになり、その予防を考える中で、入浴時の温度変化を少なくするために手軽にできる方法として紹介される事が多い、シャワー貯湯によって浴室を暖める効果についても測定してみました。浴室は建物南西の一畳タイプの在来浴室。

浴室(青い丸の位置)は建物南西の一畳タイプの在来浴室。

浴室(青い丸の位置)は建物南西の一畳タイプの在来浴室。

温度条件がなるべく近くなる日に、蛇口貯湯・シャワー貯湯を2日に分けて行い、浴室内の温度変化と、貯湯後の浴槽の湯温を測定。

150203_nakajima004

150203_nakajima003

どちらも室温5℃前後から貯湯を開始して、17分後にお湯はり完了。浴室温度差(10℃)に対して、お湯の温度差(0.7℃)はほぼ近い温度だった事が分かります。浴室が1畳と狭く気積が小さい為、暖まり易かった事がありますが、ここまで効果が大きいのは予想外でした。湯温の差が少なかった事もあり、驚き・喜びと共に身体的負担の軽減に効果がある事が分かりました。

夏・冬の測定を通して、一般的に言われている温度変化に、身を持って体験する事で、より一層理解を深める事が出来ました。これらの測定データや、笑ってしまうような失敗談も含めて、住まい手さんへ温熱環境を楽しく(分かり易く)伝えながら、今後も快適性に配慮した家造り組んで行きたいと思います。

nakajima中島 創造(なかしま そうぞう)

(株)中島工務店 東京支店勤務。
1980年岐阜県中津川市加子母(かしも)生まれ。現場監督として木造建築に携わり、温熱環境に配慮した家造りに出会い、岐阜県立森林文化アカデミー 木造建築スタジオに入学。在学中は身の廻りや古民家の温度変化など、さまざま実測を行う。2012年同校卒業後、現職。岐阜県加子母(かしも)地域発信の家づくりに携わると共に同地域を巡るツアー等を通して、国内における森林の現状や地域木材について知って貰う活動も行う。

[美濃地域からの便り バックナンバー]
美濃地域からの便りVol.1 ~夏場の身の廻りの温度変化~