近江八幡からの便り Vol.1


はじめまして。湖国・滋賀からの便りを担当させて頂きます飯田 航と申します。滋賀県近江八幡からの便りをお届けいたします。

琵琶湖を抱える滋賀県では、環境問題に対して様々な活動が展開しています。そのひとつに、近江八幡市域で事業化された、民間の環境共生型のコミュニティづくり、「小舟木エコ村」があります。

小舟木エコ村マスタープラン

小舟木エコ村マスタープラン

JR東海道線近江八幡駅から約2km、琵琶湖から3kmに位置する15haの計画地に、約370世帯が環境共生型の暮らしを実践するコミュニティを開発するプロジェクトです。平均72坪という比較的恵まれた敷地と、「小舟木エコ村風景づくり協定」として家庭菜園や雨水タンク、省エネルギー建築の建設などが入居者同士の約束事として定められている点が特長となっています。

小舟木エコ村の立地。農村と都市の結節点にある。

小舟木エコ村の立地。農村と都市の結節点にある。

各家庭の取り組みがまちの「風景」となっている。

各家庭の取り組みがまちの「風景」となっている。

2000年にはじまったNPOエコ村ネットワーキングによる構想段階から2008年のまちびらきを経て、5年が経過したところです。入居者世帯数は340を数え、住民管理によるセンターエリアをはじめ、各家庭の緑も育ち、徐々にエコ村らしい風景が育ってきました。夏場は立派なグリーンカーテンを多くの家庭で目にすることができます。

世代を超えて、環境共生型ライフスタイルに取り組む。

世代を超えて、環境共生型ライフスタイルに取り組む。

住民管理によるセンターエリア。集いの場となっている。

住民管理によるセンターエリア。集いの場となっている。

2011年にはこの地域の環境共生住宅のモデルハウスとして、近江八幡エコハウス(環境省補助事業)がオープンし、環境意識の芽生えたばかりの家庭でも、無理なく始められるエコビレッジのひとつのカタチとして、国内外から視察の方がお越しになっています。

今日は、その一画に今年6月末に竣工を迎えた「小舟木ミネルギーハウス」の取り組みをご紹介したいと思います。

深い軒で日射遮蔽を考慮した南面外観。

深い軒で日射遮蔽を考慮した南面外観。

「ミネルギー」という言葉は、あまり聞き慣れないかもしれませんが、ヨーロッパのスイスで推進されている省エネ建築の認証基準です。Minimum(最小)とEnergie(エネルギー)が組合わさった造語がMinergieで、日本の「CASBEE」、アメリカUSGBCの「LEED」、そして日本でも知名度が高いドイツの「パッシブハウス」などと同様に、建物の環境性能を評価する仕組みのひとつです。

「ミネルギー」の特長は、対象となる新築住宅の暖房や冷房、給湯の消費エネルギー量に厳しい制約が課されるとともに、そのエネルギーの由来についても問われる点にあります。基準を達成するために、断熱性能や気密性能の向上に加えて、太陽熱や太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーの導入を施主や設計士に促すような制度設計がなされています。

更に上位の認証基準として、熱交換換気装置や再生可能エネルギーの導入が義務付けられ、化石資源消費量の削減を目指した「ミネルギー・P(ペー)」が設定されています。

また、化石資源を極力使用しない建材や施工プロセスの環境性能評価をおこなう「ECO」というレーベルにより、建物のライフサイクル全体について、より環境や健康に配慮した建物の認証制度が一体的に運用されています。

このふたつが組合わさった「ミネルギー・P ECO」認証を、夏季に高温多湿型の日本で初めて獲得しようと始まったのが、「小舟木ミネルギーハウス」です。

よしずで日射遮蔽をおこなっている西面外観。

よしずで日射遮蔽をおこなっている西面外観。

「小舟木ミネルギーハウス」の最大の特長は、「透質する壁構造」です。室内から外気への水蒸気の移動を可能にすることで、防湿シートや調湿シートに頼らずに、壁内の結露やカビ発生リスクの低減を試みています。

滋賀のように夏と冬で水蒸気の流入方向が逆転するような気候では、水蒸気をとおしにくい防湿シートによって壁内結露を防ぐ方法は採用が難しいため、適切な調湿性シートの選択と施工方法の選択が不可欠となります。設計はもちろんのこと、最終的には現場の職人さんの「腕」や「経験」に負う部分が、ますます大きくなっている状況です。

そこで、逆に防湿層を設けない壁構成とし、材料試験による物性値と、アメダスデータによる実大実験にもとづくシミュレーションをおこない、施工精度のバラツキを理由とする結露リスクを極力排除するアプローチをとっています。

基本的な層の構成は、室内側から仕上げ、①下地、②構造体、③断熱材、④外装となっています。下地の粘土パネルは蓄熱性能や調湿性能を有しており、室内の温度や水蒸気量の変化を軽減する役割が期待できます。構造体は間伐材による木質パネル(リグノトレンド)で高い剛性と施工性を両立しています。断熱材はカラマツを主原料とした木質繊維断熱材で、製造時のエネルギー消費量が少なく、透質性能に優れたものです。外貼断熱の構成で、気密は透湿防水シートを用いています。仕上げは建築によって自由ですが、今回は通気層を設けたうえで、杉板貼りとしています。丁度、断熱が施された土蔵のような建物、というイメージして頂きやすいかもしれません。

壁の基本構成。透質抵抗の低い材料のみを選定している。

壁の基本構成。透質抵抗の低い材料のみを選定している。

WUFIによるシミュレーション(キャプチャ画像)

WUFIによるシミュレーション(キャプチャ画像)

ここに、トリプルガラスの木製サッシ、熱交換型換気システムを組み合わせることで、約30坪の居室全体の空調を4kwのヒートポンプ1台で賄うことができています。太陽熱利用ガス給湯器(集熱パネル4㎡)と太陽光発電パネル4.29kwを組み合わせることで、空調・換気・給湯の年間一次エネルギー消費量が30kWh/m2・年を達成する見込となっています。今後、壁内と室内に仕込まれた温室度のセンサーにより、熱や水蒸気の挙動をモニタリングの結果に基づき、ミネルギー・P ECOの認証作業が予定されています。

1階リビング。壁は土塗仕上。右は冷暖房用ラジエーター

1階リビング。壁は土塗仕上。右は冷暖房用ラジエーター

冷水運転時のラジエーター結露水。除湿性能は穏やか。

冷水運転時のラジエーター結露水。除湿性能は穏やか。

 

 

 

 

 

 

 

2階居室。国産スギを活用した木製サッシ(PAZEN社製)。

2階居室。国産スギを活用した木製サッシ(PAZEN社製)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小屋裏に設置された熱交換型換気システム(ConfoAir)。

小屋裏に設置された熱交換型換気システム(ConfoAir)。

入居してから間もないため、詳細なリポートは難しいのですが、この夏の電力消費量は1ヶ月で350kWh〜400kWh程度になりそうです。発電量が550kWh程度なので、発電量が上回る結果となっています。また、給湯はほぼ太陽熱で賄うことができ、ガス消費量は1.8㎥と、ほぼ調理分のみと非常に少なく済んでいます。私自身は、ガス代や電気代を気にせずにシャワーをたくさんあびることができる太陽熱利用ガス給湯器を大変気に入っています。

次回、冬のリポートでは、家の建設プロセスや、冬の消費エネルギー量についての報告ができればと思っています。

(※筆者注:小舟木ミネルギーハウスは、2013年8月現在、ミネルギー・P ECOの認証手続中で、取得には至っておりません。)

飯田氏近影飯田 航(いいだ わたる)

株式会社プラネットリビング勤務。1978年長野県諏訪市生まれ。東京農工大学農学部卒。卒業後「小舟木エコ村」の事業化に携わり、事業会社である株式会社地球の芽取締役を務めた後、現職。2008年より特定非営利活動法人エコ村ネットワーキング副理事長。