沖縄からの松田さんから、新しい便りが届きました。
「ちょうど一年くらい前に築40年の高層マンションのリノベーションの提案を行いました。
那覇市の市街地の中心にあるマンションで、なんとこの階の住民の方はエアコンをほとんど使用しないで暮らしていらっしゃいました。
代わりに、共用廊下側の玄関ドアを少し開けたり、窓を開けたりして暮らしています。高層階なので、風の力が地上よりも強いのです。風量は、窓の開け加減で調整しています。」
詳しくは「沖縄からの便り vol.15」をご覧ください。
沖縄からの松田さんから、新しい便りが届きました。
「ちょうど一年くらい前に築40年の高層マンションのリノベーションの提案を行いました。
那覇市の市街地の中心にあるマンションで、なんとこの階の住民の方はエアコンをほとんど使用しないで暮らしていらっしゃいました。
代わりに、共用廊下側の玄関ドアを少し開けたり、窓を開けたりして暮らしています。高層階なので、風の力が地上よりも強いのです。風量は、窓の開け加減で調整しています。」
詳しくは「沖縄からの便り vol.15」をご覧ください。
【台風がきて、いちばん何が困るのか】
7月末に発生した台風6号の威力は、沖縄県民の予想を上回りました。
ここ数年、“台風来る来る詐欺”といわれるようなことが何度もありました。
そんな事が続き、多くの県民が、警報級の台風と言われても、半信半疑で対策をしていた矢先のことです。一時、沖縄県全体の30%以上が停電すると言う状態が続きました。
復旧するまでに3日かかった地域もあります。
いかに電力に頼って生活をしているのかを身に染みて感じることになりました。
一方、私はそのとき金沢出張中でした。暴風域の沖縄のことをニュースで聞くだけで胸が張り裂けそうな気持ちになっても、近づくことすらできない歯がゆさを感じました。結局沖縄に戻れたのは、予定より4日も後になりました。私の住んでいる地域は40時間停電だったそうで、留守番をお願いしていた暑がりの主人はエアコンのない家でどう過ごしたのか、気になりました。
「そんな暑くなかったよ。ただ冷蔵庫の中のものは、だいぶダメにしてしまって食料が底をついてきたときは不安になった。」。
それを聞くとやっぱり沖縄で災害が起きたときには、暑さや寒さよりも食料等の物資の方が弱点になりやすいのかもしれないと、感じました。
【扇風機で育った南国の肌】
先日、沖縄の旧盆で、実家に帰ってお手伝いをしていて思い出したのですが、私は小さい頃からエアコンを使わない生活をしておりました。両親もほとんど使いません。寝るときに少しだけ。
さすがに外が33度になっているときはエアコンをつけているのだろうと思っていましたが、実際実家に行くとエアコンは使っていませんでした。お客さんがいらっしゃるときにだけ付けます。
ところが、旧盆中お客様がいらっしゃるからと、久しぶりにエアコンをつけようとしたら、故障していることに気が付きました。結局、エアコンがない状態で旧盆の宴がはじまりました。
不快になるかなと思いきや、冷えたビールが美味しいこと!窓から入ってくる風に汗が当たって、より涼しく思えました。帰宅後に冷水シャワーを浴びて、なんだか健康になったような気すらしてしまいました。
これは子供のころから作られた体質のせいからなのかもしれませんが、南国の人が感じる快適性と北国の人の感じる快適性は、別物なのだろうと思います。
同じようにエアコンの住まいで育った子供と、扇風機の住まいで育った子供の快適性も別物になるのかもしれませんね。
あと、沖縄の人は、いや沖縄の犬でも猫でも昼間は歩かないようにしていました。歩くとしても影を伝って歩くか、夕方以降になって活動します。ビーチパーティも夕方からが基本ですし、昼間から始めたとしても誰も海に飛び込みません。
太陽高度に合わせて、行動を変えています。
今年イラクでは日中に40度を超える日があったそうで、その日は国民の休日としたというニュースがありました。そんな国民の休日、今後も増えていくかもしれませんね。
【都会にある“田舎”のような暮らし】
ちょうど一年くらい前に築40年の高層マンションのリノベーションの提案を行いました。
那覇市の市街地の中心にあるマンションで、なんとこの階の住民の方はエアコンをほとんど使用しないで暮らしていらっしゃいました。代わりに、共用廊下側の玄関ドアを少し開けたり、窓を開けたりして暮らしています。高層階なので、風の力が地上よりも強いのです。風量は、窓の開け加減で調整しています。
たしかに玄関から奥へと流れを繋げていくことで、すうーっと風が通ります。
玄関前が涼しくて、現場に通っていた時も打ち合わせはいつもこの場所でした。
(ただ図面等は飛んでしまうので注意は必要でしたが)
部屋の中央に可動木造部屋を設置したのですが、この木造部屋の高さを低めて上部はロフトとしても使用できるようにしました。ロフトの上部でも室内同様、高層階に吹く心地よい風が感じられます。
このプロジェクトで何より嬉しかったのは、この住まいで、子どもたちが活発に動き回り、自然光と暮らすことで体内リズムが外の環境とリンクして、早寝早起きの健康的な暮らしになったと報告を受けたことでした。
自然と健康的な人間の暮らし、まだまだ切っても切れない関係にありそうです。
*
「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年から2019年まで特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事を務めた。一級建築士。2020年、松田まり子建築設計事務所設立。
◇沖縄からの便り 他の記事を読む
・vol.1 2013年夏編
・vol.2 2014年冬編
・vol.3 2014年夏編
・vol.4 2015年冬編
・vol.5 2015年夏編
・vol.6 2016年冬編
・vol.7 2016年夏編
・vol.8 2017年冬編
・vol.9 2017年秋編
・vol.10 2018年夏編
・vol.11 2019年夏編
・vol.12 2020年秋編
・vol.13 2021年秋編
・vol.14 2022年秋編
・vol.15 2023年秋編
沖縄からの松田さんから、新しい便りが届きました。
「ここ数年、毎年のように襲来する台風の数は減っているように感じます。
一方でその強さ、滞在時間、動きなど、急には対処できないような事象が増えてきています。
実は竜巻発生率も全国で一番高い地域です。
自然災害が起こりやすい地域であることに身を引き締めて、設計と向き合っています。」
自然災害が多い地域ならではの住まいを守る工夫と、それがもたらす暮らしへの安心感についてご紹介いただいています。
詳しくは「沖縄からの便り vol.14」をご覧ください。
沖縄を暴風から守る
ここ数年、毎年のように襲来する台風の数は減っているように感じます。
一方でその強さ、滞在時間、動きなど、急には対処できないような事象が増えてきています。
実は竜巻発生率も全国で一番高い地域です。
自然災害が起こりやすい地域であることに身を引き締めて、設計と向き合っています。
恐怖を感じる台風と住まい
「今週、台風来るってよー」
「1000ヘクトパスカル切ったよ。」
「あい〜、買い物いっとかないとね。」
台風の大きさは、ヘクトパスカルで会話しているのをよく耳にします。
私が小学生の頃、台風が来る前にせっせと母がおにぎりを作っていたのを覚えています。
ロウソクとトランプとおにぎり。
停電になると、家族肩を寄せ合ってロウソクを灯してトランプをする、その時間が大好きでした。そんな実は平和な台風時間を楽しめるようになったのは、鉄筋コンクリート造の家に住み始めてからでした。
私に物心がつき始めた頃には、木造の家に暮らしていました。柱にしがみついて、登って遊んでいたのを覚えています。
今考えると、現在の木造とは異なり、建築基準法も未整備な曖昧な時期に建てられたものだったと思いますが、その家では、台風が近づき大雨が降ったら、畳を上げて子供たちは二階に避難することになっていました。当時、那覇は毎年のように浸水していました。
水不足で悩まされると同時に浸水もするという、水害に対して弱い地域でした。
(貯水タンクの話は、vol.4でも少しお話ししましたね。)
台風が近づき始めると、家のどこかに潜んでいたネズミたちが走り出す音が聞こえてきました。ネズミが苦手な母の悲鳴や、強風によってミシミシと揺れる音、ゴォーーーーっという強風の音、そんな音を聞きながら押入れの中に入って、布団の中に潜って夜を過ごしていました。
私が幼稚園生になった頃に、父が鉄筋コンクリート造の家を建てました。
「もう(避難しなくても)大丈夫だよ。」
すっと身体で覚えた安心感は、生活に対する豊かさを生むことをあらためて感じました。
日本で最も美しい村
多良間村は、宮古島と石垣島の中間に位置する宮古列島の島、多良間島にありますが、「日本で最も美しい村」として沖縄で唯一登録されています。
島の周りの珊瑚礁が囲い、集落を囲う擁護林が植えられ、家の周り敷地内に防風林を植えるというように幾重にも守られています。
集落の周りには、さとうきび畑が広がっていますが災害が起こると、孤立化する危険性が高い離島を地域で守っていく「琉球風水」のカタチが残っています。
沖縄の民家は、「屋根の建築」と言われています。
私たちの先人は、高温多湿な上、毎年襲ってくる暴風雨という厳しい条件のもとで、丈夫で美しい屋根を作るために、試行錯誤を繰り返してきました。
雨はできるだけ早く外に排出しなければいけないので、屋根の勾配は瓦葺きで5/10、茅葺きでは10/10を原則としていました。
風を避ける形態として、寄棟型が標準となり、切妻造はよっぽどのことがない限り採用されませんでした。
自然条件に対する共通の対処方法として、美しく丈夫で無理のない形が集落全体の統一的な景観が広がり、美しい集落を守っている形になりました。
首里城の城壁
暴風から守る琉球風水といえば、首里城の城壁のデザインは、欠かせません。
自然の地形を生かした緩やかなカーブになっています。湾曲することで強風を和らげていると言われております。また双方からくる風を城の上空で合殺し風から城を守っているという説もあります。
さらには隅角部が上を向いて一部天を指すかのようなデザインがありますが、これは、城壁の角で風を切り分圧させる効果を狙ったという説もあります。
CFDのような風シミュレーションソフトなどない時代に、風解析を行っていたという事実こそ、強風と涼風と共に暮らしていた歴史が感じられます。
建物や住まいを一戸一戸守ることも大切ですが、集落で守る、島全体で守る、その精神が根付いているのが沖縄らしさなのかもしれません。
その形態が強く美しい地域につながっていった先人の心を忘れずに、私たちが何を大切にしていけばいいかを考え続けていきたいと思います。
*
「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年から2019年まで特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事を務めた。一級建築士。2020年、松田まり子建築設計事務所設立。
◇沖縄からの便り 他の記事を読む
・vol.1 2013年夏編
・vol.2 2014年冬編
・vol.3 2014年夏編
・vol.4 2015年冬編
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・vol.10 2018年夏編
・vol.11 2019年夏編
・vol.12 2020年秋編
・vol.13 2021年秋編
・vol.14 2022年秋編
私は、その町の町営の集合住宅の計画、設計チームの一員として関わらせていただきました。2016年の夏前から設計が始まり、着工が2017年、2021年3月に竣工した、約5年に及ぶプロジェクトです。」
木造二階建て二戸一、三戸一の住宅棟を8棟、木造平屋のコモンハウスが1棟、各住戸に熱を供給するプラント設備を格納するエネルギー棟という構成で、一つの大きな建築物ではなく、分散型の配置になるという、徳島県神山町 大埜地集合住宅についての詳細は、下記よりご覧ください。
『徳島県神山町 大埜地集合住宅』について
徳島市から西へ車で約1時間、いわゆる中山間地域に神山町というところがあります。最近は若者の移住希望者が増えていることでも話題になっている町です。
私は、その町の町営の集合住宅の計画、設計チームの一員として関わらせていただきました。2016年の夏前から設計が始まり、着工が2017年、2021年3月に竣工した、約5年に及ぶプロジェクトです。
木造二階建て二戸一、三戸一の住宅棟を8棟、木造平屋のコモンハウスが1棟、各住戸に熱を供給するプラント設備を格納するエネルギー棟という構成で、一つの大きな建築物ではなく、分散型の配置になります。
神山町では、現地のNPOが20年近く前から町を元気にする事業を各種展開してきたなどの経緯があります。現在でも人口は減っていく、いわゆる過疎地域ではありますが、筋肉質な地域づくりをしよう、町を将来世代にきちんと繋いでいこう、という気運がありました。
そうした中で、移住希望需要の顕在化、これからのまちの住まいをどうしていこう?という関心ごとなどがあるなか、町営の集合住宅を作ることが提起されたということです。
ひとがその町に暮らしていきたい気持ちになるには、その町によい人との関係性、よい住まい、よい教育があることだ、という言葉をこのプロジェクトを通じて度々聞きました。
この共同住宅も単に人が住める「箱」を作るのではなく、住んでいてさまざまな可能性が広がるようなものにしよう、という目標像を関係者が皆で共有し、計画、設計をスタートしています。
今回のプロジェクトにおける設計チームはランドスケープデザイナー、建築設計者の混合チームによる協働です。単なる「箱+庭」という小さくまとまった場ではなく、この集合住宅が、周りの風景とどう繋がっていくか、住人同士の関係性をどう下支えするか、地域の資源、地域の職人さんとどういう関係性を築いていくか、ということを設計においては念頭にしています。
今回協働させていただいた、ランドスケープデザイナーの田瀬理夫さんが「”住宅集合”ではなく、”集合住宅”を作る」という趣旨のことを言われていたのをよく覚えています。
また、設計チームの体制づくりで、面白い試みをしたのは、若手の設計スタッフ数名をこのプロジェクトのために公募したことです。
設計が終わり、監理の段階になったら、現地に常駐することが条件でした。いわゆる町との関係人口を増やす意図もありましたが、集合住宅づくりを通じて、その周りのさまざまな関係性を築くハブ役を担うことが期待されたのです。
この集合住宅の計画においては、さまざまなテーマが設定されました。
この集合住宅計画の中で、特徴的なのは、各世帯の住居とは別に、住宅地の中にコモンハウス(木造平家 約146㎡)を備えていることです。住宅地の中では、鮎喰川に沿った場所に立地し、川というコモンスペースと一体となったような場所と風景を構成しています。
従来、人々は川に向かって暮らしを営んできました。それがいつしか、排水を流す処理の場となり、まだ清流の名残をもつこの鮎喰川にも徐々に視線が向かなくなっている状況があります。
そこで、この計画では、川沿いを「鮎喰川コモン」と称して、川の流域をパブリックアクセスができる場所にしよう、ということにしました。このコモンハウスもそうした場所の一角に配置されたわけです。
このコモンハウスは集合住宅の住人専用、ということではなく、地域の住民も寄れることが可能な仕組みにしています。多様な住人との関係しろが生まれることを期待してのことです。
コモンハウスの中は、大きく分けて畳の小上がりがある空間と、テーブル/椅子が置いてある図書室/自習室的なしつらいの空間の二つです。
小上がりの方は、主に、小さなお子さんを抱える住人の方々が利用しているようです。また、自習室の方は、学校帰りの子供たちが立ち寄り、まさに宿題をしたり、友達と遊んだりしています。
こうした中山間地域では、学校が終わると、スクールバスなどで自宅に真っ直ぐに帰宅し、意外と友達との放課後の交流の機会が多くないと聞きました。このコモンハウスには、子供たちに読んで欲しい本や絵本などを備えることも行い、子供たちの家や学校以外での居場所をつくっています。
神山町は土地の8割以上が森林に覆われています。その資源を積極的に活用した建築づくりを今一度掘り下げることで、建築づくりの可能性を広げる、と同時に地産地消の環境に配慮した住まい作りが実現できないか、ということが大きなテーマになりました。
山から切り出された杉、檜の原木を地元の製材屋さんが挽き、その材を設計内容にしたがってまずは町が購入する。伐採時期が限られていたり、無垢の材は乾燥期間が必要なため、必ずしも、行政の年度会計になじまないことから、材の調達から家づくりまでを2年がかりで丁寧に行なっています。これを機会に、町では町産材認証ガイドラインを策定しています。
また、大工職人さんたちに腕を振るってもらうことと同時に、町の中で加工をすることにより町外へ費用が出ていかない、ということも意識してプレカットではなく、手仕事を重要視しました。
また、環境配慮型の仕組みを備える住まいにしていますが、そうした新しい技術に触れる機会ともなりました。
そうして、建設業が単なる請負業、ということからもう一歩広がり、これからの時代に大事な「価値」を創造して行く生業になることにつながるとよいな、と思います。
また、この建設で使われた地域の素材は木材だけではありません。地域の土、石、杉皮などが建築以外にも外構含め、随所に多用されています。
また、この敷地にはかつて鉄筋コンクリート造の地元の中学校の学生寮が建っていました。構造的に再利用が困難ということでそれを解体し、この集合住宅を建設することになったわけですが、通常なら解体されたものは廃棄物として処理されるところを今回はそれを敷地内で細く砕く処理をし、敷地の地盤の基盤整備に全て再利用しました。この時の解体ガラは外構のしつらいにも使用されています。
寮で使われていた、自転車置き場や、寮の看板なども丁寧に修理し、再びこの集合住宅の中で活躍しています。
今回の計画では、住宅棟は8棟を3列に配置しました。全ての住戸から周辺の山々への風景の見え方、川への向き合い方などが吟味され、ランドスケープが計画されています。
都会の狭小な住宅地では一般的には南側に建築が開け、北側はなんとなく「裏」的な雰囲気になって設備類が仕方なく配置されるような計画が多いのですが、ここでは、建物周囲全部が住人たちにとってのパブリックである、という認識のもと、「裏」を作らない、ということが意識されました。
神山町の伝統的な家屋に特徴がある「大蓋(おおぶた)」=「おぶた」という建物を囲む半外部の下屋根構造に着目し、この住宅の北側にも大きな下屋根を仕立てています。
そうすることで、その下に居場所を作り、南側と北側がともに住人たちが使える場所としています。しかも平面計画的に、南側と北側は室内の通り土間で結ばれていて、物理的に風通しがよい状況となっているのに加えて、建物周囲をぐるぐると巡ることができるようになっています。
各住戸には南側に大小の庭をしつらえ、簡単な家庭菜園も営めるようにしています。垣根をめぐらすことで、住人同士の程よい適度な距離感を形成することを意図しています。
また、その垣根に沿った植物は、地域植生を大事にしよう、ということで、地元の山に入り、そこから苗や種を採取してきて、育苗したものを植えています。その役割を担ったのは、地元の農業高校の高校生たちでした。
住人用の駐車場はまとめた場所に整備し、各住戸に付随した計画とはしませんでした。人と車の空間を分けることで、より人間主体の場所として生かすことを目指したわけです。
健やかな暮らしは健全で正直な建築において成立しやすいのではないか、と思います。今回の計画では、できるだけ環境に対する負荷が少ない住環境を作ることが一つの大きな目標でした。
できるだけ建物周囲の自然環境を生かし、あまり空調装置には頼らなくても済むような設計としています。そのために、気象観測装置を建設地の近くに設置し、風向、日射などのデータを取得し、参考にしながら設計をしています。
この場所は山間の場所なので、冬はそこそこ寒くなりその暖房対策が必要となります。建物の断熱性能はきちんと確保しているものの、できるだけパッシブデザインを意識し、南側の開口からの日射取得を考慮しています。
冬にその日射が届く床面はコンクリート平板を利用した土間となっていて、多様な暮らし方ができるよう仕立てていると同時に、日射熱の取得を意図しています。また積極的な仕組みとしては、屋根面(金属仕様)での日射取得熱を小さなファンで室内に送り込む仕組みも取り入れています。
夏場の日射コントロールには、建物の外部環境の仕立てもの大事になります。各住戸の前には大きく育つ落葉樹を植えました。いずれ育つと夏は日射を遮り、冬は日射を建物まで透過してくれる役割を担ってもらえるはずです。
建物の開口部の上には開口する欄間を、また屋根には天窓を設け、夏の夜間の通風、熱排気が十分できるよう配慮しています。
また、一般的に住宅では年間で使われるエネルギーのうち給湯と暖房の合計が4から5割になりますが、そのエネルギーをガスや灯油のような外部からのものに頼るのではなく、地元の資源で賄おう、ということになりました。
エネルギーもいわゆる地産地消の木質資源です。
熱エネルギーを供給するプラント建屋を設け、その中に65kWのペレットボイラーを2基と蓄熱槽を備えていて、温水を作り、そこから地下配管で各住戸に温水熱供給をしています。
日本国内ではまだ少ない事例の一つとなります。
また、もう一つ、環境への配慮というテーマで忘れてはならないのが「水」です。ここは特に、町の真ん中を通る鮎喰川という存在がありますから、水に対する意識をどうこれから取り戻して行くのか、ということが大事です。
この集合住宅では排水は一旦、合併処理式浄化槽にて浄化されます。通常であればそのまま環境中に放水されるわけですが、ここではその前に「浄化池」を設置し、そこで排水をさらに植物浄化した上で、放流しています。そうすることで過分な栄養素が川に流れ込むことを抑えると同時に、池が生物多様性の温床になることを意図しています。
こうして、素材、エネルギー、水 いずれも環境との関係性の中で連続的にデザインを実現することを心がけています。
また、住人たちも建物の外側の世界に目を向ける、町に対する眼差しを育んでいく。
こうした住環境を整えて行くことで、総合的な環境価値が高まり、地域の風景が整っていくことにやがては繋がって行くのではないか、と思います。
この集合住宅はまだ竣工間もない状況ですが、高校生たちが植えた木々がこれから年月をかけて大きく育ち、やがて、神山の風景の一部になって行くことを楽しみにしています。
*
山田貴宏(やまだ たかひろ)
早稲田大学建築学科都市環境工学修了。清水建設、長谷川敬アトリエを経て、現在ビオフォルム環境デザイン室主宰。主に国産材と自然素材を中心とした、地産地消でかつ伝統的な木の家造りを中心とした建築/環境設計を行う。パーマカルチャーのデザイン手法・哲学を背景とした住環境づくりをめざす。建物とそれを取り巻く自然/コミュニティまで含めた幅広い環境と場づくりがテーマ。
著書:「畑ついているエコアパートをつくろう」(自然食通信社 共著)、「里山長屋をたのしむ」(学芸出版社)
◇山田貴宏 さん その他の記事一覧
・里山長屋からの便りvol.1『夏編』
・里山長屋からの便りvol.2『冬編』
・里山長屋からの便りvol.3『住まいの温熱環境を科学的に理解する時代』
・里山長屋からの便りvol.4『あたたかな住まいのなかから考えた』
・里山長屋からの便りVol.5『陸前高田市 施設「ペチカ」について』
沖縄からの松田さんから、新しい便りが届きました。
2021年10月7日にkkj会員向けのオンライン見学会でご紹介いただいた「花ブロックの家」の日射遮蔽方法について、改めて詳しく紹介していただいています。
「先日設計を行った住宅を案内しているときに、こんな質問をされました。
どうして住宅の北東面の外壁は花ブロックで日射遮蔽を行っているのに南東面や南西面の壁面にはしないのですか。」
その答えを知りたい方は、松田さんの記事をご覧ください。
だんだんと風が涼しくなってきました。
沖縄にもやっと夏の終わりを感じはじめました。
皆さん、今年はどんな夏をお過ごしでしたか。
沖縄では緊急事態宣言が4カ月も続き、思うように外出も出来ませんでしたが、
私は娘の自由研究を理由に沖縄県内の天然ビーチ巡りをしました。
今年も台風被害があまりなかった印象で、農作物や住まい手にとっては、良いことなのですが、海の中では、サンゴの白化現象が進むようです。
沖縄のサンゴは台風が来ると、海水温が下がり、ストレスを減らすことができるそうです。
気候変動の影響で、海水温度は上昇を続け、今年の平均海水温度29.9度になりました。サンゴが白化していく温度は30度なので、29.9度と言う海水温は、ほぼ限界の状態です。
2100年には世界中のサンゴが死滅する可能性があるという、科学者の言葉も現実化してきました。地球温暖化はもう止められない。そんな現実を海から目の当たりにしました。
母として娘に、美しい沖縄を残していけるのか。
娘は娘の子供に、美しい沖縄を残していけるのか。
建築士として、私に今何ができるのか。
海を眺めながら、そんなことを考えていました。
先日設計を行った住宅を案内しているときに、こんな質問をされました。
どうして住宅の北東面の外壁は花ブロックで日射遮蔽を行っているのに南東面や南西面の壁面にはしないのですか。
理由は2つあります。
1つめは
方角的に南西面のほうが北西面より日射量が少ないからです。
沖縄の夏期の日射量はほとんど南面からは受けません。
東京と比べると半分程度になります。
圧倒的に1番多いのは水平面で、その次に東西面が日射を受けます。
実は南西面よりも北西面の方が日射量は大きいです。
2つめは、日射遮蔽方法として耐候性のある白色塗料を採用しているからです。
白色塗料を施行した外壁面の温度は約30度になります。塗料を塗っていないコンクリートの壁に比べ約15度も違いがあります。
実際に手を動かして計算してみると、どこの日射性能を高めると効果があるのかがよくわかります。
確かに敷地に余裕があれば、もっとコストに余裕があれば全周囲に花ブロックを設置できたかもしれません。
でも常に予算を考え、使い勝手を考え、バランスをとってその場所に相応しいものを取捨選択していくのが建築士の役目です。
建築士は、施主の要望に常に100%応えるのが理想ですが、ここは80%、ここは20%と判断することで、建物全体の施主の満足度を上げていきます。
つまり常に白黒はっきりさせるのではなく、グレーゾーンを攻めていきます。
同じように
断熱をすれば室内に熱が入ってこない=断熱しなければ熱が入ってくる
という考えではなく、断熱できない場合の対処法を用意する。という選択肢を増やすことが望ましいと考えています。
日射遮蔽性能は熱を入れない。
断熱性能は熱を逃さない。
一見同じような性能で、どちらかを高めればどちらも効果が上がりそうですが、
日射遮蔽性能には、日射の条件が大きく関わってきます。
方位や建物の周囲の条件も重要な要件です。
例えば、隣地に高層建築物があり影になるところは、
そこから日射は入ることはほぼ有りません。
隣地に建物がなくなってしまうと話が変わるので、
建築物省エネ法では認められていませんが、
建築士の判断としては敷地を読んで計画を行えると思います。
外部ルーバーをつける
和障子を設置する
庇や軒を設ける
といった建築物省エネ法では認められている手法でなくても、
白色塗料で反射させる
ガラスに何かしらシートを貼る。
遮光カーテンをつけ、昼でも外出時は閉める。
すだれをつける。
緑化をする。
雨水を溜めて打ち水をする。
等、たくさんの選択肢があります。
大切なのは、いかにエネルギーを減らすことなのだから、熱的に効果があると明らかである場合、どんどん採用していいと思っています。
なるべく設備を使わないで過ごせる住宅が増えていけば、沖縄県の住宅に使うエネルギーは今後削減されていくかと思います。
(出典:環境省より https://www.env.go.jp/press/files/jp/114774)
(エネルギー量は少なくても、原子力発電のない沖縄ではCO2排出量は多い)
沖縄県には約9割を超える鉄筋コンクリート造のストックがあります。
今後これらの省エネ改修工事について真剣に取り組んでいかなければいけません。
その際より多くの省エネ手法による選択肢を用意していければ、より経済的に合理的に省エネを進めていけます。
敷地を読み、建築条件を捉えて、コスト、施工条件を検証する。
我々建築士の力の見せどころです。
美しい未来を子供達に残せるように、身を引き締めて取り組んでいきたいです。
*
「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年から2019年まで特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事を務めた。一級建築士。2020年、松田まり子建築設計事務所設立。
◇沖縄からの便り 他の記事を読む
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・vol.11 2019年夏編
・vol.12 2020年秋編
・vol.13 2021年秋編
トヨダヤスシ建築設計事務所 豊田さんからの冬の便りが届きました。
「今回のお便りは、名古屋市の有松という伝統的な建物が残る地域に建てた住まいを紹介します。この住まいは、有松の町並みに寄与したいという住まい手の思いから、「有松再生プロジェクト」と名付けました。」
伝統的な街並みに見事に馴染んだ新しい住まいの詳細は記事をご覧ください。
名古屋からの便り『有松再生プロジェクト』
トヨダヤスシ建築設計事務所 豊田と申します。前回のお便りは2019年の冬でしたので2年ぶりのお便りとなります。
今回のお便りは、名古屋市の有松という伝統的な建物が残る地域に建てた住まいを紹介します。この住まいは、有松の町並みに寄与したいという住まい手の思いから、「有松再生プロジェクト」と名付けました。
私が、この土地に訪れたのは、2015年の11月。いくつもの壁にぶち当たったものの、2018年末、伝建審議会と有松町並み相談会での協議を経て、有松再生プロジェクトを着手することができました。
切妻平入、桟瓦葺き、瓦のカマボコ、下見板張り、ケラバ木現など、伝統的意匠を守りつつ、耐震等級2、断熱等級4、省エネ等級5、外皮平均熱貫流率UA値0.54の性能を確保しました。古くから残る街並みにあわせると、性能設計ができないような風潮もあるのですが、やってみれば、それなりにできるものです。
隣家は、ご覧の通り立派な伝統建築です。その間に建てるということもあり、従前の建物の規模を踏襲しつつ、コの字型平面とすることにより屋根を分節し、周囲の建物の高さを超えないように配慮しました。
敷地は、真南から45度傾いていたため、集熱は、南西方向から最大限取り込めるように検討しています。夕方以降に集熱量が多いことを踏まえて、集熱が多い部屋に土を塗り蓄熱性能を発揮させました。
夏至は、太陽高度が一番高い時なので、この図以降は日差しが入り込みます。敷地が45度振っているため、袖壁や庇を設けて遮蔽措置を行い、隣家へのプライバシーも考慮し最終的に窓の位置や軒庇の出が決まりました。
秋から冬にかけては、日射取得が多くなります。壁は、土壁なので、直射が当たり蓄熱します。
冬至は、建物奥のダイニングテーブルぐらいまで日射取得があることをシミュレーションで確認しています。
名古屋市の最寒日の前後3日間の外気温を元に、室温がどのくらいになるのかシミュレーションしました。本建物は、Q値1.8W/㎡K、熱容量130KJ/㎡Kです。その他、Q値と熱容量を上下させて、4種類の建物の性能値を比較しています。結果は、熱容量が大きいと、温度差が小さくなるので、土壁効果が発揮できています。
集熱を確保するLDKの開口は、全面開口とし、メーカー製の木製建具を使用しています。正面の壁は、土壁です。
土壁は、木小舞下地です。木と木の隙間は約21mmあいています。見た目は、木摺ですが、木摺と説明してしまうと、木と木の隙間を6mmぐらいとして仕上られてしまうので、木小舞という呼び名にしています。写真を見てもわかるように木小舞が張られた瞬間が一番綺麗かもしれません。木小舞背面は、塞がっているように見えますが、雨養生のため仮止めをしています。土壁が乾燥した後、羊毛断熱材を充填し、面材で塞ぎます。
荒土塗りです。今回は、名古屋という土地柄もあり、工務店さんの左官屋さんにお願いしました。発酵させた豊田の荒土を使われています。
荒土塗り、中塗りと終わり、次は仕上です。左官屋さんの作業場へ見学に行った際、置いてあったサンプルをみて、LDKの壁は、豊田土半田なできり仕上に決まりました!半田は、土と石灰を半分ずつ混ぜあわせることから、半田と言われています。今回は、豊田土にヒダシスサと石灰、砂を混ぜてつくっています。
こちらが練りあがった半田です。若干、水気が多いように思いましたが、仕上がりはどうでしょうか。
半田を天井に塗ります。土を天井に塗れるのか?すぐに剥がれてくるのでは?と心配になる方もいますが、問題ありません。石膏ボードに白い下塗材を塗り、半田を塗ります。
半田が乾燥し仕上がりました。光をあてるとその質感が浮かび上がります。クロスやペンキでは出せない表情です。土を手仕事で仕上げるってやっぱりいいですね。
豊田土半田なできり仕上のアップ写真は、グレーっぽい色目ですが、遠目で見ると、茶色系です。木部の色目と調和が取れて、とても穏やかです。
こちらは、洗面室です。奥に洗濯室とサンルームがあります。サンルームは断熱・防湿区画を行い、トップライトを設けてパッシブゾーンとしました。
サンルームは、トップライトがあるので集熱量が多く、温度・湿度の変動が大きくなるため、その変動効果を利用し、冬期の熱と水蒸気を室内に取り込みます。正面小窓の左手にセンサー付きの換気装置を設けて、熱と水蒸気を室内の寝室へ配り、室温上昇と加湿を試みます。
ある一定の温度になると換気扇が動きだし、この吹き出し口から熱と水蒸気が室内へ排出されます。日中の不在時に寝室の土壁に蓄熱・蓄湿してくれる計画です。私はこれを土パッシブ暖房と呼んでいます。簡易的なものなので、やんわり効いてくれればいいなと思っています。
次にお庭です。コの字型の平面計画ですので、庭師さんに中庭をしつらえてもらいました。庭師さんのデザインセンスを知っていたので、私はほとんど口出しせず、全てお任せしました。苔をお願いしますと伝えたぐらいです。
中庭の完成です。高木は、全て紅葉です。庭石の周辺に杉苔が植えられています。周囲は排水のため瓦の上下に砂利敷。見事な中庭に仕上がりました。素晴らしい。
ファサードです。左手格子戸の奥に車庫があります。格子は、オーバースライドドアになっているので、入出庫時は、格子が自動で跳ね上がります。
開閉動画は、よければ、YOUTUBEをご覧ください。
最後に。
とりとめもなく紹介しましたが、2020年3月に無事竣工することができました。まさか、4年半もの間、この有松の地に係ることになるとは思いもせず、正直なところ、最後まで何か起きるんじゃないかと、ドキドキしていたのですが、最後はスッキリして終えることができました。
有松再生プロジェクトでは、設計の依頼をしてくださった住まい手に感謝すると共に、この仕事に携わっていただけた工務店さんや協力業者さんのおかげで見事な出来栄えとなりました。ありがとうございました。(終)
1974年京都生まれ。瀬戸本淳建築研究室、Ms建築設計事務所を経て、2005年トヨダヤスシ建築設計事務所開設。岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師。京都芸術大学・大学院非常勤講師。一般社団法人住宅医協会理事。代々続く左官職人の家に生まれた経歴から、土壁や漆喰など伝統素材を使いつつ、風と太陽と土の力を活かす住まいづくりを実践している。
「有松再生プロジェクト」で、令和2年度第28回愛知まちなみ建築賞・受賞、同年度第52回中部建築賞住宅部門・入選。その他、令和元年度京都景観賞 京町家部門 市長賞受賞、令和元年度紀州材ベストユーザー賞-大賞受賞、「第5回サスティナブル住宅賞・国土交通大臣賞〔新築部門〕も受賞している。
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沖縄からの松田さんから、新しい便りが届きました。
今回は焼失から1年経った首里城での再建イベントのレポートから、令和2年度よりRC造も対象となった「サステナブル建築物等先導事業(気候風土適応住宅型)」において採択された沖縄のRC造とCBと木の混構造の2住宅のうち、松田様が提案した「風と生きる花ブロックの家」についてご紹介いただいています。
本稿の中で松田さんは、コロナ禍による生活様式の変容も踏まえ、内と外が一体となった住宅の重要性についても触れられています。
「沖縄建築に限らず、もっと外で快適に過ごすことを提案していくべきではないかと、考えています。
そして、それが省エネにも健康にも文化継承にも役に立つのならもっと推奨していけると思います。」
詳しい内容はこちらからどうぞ
首里城が焼失して1年が経ちました。
首里城公園では、この節目に首里城プロジェクションマッピング・首里城復興沖縄空手演武会を行いました。昨日は満月で、また台風が近海で発生しているせいか、風が心地よく吹いていたので自宅から徒歩で首里城に向かいました。
私にとって首里城は、実は祖父が戦争で焼けた首里城跡に土をかけて整地を行っており、父が30年前に復元設計を担当して、現在兄が沖縄県で再建に関わっており、どこか近いけど、どこか遠い存在です。子供の頃、父に連れて行ってもらった首里城跡の敷地、高校時代首里城で過ごした思い出、そして大人になって建築の仕事を就いてからの感じる想い、日々変化していきました。
「土地の記憶」について、建築との関わりを深く考えるようになりました。
沖縄の文化、風土を大切に未来に残していきたい、そんな沖縄県民の想いが一丸となっているのを感じています。
同じように、私たちは環境共生住宅という観点からも沖縄の気候風土を生かした住まいを、未来に残していきたいと思っています。
まさに昨年の夏の投稿で、「サステナブル建築物等先導事業(気候風土適応住宅型)では、木造のみを評価していますが、RC造、混構造は、気候風土に適応していない構造なのでしょうか。」
と書いておりましたが、今年度からなんとRC造も対象となり、私を含め沖縄からRC造とCBと木の混構造の2住宅が採択されました。
外部が過酷な環境ではない沖縄では、快適な外部を生かした住まいが省エネにつながります。
一方で、強い紫外線や塩害、台風常襲地であるため耐候性は重要です。さらに温度だけでなく、常に湿度が高いためその対策も検証する必要があります。
ある程度、断熱と気密で守られれば快適につながる住宅よりも、開放型住宅への評価は、もっと複雑です。
だからといって、評価を今後もしないとなると沖縄らしい住宅が減っていき文化も景観も変わっていきます。(実は、もうすでに変わってきています。)
日射遮蔽性能について、蒸暑地以外では省エネに繋がらないことや塗料のように実際色の確認が容易でない、劣化がしやすい、等の理由で評価につながっていないものもあります。
今回、提案した住宅に関して独自に日射遮蔽効果を試算したところ法基準による計算では、冷房エネルギーを年間42GJ使うという結果でしたが、日射遮蔽効果を加味して試算すると26GJ使うという結果になりました。
現在のところ、外皮基準も冷房期の平均日射熱取得率が3.2から6.7に運用されることが決定しているので、法基準に満たされない住宅は、ほとんどなくなりました。
でも根本的な課題を避け、なくなったようにしているだけなのかもしれません。
これから新築でのZEH(ゼロエネルギー住宅)を平均化していくという方針であれば、例えば沖縄では実際は26GJしか使われない冷房エネルギーを42GJ使うという判断で、再生エネやそれに替る設備投資等を行わないといけなくなる可能性があります。
もちろん、今までの建築様式を変えて対応すれば容易にクリアできるのかもしれませんが、どうして間違った造り方をしていないのに、変える必要があるのでしょうか。
変えることで受け継がれてきた風土や文化は、どのように変容を遂げてしまうのでしょうか。
さらに今年は新型コロナウィルスの感染が広まり、多くの犠牲や命が失われていきました。
今書いている時点(2020年10月31日)は、沖縄県では、32人の感染が新たに確認され、直近1週間の人口10万人当たりの新規感染者は14.48人と29日連続で全国ワーストが続いている状態です。
沖縄建築に限らず、もっと外で快適に過ごすことを提案していくべきではないかと、考えています。
そして、それが省エネにも健康にも文化継承にも役に立つのならもっと推奨していけると思います。
ZOOMやSKYPEなどが常用されるようになってから、「場所」としての意識も強く考えるようになりました。
沖縄にいる意味はなんだろう。ここでしか体験できないことはなんだろう。
もちろん、もっと健康を考える。自分で治せる免疫力をつける。
ちょっと疲れたり微熱があればしっかり休む。そんな当たり前のことを見直すきっかけになりました。
人との関わりを大切に、なんでもない普通の幸せな毎日を過ごせていけたらいいですね。
皆様もどうぞご自愛なさってください。
*
「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年から2019年まで特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事を務めた。一級建築士。2020年、松田まり子建築設計事務所設立。
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・vol.6 2016年冬編
・vol.7 2016年夏編
・vol.8 2017年冬編
・vol.9 2017年秋編
・vol.10 2018年夏編
・vol.11 2019年夏編
・vol.12 2020年秋編
北海道の櫻井さんから、春の便りが届きました。
今回は、2019年の秋にご紹介いただいていた「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」のその後についてご紹介いただいています。
「2019年10月から始まった第2期募集も、おかげさまで着々と建設希望者さんが決まり、第3期の準備も始まっているようです。」
「ヴィレッジのプロジェクトが始まった時は本当に周りにお家が少なかったのですが、気がつけばすっかり住宅地の雰囲気です。ヴィレッジ内は千鳥に配置計画されているので隣家との距離が取れてゆったりしています。
おかげさまで、第1期に「てまひまくらし」というモデルハウスを武部建設*1さんとのコラボレーションで建設させていただいてから、「てまひまくらし」を気に入ってくださったお客様から依頼をいただき、隣地を空けてお隣に住宅を建設中です。」
詳しい内容はこちらからどうぞ
春の北海道からお届けします。
新型コロナウイルスの影響で、世界中がざわついて、オリンピックもついに延期になってしまいましたね。いつも通りの毎日を過ごせずに、歯がゆい日々を送られている方々もたくさんいらっしゃると思います。また、亡くなられた方々には心からご冥福をお祈り致します。
そんな状況ですが、いつもより早めに北海道にも春の足音が聞こえて来ました。社会の状況は不安でいっぱいですが、いつもと変わらない日差しが日に日に暖かくなって来ているのを感じてホッとする思いです。
ようやく春めいて来た北海道から2019年冬に寄稿させていただいた、「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」*1の引き続きその後をご案内したいと思います。
2019年10月から始まった第2期募集も、おかげさまで着々と建設希望者さんが決まり、第3期の準備も始まっているようです。
ヴィレッジのプロジェクトが始まった時は本当に周りにお家が少なかったのですが、気がつけばすっかり住宅地の雰囲気です。ヴィレッジ内は千鳥に配置計画されているので隣家との距離が取れてゆったりしています。
おかげさまで、第1期に「てまひまくらし」というモデルハウスを武部建設*1さんとのコラボレーションで建設させていただいてから、「てまひまくらし」を気に入ってくださったお客様から依頼をいただき、隣地を空けてお隣に住宅を建設中です。
武部建設さんとのコラボレーションで2棟目を計画するにあたり、
・1棟目「てまひまくらし」で得た経験を最大限生かし、さらに合理的に無駄なく良いものを作る。
・階高、間口寸法、屋根勾配、地域材の外壁については「てまひまくらし」踏襲して、町並みとしての統一感を図る
・プラン、配置計画はクライアントの暮らしに寄り添いフィットする提案をする。
というテーマを決めて、1棟目での反省点をお互いに確認し会って2棟目に生かしながら計画を進めました。
おかげさまで、その後3棟目(2020年7月着工予定)4棟目(2020年秋着工予定)と、つぎつぎお声かけいただき、次なる3期目を視野に入れて頑張っているところです。
現場監理でしょっちゅうヴィレッジに行きますが、第1期の住まいを購入された方々、ヴィレッジ周辺の住まいの方々と次第に良好なコミュニティができつつあることを肌で感じます。
ご近所の小学校高学年くらいのお兄ちゃんやお姉ちゃんが、小さな子達を面倒見ながら一緒に遊んでくれていたり、ほほえましい光景を垣間見たりします。
北海道、南幌町主催で住民の方々の懇談会も数回開催されて、すでにお住いの方々、これから移住される方々が集まり、ヴィレッジでのこれからの暮らし方を話し合う場も設けられ、「ガーデニングをしたいけれど、わからないことだらけ。詳しい方を呼んで、みんなで教えてもらう機会があったらいいね。」「隣地の草刈りは、みんなでヤギを飼って食べてもらったらいいよね。」「今年は雪が少なかったけど、敷地内のマウンドがいい滑り台になって楽しめた。」などなど、楽しいヴィジョンや南幌暮らしを楽しまれている雰囲気が伝わる懇談会でした。
産官学で協働しているからこそその後のサポートもしやすいメリットもあるのではないでしょうか。プロジェクトの枠組みの押し付けではなく、
趣旨を理解くださっている方々が住まわれることで、共有意識も芽生えて、他力本願ではなく純民の方々の当事者意識も高まりながら良好なコミュニティが育っていくきっかけになっていけば良いと思っています。
ちょうど、新たな北海道における住宅のスタンダードを目指す「北方型住宅2020」*3の基準が正式に北海道庁より発表されました。「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」では全棟この新基準が適用されます。これまでの北方型住宅基準に比べ、断熱性能がさらに向上し、
耐震性能を強化させることで、より快適で安全な暮らしを手に入れることができます。
また機会があればぜひ3期目の様子もレポートできればと思います。
<関連サイトのご紹介>
*1 南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ
https://www.kita-smile.jp/kitasmilevillage
「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」は、北海道、南幌町、北海道住宅供給公社、(一社)北海道ビルダーズ協会、(公社)日本建築家協会北海道支部が主催し、北海道がおススメする地域工務店と建築家(きた住まいるメンバー)が、南幌らしい暮らしとまちづくりを提案するプロジェクトです。
このような取り組みが、南幌町にとどまらず同じような課題を持った市町村にも波及していく可能性を探りながら、さらなるモデルプロジェクトとしての役割を果たせればと思っています。
*2 武部建設株式会社
https://www.tkb2000.co.jp/story/temahima/
*3 北方型住宅2020
https://www.kita-smile.jp/north2020
https://www.kita-smile.jp/img/north2020.pdf
*
櫻井 百子(さくらい ももこ)
1973年北海道旭川市生まれ。北海道東海大学芸術工学部卒業後、都市計画事務所、アトリエ設計事務所を経て2008年アトリエmomo設立。身近な材料を使いながら、こころや環境にできるだけ負荷の少ない設計を心がけている。平成22年度 北海道赤レンガ建築奨励賞、2011年度 JIA環境建築賞 優秀賞 (住宅部門) 受賞。
[北海道からの便り バックナンバー]
・北海道からの便り vol.1
・北海道からの便り vol.2
・北海道からの便り vol.3
・北海道からの便り vol.4
・北海道からの便り vol.5
・北海道からの便り vol.6
・北海道からの便り vol.7
・北海道からの便り vol.8
・北海道からの便り vol.9
北海道の櫻井さんから、久しぶりのお便りが届きました。
今回は、2017年に少しお話いただいていた「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」のその後をご紹介いただいています。
『「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」は、北海道、南幌町、北海道住宅供給公社、(一社)北海道ビルダーズ協会、(公社)日本建築家協会北海道支部が主催し、北海道がおススメする地域工務店と建築家(きた住まいるメンバー)が、南幌らしい暮らしとまちづくりを提案するプロジェクトです。
全国的にも珍しい取り組みだと思うのですが、産・官・学連携で住宅展示場を開設、運営できるのは、厳しい気候の中でより良い住環境を提供するために常に情報交換をしながら技術や経験を積み重ねてきた先人たちのおかげで、そういう誇れる文化が北海道にはあるからだと思っています。
このプロジェクトの素晴らしいところは、ただ住宅や土地が売れれば良いということでなく、今私たちが建設できる最新の知恵と技術で地域らしい(南幌らしい)暮らしを提案して発信するということです。(本文より抜粋)』
詳しい内容はこちらからどうぞ
冬の北海道からお届けします。
久しぶりに投稿させていただきます。以前の内容を確認していましたら2017年の冬でした。
前回も少し触れさせていただいた、「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」のその後をご案内したいと思います。
「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」は、北海道、南幌町、北海道住宅供給公社、(一社)北海道ビルダーズ協会、(公社)日本建築家協会北海道支部が主催し、北海道がおススメする地域工務店と建築家(きた住まいるメンバー)が、南幌らしい暮らしとまちづくりを提案するプロジェクトです。
南幌町は、南石狩平野のほぼ中央に位置し、岩見沢市や江別市、北広島市、長沼町に隣接しているまちで、札幌からも32kmとほど近く、南幌から札幌に通勤する人も少なくなく、札幌市中心部まで約35分で到着できるという便利な立地も魅力的なところです。
全国的にも珍しい取り組みだと思うのですが、産・官・学連携で住宅展示場を開設、運営できるのは、厳しい気候の中でより良い住環境を提供するために常に情報交換をしながら技術や経験を積み重ねてきた先人たちのおかげで、そういう誇れる文化が北海道にはあるからだと思っています。
このプロジェクトの素晴らしいところは、ただ住宅や土地が売れれば良いということでなく、今私たちが建設できる最新の知恵と技術で地域らしい(南幌らしい)暮らしを提案して発信するということです。
また、日頃設計している住宅は、街の中で点のような存在ですが、このプロジェクトに参加するということは面でまちづくりに関われるということにも魅力を感じ、実力ある地域工務店とタッグを組むということで、岩見沢の武部建設さん*1 にお声掛けして参加に至りました。
「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」のHP
https://www.kita-smile.jp/kitasmilevillage
https://www.replan.ne.jp/articles/5056/
先行して北海道とその委託を受けた日本建築家協会北海道支部が事業のコンセプトや全体計画を進め、2017年1月からプロジェクト参加者の応募がはじまり、その後参加グループが決定、参加グループと関係機関メンバー全員で20回もの全体会議を行いながら、手探りしながらのプロジェクトが進んでいきました。
「クオリティファースト」というテーマを掲げ、「小さく豊かに暮らす」「この“まち”で暮らす」「長くていねいに暮らす」という3つのサブテーマを基盤に6つのグループがそれぞれのモデルハウスの計画を進め、内容は全体会議の中で共有しながら配置計画をブラッシュアップし、千鳥配置による緑のつながりや風の通り道、南幌らしい暮らし方をより生かすことのできる配置計画となりました。プロジェクトを効果的に周知発信するための現場見学会や構造見学会、バスツアーなどのイベントも行いました。
また、特徴の一つとして忘れてはいけないのが、プロジェクトに参加しているメンバーは、北海道が平成26年から登録・公開している、一定の基本ルールを守る住宅事業者である「きた住まいるメンバー」であるということです。
登録には、省エネ・耐久・耐震という「基本性能の確保」、BISやBIS-E*2などの「専門技術者による設計・施工」、家づくりに関する「記録の保管」という3つが求められ、北海道では、基礎基準よりも高い性能を確保し、先進的な家づくりを行う「きた住まいる」メンバーの取組みを「きた住まいるブランド住宅」として登録しており、登録されるためには、長寿命、環境との共生、安心・快適、地域らしさという4つのいずれか、もしくは複数について卓越した技術や先駆的な取組みなどが要件になっています。
2018年6月、それぞれのグループが共通のテーマを基盤に、モデルハウスが完成し、行われた完成イベントには1200人もの来場者がありました。11月までは展示場として随時公開され、約3000人の来場者がありました。11月からは各モデルハウスの販売が本格的に始まり、それぞれの「南幌らしい暮らし」が始まっています。
モデル展示期間から、居住者が住んでいる期間も通して、北海道大学の菊田先生の研究室による通年の温熱環境や空気質などの測定を行なっており、暮らし方のヴィジョンと居住空間が設計者や施工者の意図とマッチしているか、設計時に想定されている温熱環境が得られているかがより明確に見えてくることと思います。
2019年10月からは第2期のプロジェクトメンバーの募集も始まりました。*3
このような取り組みが、南幌町にとどまらず同じような課題を持った市町村にも波及していく可能性を探りながら、さらなるモデルプロジェクトとしての役割を果たせればと思っています。
<注訳>
*1 武部建設株式会社 https://www.tkb2000.co.jp/
*2 BIS BIS-E 登録制度 http://hobea.or.jp/bis/
*3 南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ2期スタート https://www.replan.ne.jp/articles/11941/
*
櫻井 百子(さくらい ももこ)
1973年北海道旭川市生まれ。北海道東海大学芸術工学部卒業後、都市計画事務所、アトリエ設計事務所を経て2008年アトリエmomo設立。身近な材料を使いながら、こころや環境にできるだけ負荷の少ない設計を心がけている。平成22年度 北海道赤レンガ建築奨励賞、2011年度 JIA環境建築賞 優秀賞 (住宅部門) 受賞。
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沖縄からの松田さんから、新しい便りが届きました。
今回は沖縄の風を皮切りとし、2018年から始めている「沖縄の建築士有志で省エネ基準や住宅の温熱環境についての勉強会」についてご紹介いただきました。
「冷房期の平均日射熱取得率をηACAC値についてひたすら手計算で学び、考えている地域は全国でも沖縄だけではないでしょうか。」
松田さんによれば、沖縄でも手計算で学ぶのは、この勉強会だけなのではないか、とのこと。
詳しい内容はこちらからどうぞ
皆さん、今年の夏いかがお過ごしでしょうか。
最近多発している台風の影響もあるのか、外の風を強く感じます。
先日試しに風速計で測ってみたところ、事務所のある建物の前で13.3メートルを記録しました。(2019/8/8)台風9号が近くを通り過ぎるときでした。
日陰には、温度が下がる上に、涼しい風を呼び込むことができる効果があるそうです。なければ強い日差しを浴びて一瞬で日焼けしますね。
観光客の方は、薄着や水着を着て夏の日差しを浴びて日焼けを楽しんでいますが、地元では男性も割と日焼け止めを塗ったり、白いタオルを巻いたりして熱や日差しから身を守っています。
この考えは、建物も同じかもしれません。
2018年から沖縄の建築士有志で省エネ基準や住宅の温熱環境についての勉強会を始めています。
冷房期の平均日射熱取得率をηACAC値についてひたすら手計算で学び、考えている地域は全国でも沖縄だけではないでしょうか。
(沖縄でも手計算で学ぶのは、この勉強会だけだと思います。)
庇はどのくらい出せば有効なのか。出せば出すほど有効なのか。
庇の直下に開口があるのと、垂れ壁があるのはどの程度差異があるのか。
この建物では、どの位置の開口部に設けたら一番効果が高いのか、実際の建物や各々が設計した住宅で検証していきます。
他にも断熱材は、どの種類でどの厚みが最適なのだろうか。
効果だけでなく、シロアリや台風の影響の受けにくい構造など、敷地の条件から考えながら選択するなど想像力や新たな発想力も必要です。
さらに日射遮蔽をいかに安価で高い効果を発揮するものは、どの手法だろうか。
少々高くてもLLC(ライフサイクルコスト)を考えるとどうなるのだろうか。
疑問はどんどん出てきます。
8地域以外では、省エネ基準においてやはりUA値の基準の方が厳しく、ηAC値はUA値をクリアすれば容易にクリアできる状況だと思います。
UA値の基準がない8地域では適正なηAC値はどれくらいか、地域の建築士達の中でも、見直していく時期が来ていると思います。これまでNPOが蓄積してきた住環境の計測データも役に立ちそうです。
この勉強会でわかってきたことの一つは、
ηAC値クリアのためには、
・遮熱塗料や白く塗る必要はない。(効果を数値として算入できない。)
・軒は出す必要がない。(窓に当たる庇の効果は算入できるが、軒の効果の計算式がない。これは通常、壁に断熱材を充填するので軒の効果はそこまで見込めないが、壁に断熱材を使用しない8地域でこそ軒の日射遮蔽効果がある。)
・花ブロックや植栽は設置しても計算に反映しない。
ということです。
コストを上げずにただ単に効率的にηAC値を下げるには、県外から移入した木材で木造にし、窓を最小に壁体内に断熱材を充填することで簡単にクリアできます。
(もちろん、これらの木造に特に否定的な気持ちはありません。ひとつの解だとも思います。)
ただ、本当に基準値を満たすだけで沖縄らしい涼しい家ができるのでしょうか。
先人からの知見をもとに発展させてきた建築士の技術は一体何だったのだろうか。唯一、地産地消できるRC造を採用する意味はあるのでしょうか。
ηAC値をクリアしたところで、アマハジに軒がなければ、風は入ってきません。そもそも通風経路となる窓がなければ、室内に通風を効果的に呼びこむことすらできません。
壁への日射遮蔽は、シロアリが大好きな断熱材を使用するのではなく、軒を出す、花ブロックを建てる、植栽をすることで行うのが、沖縄の気候風土を考えると正しい気がします。
台風が来ても揺れにくい、津波が来ても流されない防災型のRC造をエコな住宅として評価していくという課題もあります。
現況との差異が大きいηAC値基準が設定される中(現在は3,2)沖縄での省エネ住宅をミスリードしていく危険性が否めない状況です。
現在、サステナブル建築物等先導事業(気候風土適応住宅型)では、木造のみを評価していますが、RC造、混構造は、気候風土に適応していない構造なのでしょうか。
沖縄県は、これまでも優遇事業(低炭素住宅・長期優良住宅・ZEH)が、独特な気候な為、なかなか反映しにくい現況がありました。
北から始まった省エネ基準があるならば、南から始まる省エネ基準もあっていいという声が上がってきています。
灼熱の島だけに、8地域の省エネ基準をめぐる討論も熱いです。
(先日の国土交通省と沖縄建築関係団体との意見交換会では、開始前に団扇が配られました。笑)
2030年、2050年、と省エネをめぐる目標を目指しながら、沖縄らしい建築が途絶えることなく続くように地域の建築士として、学んできたこと感じてきたことを素直に伝え続けたいと思います。
*
「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年より特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事に就任。現在特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事長。一級建築士。
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トヨダヤスシ建築設計事務所 豊田さんからの冬の便りが届きました。
今回ご紹介いただいたのは、豊田さんが設計された、神戸里山住宅博の街区に建つ「里山上津台の家」についてです。
「建築関係者は、神戸里山住宅博(以下、里山住宅博)という言葉を耳にした方も多いかと思います。工務店と職方が造る木の家をテーマに2016年6月に神戸市北区にグランドオープンしました。街区には建築協定と設計ルールが定められ、斜面の里山は住人の共有地になるという面白い試みです。」
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神戸からの便り『里山上津台の家』
トヨダヤスシ建築設計事務所 豊田と申します。2019年の冬の便りは、神戸里山住宅博の街区に建つ「里山上津台の家」を紹介いたします。
建築関係者は、神戸里山住宅博(以下、里山住宅博)という言葉を耳にした方も多いかと思います。工務店と職方が造る木の家をテーマに2016年6月に神戸市北区にグランドオープンしました。街区には建築協定と設計ルールが定められ、斜面の里山は住人の共有地になるという面白い試みです。
私が設計した里山上津台の家の住まい手は、里山住宅博の街区に興味があり、里山住宅博オープン後に出展工務店さんを色々回られて、最終的に私の事務所に土壁の家を建ててほしいと依頼がありました。
この家の冬のテーマは、3つありました。
1、 共働きの家族のために不在時でもお陽さまを取り込めるようにする。
2、 エアコン一台で居室のみ暖房する。
3、 寝室の温湿度を安定させる。
断熱性能をQ値1.9w/m2K程度まで高めるのは当たり前として、今回特に重視したのは、住まい手の生活スタイルと生涯設計でした。
1、共働きの家族にあったお陽さまの取り込み方
この家が中庭型になっている主な要因は共働きの家族への配慮からです。共働きの場合、平日の日中は不在となるため、南面に窓を設けてもカーテン等で閉じている家族が大半ですが、中庭型にすると、不在時でもカーテン等を閉じなくてもよい状況をつくりだすことができます。中庭に面する和室の屋根は、日射を取り込むため切妻にし、LDKの窓は幅4m高さ2.7mの木製建具としました。中庭の入口は、木格子戸を設けたので不在時に中庭に入られる心配もありません。
和室は、直射日光が入ると畳が不揃いに焼けてしまうので、採光と通風換気のために南面軒下に窓を設けました。中庭は、和室の北窓から眺めることができます。
滞在時間が少ない和室は、直射日光が入りにくいように設計したため、サンルームに取り込んだ熱を和室へ送ることができるように温度センサー付きの換気扇を設けました。サンルームの温度があがると、自動で和室へ熱が送られ、湿度が上がると、湿度センサー付きの換気扇で外部に排出します。住まい手は、就寝前に洗濯物を干す習慣があり、センサーを組み合わせた熱湿気移動を考慮しました。冬の使用感は、和室に入った時も暖かさを感じるようで、思いのほか好評。設計した私も少し驚きでした。
2、エアコン一台で居室のみ暖房する
里山住宅博では、いくつかの工務店さんがエアコン1台で暖冷房する方法を提案され実践されていました。床下エアコンもあれば、ダクトで配管する方法もありさまざまです。ただ、私が提案する土壁の家は、床下エアコンで基礎コンクリートに蓄熱したあと、さらに土壁で蓄熱させるのは、さすがに無理があるだろうと思い、LDKと寝室2室の中心にエアコンを設けそれぞれの部屋を区画暖房する方法を提案しました。結果として、平屋、かつ、LDKと寝室の配置計画がとてもうまくいったと思っています。
休日の日中は、寝室の戸を閉めてLDKのみ暖房し、就寝時は、寝室の戸を少しあけLDKの間仕切スクリーンをおろして暖房します。現在、スクリーンは、まだ未実装なので、今は、LDKの天井扇を使って、寝室へ熱を回しているようです。住まい手自身が考え、自分たちに適した住まい方を実践されていることがとても重要だと感じました。
3、寝室の温湿度を安定させる
仕事で疲れ、仕事着のままベッドに横たわりいつの間にか寝てしまったという経験は誰もがあることだと思います。起きたら、体が冷え切りぞくっとすることも。やはり人間は就寝しているときが、一番気をつけないといけない時間だと感じています。
共働きの場合、6時に起床し8時に出勤、19時に帰宅し24時に就寝する生活スタイルを踏まえると、LDK等の滞在時間は7時間で、寝室は6時間となり、寝室への配慮を行うのは妥当な判断だと思います。このことから、寝室には土壁を最優先で採用していただくよう提案しています。もちろん、土を塗っただけでは低温で室温が安定してしまう可能性があり、集熱と断熱と蓄熱を考慮して設計する必要があります。
里山上津台の家は、2018年3月に竣工してから、初めての冬を迎えました。冬を約一ヶ月間過ごしてみて、従前の生活から変化はあったのか、また、床暖房はあったほうがよかったか住まい手に聞いてみたところ、
「床暖房の必要性は感じません。伝熱性が低い無垢材では、素足でも冷たいと感じることは余りありません。あと、頭痛が激減しました。冬場に肌の乾燥による痒みが激減しました。」
との回答でした。
「もう一回家を建てるとすると、今ぐらいの断熱性能にするのか、それともさらに断熱性能をあげるのかどちらでしょうか」という質問には、
「今の断熱性能で十分だと思います」
との回答でした。
ほっと一安心するとともに、性能を明確にすることの大切さを知った住まいづくりでした。
竣工後、8機のデータロガーで温湿度を測定中です。住まい手の感想とデータがどういった相関関係にあるのか調査分析していきたいと思います。
1974年京都生まれ。瀬戸本淳建築研究室、Ms建築設計事務所を経て、2005年トヨダヤスシ建築設計事務所開設。岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師。京都造形芸術大学大学院非常勤講師。一般社団法人住宅医協会理事。代々続く左官職人の家に生まれた経歴から、土壁や漆喰など左官職を生かした家づくりを行っている。
「南禅寺の家」では、(財)建築環境・省エネルギー機構主催「第5回サスティナブル住宅賞」において「国土交通大臣賞〔新築部門〕」の他、第9回木の建築賞 木の住宅賞、第7回地域住宅計画賞 地域住宅計画奨励賞も受賞している。
★同じ著者の他の記事を読む
・京都からの便りvol.1『南禅寺の家 夏の便り』
・京都からの便りvol.2『南禅寺の家 冬の便り』
・京都からの便りvol.3『赤穂市に建つ既存住宅の詳細調査』
・京都からの便りvol.4『南禅寺の家 冬の便り』
・奈良からの便りvol.1『ならやまの家 夏の便り』
・奈良からの便りvol.2『ならやまの家 冬の便り』
・京都からの便りvol.5 『土壁と気候風土適応住宅』
・神戸からの便りVol.1
神奈川県藤野の里山長屋からいつもお便りを送ってくれている山田貴宏さんから、特別編として『陸前高田市 施設「ペチカ」』についてご紹介いただきました。
「秋の気配が深まってきた10月中旬、岩手県陸前高田市にある、「ペチカ」を訪問しました。2017年のはじめごろから当方で設計を担当し、その年の暮れに竣工を迎えた木造二階建ての建物です。(本文より)」
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里山長屋からの便りvol.5『陸前高田市 施設「ペチカ」』
秋の気配が深まってきた10月中旬、岩手県陸前高田市にある、「ペチカ」を訪問しました。2017年のはじめごろから当方で設計を担当し、その年の暮れに竣工を迎えた木造二階建ての建物です。
地元の建設会社さん(長谷川建設)の、住宅を想定したショールームとして整備し、かつ、町に開かれた拠点となるカフェとしても機能するようにしています。カフェに加えて、「まちライブラリー」の機能も備え、人々の交流拠点となっています。施設の技術的なご要望としては、環境配慮型の建物としてその技術をこれから住まいの建設を検討しているお客様にお見せするショールーム的な場所としたい、ということでした。が、環境に配慮した住環境、というのは何もハード技術だけで成立するものではありません。地域の中で、住人の方々がコミュニケーションを持ち、お互い有機的で健康的な結びつきを育むことも、エコロジカルな暮らしに通じるものだと考えています。
※関連リンク(外部サイト):ペチカ カフェ&ライブラリー
※関連リンク(外部サイト):まちライブラリー/場を作り、そこに皆が本を持ち寄ることで、本をきっかけとして人と人のつながりを生み出す仕組み。
昨今、高断熱高気密の議論ばかりが環境配慮型の建築の俎上に上がっています。それはそれで大変重要な基礎技術ですが、本来、環境とは、総体的なものであり、一つの技術だけに特化して成立するものではありません。環境技術はもちろんのことですが、暮らし方、地域の素材、地域の技術、職人さんなども環境建築を構成する大切な要素だと思います。環境に配慮した建築を作ることは、小さな循環の中で多様な地域資源を重層的に使うことが必要になります。そうだとすると、地域で建築を作ることは、地域の環境関係資本を結びつけるハブ役になることが期待されるわけです。このプロジェクトは、まだ、震災からの復興途上のまちで、これからのあるべき住環境と地域との関係を表現しよう、ということを目指しました。
さて、そうは言っても、そのベースとなる環境技術は、このショールームを訪問した方に、わかりやすくその技術を説明出来ることがまずは大事です。
この建物では、環境技術として、以下の要素の取組みを整えました。
・ダイレクトゲインによる太陽熱利用
・土間、壁、レンガ壁など、蓄熱容量を増やすことで安定的な室内温熱環境を形成
・輻射式冷暖房設備による穏やかな室内温熱環境制御
・夏の遮熱装置として外付けブラインド
・地元の素材による建築
・自然素材による内外装
敷地はそれほど大きなものではなく、約60坪。道路は北側に接道しているので、駐車場とのバランスで、最大限南側に空地をとるようにプランニングに配慮しました。南側隣地の建物の屋根の上を通り越して、冬場でも太陽のダイレクトゲインが得られるように、南側のファサードは積極的に日射を取り込めるように、ガラス面を多用しています。南側の空間は小さいながらも土間空間として、また、直接日射が当たる壁面も左官土を塗り、熱容量をかせぐようにしています。
敷地が狭いゆえ、床面積を優先すると、庇が十分確保できないような状況もあり、この南側のガラスファサードには夏場対策として、日射が当たりやすい1階部分は全面的に外付けブラインドを設置しました。まだまだ廉価に導入できる仕掛けではありませんが、日射取得量が大きく違ってくるので、大変有効であると考えます。筆者は最近スイスに視察に行きましたが、かの地では、すでにほとんどの建物で外付けブラインが当たり前のように設置されています。数年前に訪れた北欧でもそうでした。断熱議論が盛んな日本ですが、これがひと段落すると今度は窓面の性能に話題は移るはずで、そうすると、断熱ブラインド、遮熱外付けブラインドにも改めて注目が集まることと思います。
今回は、エアコンに頼らない冷暖房を心がけました。夏は本来、比較的冷房時間が少なくても過ごせる気候環境ですので、輻射型の冷房は緩やかに室温を下げておける、体に負担間の少ない状況を作れる、ということで採用をしました。今回はPS冷暖房の設備を採用しています。1階の階段脇に空間の間仕切りを兼ねて1パネル、二階の吹き抜けと執務空間を緩やかに仕切る場所に1パネル設置。いずれも部屋の真ん中に設置することで、輻射が満遍なく周囲に行き届くような配置としています。
それに加えて、今回採用したのが「ペチカ」です。まさしくこの施設の名前の由来でもあります。輻射パネル装置と機能としては重複する部分がありますが、地域の地産地消エネルギーである、木質エネルギー型の暖房装置を採用しよう、ということでペチカが選ばれました。(長谷川建設ではペレットストーブ普及の取組みもされています。)
ペチカ、というのは、薪ストーブなどの焚口と組み合わせ、排気をレンガ積みのパネル型の煙道の中を通す仕組みです。レンガのパネルが排気で温まることでそこからの輻射暖房効果を期待します。かつてロシアなどの寒冷地で普及したものです。これもやはり部屋の中央に配置するプランニングとして、この施設の象徴的なしつらいとすることができました。ペチカ周りにはやはりレンガの蓄熱壁をさらにもうけ、ダイレクトゲインを期待する蓄熱材としても機能します。
構造、内外装材の木材は地元の杉、ヒノキ、松を採用。ご多聞にもれず、地産地消の家づくりを目指しました。
さて、昨年の冬に竣工し、やがて二回目の冬を迎えようとしているわけですが、最近訪問したおりに、使い心地について、オーナーさんにいろいろとお話を伺いました。秋が深まってきている季節ですので、その時の外部の気温は夕方で12、3度ぐらい。コートが必要なくらい肌寒い状況です。室内は20度を少し切るぐらいの温度。内部は全体的に柔らかく適温な印象で、温度の感覚を忘れるぐらい過不足ない状況でした。おそらくこうした状況を「快適」というのだと思います。
残念ながら本命のペチカはまだ今シーズンは稼働していない、ということでしたが、パネル輻射暖房は継続的に動かしているとのこと。設定温度を聞いてみると20度で稼働している、ということで、パネル表面を触っても温かくともなんともありません。(体温が36度近辺だから当たり前)しかしながら、20度であっても輻射型の発熱体が部屋の中心にあり、それがいつも部屋の温熱環境を下支えしている、という感覚は改めて持つことができました。
陸前高田は東北地方にあり、冬はそこそこ寒冷な状況になり、しかしながら太陽日射量は太陽側特有でしっかりとあることから、今回のプロジェクトではペチカ/輻射パネル暖房と土間蓄熱によるダイレクトゲインというパッシブデザインの組み合わせを採用するに至りました。地域の木質エネルギーを活用する、という点でも一つのとっかかりになるのではないか、と感じます。
冷暖房技術を中心に紹介をさせていただきましたが、こうした温熱感の快適な空間を体験出来る場所を作ったことと、それがコミュニティの一つの結節点として機能するような場としていることが重要だと思っています。健全なコミュニティを築く取組みと、自然エネルギーを利用した良好な温熱環境を実現している空間が一致しているのが良いのではないでしょうか。
今後もこうした総体的な環境配慮型の建築づくりの普及が望まれます。
*
山田貴宏(やまだ たかひろ)
早稲田大学建築学科都市環境工学修了。清水建設、長谷川敬アトリエを経て、現在ビオフォルム環境デザイン室主宰。主に国産材と自然素材を中心とした、地産地消でかつ伝統的な木の家造りを中心とした建築/環境設計を行う。パーマカルチャーのデザイン手法・哲学を背景とした住環境づくりをめざす。建物とそれを取り巻く自然/コミュニティまで含めた幅広い環境と場づくりがテーマ。
著書:「畑ついているエコアパートをつくろう」(自然食通信社 共著)、「里山長屋をたのしむ」(学芸出版社)
◇里山長屋からの便り バックナンバー
・里山長屋からの便りvol.1『夏編』
・里山長屋からの便りvol.2『冬編』
・里山長屋からの便りvol.3『住まいの温熱環境を科学的に理解する時代』
・里山長屋からの便りvol.4『あたたかな住まいのなかから考えた』
・里山長屋からの便りVol.5『陸前高田市 施設「ペチカ」について』
沖縄からの松田さんから、新しい便りが届きました。
気象庁の発表(2018年7月23日)によると、今年の猛暑は日本全国に渡っています。
7月中旬以降、東日本と西日本では、太平洋高気圧に覆われて、晴れて気温のかなり高い日が続いていますし、7月中旬の平均気温は、関東甲信地方は平年差+4.1℃、東海地方は+3.6℃、近畿地方は+3.4℃、中国地方は+3.1℃と1961年の統計開始以来、7月中旬としては最も高くなったそうです。
しかし松田さんからの便りには、
「沖縄には、意外にも猛暑日はほとんどありません。また快晴日も一年に8日程度しかありません。
もちろん紫外線は最強なので、日向には居てもたっても居られません。
しかし日陰に来るとグッと温度が下がり、涼風を受けこのままハンモックにでも揺られながら、お昼寝ができそうです。」
とあります。
そんな今年の状況から、風や緑を生かした沖縄の住まいづくりについて、ご提案いただいています。
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避暑地の沖縄
セミが朝からシャンシャンジージーと競うように鳴いています。夏がやってきました!今年は、青い蝶をよく見かけました。7月なのにトンボが真夏の空を仰いでいます。何かを知らせているのでしょうか。
全国各地のニュースで「猛暑日」「熱中症」が毎日のように報道され、どうしてこんなに命が奪われるのかと心を痛めながら観ています。
このままだと、どうやら沖縄は避暑地になるようです。
沖縄には、意外にも猛暑日はほとんどありません。また快晴日も一年に8日程度しかありません。
もちろん紫外線は最強なので、日向には居てもたっても居られません。
しかし日陰に来るとグッと温度が下がり、涼風を受けこのままハンモックにでも揺られながら、お昼寝ができそうです。
以前の「ベトナムからの便りvol.2 “暑い夏の風物詩”」に、
“外出時間は早朝と夕方以降に限ります。日中暑い時は外に出ないのが基本。
それでも昼時に外で過ごす場合、日陰で休み体力温存を心がけるのが最良策といえます。”
とありました。
まさに沖縄でも同じです。暑い日は昼間、外を出歩きません。犬すら歩きません。どうしても歩くときは影を伝って歩くか、日傘をさします。運動公園でウォーキングする人が増えるのも、夕方から夜にかけてです。
ビーチで、サンサンの日差しを浴びて泳いでいるのは、長袖のラッシュガードを着せられたパワーを抑えきれない子供たちか、非日常的な南国の太陽を楽しむ観光客の方です。
どちらかというと、地元の人はビーチでは日影でバーベキューを楽しみます。
そして、やっぱり海で泳ぎたいなら、朝か夕方です。水着やビキニで泳ぎたいならば、日焼け止めが必須、しかも短時間が限度です。
風と共に生きる文化
沖縄で家を建てる時に重要視すべきことは、まず防災です。
当たり前のことですが、強い台風が来ます。台風時に耐えられること、命を守れること。これが一番大切です。
そして、その次が風の有効利用・日射遮蔽と続いていきます。
「風はいつも吹いているとは限らない。」
いえいえ、海に囲まれた沖縄では3.5m/s以上の風は流れている割合が8割にも上がります。
庇に期待するもう一つの効果
とはいえ、那覇市の密集市街地では、なかなか風を取り込む事が困難な場合もあります。
ここで、強い日差しを遮る「庇」の出番です。
実は、庇を設ける事で風を取り込む事ができるのです。
袖壁も有効です。ウィンドキャッチャーとしての庇は、特に大きく出さずとも効果的です。設計者は、この有能な庇を多用せずには勿体ないですね。
風のシミュレーションは、今のところ一般人には難解です。
シミュレーションソフトも高価で、個人の設計事務所が気軽に購入することはできません。
もし、身近な存在のソフトが開発されれば、沖縄県の設計者が全国で一番影響があるかもしれません。
そんな中、楽しい流体シミュレーションアプリを教えていただきました。
手描きなので、図面をそのまま再現は難しいですが、無料なのでiphoneやipadをお持ちの方は、ぜひ楽しんでいただけたらと思います。
未来の沖縄を考えよう
先日、日差しが柔らかくなってきた夕方、散歩がてらに街中のサーモグラフィを撮影してきました。
熱いのは道路です。そして屋根面です。つまりは日差しを直接受ける水平面です。
サーモグラフィを見てみるとよくわかります。赤いところ、白くなっているところが一番熱いところです。
エアコンの室外機の位置まで教えてくれます。
エアコンを使うことは、熱中症予防にも欠かせません。でも、このままだと地域を熱くする負のループになってしまいます。
そんな中、一際青く(涼しく)なっている家を見つけました。
100年後200年後の沖縄が、今より熱くならないためにはどうしていけばいいのだろう。キンキンに冷えた泡盛入りレモンサワーを飲みながら、ひとり考えにふけた夜になりました。
*
「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年より特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事に就任。現在特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事長。一級建築士。
◇沖縄からの便り 他の記事を読む
・vol.1 2013年夏編
・vol.2 2014年冬編
・vol.3 2014年夏編
・vol.4 2015年冬編
・vol.5 2015年夏編
・vol.6 2016年冬編
・vol.7 2016年夏編
・vol.8 2017年冬編
・vol.9 2017年秋編
・vol.10 2018年夏編
岐阜の辻さんから、新しい便りが届きました。
今回は沖縄の松田さん、京都の豊田さんに続き、『気候風土適応住宅』について書いていただきました。
伝統的な住まいならではのたたずまいを残しつつ、法律で定められた基準をどうクリアしていくのか、ご本人が設計した住宅を例にご意見をいただいております。
詳しくはこちらからご覧ください。