北海道からの便り vol.9


冬の北海道からお届けします。

久しぶりに投稿させていただきます。以前の内容を確認していましたら2017年の冬でした。

前回も少し触れさせていただいた、「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」のその後をご案内したいと思います。

「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」は、北海道、南幌町、北海道住宅供給公社、(一社)北海道ビルダーズ協会、(公社)日本建築家協会北海道支部が主催し、北海道がおススメする地域工務店と建築家(きた住まいるメンバー)が、南幌らしい暮らしとまちづくりを提案するプロジェクトです。

南幌町は、南石狩平野のほぼ中央に位置し、岩見沢市や江別市、北広島市、長沼町に隣接しているまちで、札幌からも32kmとほど近く、南幌から札幌に通勤する人も少なくなく札幌市中心部まで約35分で到着できるという便利な立地も魅力的なところです。

全国的にも珍しい取り組みだと思うのですが、産・官・学連携で住宅展示場を開設、運営できるのは、厳しい気候の中でより良い住環境を提供するために常に情報交換をしながら技術や経験を積み重ねてきた先人たちのおかげで、そういう誇れる文化が北海道にはあるからだと思っています。

このプロジェクトの素晴らしいところは、ただ住宅や土地が売れれば良いということでなく、今私たちが建設できる最新の知恵と技術で地域らしい(南幌らしい)暮らしを提案して発信するということです。

また、日頃設計している住宅は、街の中で点のような存在ですが、このプロジェクトに参加するということは面でまちづくりに関われるということにも魅力を感じ、実力ある地域工務店とタッグを組むということで、岩見沢の武部建設さん*1 にお声掛けして参加に至りました。

南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ

「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」のHP
https://www.kita-smile.jp/kitasmilevillage
https://www.replan.ne.jp/articles/5056/

先行して北海道とその委託を受けた日本建築家協会北海道支部が事業のコンセプトや全体計画を進め、2017年1月からプロジェクト参加者の応募がはじまり、その後参加グループが決定、参加グループと関係機関メンバー全員で20回もの全体会議を行いながら、手探りしながらのプロジェクトが進んでいきました。

「クオリティファースト」というテーマを掲げ、「小さく豊かに暮らす」「この“まち”で暮らす」「長くていねいに暮らす」という3つのサブテーマを基盤に6つのグループがそれぞれのモデルハウスの計画を進め、内容は全体会議の中で共有しながら配置計画をブラッシュアップし、千鳥配置による緑のつながりや風の通り道、南幌らしい暮らし方をより生かすことのできる配置計画となりました。プロジェクトを効果的に周知発信するための現場見学会や構造見学会、バスツアーなどのイベントも行いました。

「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」配置計画

また、特徴の一つとして忘れてはいけないのが、プロジェクトに参加しているメンバーは、北海道が平成26年から登録・公開している、一定の基本ルールを守る住宅事業者である「きた住まいるメンバー」であるということです。

登録には、省エネ・耐久・耐震という「基本性能の確保」、BISやBIS-E*2などの「専門技術者による設計・施工」、家づくりに関する「記録の保管」という3つが求められ、北海道では、基礎基準よりも高い性能を確保し、先進的な家づくりを行う「きた住まいる」メンバーの取組みを「きた住まいるブランド住宅」として登録しており、登録されるためには、長寿命、環境との共生、安心・快適、地域らしさという4つのいずれか、もしくは複数について卓越した技術や先駆的な取組みなどが要件になっています。

2018年6月、それぞれのグループが共通のテーマを基盤に、モデルハウスが完成し、行われた完成イベントには1200人もの来場者がありました。11月までは展示場として随時公開され、約3000人の来場者がありました。11月からは各モデルハウスの販売が本格的に始まり、それぞれの「南幌らしい暮らし」が始まっています。

南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ

南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ

南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ(全景)

モデル展示期間から、居住者が住んでいる期間も通して、北海道大学の菊田先生の研究室による通年の温熱環境や空気質などの測定を行なっており、暮らし方のヴィジョンと居住空間が設計者や施工者の意図とマッチしているか、設計時に想定されている温熱環境が得られているかがより明確に見えてくることと思います。

2019年10月からは第2期のプロジェクトメンバーの募集も始まりました。*3
このような取り組みが、南幌町にとどまらず同じような課題を持った市町村にも波及していく可能性を探りながら、さらなるモデルプロジェクトとしての役割を果たせればと思っています。

<注訳>
*1 武部建設株式会社 https://www.tkb2000.co.jp/

*2 BIS BIS-E 登録制度  http://hobea.or.jp/bis/

*3 南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ2期スタート  https://www.replan.ne.jp/articles/11941/

130731_sakurai櫻井 百子(さくらい ももこ)

1973年北海道旭川市生まれ。北海道東海大学芸術工学部卒業後、都市計画事務所、アトリエ設計事務所を経て2008年アトリエmomo設立。身近な材料を使いながら、こころや環境にできるだけ負荷の少ない設計を心がけている。平成22年度 北海道赤レンガ建築奨励賞、2011年度 JIA環境建築賞 優秀賞 (住宅部門) 受賞。

[北海道からの便り バックナンバー]
・北海道からの便り vol.1
・北海道からの便り vol.2
・北海道からの便り vol.3
・北海道からの便り vol.4
・北海道からの便り vol.5
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・北海道からの便り vol.7
・北海道からの便り vol.8