沖縄からの便りvol.11


皆さん、今年の夏いかがお過ごしでしょうか。

2019年 沖縄の夏の海

最近多発している台風の影響もあるのか、外の風を強く感じます。

先日試しに風速計で測ってみたところ、事務所のある建物の前で13.3メートルを記録しました。(2019/8/8)台風9号が近くを通り過ぎるときでした。

Wind Alertの測定画面

日陰には、温度が下がる上に、涼しい風を呼び込むことができる効果があるそうです。なければ強い日差しを浴びて一瞬で日焼けしますね。

観光客の方は、薄着や水着を着て夏の日差しを浴びて日焼けを楽しんでいますが、地元では男性も割と日焼け止めを塗ったり、白いタオルを巻いたりして熱や日差しから身を守っています。

この考えは、建物も同じかもしれません。

 

2018年から沖縄の建築士有志で省エネ基準や住宅の温熱環境についての勉強会を始めています。

冷房期の平均日射熱取得率をηACAC値についてひたすら手計算で学び、考えている地域は全国でも沖縄だけではないでしょうか。

(沖縄でも手計算で学ぶのは、この勉強会だけだと思います。)

※「おきなわ省エネがわかる勉強会」

庇はどのくらい出せば有効なのか。出せば出すほど有効なのか。

庇の直下に開口があるのと、垂れ壁があるのはどの程度差異があるのか。

この建物では、どの位置の開口部に設けたら一番効果が高いのか、実際の建物や各々が設計した住宅で検証していきます。

※この建物では、南向きの窓には垂れ壁なしで長さ1350mmを採用しました。

他にも断熱材は、どの種類でどの厚みが最適なのだろうか。

厚み30mm、種類は

効果だけでなく、シロアリや台風の影響の受けにくい構造など、敷地の条件から考えながら選択するなど想像力や新たな発想力も必要です。

さらに日射遮蔽をいかに安価で高い効果を発揮するものは、どの手法だろうか。
少々高くてもLLC(ライフサイクルコスト)を考えるとどうなるのだろうか。
疑問はどんどん出てきます。

8地域以外では、省エネ基準においてやはりUA値の基準の方が厳しく、ηAC値はUA値をクリアすれば容易にクリアできる状況だと思います。

UA値の基準がない8地域では適正なηAC値はどれくらいか、地域の建築士達の中でも、見直していく時期が来ていると思います。これまでNPOが蓄積してきた住環境の計測データも役に立ちそうです。

この勉強会でわかってきたことの一つは、

ηAC値クリアのためには、
・遮熱塗料や白く塗る必要はない。(効果を数値として算入できない。)
・軒は出す必要がない。(窓に当たる庇の効果は算入できるが、軒の効果の計算式がない。これは通常、壁に断熱材を充填するので軒の効果はそこまで見込めないが、壁に断熱材を使用しない8地域でこそ軒の日射遮蔽効果がある。)
・花ブロックや植栽は設置しても計算に反映しない。
ということです。

コストを上げずにただ単に効率的にηAC値を下げるには、県外から移入した木材で木造にし、窓を最小に壁体内に断熱材を充填することで簡単にクリアできます。
(もちろん、これらの木造に特に否定的な気持ちはありません。ひとつの解だとも思います。)

ただ、本当に基準値を満たすだけで沖縄らしい涼しい家ができるのでしょうか。

先人からの知見をもとに発展させてきた建築士の技術は一体何だったのだろうか。唯一、地産地消できるRC造を採用する意味はあるのでしょうか。

沖縄における気候風土に適した住宅づくりの取組み

ηAC値をクリアしたところで、アマハジに軒がなければ、風は入ってきません。そもそも通風経路となる窓がなければ、室内に通風を効果的に呼びこむことすらできません。

壁への日射遮蔽は、シロアリが大好きな断熱材を使用するのではなく、軒を出す、花ブロックを建てる、植栽をすることで行うのが、沖縄の気候風土を考えると正しい気がします。

※これまでの建てられた沖縄における環境共生住宅における外皮基準値

台風が来ても揺れにくい、津波が来ても流されない防災型のRC造をエコな住宅として評価していくという課題もあります。
現況との差異が大きいηAC値基準が設定される中(現在は3,2)沖縄での省エネ住宅をミスリードしていく危険性が否めない状況です。

現在、サステナブル建築物等先導事業(気候風土適応住宅型)では、木造のみを評価していますが、RC造、混構造は、気候風土に適応していない構造なのでしょうか。
沖縄県は、これまでも優遇事業(低炭素住宅・長期優良住宅・ZEH)が、独特な気候な為、なかなか反映しにくい現況がありました。

北から始まった省エネ基準があるならば、南から始まる省エネ基準もあっていいという声が上がってきています。
灼熱の島だけに、8地域の省エネ基準をめぐる討論も熱いです。
(先日の国土交通省と沖縄建築関係団体との意見交換会では、開始前に団扇が配られました。笑)

2030年、2050年、と省エネをめぐる目標を目指しながら、沖縄らしい建築が途絶えることなく続くように地域の建築士として、学んできたこと感じてきたことを素直に伝え続けたいと思います。

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「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年より特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事に就任。現在特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事長。一級建築士。

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