神戸からの便りvol.1『里山上津台の家』


 

トヨダヤスシ建築設計事務所 豊田と申します。2019年の冬の便りは、神戸里山住宅博の街区に建つ「里山上津台の家」を紹介いたします。

建築関係者は、神戸里山住宅博(以下、里山住宅博)という言葉を耳にした方も多いかと思います。工務店と職方が造る木の家をテーマに2016年6月に神戸市北区にグランドオープンしました。街区には建築協定と設計ルールが定められ、斜面の里山は住人の共有地になるという面白い試みです。

神戸里山住宅博の様子。正面に見えるのは堀部安嗣氏が設計したヴァンガードハウス。

私が設計した里山上津台の家の住まい手は、里山住宅博の街区に興味があり、里山住宅博オープン後に出展工務店さんを色々回られて、最終的に私の事務所に土壁の家を建ててほしいと依頼がありました。

LDKから中庭を見る。

この家の冬のテーマは、3つありました。
1、 共働きの家族のために不在時でもお陽さまを取り込めるようにする。
2、 エアコン一台で居室のみ暖房する。
3、 寝室の温湿度を安定させる。

断熱性能をQ値1.9w/m2K程度まで高めるのは当たり前として、今回特に重視したのは、住まい手の生活スタイルと生涯設計でした。

1、共働きの家族にあったお陽さまの取り込み方

この家が中庭型になっている主な要因は共働きの家族への配慮からです。共働きの場合、平日の日中は不在となるため、南面に窓を設けてもカーテン等で閉じている家族が大半ですが、中庭型にすると、不在時でもカーテン等を閉じなくてもよい状況をつくりだすことができます。中庭に面する和室の屋根は、日射を取り込むため切妻にし、LDKの窓は幅4m高さ2.7mの木製建具としました。中庭の入口は、木格子戸を設けたので不在時に中庭に入られる心配もありません。

平屋中庭型を上空から見る。

和室の屋根を折り曲げ、LDKへ日射を取り込む。

和室は、直射日光が入ると畳が不揃いに焼けてしまうので、採光と通風換気のために南面軒下に窓を設けました。中庭は、和室の北窓から眺めることができます。

和室は土に囲まれた空間。

滞在時間が少ない和室は、直射日光が入りにくいように設計したため、サンルームに取り込んだ熱を和室へ送ることができるように温度センサー付きの換気扇を設けました。サンルームの温度があがると、自動で和室へ熱が送られ、湿度が上がると、湿度センサー付きの換気扇で外部に排出します。住まい手は、就寝前に洗濯物を干す習慣があり、センサーを組み合わせた熱湿気移動を考慮しました。冬の使用感は、和室に入った時も暖かさを感じるようで、思いのほか好評。設計した私も少し驚きでした。

2、エアコン一台で居室のみ暖房する

里山住宅博では、いくつかの工務店さんがエアコン1台で暖冷房する方法を提案され実践されていました。床下エアコンもあれば、ダクトで配管する方法もありさまざまです。ただ、私が提案する土壁の家は、床下エアコンで基礎コンクリートに蓄熱したあと、さらに土壁で蓄熱させるのは、さすがに無理があるだろうと思い、LDKと寝室2室の中心にエアコンを設けそれぞれの部屋を区画暖房する方法を提案しました。結果として、平屋、かつ、LDKと寝室の配置計画がとてもうまくいったと思っています。
休日の日中は、寝室の戸を閉めてLDKのみ暖房し、就寝時は、寝室の戸を少しあけLDKの間仕切スクリーンをおろして暖房します。現在、スクリーンは、まだ未実装なので、今は、LDKの天井扇を使って、寝室へ熱を回しているようです。住まい手自身が考え、自分たちに適した住まい方を実践されていることがとても重要だと感じました。

天井に埋め込んだエアコン。右手の天井スリットは区画用スクリーン取り付け箇所。

3、寝室の温湿度を安定させる

仕事で疲れ、仕事着のままベッドに横たわりいつの間にか寝てしまったという経験は誰もがあることだと思います。起きたら、体が冷え切りぞくっとすることも。やはり人間は就寝しているときが、一番気をつけないといけない時間だと感じています。
共働きの場合、6時に起床し8時に出勤、19時に帰宅し24時に就寝する生活スタイルを踏まえると、LDK等の滞在時間は7時間で、寝室は6時間となり、寝室への配慮を行うのは妥当な判断だと思います。このことから、寝室には土壁を最優先で採用していただくよう提案しています。もちろん、土を塗っただけでは低温で室温が安定してしまう可能性があり、集熱と断熱と蓄熱を考慮して設計する必要があります。

寝室は、住まい手自ら土塗り。

里山上津台の家は、2018年3月に竣工してから、初めての冬を迎えました。冬を約一ヶ月間過ごしてみて、従前の生活から変化はあったのか、また、床暖房はあったほうがよかったか住まい手に聞いてみたところ、
「床暖房の必要性は感じません。伝熱性が低い無垢材では、素足でも冷たいと感じることは余りありません。あと、頭痛が激減しました。冬場に肌の乾燥による痒みが激減しました。」
との回答でした。

「もう一回家を建てるとすると、今ぐらいの断熱性能にするのか、それともさらに断熱性能をあげるのかどちらでしょうか」という質問には、
「今の断熱性能で十分だと思います」
との回答でした。

ほっと一安心するとともに、性能を明確にすることの大切さを知った住まいづくりでした。

玄関アプローチ

竣工後、8機のデータロガーで温湿度を測定中です。住まい手の感想とデータがどういった相関関係にあるのか調査分析していきたいと思います。

室温と共に、土壁と断熱材間の温湿度測定中。

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豊田保之/トヨダヤスシ建築設計事務所代表

1974年京都生まれ。瀬戸本淳建築研究室、Ms建築設計事務所を経て、2005年トヨダヤスシ建築設計事務所開設。岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師。京都造形芸術大学大学院非常勤講師。一般社団法人住宅医協会理事。代々続く左官職人の家に生まれた経歴から、土壁や漆喰など左官職を生かした家づくりを行っている。

「南禅寺の家」では、(財)建築環境・省エネルギー機構主催「第5回サスティナブル住宅賞」において「国土交通大臣賞〔新築部門〕」の他、第9回木の建築賞 木の住宅賞、第7回地域住宅計画賞 地域住宅計画奨励賞も受賞している。

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