里山長屋からの便りvol.5『陸前高田市 施設「ペチカ」』


秋の気配が深まってきた10月中旬、岩手県陸前高田市にある、「ペチカ」を訪問しました。2017年のはじめごろから当方で設計を担当し、その年の暮れに竣工を迎えた木造二階建ての建物です。

ペチカ外観

地元の建設会社さん(長谷川建設)の、住宅を想定したショールームとして整備し、かつ、町に開かれた拠点となるカフェとしても機能するようにしています。カフェに加えて、「まちライブラリー」の機能も備え、人々の交流拠点となっています。施設の技術的なご要望としては、環境配慮型の建物としてその技術をこれから住まいの建設を検討しているお客様にお見せするショールーム的な場所としたい、ということでした。が、環境に配慮した住環境、というのは何もハード技術だけで成立するものではありません。地域の中で、住人の方々がコミュニケーションを持ち、お互い有機的で健康的な結びつきを育むことも、エコロジカルな暮らしに通じるものだと考えています。

ペチカ内観/まちライブラリーとしての機能も併せ持つ

※関連リンク(外部サイト):ペチカ カフェ&ライブラリー
※関連リンク(外部サイト):まちライブラリー/場を作り、そこに皆が本を持ち寄ることで、本をきっかけとして人と人のつながりを生み出す仕組み。

昨今、高断熱高気密の議論ばかりが環境配慮型の建築の俎上に上がっています。それはそれで大変重要な基礎技術ですが、本来、環境とは、総体的なものであり、一つの技術だけに特化して成立するものではありません。環境技術はもちろんのことですが、暮らし方、地域の素材、地域の技術、職人さんなども環境建築を構成する大切な要素だと思います。環境に配慮した建築を作ることは、小さな循環の中で多様な地域資源を重層的に使うことが必要になります。そうだとすると、地域で建築を作ることは、地域の環境関係資本を結びつけるハブ役になることが期待されるわけです。このプロジェクトは、まだ、震災からの復興途上のまちで、これからのあるべき住環境と地域との関係を表現しよう、ということを目指しました。

さて、そうは言っても、そのベースとなる環境技術は、このショールームを訪問した方に、わかりやすくその技術を説明出来ることがまずは大事です。
この建物では、環境技術として、以下の要素の取組みを整えました。
・ダイレクトゲインによる太陽熱利用
・土間、壁、レンガ壁など、蓄熱容量を増やすことで安定的な室内温熱環境を形成
・輻射式冷暖房設備による穏やかな室内温熱環境制御
・夏の遮熱装置として外付けブラインド
・地元の素材による建築
・自然素材による内外装

ペチカ外観(夜間)/南側は積極的に日射を取り込めるように、ガラス面を多用している

敷地はそれほど大きなものではなく、約60坪。道路は北側に接道しているので、駐車場とのバランスで、最大限南側に空地をとるようにプランニングに配慮しました。南側隣地の建物の屋根の上を通り越して、冬場でも太陽のダイレクトゲインが得られるように、南側のファサードは積極的に日射を取り込めるように、ガラス面を多用しています。南側の空間は小さいながらも土間空間として、また、直接日射が当たる壁面も左官土を塗り、熱容量をかせぐようにしています。

直射日射が当たる壁面には左官土を塗ったり、タイルを貼り、熱容量をかせぐように工夫している

敷地が狭いゆえ、床面積を優先すると、庇が十分確保できないような状況もあり、この南側のガラスファサードには夏場対策として、日射が当たりやすい1階部分は全面的に外付けブラインドを設置しました。まだまだ廉価に導入できる仕掛けではありませんが、日射取得量が大きく違ってくるので、大変有効であると考えます。筆者は最近スイスに視察に行きましたが、かの地では、すでにほとんどの建物で外付けブラインが当たり前のように設置されています。数年前に訪れた北欧でもそうでした。断熱議論が盛んな日本ですが、これがひと段落すると今度は窓面の性能に話題は移るはずで、そうすると、断熱ブラインド、遮熱外付けブラインドにも改めて注目が集まることと思います。

夏の遮熱装置として外付けブラインドを設置した

今回は、エアコンに頼らない冷暖房を心がけました。夏は本来、比較的冷房時間が少なくても過ごせる気候環境ですので、輻射型の冷房は緩やかに室温を下げておける、体に負担間の少ない状況を作れる、ということで採用をしました。今回はPS冷暖房の設備を採用しています。1階の階段脇に空間の間仕切りを兼ねて1パネル、二階の吹き抜けと執務空間を緩やかに仕切る場所に1パネル設置。いずれも部屋の真ん中に設置することで、輻射が満遍なく周囲に行き届くような配置としています。

ペチカの煙道とPSの冷暖房設備

それに加えて、今回採用したのが「ペチカ」です。まさしくこの施設の名前の由来でもあります。輻射パネル装置と機能としては重複する部分がありますが、地域の地産地消エネルギーである、木質エネルギー型の暖房装置を採用しよう、ということでペチカが選ばれました。(長谷川建設ではペレットストーブ普及の取組みもされています。)

ペチカ、というのは、薪ストーブなどの焚口と組み合わせ、排気をレンガ積みのパネル型の煙道の中を通す仕組みです。レンガのパネルが排気で温まることでそこからの輻射暖房効果を期待します。かつてロシアなどの寒冷地で普及したものです。これもやはり部屋の中央に配置するプランニングとして、この施設の象徴的なしつらいとすることができました。ペチカ周りにはやはりレンガの蓄熱壁をさらにもうけ、ダイレクトゲインを期待する蓄熱材としても機能します。

ペチカ周りにはレンガの蓄熱床をさらにもうけ、ダイレクトゲインを期待する蓄熱材としても機能させている

構造、内外装材の木材は地元の杉、ヒノキ、松を採用。ご多聞にもれず、地産地消の家づくりを目指しました。

さて、昨年の冬に竣工し、やがて二回目の冬を迎えようとしているわけですが、最近訪問したおりに、使い心地について、オーナーさんにいろいろとお話を伺いました。秋が深まってきている季節ですので、その時の外部の気温は夕方で12、3度ぐらい。コートが必要なくらい肌寒い状況です。室内は20度を少し切るぐらいの温度。内部は全体的に柔らかく適温な印象で、温度の感覚を忘れるぐらい過不足ない状況でした。おそらくこうした状況を「快適」というのだと思います。

残念ながら本命のペチカはまだ今シーズンは稼働していない、ということでしたが、パネル輻射暖房は継続的に動かしているとのこと。設定温度を聞いてみると20度で稼働している、ということで、パネル表面を触っても温かくともなんともありません。(体温が36度近辺だから当たり前)しかしながら、20度であっても輻射型の発熱体が部屋の中心にあり、それがいつも部屋の温熱環境を下支えしている、という感覚は改めて持つことができました。

陸前高田は東北地方にあり、冬はそこそこ寒冷な状況になり、しかしながら太陽日射量は太陽側特有でしっかりとあることから、今回のプロジェクトではペチカ/輻射パネル暖房と土間蓄熱によるダイレクトゲインというパッシブデザインの組み合わせを採用するに至りました。地域の木質エネルギーを活用する、という点でも一つのとっかかりになるのではないか、と感じます。

冷暖房技術を中心に紹介をさせていただきましたが、こうした温熱感の快適な空間を体験出来る場所を作ったことと、それがコミュニティの一つの結節点として機能するような場としていることが重要だと思っています。健全なコミュニティを築く取組みと、自然エネルギーを利用した良好な温熱環境を実現している空間が一致しているのが良いのではないでしょうか。
今後もこうした総体的な環境配慮型の建築づくりの普及が望まれます。

kinei_yamada山田貴宏(やまだ たかひろ)

早稲田大学建築学科都市環境工学修了。清水建設、長谷川敬アトリエを経て、現在ビオフォルム環境デザイン室主宰。主に国産材と自然素材を中心とした、地産地消でかつ伝統的な木の家造りを中心とした建築/環境設計を行う。パーマカルチャーのデザイン手法・哲学を背景とした住環境づくりをめざす。建物とそれを取り巻く自然/コミュニティまで含めた幅広い環境と場づくりがテーマ。
著書:「畑ついているエコアパートをつくろう」(自然食通信社 共著)、「里山長屋をたのしむ」(学芸出版社)

◇里山長屋からの便り バックナンバー
・里山長屋からの便りvol.1『夏編』
・里山長屋からの便りvol.2『冬編』
・里山長屋からの便りvol.3『住まいの温熱環境を科学的に理解する時代』
里山長屋からの便りvol.4『あたたかな住まいのなかから考えた』
・里山長屋からの便りVol.5『陸前高田市 施設「ペチカ」について』