北海道から夏の便りが届きました


先日行われた、千歳ありがとうファームでのマルシェ

先日行われた、千歳ありがとうファームでのマルシェ。
エネルギーのこと、衣食住のこと、地球環境のことを自然農法の美しい畑に囲まれて、美味しいものを食べながら考える初夏のひととき。私は前回からソーラークッカーを持って行ってお湯を沸かしながら、子供たちとお日様の話をしたりしています。
昨年秋から進めていたコミュニティスペースもすっかり形になり、今年の秋にみんなで仕上工事を行う予定です。

北海道の櫻井さんから、夏の便りが届きました。

今回は『北海道からの便り vol.2』でご紹介いただいた「江刺の家」の完成後の様子や、涼しいと思われる北海道の夏にも地域性があることなど、北海道在住の建築家ならではの視点での内容となっています。

櫻井さんからのお便りはこちらからどうぞ。
北海道からの便り vol.3

北海道からの便り vol.3


前回の冬のお便りから早いもので半年以上が過ぎ、北海道は1年のうちで最も清々しくて気持ちのいい季節を迎えています。

今年は梅雨のないはずの北海道ですが、観測史上に残る長雨の記録を更新したと思ったら、ずーっと雨の降らない日が続いたり、お天気とともにお仕事されている方々は本当に大変な思いをされていることと思います。夏の初めにはなんと40度にもなるような猛暑日があったりもしました。(北海道が全国の中で1日の最高気温と最低気温のランキングをジャックしていて、思わずびっくり!)気候の変動が大きくなっていると肌で感じます。

気候変動の原因はご存知の通り、諸説ありますが、それはどうあれ私たちは「エネルギーを使いすぎない」暮らしを身につけることが急務だと感じます。それには「住」という営みはものすごく貢献できる可能性があると信じています。

先日行われた、千歳ありがとうファームでのマルシェ

先日行われた、千歳ありがとうファームでのマルシェ。
エネルギーのこと、衣食住のこと、地球環境のことを自然農法の美しい畑に囲まれて、美味しいものを食べながら考える初夏のひととき。私は前回からソーラークッカーを持って行ってお湯を沸かしながら、子供たちとお日様の話をしたりしています。
昨年秋から進めていたコミュニティスペースもすっかり形になり、今年の秋にみんなで仕上工事を行う予定です。

「エネルギーを使いすぎない」暮らしは、それぞれの地域の気候風土や生活文化を熟知してそれに寄り添ってこそできるのではないかと思っています。そしてそれは、ぱっと見てとても過酷な自然環境もその土地の魅力として享受して楽しむことにつながるのだと考えます。

札幌から北海道各地へ出向くとき、北海道の中では札幌がとても中庸な気候に感じます。(なにかと札幌を基準に考えてしまうせいもあると思いますが)札幌で身体感覚をリセットして、それぞれの地域の気候環境や文化を吸収して噛み砕き、自分なりにエッセンスを抽出して反芻して再度組み立てて設計に活かす。そのようなことを地道に繰り返しているように思います。そして同時に感じるのは、誰が見ても過酷だな〜と思えるような自然環境を、何事もないようにしなやかに受け止めて暮らしている方々の営みが楽しみや喜びにあふれていることです。大変なことも楽しんじゃう暮らしの達人にたびたび出会うと、その土地が輝いて見えてきてすっかりファンになってしまいます。

そんな中、3月に竣工した倶知安の家に外構工事の完了を見届けに行ってきました。

南側に開いた雁木空間と吹抜けの大開口は羊蹄を愛でるだけではなく、1層分が雪に埋まっても室内にお日様の光を届けてくれる装置です。一気に降雪して一気に落雪しても急いで雪かきしなくていいように(週末まで待って、家族みんなで雪かきをイベント化しようというアイディア)時間稼ぎのできるデザインです。どんどん降る雪を眺めて、憂鬱にならずにワクワク楽しむことができたら、豪雪も冬を楽しむアイテムになります。)

南側に開いた雁木空間と吹抜けの大開口は羊蹄を愛でるだけではなく、1層分が雪に埋まっても室内にお日様の光を届けてくれる装置です。一気に降雪して一気に落雪しても急いで雪かきしなくていいように(週末まで待って、家族みんなで雪かきをイベント化しようというアイディア)時間稼ぎのできるデザインです。どんどん降る雪を眺めて、憂鬱にならずにワクワク楽しむことができたら、豪雪も冬を楽しむアイテムになります。)

断熱や換気のことをいっぱい話し合いながら進めてきました。機械的な換気を施せばボタンひとつで快適性を得られるのはご存知の通りですが、ここでは自然換気に取り組みました。クライアントが冬の間どうしたら一番有効に空気がまわるのか、逆に夏はこうしようなど、敏感に肌で感じながら調節してくださっている様子に非常に共感したのと、人間の皮膚感覚で関与できる余地があることの素晴らしさ、それをひと手間かけて楽しみながら享受されている姿に、これから設計に携わって行く方向性に気づきのあったひとときでした。

そして同じく、冬のお便り(記事はこちら 「北海道からの便り Vol.2」)で紹介させていただいた江差の家も無事お引き渡しが済み、どう過ごされているか会いに行きたくてうずうずしているところです。

こちらは暴風吹きすさぶ冬を少しでも楽しむための装置が中庭です。当初、南側にガレージと物置を持ってくるなんて。とクライアントのご友人がおっしゃっていたそうですが、風速20mのたば風を受け止めて、受け流す配置計画になっています。また、大開口を解放すれば短い北海道の夏を満喫できる外のリビングとなります。完全に囲われたコートハウスも考えましたが、地域とのつながりがなくなるのは残念なので、気候と気分によって開閉可能なスタイルにしました。開ければ光り輝く日本海も望めます。

こちらは暴風吹きすさぶ冬を少しでも楽しむための装置が中庭です。当初、南側にガレージと物置を持ってくるなんて。とクライアントのご友人がおっしゃっていたそうですが、風速20mのたば風を受け止めて、受け流す配置計画になっています。また、大開口を解放すれば短い北海道の夏を満喫できる外のリビングとなります。完全に囲われたコートハウスも考えましたが、地域とのつながりがなくなるのは残念なので、気候と気分によって開閉可能なスタイルにしました。開ければ光り輝く日本海も望めます。

最後に、NHKの朝ドラの撮影で盛り上がっている余市からエコカレッジの取り組みをお伝えして終わりにしようと思います。

3年ほど前から動き出した、果樹園の中のエコビレッジに学び舎を建設するプロジェクトです。たくさんのミーティングを重ねながらさまざまな可能性を探りながら進めてきました。果樹園の魅力探しから、それを活かして自然エネルギーの仕組みをわかりやすく暮らしに取り入れることや、実験的なコンポストトイレの導入、北海道らしい木質バイオマスを活用したかまどとそれを利用した暖房装置を構想したりと限られた予算の中で、小さな学び舎ですが想いは大きく詰まったものとなりました。建設が始まってからさまざまなトラブルに見舞われながらも、それを力に変えて仲間とともに前向きに進めてきました。

余市らしい、先進的な環境に優しい仕組みはなにかと、ずいぶん議論しましたが、結局、奇をてらわずに徹底的に外皮性能を上げてエネルギーを使いすぎないことが、もっとも安価でもっとも効果があり、厳しい冬も暑い夏も快適に学べるコンパクトな学び舎はとてもシンプルなものとなりました。セルフビルドも含めて9月の完成を目指して進行中です。また冬のお便りで詳しくお知らせできればと思っています。

派手な新しい技術を見せるのではなく、基本的なことをしっかり地道に積み重ねて行くことが形になりました。この学び舎で繰り広げられる学びのプログラムもとても興味深いです。本当は今頃すっかり上棟していたはずなのですが、完成した基礎が大工さんの乗り込みを待っています。

派手な新しい技術を見せるのではなく、基本的なことをしっかり地道に積み重ねて行くことが形になりました。この学び舎で繰り広げられる学びのプログラムもとても興味深いです。本当は今頃すっかり上棟していたはずなのですが、完成した基礎が大工さんの乗り込みを待っています。

130731_sakurai北海道からの便り-特派員/櫻井 百子(さくらい ももこ)

1973年北海道旭川市生まれ。北海道東海大学芸術工学部卒業後、都市計画事務所、アトリエ設計事務所を経て2008年アトリエmomo設立。子育てしながら、こころや環境にできるだけ負荷の少ない設計を心がけている。平成22年度 北海道赤レンガ建築奨励賞、2011年度 JIA環境建築賞 優秀賞 (住宅部門) 受賞。

[北海道からの便り バックナンバー]
・北海道からの便り vol.1
・北海道からの便り vol.2
・北海道からの便り vol.3
・北海道からの便り vol.4
・北海道からの便り vol.5
・北海道からの便り vol.6
・北海道からの便り vol.7
・北海道からの便り vol.8

近江八幡からの便り Vol.3


2013年夏号より湖国・滋賀からの便りを担当させて頂いております。近江八幡に立地する民間の環境共生型コミュニティづくり事業「小舟木エコ村」と、そこにまつわるプロジェクトのご紹介を絡めながら、実践的な取組を紹介させて頂きます。

冬号で紹介した小舟木エコ村に立地する小舟木ミネルギーハウス。植栽が植わり、住まいらしくなってきました。

冬号で紹介した小舟木エコ村に立地する小舟木ミネルギーハウス。植栽が植わり、住まいらしくなってきました。

ここ近江八幡も、ほぼ平年並みとなる梅雨明けを迎えて蒸し暑い夏がやってきました!彦根地方気象台ホームページの記載によれば、毎年7月下旬から8月にかけて最も気温があがる時期を迎えることになります。

◇彦根地方気象台ホームページ(外部リンク)
http://www.jma-net.go.jp/hikone/kikou/kikou.html

滋賀県は周囲を山に囲まれており、地勢的には夏に高温となりやすい盆地でありながら、気象条件が比較的温和とされているのは、やはり中央に位置する琵琶湖のおかげと言って良いでしょう。特に「湖陸風」と呼ばれる琵琶湖への軸線に沿って吹く卓越風は、滋賀県の気候を特長づける存在です。

自立循環型住宅設計ガイドラインの気象データ資料【滋賀県】*にもあるように、近江八幡に地理的にも最も近い蒲生(東近江)観測所のデータをみると、琵琶湖から陸に吹く「湖風」と、陸から琵琶湖に吹く「陸風」の存在が、特に夏に顕著に表れています。湖と陸の気温差によって生まれるこのふたつの風は、前者は朝に、後者は夕方にと交互に吹くことで、琵琶湖周辺の気温変化を緩やかにする役割を担っています。

◇自立循環型住宅設計ガイドラインウェブサイト内 気象データ*
http://www.jjj-design.org/technical/meteorological.html

 

この湖陸風の効用を最大限取り入れるように設計された建物のひとつに、「近江八幡エコハウス」があります。

 

パース

パース

 

この建物は湖国エコハウス地域普及事業(近江八幡市:21世紀環境共生型住宅普及活動事業(平成21年度環境省補助事業))によって、地域のモデルハウスとして建設されたものです。

(※事業内容は 湖国エコハウス地域普及事業のHPをご覧下さい。)
http://kokoku-ecohouse.net/

 

外観/伝統的な焼スギを採用した落ち着いた外観

外観/伝統的な焼スギを採用した落ち着いた外観

外観/北面にも縁側や広い庇がかけられている。

外観/北面にも縁側や広い庇がかけられている。

外観/南面屋根に太陽光発電3.88kWと太陽熱温水用集熱パネルを搭載

外観/南面屋根に太陽光発電3.88kWと太陽熱温水用集熱パネルを搭載

 

近江八幡エコハウスが立地する小舟木エコ村の北北西の方向、約3kmのところに琵琶湖が位置しております。小舟木エコ村の区画道路は、建物を素直に配置すると琵琶湖からの風を自然と効率的に取り込むことができる方角となっており、かつ近江八幡エコハウスは建物中央に「通り土間」が設けられているため、素晴らしい通風を実感できます。近江八幡でも外気温が35℃を超える日はありますので、熱を帯びた風が蒸し暑く感じることもありますが、汗をかいたところに風が吹くので、体感的にはまだ気持ちのよい熱さと言えます。

平面図

平面図

最も厳しい暑さとなるのは「湖風」から「陸風」に風向きが変わる途中の「凪」の時間帯です。お昼前後に多いのですが、この風が完全にとまってしまう時が一番ツラく、「通り土間」にいても、汗がダラダラと出ることがあります。

もちろん、近江八幡エコハウスは地域区分に即した次世代断熱基準を当然クリアする仕様で建設されていますし、出力3.88kWの太陽光発電がついているので、自給された電力でエアコンを使用することもできます。高断熱気密住宅での過ごし方のアドバイスにある、「夜間から朝方にかけて冷気を取入れたら窓を閉切って高効率エアコンで過ごす。」という方法も適用できます。

エネルギーの見える化のため、太陽熱&太陽光発電+オール電化されている

エネルギーの見える化のため、太陽熱&太陽光発電+オール電化されている

しかしながら、実際に近江八幡エコハウスを訪れた多くの方は、「通り土間」周辺では多少気温が暑くとも窓を開け放して通風をとる方法が、より体感的に気持ち良いと感じておられるのではないでしょうか。実際に、この夏から団体視察の対応を2階のセミナールームではなく、「通り土間」でおこなうようにしたところ、涼しいと好評でした。温度と湿度、断熱性能や気密性能の数値とともに、風になびく葦の葉のサラサラとした音や、自分がかいている汗の量、吹く風の強さなど、他にも様々な要素が作用して。涼しさを感じていることに気づかれると思います。

通り土間が風の通り道となり、二つの空間をつないでいる。

通り土間が風の通り道となり、二つの空間をつないでいる。

冬には建具を閉めて、風をシャットアウトする工夫も。

冬には建具を閉めて、風をシャットアウトする工夫も。

また、リビングやダイニングといった間取りに縛られること無く、フレキシブルに様々な生活シーンに対応できるような空間としても「通り土間」は欠かせない魅力となっています。しかも冬には、風を通さないよう、建具も備えています。

通り土間を挟んだ内観の様子。杉板にホタテ貝の貝殻の成分で仕上げられている。

通り土間を挟んだ内観の様子。杉板にホタテ貝の貝殻の成分で仕上げられている。

ヨシを活用した夏冬兼用の建具や、版築の土壁が自然をより身近に感じさせてくれる。

ヨシを活用した夏冬兼用の建具や、版築の土壁が自然をより身近に感じさせてくれる。

その他にも、近江八幡エコハウスには、特産のよしずの他、北側に面した縁側など時間によって、より気持ちよく過ごせる場所もありますし、南面と北面には豊かな植栽が広がっており、屋根に設置された太陽熱給湯器によって、夏にはシャワーをほぼ浴び放題です。実際に居住したら、もっと快適に過ごすことができるように思います。

よしずは滋賀県特産の太くて丈夫なもの。

よしずは滋賀県特産の太くて丈夫なもの。

日射や視線を遮るとともに、風情が感じられる。

日射や視線を遮るとともに、風情が感じられる。

 

私自身も前号で紹介しましたがミネルギー基準の家や、パッシブハウスなどをはじめとして、省エネ住宅といえば、まず断熱や気密といった外皮性能+日射取得率+高効率エアコン+熱交換型換気など、数値や効率性に目がいきがちです。厳しい気候条件にある程その効果が大きいことは疑いありませんし、自然を失った結果であるにせよ、都市部や市街地もまた厳しい気候条件にあるため、建物の数値や効率性につい目がいきがちなのはやむを得ないのかもしれません。

一方で、近江八幡のように自然環境がある程度豊かなところでは、そこを丹念に設計に盛り込むことで、建物の性能を極端に高めなくとも夏に涼しい「場所」から涼しい生活をつくることができる可能性があります。近江八幡エコハウスはその可能性を、滋賀県固有の特長である琵琶湖の「風」を中心に示してくれているように思います。機会があれば是非近江八幡エコハウスを訪ねてみて下さい。

*

飯田氏近影飯田 航(いいだ わたる) 株式会社プラネットリビング勤務
1778年長野県諏訪市生まれ。東京農工大学農学部卒。
卒業後「小舟木エコ村」の事業化に携わり、事業会社である
株式会社地球の芽取締役を務めた後、現職。
2008年より特定非営利活動法人エコ村ネットワーキング副理事長。

 

◇近江八幡からの便り バックナンバー
Vol1.2013年夏の便り
Vol2.2014年冬の便り

京都「南禅寺の家」から、夏の便りが届きました


(左)施工後 (右)施工から8ヶ月後の様子。

(左)施工後 (右)施工から8ヶ月後の様子。

京都「南禅寺の家」から、夏の便りが届きました。

このレポートを書いてくれたのは、「南禅寺の家」の設計者である豊田さんです。

家の竣工から今年で3年経ち、庭も完成に近づきつつあります。

その庭づくりの様子から、京都の左官職人の技術を活かした南禅寺の家ができるまでの様子について詳しくご紹介いただいています。

なお設計者である豊田さんは、この「南禅寺の家」で(財)建築環境・省エネルギー機構主催「第5回サスティナブル住宅賞」において「国土交通大臣賞〔新築部門〕」の他、第9回木の建築賞 木の住宅賞、第7回地域住宅計画賞 地域住宅計画奨励賞も受賞しています。

詳しくはこちらをどうそ。

京都からの便り vol.1『南禅寺の家 夏の便り』


今年の6月、中庭でカマキリの赤ちゃんが生まれたようです。入居後2年半が経ち、緑も深く生物も増え、豊かな庭に育ちつつあります。庭師さんが言う「庭の完成は3年」までもう少しです。

南禅寺の家の中庭で生まれた小さな命たち

南禅寺の家の中庭で生まれた小さな命たち

家が完成したのは、2011年10月8日。この30日ほど前から庭づくりが始まりました。庭に使う石は、建物解体時に保管しておいたもの。大きな石は3本の丸太を組み、チェーンを使って移動させます。設置場所は軒下なので、そんな奥まで移動できるのかと思いきや、そこはさすがプロの庭師さん、いとも簡単に石を設置されました。が、石の表情が気に入らないのかもう一度やり直し。数度繰り返して、ようやく気に入った石の顔が正面に向き、次の作業へ。図面では表せない庭師の技をみたような気がします。試行錯誤を繰り返し、入居までになんとか形になりました。その後の樹木は、紅葉の時期を少しだけ楽しみ、春に向けて冬眠です。

庭づくりの様子。試行錯誤しながら丁寧に作業を進める。

庭づくりの様子。試行錯誤しながら丁寧に作業を進める。

(左)施工後 (右)施工から8ヶ月後の様子。

(左)施工後 (右)施工から8ヶ月後の様子。

5ヶ月後の3月、まちに待った春です。樹木が一斉に活動を始め、地苔も生えてきました。住まい手は、各季節の花がたのしめるようにと庭師さんにお願いされたので、順々に花が咲いていきます。私が、同年6月に訪問した際は、木々が育ち池も完成していました。

池は、屋根からの雨水を利用し水を貯め、ボウフラ対策としてメダカを放たれていました。しばらくして、メダカの数が減っていることに気が付かれたのですが、大雨で排水口に流れてしまったのかと心配をする一方で、猫や鳥に食べてられているのでは?と想像されたそうです。数カ月後、何故か池に沢蟹が死んでいるのを見つけられたことから、もしや、メダカがいなくなったのは、メダカと沢蟹が格闘をした結果だったのかも?と自然の摂理を感じずにはいられませんでした。

ボウフラ対策として池に放たれたメダカの数がなぜか減っていく。

ボウフラ対策として池に放たれたメダカの数がなぜか減っていく。

この土地は、琵琶湖疏水の綺麗な水が前面道路の側溝を流れており、そこに住む沢蟹が庭を伝って中庭の池までやってくるようです。住まわれる方が大切に手入れをすることで植物も元気に育ち、生物も引き寄せられるのかもしれません。

*

この家は土壁でできています。土壁というと、建築のプロは、竹小舞を掻いて土を塗る日本の伝統的な工法をイメージしますが、一般の方は、外部のモルタルや内壁の薄塗りも「土壁」という認識に変わりつつあります。理由は簡単で、建売やハウスメーカーともに、外壁はサイディング、内壁はクロスが主流であり、壁を塗るという行為自体が少なくなっていることにあります。そんな中、住まい手は、アレルギー体質を改善したいがため、昔からある土壁を選択されました。住まい手が家づくりにかけた思いは、本サイトの「くらしかた・すまいかたvol.19」を是非御覧ください。

土壁にかかるコストと工期の問題を解決すべく、様々な試行錯誤を繰り返しながら作業を進めた。

土壁にかかるコストと工期の問題を解決すべく、様々な試行錯誤を繰り返しながら作業を進めた。

この家の土壁は、左官職人である父と共に試行錯誤してできあがりました。一般的に竹小舞土壁は、竹の上に土を表と裏に塗り仕上げますが、今回は、木小舞の上、土を片面だけ塗る方法を採用し、土の背面に断熱材を充填することにしました。土壁は、コストと工期が問題で使われなくなっていると言われているため、その2点を再優先で解決する方法として実践したわけです。

木小舞の上、片面だけに土を塗る。

木小舞の上、片面だけに土を塗る。

木小舞に土を塗るコツは2点あり、1つ目は竹小舞のように土が絡みつく隙間を大きく開けること、2つ目は荒土を塗ることです。昔は、木摺(隙間が6mm程度)の上に中塗り土を塗っていたため、木と木の隙間に土を絡みつかせることができず、剥がれの原因にもなったと父は言います。実践した木小舞片面土塗りの隙間は、土の種類や粘り、硬さによっても変わりますが、24mm程度開け土を絡みつかせるのがよさそうです。

土を塗った木小舞を外側から見た様子。木と木の隙間は24mmとした。

土を塗った木小舞を外側から見た様子。木と木の隙間は18mm以上必須。

では、木小舞に中塗り土を塗ってはどうか?と父に聞いてみると、それもNGとのこと。荒土は粘りが強く藁スサがあることで小舞に絡みつき、厚みをつけることができます。土に入れた藁スサがコンクリートでいう鉄筋の役目をしてくれるので土が剥がれにくいのですが、中塗り土の場合、藁スサは細かいものを使用するので、木小舞に塗る土としては不適のようです。

次に、木小舞片面土塗りの弱点を聞いてみると、やはり片面塗り(裏返しをしない)というのが気になるようでした。裏返し塗りをしないことで、耐候性が悪くなり、木が反ったり劣化しやすいのではないか?と。そこで、木小舞と土を強烈な日射から保護するために、土壁の背面に羊毛の断熱材を充填することにしました。

土壁の背面に羊毛の断熱材を充填し、木小舞と土を強烈な日差しから保護している。

土壁の背面に羊毛の断熱材を充填し、木小舞と土を強烈な日差しから保護した。

昔は、土や木しかなかったのでそれらで家が傷まないように保護していたのですが、現代は、断熱材という優れた素材があり、それを使うことで土壁の劣化を和らげると同時に、住まいの室内環境を快適にする素材として利用したわけです。さらにその上から、透湿性がある構造用面材を張り、剛構造として耐震性を確保。これで現代の土壁が完成です。結果、左官職人の父と設計者の私が、お互いの意見を出しあい生まれたのが、断熱材を充填した木小舞片面土塗りとなりました。

 

最後に、この住まいの庭は庭師さんの遺作、土壁は父の遺作となりました。技術や伝統はもちろんのこと、職人が家づくりに立ち向かう意思を受け継ぐことができ、かけがえのない住まいとなったことに感謝したいと思います。

*

toyoda_1豊田保之/トヨダヤスシ建築設計事務所代表

1974年京都生まれ。瀬戸本淳建築研究室、Ms建築設計事務所を経て、2005年トヨダヤスシ建築設計事務所開設。岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師。京都造形芸術大学非常勤講師。一般社団法人住宅医協会理事。代々続く左官職人の家に生まれた経歴から、土壁や漆喰など左官職を生かした家づくりを行っている。
「南禅寺の家」では、(財)建築環境・省エネルギー機構主催「第5回サスティナブル住宅賞」において「国土交通大臣賞〔新築部門〕」の他、第9回木の建築賞 木の住宅賞、第7回地域住宅計画賞 地域住宅計画奨励賞も受賞している。

★同じ著者の他の記事を読む

京都からの便りvol.1『南禅寺の家 夏の便り』
京都からの便りvol.2『南禅寺の家 冬の便り』
京都からの便りvol.3『赤穂市に建つ既存住宅の詳細調査』
京都からの便りvol.4『南禅寺の家 冬の便り』
奈良からの便りvol.1『ならやまの家 夏の便り』
奈良からの便りvol.2『ならやまの家 冬の便り』
京都からの便りvol.5 『土壁と気候風土適応住宅』

沖縄からの便りが届きました


Casa Villa 真地 外観(写真協力:義空間設計工房)

Casa Villa 真地 外観(写真協力:義空間設計工房)

2014年夏編の連載第1弾として、「沖縄からの便り」が届きました。

沖縄県那覇市在住の松田さんからは、沖縄を代表する日よけ建材「花ブロック」の新旧交えた使われ方やその効用についてレポートしていただきました。

沖縄を代表する建材とも言える「花ブロック」ですが、実は米軍基地の住宅を参考に、見よう見まねで広まったもの。

戦後60年以上経った現在の沖縄において、その花ブロックを使った様々な建築についてもご紹介いただいています。

沖縄からの便り Vol.3 については、こちらからどうぞ。

2014年夏編の連載が始まります


[ご挨拶]

平素より一般社団法人 環境共生住宅推進協議会のホームページをご利用いただき、ありがとうございます。

『地域からの便り』は2007年から、日本・世界の各地域にお住まいの方から、環境と共生する暮らしの風景をお寄せいただいて参りました。6年目の今年も昨年に引き続き、日本国内における環境と共生する住まい作りについての新たな連載を開始します。

環境と共生する住まいづくりの専門家から、地域ならではの気候風土とそれに合わせて、少ないエネルギーや資源で快適に暮らせる住まいの作り方についてご寄稿いただきます。

地域は沖縄県那覇市、滋賀県近江八幡市、京都府京都市、秋田県能代市、北海道下川町等の計8箇所を予定しております。

夏は7月~8月、冬は1月~3月と期間を限定してお届けしますので、更新をお楽しみに。

この連載を通じて、環境と共生する住まいづくりを考えていらっしゃる皆さまや、すでに取り組まれている皆さまの情報交流にもつながって行くことを願っております。

2014年7月1日
一般社団法人 環境共生住宅推進協議会

2014年夏編


[ご挨拶]

平素より一般社団法人 環境共生住宅推進協議会のホームページをご利用いただき、ありがとうございます。

『地域からの便り』は2007年から、日本・世界の各地域にお住まいの方から、環境と共生する暮らしの風景をお寄せいただいて参りました。6年目の今年も昨年に引き続き、日本国内における環境と共生する住まい作りについての新たな連載を開始します。

環境と共生する住まいづくりの専門家から、地域ならではの気候風土とそれに合わせて、少ないエネルギーや資源で快適に暮らせる住まいの作り方についてご寄稿いただきます。

地域は沖縄県那覇市、滋賀県近江八幡市、京都府京都市、秋田県能代市、北海道下川町等の計8箇所を予定しております。

夏は7月~8月、冬は1月~3月と期間を限定してお届けしますので、更新をお楽しみに。

この連載を通じて、環境と共生する住まいづくりを考えていらっしゃる皆さまや、すでに取り組まれている皆さまの情報交流にもつながって行くことを願っております。

沖縄からの便り vol.3


もうすぐ梅雨が明け、楽しい夏がやってきます。「夏だ!海だ!ビーチパーティだ!」
しかし、喜んでばかりではいられません。夏には台風もやってくるのです。
今回は、暑い暑い日差しや台風などから沖縄の住まいを守る花ブロックのお話しをしたいと思います。
この花ブロック、最近は県外でも使用されるようになりましたが、コンクリート技術同様に、米軍基地からの建築技術を見よう見まねで学び始まったと聞きます。

現嘉手納基地内のドミトリー、花ブロック その1

現嘉手納基地内のドミトリー、花ブロック その1

現嘉手納基地内のドミトリー、花ブロック その2

現嘉手納基地内のドミトリー、花ブロック その2

現嘉手納基地内のドミトリー、花ブロック その3

現嘉手納基地内のドミトリー、花ブロック その3

現嘉手納基地内のドミトリー、花ブロック その4

現嘉手納基地内の花ブロック

花ブロックの役割は・通風・日射遮蔽・防犯・プライバシー確保・防強風、飛散物からの衝突阻止等というように、多様にあります。なんといっても、わがままなお願いをたくさんきいてくれるのです。

わがままなお願い1:丈夫な壁は欲しいけど、涼しい風も欲しい。
台風がやってくると色々なものが宙を舞い、いつ何が飛んできてもおかしくない状況になります。強風時には、シェルターの中に閉じこもっていたいですね。
RC造の住宅だと、シェルターに籠るような安心感があります。ただ、コンクリートの壁に囲まれていたら、普段は熱がこもり暑い部屋になってしまいます。
強風時は丈夫な壁が必要だけど、普段はそれよりも涼風が欲しいもの。
花ブロックだと、そんなわがままなお願いも叶います。丈夫で、飛散物から守ってくれて、日常的には、風を取り込みます。さらに防犯性も備えているので、不在時や夜眠るときも、窓を開けたまま涼しい風を家の中に取り込むことができます。
また、洗濯物干し場を、花ブロックで囲んでいる住宅も少なくありません。
雨は、あまり入ってこないけど、風は入ってくる。
花ブロックで構成すると、そんな快適な半外部空間が出来上がります。

わがままなお願い2:採光は欲しいけど、日射熱は要らない。
沖縄は、日照時間が長く照明エネルギーの消費量は少ないように思われがちですが、降水量は多いため日照時間は短く、国内では消費エネルギー量が非常に多い地域です。
日照時間が短い一方で日射量は大きいので、日射遮蔽や冷房負荷軽減のためにカーテンなどを閉めて照明をつけてしまいがちです。
さらに台風対策としてシャッター等で開口部を閉じると暗くなり、結果として照明エネルギー量が大きくなってしまうと考えられます。
そういった点でも花ブロックは、光は通して日射遮蔽をする優秀な建材です。
特に西面など太陽高度の低い時間帯に直達日射が当たる部位では、花ブロックを用いると採光とのバランスのとれた日射遮蔽が行いやすくなります。

わがままなお願い3:外の景色は見たいけど、中は見せたくない。
花ブロックの美しさは、正面からより裏面に現れるのでは、と思います。
外部からの視線は遮りながらも、光や風を通すフィルターになっております。

沖縄県立博物館・美術館(外観)

沖縄県立博物館・美術館(外観)

 

沖縄県立博物館・美術館(内観)

沖縄県立博物館・美術館(内観)

花ブロックを透過した光は、やわらかく空間を包みます。
夜になると、今度は建物内の光が灯篭のようにやわらかく街並みを照らします。
花ブロックの景観は、もはや沖縄では欠かせないひとつになっています。
花ブロックを使った建物の紹介
現在、沖縄県ではスマートエネルギーアイランド基盤構築事業というのを行っていて、その事業のうちの一つに「亜熱帯型省エネ住宅の実証」というものがあります。
そこで、モデル住宅を選定して現在それらの建物の温熱環境の測定を行っています。そのモデル住宅のうちの一つですが、花ブロックを利用した集合住宅があります。共用階段部とバルコニーの壁を花ブロックにしています。

モデル住宅の花ブロック

モデル住宅の花ブロック

モデル住宅の花ブロック

モデル住宅の花ブロック

モデル住宅の平面プラン

モデル住宅の平面プラン

平面プランでも、部屋全体が一体化できるように各部屋の間仕切りは引き戸で構成しています。網戸付の玄関や、土間のあるエントランス、常時開放できる防犯性の高い建具など、工夫しています。あとは、どうやって暮らしていくかのライフスタイルにも関わってきますが、環境測定の結果が、一年後に出るのでとても楽しみです。

Casa Villa 真地 外観(写真協力:義空間設計工房)

Casa Villa 真地 外観(写真協力:義空間設計工房)

Casa Villa 真地 外観(写真協力:義空間設計工房)

Casa Villa 真地 外観(写真協力:義空間設計工房)

この花ブロックを美しく盛り込んだ集合住宅は、義空間設計工房(沖縄 一級建築士事務所)によって設計されたものですが、2012年度グッドデザイン賞・沖縄住宅建築大賞を受賞するなど高く評価されたものです。何気なく道を歩いていても、この建物の前を通るとインパクトがあり圧倒されます。

Casa Villa 真地 内観(写真協力:義空間設計工房)

Casa Villa 真地 内観(写真協力:義空間設計工房)

Casa Villa 真地 内観(写真協力:義空間設計工房)

Casa Villa 真地 内観(写真協力:義空間設計工房)

花ブロックを通して光が室内に入ってくるのはとても居心地がよさそうです。
このほかにも花ブロックを駆使した素晴らしい建物は、沖縄にはいっぱいあります。
沖縄と言ったらコレ、有名な建物である名護市庁舎(設計:象設計集団)も同様、国立劇場おきなわ(設計:高松建築設計事務所)、沖縄県立博物館(設計:石本建築事務所・二基建築設計室設計共同体)も花ブロックの良さが表れている建物です。

住宅以外でも、花ブロックの多彩な性質が生かされています。
これからの時代、もしかすると「花ブロックを制するもの、沖縄建築を制する」と言っても過言ではないのかもしれません。
ひとつ断言できることは、花ブロックをうまく使いこなすことが、沖縄での住まいの快適性、省エネ性に大きく関わるということです。
また将来的には、沖縄だけでなく、県外・国外にも広まっていくと思います。花ブロックの未来に期待が募ります。

以上、大きな可能性を秘めている花ブロックについて、沖縄からの便りでした。

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「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年より特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事に就任。現在特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事長。

◇沖縄からの便り 他の記事を読む
・vol.1 2013年夏編
・vol.2 2014年冬編
・vol.3 2014年夏編
・vol.4 2015年冬編
・vol.5 2015年夏編
・vol.6 2016年冬編
・vol.7 2016年夏編
・vol.8 2017年冬編
・vol.9 2017年秋編

近江八幡から冬の便りが届きました


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近江八幡の小舟木エコ村の飯田さんから、冬の便りが届きました。

今回は夏編で紹介した、スイスの「ミネルギー・P・ECO」認証を目指してスタートした小舟木ミネルギーハウスの続編です。

小舟木はいわゆる北国のような寒さではない「Ⅳ地域」にあります。
Ⅰ次エネルギー消費量の観点でこだわった住まいについて、今回は建設の様子と竣工後から初めての冬を迎えての実績を詳しくご紹介いただいています。

詳しくは『近江八幡からの便り vol.2』をご覧ください。

近江八幡からの便り vol.2


こんにちは。湖国・滋賀からの便りを担当させて頂きます飯田 航と申します。
滋賀県近江八幡からの便りをお届けいたします。

近江八幡の冬の気候は、零下を下回る日もありますし、積雪も年5日ぐらい、5~10cm程度ありますが、日中は気温があがるので、アイスバーンになったりすることは殆どありません。信州諏訪の生まれの私にとっては非常に穏やかな気候に感じます。ただ、琵琶湖から吹き寄せる湖陸風はかなり厳しく、北北西から強い風が吹いてきます。また、熱量の大きな石油FF式ストーブなどがあまり普及しておらず、エアコン暖房が主流で、アルミサッシのシングルガラスのような建物の環境によっては、なかなか暖かさを感じることが難しいエリアという印象があります。

さて、今回紹介するのは夏号で紹介した、スイスの「ミネルギー・P・ECO」認証を目指してスタートした小舟木ミネルギーハウスの続編です。いわゆる北国のような寒さではない「Ⅳ地域」にあって、Ⅰ次エネルギー消費量の観点でこだわった住まいについて、今回は建設の様子と竣工後から初めての冬を迎えての実績を少しご紹介したいと思います。

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■建築プロセス

基礎は地中梁として、天端はフラットの形状としています。これは床下の湿気の不安定な動きを極力避けることが目的です。

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天端にはアスファルト防水のような黒い防湿層を施工しています。コンクリートからの湿気が室内に上がってこないようにする工夫です。

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その上に、木質繊維断熱材70mmを2層重ねて140mmの断熱層を設けます。

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床の下地を貼ります。うず高く積まれているのはこの後、屋根と外壁に使う木質繊維断熱材です。北海道の針葉樹を主原料としていて、製造時の熱も大部分をバイオマス由来とされていて、ライフサイクル的にも非常に優れた材料です。

140228_iida_p04屋根の施工の様子です。外張り断熱として屋根と壁の断熱と気密のラインを揃えています。断熱材敷込の下地には杉板を用いて透湿性を確保しています。下の写真で見えている白いシートは透湿防水シートです。今回はポリエチレン製の気密シートや調湿製気密シートの代わりに、気密シートとして使っています。これも透湿性を考慮した結果です。この段階で気密測定をおこなっています。その後、上に木質繊維断熱材を2層(120mm+100mm)敷きこんでいきます。

140228_iida_p05 屋根の垂木のピッチにあわせて縦桟と横桟を交差させ、木部が重なる部分を最小限にし、極力断熱層が連続するように工夫しています。

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その上から、透湿防水シートを貼っていきます。これは本来の防水と耐風が目的です。

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そして、垂木を縦桟のピッチに併せて設置していきます。屋根は通気工法としています。

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続いて壁の断熱材の敷き込みの様子です。見えている透湿防水シートは室内側からみて1層目の気密用のものです。外壁も縦桟と横桟を設け、断熱材を2重(100mm+80mm)に敷きこんでいきます。コーナーは図面上でもなかなか把握が難しいところです。この後、2層目のシートを透湿防水シート本来の用途で貼っていきます。

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天井裏に設置された熱交換型換気システムです。顕熱と全熱とに、エレメントを交換することができるタイプです。設計段階で換気ルートや設置箇所をある程度決めていく点は、通常の局所換気とはまた異なる制約条件となり苦労したところです。

140228_iida_p10 壁はCLT(Cross Laminated Timber)による木質クロスパネルです。まだ日本ではあまり見慣れない構造体です。当初は国産杉材のCLTを採用する予定でしたが、震災等の影響で国内工場での生産が難しくなり、開発・製造元のドイツ製のパネルを採用しました。

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CLTの建設の様子です。プレート型の金物でとめていきます。間伐材のような小径木を接着して、すのこ状のようなパネルにし、軽量化と強度の確保を両立している点が大きな特徴です。

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デッキパネルです。2階の床(Ⅰ階の天井)になります。このパネルがいわゆる「梁」として認められないところが、この工法の特殊な点です。

 

こちらは、内装に用いる粘土壁パネルです。カオリナイトやモンモリロナイトを主成分とした粘土をファイバーメッシュとともに固めたものです。プラスターボードのように、必要に応じて丸のこ切断し、ビスでとめていきます。濡らすことで局面の成形も可能です。切断時に中に含まれている細かな石粒が飛び、大工さんが苦労されていました。

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粘土パネル設置後、同じ粘土でジョイント部をファイバーメッシュにより処理していきます。元来木造建築が得意としてきた透湿性と、不得手としてきた蓄熱性を兼ね備えた機能的な壁になります。建物全体では体積で言うと2〜3㎥程度の粘土量になります。

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トリプルガラスの木製サッシは外装アルミクラッドタイプで対候性に優れたものです。海外では、サッシをパネルに嵌めた状態で建て方をするそうです。今回は、後付でしたので取付には非常に苦労されました。

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いよいよ外壁の仕上げです。透湿防水シートの上に、縦胴縁を桟を狙って設置し、通気層を儲けていきます。

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室内→土壁→断熱材→外気(通気層)とそれぞれのレイヤーには温湿度のセンサーが仕込まれており、データをモニタリングできるようになっています。

140228_iida_p18 完成した外観です。(撮影 2013.12/28)外壁は国産杉のジョイントウォールと羽目板を採用しました。

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■建設にあたって

一般的な4〜5人家族用で居室面積は30坪弱、比較的コンパクトといえるかもしれません。前回紹介した小舟木エコ村内の区画に立地しているのですが、南側区画には2階建ての二世帯住宅、南西側には2階建ての戸建住宅が建っており、決して日射取得に恵まれているとは言えません。どちらかと言えば不利な環境で、日本の住宅事情を考えると、どこにでもありそうな一般的な住環境にあるといって差し支えないと思います。

そこで、配棟を区画に対して角度をつけ、近接する2つの住宅の狭間にある、わずかな南側の空間に大きな開口部を面するように工夫しました。

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おかげで、夏には奥行1200mmの庇で日射を効果的に遮り、冬には2階の居室はもちろん、日当たりの悪い1階でも、お昼前後の時間には日射を室内に取り込むことができています。また、結果的に太陽熱温水の集熱パネル、太陽光発電パネルにも、効率に優れた角度となっています。

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2階の庇も1階同様深めですが、この時期は日射取得が期待できます。周辺の建物の影響を受けにくいです。

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左側は2階西側主寝室の壁際においてある温湿度計、13時頃の室温です。
右側は同じ場所の翌日朝8時の室温です。

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この家には、暖冷房装置は1階リビング、2階洗面脱衣室に設置され、両方含めて4kwのヒートポンプ1台で賄っています。だいたい250w〜470wの間で24時間運転している状況です。

参考までにCO2収支と電気収支です。
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まだ通年での結果ではありませんが、CO2収支的にはまずまずの結果になりそうです。それでも冬場はやはり電気、ガスの消費量ともに増えています。
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特に電気代は夏場は1800円程度でしたが冬場は10000円を超えてきました。太陽光発電の売電分を考慮して冬場は4000円程度の支出です。電灯Aの契約で24時間全館暖房してのコストとして高いか安いかは別として、ヒートポンプの設置環境や、暖房システムの使い方など、使い手側の工夫の余地はまだまだありそうです。

実は冷蔵庫が10年以上前のもので、テレビもまだブラウン管だったりします。。。独身用サイズの冷蔵庫の電力消費量もなかなかバカにできません。

家電の省エネも徐々に進めていきたいと思います。

また、機会があればより詳細なレポートをしたいと思います。長文におつきあいいただき、ここまで読んでくださりありがとうございました。

最後に建築概要を記載しておきます。

 ■  建築概要
敷地面積 231.48㎡ (70.02坪)
延床面積 129.45㎡ (39.15坪) ※居室面積 97.64㎡(29.53坪)
熱損失対象床面積 102.82㎡(31.10坪)
工法・構造 木造2階建 リグノトレンド工法(CLT=Cross Laminated Timber)
工   期 平成24年8月5日〜平成25年6月27日
設計監理 一級建築士事務所 有限会社松尾設計室 松尾和也
実施設計担当:高宮 透 (現:グランデザイン一級建築士事務所)
施   工 株式会社秋村組
企画・材料 Swiss Building Components Ag
アドバイザ−  建築物理 York Ostermeyer スイス連邦工科大学(ETH) 講師
材料試験 後藤 豊     EMPA、東大安藤研究室

■  仕様/部材
断熱性能 Q値換算=1.6 (W/㎡K) 外貼り断熱工法
気密性能 隙間相当面積 C値=0.40c㎡/㎡ (9.8pa差圧)
50paの差圧をかけた状態の通気量と気積の比 0.57<0.6 (基準値)
基   礎 耐震地中梁ベタ基礎+防湿アスファルト仕上(天端)
床下断熱 木質繊維断熱材140mm(= 70+ 70) 床下敷込(二重)一部フォ−ムグラス
屋   根 木質繊維断熱材220mm(=120+100) 外貼(二重)
壁   木質繊維断熱材180mm(=100+ 80) 外貼(二重)
木質繊維断熱材は(株)木の繊維 ウッドファイバーLD(国産針葉樹)
熱伝導率 0.038W/m・K  ※高性能GW16kg/㎡相当
窓   木製断熱サッシ(国産スギ材:XPSなし)ドイツPazen社 Premium
Low-Eトリプルガラス(ノンアルゴン)
平均U値(熱抵抗値)=0.7 G値(日射取得率)=0.6
ド      ア  木製断熱ドア(国産スギ材:XPSなし) ドイツPazen社製
換気装置 第1種セントラル熱交換型換気(顕熱) Zender社 ConfoAir
熱交換率90% ※浴室、キッチンに局所換気(同時吸排型)を併設
暖 冷 房 温冷水循環システム(定格出力4.0kW)
HR-Cラジエ−タ− + ヒ−トポンプ熱源(三菱電機製 エコヌク−ル ピコ)
給   湯 太陽熱利用ガス給湯システム 集熱パネル4㎡+貯湯タンク200L
CHOFU製 エネワイター 「ECOゆ」機能付
太陽光発電 サンテックパワー 定格出力4.29kW 予想発電量4,300kWh/年
HEMS Panasonic エコマネジメントモニタ (電気+水道+ガス)

■  主な仕上
屋根材 ガルバリウム鋼板 たてはぜ葺 + 透湿系ルーフィング
外壁材 国産杉ジョイントウォ—ル(中本造林) ウッドロングエコ塗装仕上
床   材 ナラ無垢板  リボス社アルドボス塗装仕上
桐無垢板   同上
コルクボード リボス社アルドボス+クノス塗装仕上
階   段 ナラ集成材/ジュピーノ集成材 リボス社アルドボス塗装仕上
内装仕上 Clay Panel(t=14mm) + Clay Plaster + Clay Paint
(Made in Clay社製) ※一部スギ板貼
照   明 LEDおよび蛍光灯

(※筆者注:小舟木ミネルギーハウスは、2014年2月現在、ミネルギー・P ECOの認証手続待ちで、取得には至っておりません。)


飯田氏近影飯田 航(いいだ わたる) 株式会社プラネットリビング勤務

1978年長野県諏訪市生まれ。東京農工大学農学部卒。卒業後「小舟木エコ村」の事業化に携わり、事業会社である株式会社地球の芽取締役を務めた後、現職。2008年より特定非営利活動法人エコ村ネットワーキング副理事長。

東京近郊~鶴川から冬の便りが届きました


東京都近郊の鶴川から、冬の便りが届きました。
夏編に引き続いてお便りを送ってくれたのは、エコビレッジ鶴川 きのかの家の住人でもある中林さんです。

冬を快適に、そして省エネしながら暮らすための様々な工夫をご紹介いただいています。

詳しくは本文をどうぞ。

■東京近郊~鶴川からの便り Vol.2

東京近郊~鶴川からの便り vol.2


こんにちは。中林です。東京近郊~鶴川エコヴィレッジきのかの家からの便りとして、この住宅の環境共生的な工夫の中から、特に冬に関連したことを以下に述べます。

夏編と少し重複する部分がありますが、ご容赦ください。

■高性能な外断熱

きのかの家の外壁は密度の違う2種類のロックウール、計125ミリで外断熱をして、空気層をとって焼き杉のサイディングで仕上げています。またバルコニーの床版も躯体と熱絶縁し、窓は複層ガラス、屋上は菜園なので断熱性は非常によく、一地域(北海道)の推奨基準に適合するほどです。外断熱の良さは室内をコンクリートむき出し(漆喰の直塗りや塗装でも可)にすることで非常に熱容量の大きい熱的に安定した室内環境をつくることができる点です。我家も壁、天井はすべてむき出しで、冬は昼間南からの太陽熱で壁、天井、床の一部に蓄熱して夜の熱放出で暖房を節約しています。

きのかの家~外壁断面図

きのかの家~外壁断面図

 

■太陽熱のパッシブ利用

冬季の太陽は室内深くまで届くので、南側の蓄熱床(モルタルの上にタイル仕上げ)に直接熱を蓄えますが、さらに奥に届く太陽光は反射板を利用して天井の躯体に蓄熱する工夫をしています。

(左)茶色の床タイル部分が蓄熱床 (右)反射板で太陽熱を天井RCに蓄熱

(左)茶色の床タイル部分が蓄熱床           (右)反射板で太陽熱を天井RCに蓄熱

■薪ストーブ(ペレット兼用)による暖房

我が家のペレットストーブ

我が家のペレットストーブ

ここは集合住宅ですがコーポラティブ方式の自由設計ですから、薪ストーブを設置しました。いろいろ検討したのですが、薪とペレットの両用ということで国産の「CRAFTMAN STOVE」を選びました。価格も本体20万円弱と妥当で、電気不要の自然燃焼です。ただ煙突の設置に30万円ほどかかっています。建設時に伐採した敷地内の樹木で主としてスギやシラカシなどを保存しておき、ベンチや共用の物入れなどに再利用したのですが、その余りがあったので、それをストーブの燃料として使っています。

また、5年くらいでウッドデッキを解体した住戸があってその廃材をもらって燃料にしたりしているので薪を買ったことがなく助かっています。ペレットも試しに使ってみましたがまだ価格が高くやや不経済です。薪ストーブはかなり強力で夕方2~3時間燃やせば室内側の壁天井に蓄熱して暖かさが長く持続します。翌朝は外気が0度近くでも室内は15度を下回ることはありません。
このストーブでやや不満なのは開口が小さくて薪の炎を見て楽しむ、とはいかないところでしょうか。もう一つの課題は薪の保管場所です。現在はバルコニーに置いていますが多くは置けません、集合住宅ですから仕方ないですが・・・。

 

■暖気(夜間冷気)の循環をするファンダクト

薪ストーブは強力でいいのですが、その暖気を北側まで持ってゆくにはどうするか、また冬の南側の部屋は太陽熱の直射で暖かいのですが北側の部屋の寒さをどうにかしたい、などを考えて設置したのが南北循環ファンダクトです。天井に南北に径200ミリの円筒ダクトを設置し中間にダクトファンをはめ込み、北の部屋から吸気して南に吹き出す仕組にしました。これによって南側の暖気が中央の廊下を経路にして北側に循環するようになります。暖気だけを考えれば南側から吸気をして北側に排気をする方が少し効率が高いと考えられますが、実はこのファンダクトは夏の夜には北側の外の冷気を吸引して南側に吐き出すナイトパージ(外気冷房)モードに切り替えられるように設計したので北側吸気になっているのです。

南北循環ファンダクト 夏と冬の仕組み

南北循環ファンダクト 夏と冬の仕組み

130831_nakabayashi中林 由行(なかばやし よしゆき)
1943年 熊本生れ、一級建築士。
1972年より(株)綜建築研究所 主宰。2008年に引退、現在は会長。
NPO法人 コーポラティブハウス全国推進協議会 副理事長。
一般社団法人 環境共生住宅推進協議会(kkj) 技術顧問。
現在は、コーポラティブハウス、エコハウス、高齢者のためのグループハウスなどの普及推進をはかるNPO関連で活動中。

高知からの冬の便りが届きました


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皆さんは「土佐派」という設計集団をご存知でしょうか?

「土佐派」は、高知(土佐)ならではの気候風土や地形、そして自然災害に対応した伝統的な住まいへの知恵を活かし、現代の住まいや建物を生みだしている設計集団です。
数年前には、当協議会(kkj)の見学会で、「土佐派の建築」を見学に行きました。

前回の夏の住まいに続き、「土佐の冬の住まい」と題して、その土佐派の長 山本長水さんからお便りをいただきました。

詳しくは「高知からの便り Vol.2 『土佐の冬の住まい』」をご覧ください。

高知からの便り vol.2『土佐の冬の住まい』


夏の家を冬も使う

土佐の昔ながらの住まいははやり夏を旨とし、水と湿気への対応が主になっていて、台風に備えて屋根を小さく分棟にする傾向にあり、農家などの作業空間も縁側や軒の下で充分に機能するところから、住民の大部分が農家であった時代から、便所や風呂は別棟であり、部屋の温度差や床の段差は、あって当然、無くすことなどできないものでした。

そのような生活を受け継いでいる現在の暮らしでも、内外の生活圏は親しいものが多く、縁側の日だまりや、風通しは心地よいもので、特に隣近所との交流の場として利用し易いスペースとして大事なものになっています。

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棟二つの家/土佐漆喰の外観(撮影:西森秀一)

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棟二つの家/北の棟から中庭を見る(撮影:西森秀一)

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棟二つの家/客に抹茶を出せる水屋(撮影:西森秀一)

暖房よりは採暖

土佐の山間部ではその昔は囲炉裏が一般的でしたが、海沿いの平野部では囲炉裏はもちろん、炬燵さえなく、火鉢が普通の生活でした。それも来客のある時だけで、こと足りていました。ですからやがて現在の専用住宅を一棟で設計するような場合になっても、暖房設備の必要性よりは、電気炬燵や、ホットカーペットで暖を取り、エアコンを暖房に使う場合にもこれに頼り切ることは少なく、空気温度の内外差を少なくし、炬燵などの温かいものに触れていることで満足感を得る傾向があり、これを私も勧めています。

室内の空気温度を低めに設定する暮らし方は、省エネルギーであるのは当然ですし、暖かい土佐の人々には寒さのストレスが小さいせいか、北海道の人がたっぷりとした暖房をして、部屋の中ではシャツだけで暮らしているような、そのような満ち足りた暖かさに対する憧れはないように思います。

そのような感覚からでしょうか、一般に住宅の暖房設備は貧弱で、採暖設備に留まるせいか、北海道から来られた客人が、高知は寒いと言って早々に帰られると言う笑い話をよく聞くことがあります。現実に冬期には平野部でもー5℃くらいまで下がることもありますので、寒いはずですが、床の段差と同様、内外にわたって組み立てられている暮らし、特に農漁村部の田舎の暮らしは、温度差を受け入れる暮らしの方が現実的であろうかと考えます。

 

伝統の土佐和紙は静かに間仕切りを作る

伝統的な土佐の住まいでは障子と襖で部屋が仕切られ、冬は小部屋を作り、夏はこれらが全部開放されて、簾や簾戸になります。土佐には伝統製法の手漉きの土佐和紙が、原料の楮などの供給、手漉きの製紙の技術、製紙用道具を造る職人の三者が残っていると言われ、絹500年、和紙1000年と言われた、本格的な和紙が残っていて、これを使って建築をつくることが今でもできています。

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老人の離れ/生成りの土佐和紙の障子と襖(撮影:西森秀一)

本格的な和紙が入ると部屋の空気が変わってきます。骨太の木材や土壁や土間の三和土とともに、土佐和紙は冬の過乾燥をやわらげます。パルプや漂白剤の使われていない生成りの本晒しの和紙が空間の静かさと品格をつくります。
土佐の家では冬は障子と襖に何重にも区切られた寝室で眠ります。ここはそれなりに静かで暖かい場所になります。更にここでは老人たちは湯たんぽに暖められた寝床に入ることが昔から許されています。

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老人の離れ/老夫婦のための離れ(撮影:西森秀一)

 

昔ながらの土佐の住生活圏は内外にわたる

個人的な話になりますが、私は主屋が100年を越え、その他の棟も80年から40年程の農家に老夫婦だけで住んでいます。農作業用を兼ねた中庭を囲んで棟が6つに分かれていますが、日頃は居間用の離れ棟と寝室用の離れ棟の2棟と便所棟の3棟だけを使っていて、来客(年に数度くらい)の時だけ4棟目(主屋)と5棟目(釜屋)を使います。土蔵用の6棟目は専ら物置です。

老齢で夜中に1~2度トイレに起きますが、冬は寝床の脇に置いたドテラを羽織って一度月や星を確かめて、別棟のトイレに行きます。家内の自家用菜園と、私は雑草を刈り柿やミカンを収穫するのみで農作業はしていませんが、周りは斜面と段差だらけです。私は建築士ですが、この様な環境はここに住む以上、変えることのできないものですので、自分の対応力を鍛えて適合するのがよいと考えています。

エアコンは話題に出ますが、行動圏をカバーし切れませんし、棟毎に入れるのも負担ですし、今のところ温度差が体に良くないのではないかと言うことにして、来客用を含めて炬燵と扇風機のみで対応していてそれなりに満足しています。夏は2kmほど南の太平洋から吹いてくる海風が充分に心地よく、冬は裏山に遮られて北西の風が当たらず、この様な地域に根ざした素朴な暮らし方は許されて良いと考えています。

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老夫婦のための離れ(撮影:西森秀一)

yamamoto山本長水(やまもと ひさみ)
略歴
1936年 高知県生まれ
1959年 日本大学工学部建築学科卒業
1959年 (株)市浦建築設計事務所ほか勤務
1966年〜山本長水建築設計事務所開設・主宰
2001年〜高知工科大学客員教授
1999年 日本建築学会賞(作品)県立中芸高校格技場
〃   作品選奨 (株)相愛本社

著書 土佐派の家PARTⅢ

高知からの便りvol.1『土佐の夏の住まい』
・高知からの便りvol.2『土佐の冬の住まい』

能代からの便り「東北日本海側北部の冬をすごす」が届きました


写真1.地吹雪後のアトリエ

写真1.地吹雪後のアトリエ

東北日本海側北部の冬の家づくりについて、建築家の西方里見さんからお便りをいただきました。

自身のご自宅とアトリエを例にあげて、東北でも日本海側、さらに北部に位置する秋田県能代市での雪が多い地域での家づくりの工夫を丁寧にご紹介いただいています。

西方さんはご自身でも「最高の断熱・エコ住宅をつくる方法」「「外断熱」が危ない」「プロとして恥をかかないためのゼロエネルギーのつくり方」といった著書を出されており、ご興味のある方は本の方も合わせてご覧ください。

詳しくは、「東北日本海側北部の冬をすごす」をどうぞ。

能代からの便りvol.2 『東北日本海側北部の冬をすごす』


■冬の気候特性
東北日本海側北部の冬の気候特性は日射量が極めて少なく積雪寒冷なことである。
筆者が住む秋田県能代市の冬の1月の日照時間は東京の約1/5である。寒さでは暖房度日数D18−18でみると約1/2である。最新積雪深さではこの数年は20cmから40cmであり、平成18年の豪雪では92cmであった。内陸部の横手や湯沢の豪雪地域は2m以上である。最低温度は-10℃だが、太陽がでないので日中も零下の凍てつく真冬日が多い。風も強く平均風速5.1m/s、風速10m/s以上の地吹雪も多い。

写真1.地吹雪後のアトリエ

写真1.地吹雪後のアトリエ

東京の約1/5の日照時間で困るのは、日射熱を暖房エネルギーに大きく使えない事、鉛色のどんよりとした曇り空が続き外も室内も暗く陰鬱な期間が長い。そのせいか自殺率が全国一である。寒さによる脳卒中も全国一である。他には冬に太陽光発電や太陽熱給湯が役立たない事である。

■窓を大きく、少ない日射を最大限に使う
陰鬱さをなくするには開口部を断熱性能の良い窓で大きく、しかも天空の光を室内にいれることである。どんよりとした曇り空の天空の光でも室内に入ると明るく。高窓などから光を入れる工夫が昔からある。

写真2.昔ながらの光を取り入れる手法

写真2.昔ながらの光を取り入れる手法

写真3.現代の工夫。吹抜けた2階の高さに大窓をつくり外付けブラインドでライトシェルフにする。

写真3.現代の工夫。吹抜けた2階の高さに大窓をつくり外付けブラインドでライトシェルフにする。

写真3は現代の工夫で、吹抜けた2階の高さに大窓をつくり外付けブラインドでライトシェルフにする。外付けブラインドは夏には日射遮蔽の役目を果たす。天空の光がスラットに反射し、吹抜けた天井の奥深くまで柔らかい天空の光が届き、階下に降り注ぐ。

写真4.

写真4.日本海沿岸の多雪地域の家屋に見られる、能動的な空間を組み込んだ土縁

日本海沿岸の多雪地域では家屋に能動的な空間を組み込んだ土縁の伝統がある(写真4)。

写真5.

写真5.土縁と高窓を組み込んだ現代の家の例

窓を大きくするにしても暖房用消費エネルギーが大きくならないように熱計算・消費エネルギー計算のQPEXや建もの燃費ナビで熱計算をしながら窓の大きさや性能の仕様、屋根や外壁等の断熱仕様を決める。

冬に極めて日射が少ない12月中旬以降と1月と2月中旬まではこの地位域でも、窓の熱貫流率のUw値が1.0W/m2K以下の高性能窓になると表面温度が高く冷輻射が少なく快適でしかも窓が大きい方が省エネルギーになる。

冬のそれ以外の12月初旬と11月と2月下旬以降と3月と4月は日射が多くなり、Uw値が1.5W/m2K前後では窓が大きくてもさほどのダメージにならない。少ない日射を有効に使いたい。

写真6.

写真6.

写真6は南壁に日射熱取得壁を設け、ガラス面や外壁面の表面温度を下げずに更に有効に役立てている。

■平成25年省エネルギー基準の3倍から4倍以上の性能
平成25年省エネルギー基準(旧次世代省エネ基準世代)の性能レベルで全館暖房を行うと、それ以下の性能の住宅の間欠暖房の消費エネルギーの倍になる。それでは省エネルギーにならないので性能を3倍から4倍以上にしたい。それがQ1.0住宅である。
そのためには下記の項目があげられる。

1.屋根や壁の熱損失を減らすのに断熱材の厚さを増す。
屋根や壁を写真7のように付加断熱する。

写真7

写真7

2.窓の熱損失を減らすのに高性能な窓を使う。
断熱スペーサーのUw値が1.5〜1.0W/m2K以下の高性能窓を使う。

3.常時換気による熱損失を減らすのに省エネルギー熱交換換気システムを使う。
電力消費量がDCモーターの熱交換換気システムや地熱を利用した熱交換換気システムを使う。

4.窓を大きくするなど日射を有効に使う。
上述の窓を大きく、少ない日射を最大限に使う項目を参照。

5.高性能で簡易な暖房機器を使う。
筆者は3kW程度のエアコンを床下に設置する床下エアコン暖房(冷房)を図1のように工夫をしている。寒冷地では霜取時間が極めて少ない寒冷地用エアコンを使う必要がある。

写真8

図1

エアコンの暖気で基礎断熱のコンクリートや床面を蓄熱しながら暖め、床面からの22℃〜25℃の低温輻射と床下からの低温温風で全室暖房をする。そのためにはエアコンの微弱な風量が床下全面に行き渡りするように 写真8 のような内部に基礎の立ち上がりが無い基礎断熱にする。

写真9

写真8

暖房の省エネルギーは上述のようにほぼ果たせるようになったので、残った問題は冬に寒冷で日射が少ない地域での給湯の省エネルギーである。これは換気排熱を回収しヒートポンプで3倍の熱量をつくり給湯にする工夫をしている。余った熱は暖房の補助にする。

130828nisikata西方里見(にしかた さとみ)

1951年秋田県能代市生まれ。1975年室蘭工業大学工学部建築工学科卒業後、青野環境設計研究所を経て、1983年西方設計工房開設。
2004年設計チーム木(協)代表理事。
2013年 建築知識700号記念「日本の住宅を変えた50人+α」に選定。
著書は「最高の断熱・エコ住宅をつくる方法」「「外断熱」が危ない」「プロとして恥をかかないためのゼロエネルギーのつくり方」等がある。

◇バックナンバー
能代からの便りVol.1 『東北日本海側北部の夏をすごす』
・能代からの便りVol.2 『東北日本海側北部の冬をすごす』
能代からの便りVol.3 『東北日本海側北部の寒冷住宅の夏は窓の日射遮蔽』
能代からの便りvol.4 『世界基準にのりにくい裏日本北部の冬の極小日射地域』

鹿児島からの便りが届きました


社屋から見る鹿児島富士の桜島

社屋から見る鹿児島富士の桜島

鹿児島から冬の便りが届きました。

今回のお便りは夏編に引き続き、ヤマサハウスの森さんからいただきました。

鹿児島は南国というイメージがありますが、雪が降ることもあり、桜島に薄らと雪化粧がかかる日もあるそうです。
そんな鹿児島での家づくりを支える同社による、平成23年度の国土交通省の補助事業『住宅・建築物省CO2先導事業』で採択された「かごしまの地域型省CO2エコハウス」からLCCM住宅の取り組みなどをご紹介いただいています。

詳しくは「鹿児島からの便り Vol.2」をご覧ください。

鹿児島からの便り Vol.2

鹿児島からの便り vol.2


寒中お見舞い申し上げます。
早いもので、平成26年度も1ヶ月が過ぎてしまいましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?
私が住む鹿児島市内も例年以上に寒く感じる日が多いように思います。
南国、鹿児島と言えども桜島にうっすらと雪化粧した日も数日あります。

社屋から見る鹿児島富士の桜島

社屋から見る鹿児島富士の桜島

ところで、鹿児島からの便りは弊社が平成23年度の国土交通省の補助事業である、『住宅・建築物省CO2先導事業』に「かごしまの地域型省CO2エコハウス」を踏まえて、蒸暑地の冬の住まい方について紹介していきたいと思います。
その前に、思い出しも兼ねて弊社の取組みの核としての「LCCMプロジェクト」があります。

【LCCM=Life Cycle Carbon Minus(ライフサイクルカーボンマイナス)とは?】

【LCCM=Life Cycle Carbon Minus(ライフサイクルカーボンマイナス)とは?】

「LCCMプロジェクト」とは住宅のライフサイクル(建設~居住~改修~維持管理~解体)全体を通じてCO2の排出をマイナスにする取組みを行いながら、住む人が快適に健康に暮らせることを目指して取組んでいます。
それでは、鹿児島の冬の気候は3年前に、鹿児島市内でもなんと25㎝もの積雪に見舞われたことがあり、今年も条件によっては大雪になるのではないかと個人的には思っています。(笑)

南日本新聞より

南日本新聞より

ここ鹿児島県は本土としては最南端であり、寒くないイメージの方が多いと思います。鹿児島の地形は日本の中でも特別な地域だと私は思っています。
というのも、中心に桜島を囲む錦江湾という内海があり、東に太平洋、西に日本海の海に囲まれながらも、日本海側からの冷気が浸入に加え、北は熊本県や宮崎県の山間部に隣接しているために南国の北海道と呼ばれる地域もあります。私は鹿児島市内でも山間部に住んでいますが、事務所のある湾岸地とは約2~3℃も温度差がある時もあります。

それでは、鹿児島県の過去30年間(1981年~2010年)の温熱環境を確認すると下記のようになります。

気象庁ホームページより

気象庁ホームページより

みなさんは表を見られて意外と寒いんだなとか、予想通りだと思われた方に分かれるかもしれませんね。
具体的に12月からの平均気温は12月:10.6℃,1月:8.5℃,2月:9.8℃,3月:12.5℃ですが、最低気温は平均から4℃程度低く、最高は4~5℃高い状態となっています。

データ参考:気象庁ホームページ

データ参考:気象庁ホームページ

しかし、冬日(最低気温0℃未満)が無いわけではありません、平成24年度の鹿児島空港のある溝辺町では51日もあり、県内を移動する中で朝の出発時の気温と2時間後に到着した時の気温が同じということもあります。
140206_kagoshima010このような気温からの自然環境に加えて、私たち鹿児島のシンボルでもある桜島の降灰を考えた時に、高気密・高断熱仕様+遮熱対策(暖気・冷気共)やパッシブな対応も行っております。
そうした中、断熱仕様は基礎断熱の充填断熱工法を採用しながら、太陽熱(夏対応)や冷熱(冬対応)が屋根面からの浸入を防ぐために、屋根面断熱を採用しております。
また、冬型結露対策として外壁面はもちろんのこと屋根面においても通気工法を採用し、建物にとっての天敵である湿気対策も十分に考慮しております。

仕様

仕様

仕様

仕様

これらの断熱仕様によって、これまで室内の中の温度環境は一般住宅では写真左の様にエアコンは25℃で暖めても床面11℃で天井付近は17℃と温度差が6℃もあるために大変不快である上に、窓周りは結露がひどく大変です。それに対して写真右の様な高気密・高断熱+遮熱仕様ではエアコンは22℃設定にもかかわらず床面が21℃で天井面も22℃と上下の温度差も少なく快適な環境を実現することが出来ました。この様に、南国鹿児島であってもしっかりとした断熱・気密を行い、冬対策をすることは住まいに暮らす人達にとっても快適であると同時に省エネの観点からもエアコンの設定温度を3℃下げられCO2削減につながることになります。

断熱・気密性能の違い

断熱・気密性能の違い

より快適に! より省エネに! よりCO2排出量の少ない住まいであるためには、時間軸からも変化の少ないことが大切であり、温度差も無いことが更に重要だと思っています。
そこで、弊社の高気密高断熱住宅と一般賃貸住宅において温度変化を測定したデータより3つの温度差について考えてみました。

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1.カラダに負担を与える”上下の温度差

1.カラダに負担を与える”上下の温度差

カラダに負担を与える”水平の温度差”

2.カラダに負担を与える”水平の温度差”

3.カラダに負担を与える”時間による温度差”

3.カラダに負担を与える”時間による温度差”

以上のように3つの温度差について比較しましたが、私たちは設計コンセプトとして「絆の家」というものを掲げ、横の広がりや上下の広がりのある家族の気配を感じながら住まう空間づくりをしています。そのためにも常に空調のみに頼ることなく、上下・水平・時間によって温度差がより少なく住まいづくりが大切であると思い、蒸暑地に冬に応じたスペックの高気密・高断熱仕様としています。

南日本新聞の記事

南日本新聞の記事

特に、脱衣室や浴室の温度差による突然死は交通事故死亡の2倍とも言われております。
今後益々、高齢化社会になる中、住宅内で全裸になる脱衣・浴室内が冷えていると血管か縮み、その後に暖かい浴槽に入り血管が膨張することにより血管が破れてしまい突然死に至るようです。ですから、より血圧の変化の少ない住環境を造るかは私たちの責任でもあると思います。
そのため私たちは、基礎断熱工法を採用し、外気の温度変化に左右されることなく、暖房をしている居室の熱によって、床下全体が冷たくない程度の環境が出来、廊下部分やトイレ・脱衣室・浴室の床面が極端に冷たくない工法を採用しています。

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パッシブ的な視点から室内に太陽光を取り入れることによって、基礎断熱の効果が更に高まりると共に、暖房負荷を軽減しながら快適に過ごすことが出来ます。

これまで話をしてきた温熱環境はどのような建物の性能によるのかを具体的に単独展示場をモデルに説明すると、気密性能C値:0.5㎠/㎡,断熱性能U値:0.52W/㎡・Kなどの性能をしっかりと押さえながら、蒸暑地である鹿児島の建物はどうあるべきかを考えながらお客様にしっかりとしたものを提供できるように取組んでおります。
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私達の鹿児島は観光が一年を通じて様々なところがあり、海に、山に、温泉に、新鮮な食材の黒豚・黒牛・鶏・魚を食べながら美味しい焼酎を飲むと自然に楽しい語りの場が盛上がります。今から春に向けては「きびなご」が旬を迎えますよ。

お便りを見られた方は、是非、鹿児島に遊びに来てください。

最後になりますが、「鹿児島からの便り(夏・冬編)」をまとめることにより、改めて整理することが出来たことは私自身にとっても勉強になりました。ありがとうございました。

130807_kagoshima_mori「鹿児島からの便り」特派員
森勇清(山佐産業㈱ 取締役 住宅本部部長)
1968年鹿児島県垂水市生まれ。 一級建築士
2008~2010年「長期優良住宅先導的モデル事業」採択、2011年「住宅・建築物省CO2先導事業」採択、
2012年「ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エナジー2012」特別優秀賞・優秀企業賞受賞
2013年 GOOD DESIGN AWARD 2013 「みずみずシーン」・「いっぽんの木」受賞

愛媛からの便りが届きました


霊峰石鎚山の雪化粧

霊峰石鎚山の雪化粧

愛媛から冬の便りが届きました。

愛媛からのお便りを送っていただいたのは、新日本建設株式会社の村上さんです。

同社による「えひめの風土と生きる家~次世代につなぐ地域連携型LCCM住宅※~」は、平成24年度「住宅・建築物省CO2先導事業」の採択を受けており、その提案内容をメインに夏と冬2回に分けてお伝えいただいています。

※LCCM住宅(ライフ サイクル カーボン マイナス住宅)住宅の建設時から運用時、廃棄時においてのCO2収支をマイナスにしようとする住宅のこと。

詳しくは「愛媛からの便り」をご覧ください。

愛媛からの便り Vol.2

愛媛からの便り vol.2


年が明け、愛媛でも寒い日が続いております。
四国山地の山は高く、特に石鎚山(いしづちさん)は1,982mと西日本最高峰の山となっています。
そのためよく雪化粧している石鎚山を道後平野から見ることができます。

霊峰石鎚山の雪化粧

霊峰石鎚山の雪化粧

それでは夏編から引き続き、国土交通省「住宅・建築物省CO2先導事業」の弊社のプロジェクトについてお話しします。
前回は木材の自然乾燥による省エネ効果や建物の省エネ措置の概要についてお話しましたが、今回は地域の生産者や組合などと連携した省エネ対策についてお話します。

①廃石材を利用したねこ土台
愛媛県今治市の大島石は「伊予の銘石」と呼ばれています。主に墓石に使われており、石目、石肌ともに美しいといわれています。その墓石の加工段階で発生する廃石材をカットしてねこ土台(基礎と土台の間に敷く通気パッキン)にしました。廃材を利用することで環境保全に役立つと考えます。

墓石の廃石材

墓石の廃石材

ねこ土台に加工して使用

ねこ土台に加工して使用

②薪窯で焼かれた洗面ボール
愛媛県砥部町は「砥部焼(とべやき)」という焼き物で有名な町です。窯元もたくさんあるのですが、今回その中から薪窯(まきがま)のある窯元と協力して洗面ボールや手洗い器を作っていただきました。電気窯やガス窯を使わず、木材加工段階で発生した廃木材を窯元に運び、薪窯に使用します。バイオマスエネルギーを積極的に活用することで二酸化炭素の発生を抑えます。

薪窯の様子

薪窯の様子

薪窯で焼かれた洗面ボール

薪窯で焼かれた洗面ボール

③ペレットストーブの活用
暖房設備としてペレットストーブを設置します。弊社は家づくりにおいて「自然循環・地産地消」を実現するため自社で森林を保有し、グループ会社協力のもと伐採、葉枯らし乾燥、運搬、製材、天然乾燥、加工と一貫体制を構築しています。その過程で発生した廃木材の一部を県内のペレット製造工場に運び、ペレットにします。それをストーブに使うことで、バイオマス資源を活用しています。

ペレットストーブ

ペレットストーブ

愛媛ペレット

愛媛ペレット

④久万高原ラティス耐震パネル
愛媛県の山間部に久万高原町という町があります。町の産業は主に林業です。この町が「久万材の家づくり推進協議会」を立ち上げ、地元材を使った家づくりに関する研究や開発を行っています。今回開発されたのは「久万高原ラティス耐震パネル」というもので、接着剤を使わず杉の間伐材を使用して製作された耐震パネルです。壁倍率は2.7倍~4.2倍となっています。ちなみに耐力壁として構造用合板がよく使われますが、(財)日本木材総合情報センターによると、合板の製造時炭素放出量は156kg/㎥ですが、天然乾燥製材であれば16kg/㎥と約10分の1程度となっています。

ラティス耐震パネルの設置状況

ラティス耐震パネルの設置状況

⑤伊予森林組合によるオフセット・クレジット
伊予森林組合は間伐促進型森林吸収プロジェクトとして、大規模な間伐を推進し森林整備を行ってきました。間伐による森林のCO2吸収量をクレジット化し、今後の持続可能な森林整備に活用していく計画です。弊社としては1棟につき4tのオフセット・クレジットをお施主様と折半で購入することにしました。オフセット・クレジットの認知が少しでも広がり、地域に貢献できればと思います。

オフセット・クレジット証書

オフセット・クレジット証書

前回夏編でお話しした木材の自然乾燥や、上記5つの地域連携を実現することによって、建設段階の二酸化炭素排出量を抑制しています。LCCM住宅(ライフサイクルカーボンマイナス住宅)を建設するにあたり、居住段階の省エネ措置はもちろんのこと、建設段階の省CO2を実現しなくてはなりません。今回のプロジェクトでは、上記の団体のほかにも様々な人たちと協力して家づくりを進めております。

日野商事株式会社(森林管理・保全、伐採・搬出、製材、廃材リサイクル)
有限会社かどや木材(木材の製品、加工)
独立行政法人森林総合研究所(植林)
久万材の家づくり推進協議会(間伐材を使った耐震ラティスパネルの提供)
有限会社内藤鋼業(木質ペレットの製造)
株式会社青山石工房(廃石材を利用したねこ土台の製作)
砥部焼作家龍泉窯(薪窯による陶器の製作)
伊予森林組合(間伐によるオフセット・クレジットの購入)
一般社団法人JBN環境委員会(普及・波及活動)
一般社団法人愛媛県中小建築業協会(普及・波及活動)

この場を借りましてお礼申し上げます。また、「住宅・建築物省CO2先導事業」に応募するにあたり、一般社団法人JBNの環境委員会にご指導、ご協力をいただきました。ありがとうございました。

夏編と冬編に分けて「住宅・建築物省CO2先導事業」の弊社のプロジェクトについてお話しさせていただきました。拙文ながら最後までお読みくださりありがとうございました。

愛媛からの便り特派員(村上敦)愛媛からの便り-特派員
村上敦(新日本建設株式会社勤務)
1975年愛媛県東温市生まれ
一級建築士、一級建築施工管理技士

被災地からの便りが届きました


どちらが高性能住宅か一目瞭然!(わかりますよね?)

どちらが高性能住宅か一目瞭然!(わかりますよね?)

住宅・建築物省CO2先導事業 (平成23年度 第3回 特定被災区域部門)〔住宅(戸建住宅)〕採択を受けたFPコーポレーションの門田さんから、冬の便りが届きました。

前回は夏の便りとして、当時の震災状況と本事業に採択された建物性能についてご紹介いただきました。今回は、冬編ということで本物の省エネ住宅(高性能住宅)が、震災時にどのような性能を発揮し、また健康に対しても影響を持ち、そして性能の差を目で見ることができること等をご紹介いただいています。

詳しくは「被災地からの便り」をご覧ください。

被災地からの便り Vol.2

被災地からの便り Vol.2


住宅・建築物省CO2先導事業 (平成23年度 第3回 特定被災区域部門)
〔住宅(戸建住宅)〕採択を受けて

前回は、当時の震災状況と本事業に採択された建物性能についてご紹介させていただきました。今回は、冬編ということで本物の省エネ住宅(高性能住宅)が、震災時にどのような性能を発揮し、また健康に対しても影響を持ち、そして性能の差を目で見ることができることをお伝えしたいと思います。

本事業に提案しました提案住宅は「FPの家」をほぼ標準仕様のままで採択となりました。全国に約45,000棟の実績があり、もちろん震災地域にも数多くの「FPの家」が建っています。

震災時に性能を発揮した点については前回でも南雄三様のお話を交えご紹介しましたが震災当時、帰宅困難の小学生が近所のお宅に分散して泊まったそうですが、省エネ住宅とそうでない住宅とで暖房が無い中、家の中の暖かさがはっきりと違ったそうです。もちろん「FPの家」に泊まった生徒たちは皆口をそろえて暖かかったといってくれました。

省エネ住宅は、災害時にも威力を発揮してくれることを証明しました。

省エネ住宅は更に健康にも良い影響を与えてくれます。

交通死亡事故が年間5千人を下回っている現在、いまだに家庭内死亡事故が1万件を超えています。その死亡原因の殆どが住宅性能を悪さから来る温度差による「ヒートショック」が原因といわれています。健康維持増進住宅研究委員会(国土交通省主幹)が2009年に行った2万人のアンケート調査では、断熱性能が高くなるほど、諸症状(15項目)がよくなるといた結果がでました。そこで「FPの家」にお住まいのユーザー様から同じアンケートを4千件強実施し、2万件に上乗せしました。その結果、2万件のときよりも更に良い改善率の結果となりました。この結果から、省エネ住宅は光熱費の削減だけではなく医療費の削減にも役立ちます。

エネルギー資源を海外に頼り、そして高齢化社会が加速し、医療費負担が増大していく日本にとって、高性能な省エネ住宅は、今後益々不可欠となってくるでしょう。

一般社団法人 健康・省エネ住宅を推進する国民会議による「暮らしと住まいの健康講習テキスト」表紙

一般社団法人 健康・省エネ住宅を推進する国民会議による「暮らしと住まいの健康講習テキスト」の表紙

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一般社団法人 健康・省エネ住宅を推進する国民会議による「暮らしと住まいの健康講習テキスト」の中で示された「高断熱の健康改善効果」。

建築業界と医療業界が一体となって、住宅と性能について調査を始めました。「一般社団法人 健康・省エネ住宅を推進する国民会議」
http://www.kokumin-kaigi.jp/

高性能住宅といっても計算された数値では、その性能を車や家電製品のように簡単に比較や体感できないのが住宅です。更には、造ったときは良くても住宅は20年・30年、この資源の無い日本において、今では100年以上移り住んでいかなければならなくなってきました。家を腐らせず経年変化をさせないことが、高性能住宅の必須条件の一つであります。

FPグループ会員工務店では現在全棟気密測定を行って相当隙間面積1.0c㎡/㎡以下での、お引渡しを行っていますが、現在5年以上経ったFPの家の気密の経年変化を調べるため再測定を全国から物件を抜き出して行っております。

更には、サーモカメラを使った経年変化も調査しようと考えております。建物が完成したときは良くても、地震や風力、その他の諸条件による振動等による断熱材の脱落等や壁体内結露など経年変化を起こしていないか、気密測定・サーモカメラによる断熱変化を調査し始めます。

災害の多い日本において、地震や台風、最近は水害に強い住宅づくりはもちろん、省エネ性・耐久性・耐火性、もちろんデザイン性も大切です。それらがそろって、そこに住まう家族の幸せが生み出せると信じています。

地震国日本において耐震性は欠くことはできません。造った時は丈夫でも10年後、腐っていては地震に耐えられません。ですから経年変化を追及するのです。

津波に耐えたFPの家

津波に耐えたFPの家

津波に耐えたFPの家

津波に耐えたFPの家。全てが残ったわけではありませんが、周りの住宅が全て流された中、1棟のFPの家だけが残り、改修しお客様が住み続けております。

特に湿度の高い日本において湿気・結露は木造を腐らせる原因となり、耐久性を著しく損ないます。日本で木造建築が始まったときからの課題でもあります。

それに対し、現在では室内側に防湿層が設けられ、通気層工法が標準的な施工方法となっております。更に「FPの家」では、断熱材に透湿抵抗のお高い硬質ウレタンフォームを使用し、ユーザー様に「無結露50年保証」(ウレタン素材内部)を実施しております。

更には、全棟気密測定を実施し、相当隙間面積1.0c㎡/㎡でのお引渡しを実施しております。

現在では全国平均0.48c㎡/㎡にまで技術レベルが上がってきましたので、本事業では、0.5c㎡/㎡以下の高い性能で提案いたしました。

気密がよくなれば、室内結露が発生しやすくなります。しかし、気密の性能が良いほど計画換気がしやすくなります。「FPの家」では換気が義務化になった平成15年以前の、今から30年も前から24時間計画換気システムを実施してきました。そして、計画したとおりに換気がなされているか、風量測定も実施しております。そのおかげで結露はほとんど無縁です。

また、お引渡し前にホルムアルデヒド及び5種類のVOCを測定し、お引渡し前に基準値以下であることも実施しております。

さてここで、高性能住宅の性能や経年変化を目で見る方法を伝授いたします。(というほどのことでもありませんが)

ひとつは、サーモカメラを使った方法ですが今回サーモカメラが無くても、断熱性能を見分ける方法があります。

これは自然現象の協力が必要です。

それは、雪です。雪が降ったときに近所の屋根を見てください。雪が残っているか、融けているか。屋根だけではなく、基礎周りも意外ときれいに除雪しているなと思ったら建物のから熱が逃げて家の周りの雪を融かしていることがあります。

どちらが高性能住宅か一目瞭然!(わかりますよね?)

どちらが高性能住宅か一目瞭然!(わかりますよね?)

雪が降ったら是非、周りのお家を観察してみてください。

現在札幌にQ値0.44W/㎡kのモデルハウスが完成し体験宿泊をすることができます。今年は寒さが厳しいので体験宿泊し快適さを満喫するにはもってこいの時期です。また、東京でもQ値0.97W/㎡kの建物が完成予定です。こちらもお客様のご好意により5月頃まで見学が可能です。

体験宿泊・見学をご希望の方は下記までご連絡ください。
㈱FPコーポレーション 東京本社 FP営業部
東京都千代田区岩本町2丁目18-3 NBS岩本町ビル4F
TEL:03-6891-7812
担当:門田昌士(モンタマサシ)

今回をもって私のお話は終わりますが、また機会がありましたサーモカメラや気密の経年変化などのデーターをお見せしたいと思います。

皆様の家づくりに少しでもお役に立てましたら幸いです。

門田昌士(もんた まさし)
1961年生、北海道岩見沢市生まれの道産子。大学卒業後、東京に夢を抱きミニゼネコンで現場監督を経験するも、バブルの渦に飲み込まれ失意の元Uターンし、木造の現場監督として再起。その時、高断熱・高気密住宅のFPの家』に出会う。正直に仕事が出来ることに喜びを感じる。
長年現場を経験し、問題があれば答えは現場にあるとの考えから、建て方はもちろん断熱・気密・換気の施工から、建築後の床下から小屋裏まで、どこまでも潜り込んで原因を追究。
現在、東京都においてパッシブを主としたQ値1.0W/㎡kをきる低炭素型『FPの家』を構築し推進中。
また、一般社団法人JBNと共同で、外国産及び化学畳に押され生産量が落ち込んでいる国産いぐさ及び日本の文化を守るため、真空断熱材を畳床に利用した「VIP和畳」(熊本県推奨畳表仕様)を普及促進に従事。

京都「南禅寺の家」から、冬の便りが届きました

アサイド


南禅寺の家。紅葉前11月の様子。

南禅寺の家。紅葉前11月の様子。

京都「南禅寺の家」から、冬の便りが届きました。

夏の便りに引き続き、このレポートを書いてくれたのは、「南禅寺の家」の設計者である豊田さんです。

京都の左官職人の技術を活かした南禅寺の家について詳しくご紹介いただいています。

なお設計者である豊田さんは、この「南禅寺の家」で(財)建築環境・省エネルギー機構主催「第5回サスティナブル住宅賞」において「国土交通大臣賞〔新築部門〕」の他、第9回木の建築賞 木の住宅賞、第7回地域住宅計画賞 地域住宅計画奨励賞も受賞しています。

詳しくはこちらをどうそ。