デンマークからの便り vol.5『Jorn Utzon』


前回の便りから、もう一年がたとうとしています。
デンマークはクリスマスが近づき、今年もコペンハーゲンの街にはクリスマスのイルミネーションが点り、プレゼントを選ぶ人々の姿を見かけるようになりました。

 デンマーク王立劇場のなかのクリスマスデコレーション。

そんなクリスマスムードが町に漂いだした、11月29日に デンマークの建築家Jorn Utzon が90歳で亡くなりました。

3年前まで働いていたランドスケープ事務所のボス Jeppe Aagaard Andersen が夏のある金曜日に所員を自宅に招待してくれ、バーベキューをしたことがありました。
私は彼と一緒に、自宅近くのスーパーに買出しに行ったところ、彼が、Tシャツ、短パン姿の背の高いスラリとした素敵な老人と立ち話をしているな、と思ってみたところ、それは、Jorn Utzon でした。 コペンハーゲンのあるシェラン島。その北の海岸に沿いの風景、ブナの森と海。 Jorn Utzonと彼の建築を思うとき、それらは私の頭の中ではしっかり結びついています。

フレデンスボーのテラスハウス。 シェラン島北部にある、フレデンスボー城のすぐ脇にある、集合住宅は外国に長い間住んでいたデンマーク人で作る協会のために作られたものです。彼らがデンマークに帰ってきたときに良い住環境で暮らせる住まい。
このテラスハウスのすばらしいのは、やはり、ゆったりと傾斜した地形のなかに、それを尊重しながら黄色いレンガで囲われた家屋を配置し、それにより、周りの環境、風景を誘い込むオープンスペースと、それと対照的な家屋へのアクセス機能を持つスペースをドラマティックに際立たせていることだとおもいます。
一軒一軒の住宅が周辺の風景に開かれると同時に、閉ざされている。このコントラストは考えてみると、デンマーク人の気質にも通じるものがあるかもしれません。
デンマークに帰って、ここフレデンスボーテラスハウスに暮らす人々。海外の思い出など物思いにふけながら、毎日の生活を送るのに最高の環境かもしれません。

 アクセス機能を持つパブリックスペース

 黄色いレンガの壁と緑の対比

彼の建築はいつもドラマティクです。
2004年に仕事で訪れたシドニー。そこであのシドニーオペラハウスを目にした瞬間は忘れられません。シドニーの港に半島のように突き出したサイトに佇むオペラハウスは、建築というよりも、海に佇む彫刻のようでした。コンペ案でさらりと描いたスケッチから、オペラハウスを立ち上げるまでのプロセス。そこに一貫してあるのは、合理的な美、それを生み出すシンプルで力強い考え方。風景の中のシルエットから、ディテール、マテリアルにいたるまで、それは貫かれています。

Jorn Uzton の建築はいつも建築の中に力強い連続可能なシステム、詩的なストーリーがあります。それは海と森とに囲まれた、Jorn Uztonの生活環境の中から産み出されたのだなと、今あらためて、彼のいなくなったデンマークにて思いました。

 シドニーオペラハウスの脇あるJorn Uzton の言葉

※この記事は2008年にご寄稿いただいたものです。紹介している情報は2008年当時のものです。

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特派員:林 英理子(デンマーク在住のランドスケープデザイナー)

Vol.10 『デンマークの春』
vol.9 『デンマークの冬/コントラストのある生活』
vol.8 『地域性とエコロジカル』
vol.7『物を大切にする暮らし』
vol.6 『社会に蓄積していくデザイン』
vol.5『Jorn Utzon』
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vol.3『デンマークの住宅、建築事情』
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vol.1『10回目の夏』