冬の北海道からお届けします。
今シーズンは、予想外の展開で冬に慣れているはずの北海道人もいささか翻弄されたスタートとなりました。ここ数年は、クリスマスに雪がなかった年もあったような、お正月に雨が降った年もあったような、温暖化を肌で感じることが多かったように思うのですが、まだ紅葉の木々残る11月の初めに突然の大雪で、これはさすがに先制パンチ!
まだ暖かさ残る時期ですから、重い雪に雪かきも重労働でしたし、(数日で溶けてしまうのに〜。)なにより、積雪で狭くなった道を譲り合いながら車で行き来するので、街じゅう大渋滞で時間が読めず、みなさん大変な思いをされたことと思います。いつもは車で30分の道のりが、1時間半かかりました。往復3時間って、どんだけ出張なのかとおもいますが、10km先の現場だったりして。本当にげっそりしてしまいます。
なんて、愚痴も半分で書き進めながら、ふと、以前にもこんなことを書いた覚えがあると、バックナンバー遡ると、2014年の冬にも似たようなこと書いてました。
http://chiiki.kkj.or.jp/2014winter_info/140109hokkaido/
よって、驚きの冬のスタートは3年ぶりといったところだったのですね。
ちょっと、しつこくなりました(笑)しつこく書きたいくらい、大変でした。
そんな中でも、冬を楽しみたいなと。なんだか不思議とそんな風に思うのですが、寒いからこそできる楽しみもあります。最近はすっかり出不精になり、ウインタースポーツもご無沙汰なのですが、友人がこんな素敵なアイスキャンドルを作っていると、教えてくれました。
こんな楽しみを謳歌できるのも、暖かい部屋に守られて、自然と美しい外の環境に意識を向けられるからだとつくづく感じます。日々生活している空間が冷え冷えしていたら、外に意識を向けるどころか、家にじっと篭りたくなりますよね。
とても尊敬している荒谷先生の書籍*1で、こんな一節があります。
「暖房や冷房とは、家の中に閉じこもるためのものではなく、大きな変化を敵視する感情を取り除き、それに親しむ生活を作り出すためのものです。」
ここでの大きな変化とは、自然の特徴であり、季節変動や地域ごとに異なる生活を導く豊かさであり、暑さの中の木陰や、寒さの中での焚き火の快適さや心地よさはそういう変化の環境の中にある。ということなのだと。
そう考えると、とかく断熱気密の技術や性能の話ばかりに陥りがちですが、断熱や気密は地域ごとの生活文化を育むための重要な要素の一つなのだと気付かされます。数字に振り回されることなく、地域らしい暮らしや文化に目を向けながら設計していきたいものです。
そんなこんなで、大雪に翻弄されながらも(それも楽しめるようになりたいですね〜。)待ちに待った2月になりました。なんでこんなに2月が待ち遠しかったかというと、1年ほど前から、*2下川町のエコハウス美桑で、一番寒い(すなわち、一番環境性能を肌で感じられる)2月になにかやりたいねぇ。とお話をいただいていたからなのです。そしてなんと、東大の前先生(エコハウスをずっと実測してくださっていて、吹雪の中サーモカメラで撮影しながら町中をご一緒させていただいたことも。)と、最南端の宮古島のエコハウスを設計された伊志嶺さん(エコハウスの設計レビューでご一緒させていただいた以来!)も来てくださるとのこと。
伊志嶺さんとマイナス30℃の下川でハグするのを夢見ていたわけです。
いよいよ、下川で再会する日がやってきました。
極寒の2月!のはずが、まさかのプラス気温……!残念!でしたが、学びや気づき多き貴重な時間をいただき、企画してくださったソトダン21*3のメンバーの皆さまには本当に感謝、感謝なのでした。
下川町エコハウス美桑での懇親会から参加させていただき、前先生にはエコハウスを最新のPMV計で測定、分析いただきました。本当は極寒での一番厳しい条件下での測定になるはずでしたが、驚くほど気温が高く、またぜひ極寒での測定の機会を得たいと思っているところです。
測定の結果は瞬時にまとめ、分析されて14日のセミナーで披露されました。全国20地域のエコハウスをずっと測定してきたからこそ得られた事柄を振り返りながら、また新たな見解が見えてきたそう。進化を感じたお話でした。エコハウスの事業は終了したのですが、前先生のひとりエコハウス測定はずっと続いていて、当初できなかったことが可能になったり、また建築環境を捉える考え方も少しづつ変わってきたとのこと。たくさん移動時間をかけて、短い滞在時間でいかに適切に素早く情報を採取して分析するか、手法も進化してきていますね。
翌日、下川町に新しく誕生したまちおこしセンターコモレビにて勉強会。伊志嶺さんの沖縄、宮古島の環境の読み解きに感動。幾重もの自然に守られる島の環境とくらし、それに寄り添う建築のあり方にさらに気づきをいただきました。前先生の新しい建築環境のシュミレーションのプレゼンに目からウロコなことがたくさんあり、大変良い機会でした。
2/14の札幌でのセミナーでは、さらに一歩進んだ切り口での測定結果の分析と、そこから得られた結果から、今後深めていくべき方向性を示唆してくださったと思います。温熱環境は数値目標をクリアするのが目的ではなく、使う人、暮らす人が快適に過ごすためにあるもの。
そのためにたくさんの測定結果をどう分析して活かすかがカギということで、前先生のリアルタイムの温冷感測定は今ある環境がどんな状況で、どんなことをしたらそこが快適になるのか、たくさん測定してわかってきたのは、「くるぶしで感じる温度」が重要とのこと。一番良いのは毎日食べても飽きないご飯のような環境なのではないか。という言葉が印象に残っています。
本当は、セミナーの中で「今作るならこんなエコハウスにしたい」と言うお話をするはずだったのですが、すっかりしそびれてしまい、この紙面を借りて少し触れたいと思います。
2010年にできた環境共生型モデル住宅ですが、当時は「自立循環型住宅」を目指す。ということでした。合わせて、環境省のプロジェクトの素晴らしかったところは、環境に配慮された建築はそれぞれの地域性を生かした建築であるべきというところだと思っています。今は、自立循環がさらに進んでZEHを目指す。というところに焦点が当てられていますが、地域性を生かすという視点がすっかり抜け落ちてしまっているように感じます。どんな地域でも、Ua値をクリアして太陽光パネルをつければOKよ。と言われていうようで、いささか乱暴に感じますし、腑に落ちません。
これから私が目指したいのは、個別の住宅が自立を目指すということから進化して、1軒の住宅ができることで、エネルギーやお金が地域を循環するような地域循環住宅です。地域環境は1軒の住宅だけで成り立つわけではありません。つながりあって、支え合って、みんなが幸せでないと、自分も幸せではないのではないか。ともやもや考えていたところ、南幌町で始まったこんなプロジェクトに参加させていただくことになりました。
南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジの概要
http://www.kita-smile.jp/housing_nanporo
きた住まいるヴィレッジは、一般的な住宅展示場とはちょっと違います。建築家と工務店がタッグを組んで、南幌らしい暮らしができる、みんなの手に届くいえを作ります。それぞれが相乗効果を生んで、心豊かな住宅地として育っていきます。できれば参加メンバーが協力しあって、統一感あるランドスケープデザインを組み込んだり、エネルギーの共有ができればいいなと考えています。それを通じて、将来の住人の方々が、健やかなコミュニティを育むきっかけにしたいです。
まだまだ、参加事業者さんを募集中です。一緒にそんな志を形にできる仲間が増えることを心から願っています。
*1 住まいから 寒さ・暑さを取り除く
採暖から[暖房]、冷暴から[冷忘]へ 荒谷 登 著 彰国社 刊
建築や暮らしに関わる全ての方にご一読いただきたい1冊です。
*2 21世紀環境共生型住宅のモデル整備による建設促進事業
2010年、全国20箇所に22軒のエコハウスが建設された。
http://www.env.go.jp/policy/ecohouse/about/index.html
*3 ソトダン21
より省エネで永く健康に暮らせる住まいを提供したいという、強い信念を持ち、
常に熱心に学びを重ねながら、北海道の住まいを追求するビルダー集団
http://www.sotodan21.com/
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櫻井 百子(さくらい ももこ)
1973年北海道旭川市生まれ。北海道東海大学芸術工学部卒業後、都市計画事務所、アトリエ設計事務所を経て2008年アトリエmomo設立。子育てしながら、こころや環境にできるだけ負荷の少ない設計を心がけている。平成22年度 北海道赤レンガ建築奨励賞、2011年度 JIA環境建築賞 優秀賞 (住宅部門) 受賞。
[北海道からの便り バックナンバー]
・北海道からの便り vol.1
・北海道からの便り vol.2
・北海道からの便り vol.3
・北海道からの便り vol.4
・北海道からの便り vol.5
・北海道からの便り vol.6
・北海道からの便り vol.7
・北海道からの便り vol.8