北海道からの便りVol.2


夏に引き続き最北の北海道からお届けします。

新しい年を迎えて、みなさまいかがお過ごしでしょうか?

札幌は昨年と比べて雪は少ないものの、年末年始とずいぶんな積雪があり、雪かきに追われたお正月を過ごしました。
ちょっとした会話の中にも朝の気温の話題と、降る雪の量の話題が欠かせません。

人口約180万人、近隣のベッドタウンも含めると約220万人が暮らす札幌圏は、世界でもっとも雪が多い都市と聞いた事があります。

路肩に盛り上がった雪は道幅を狭くし、いつもは普通にすれ違う事の出来る道路も、譲り合いながら車を走らせます。路上で雪にはまって立ち往生していれば助け合い、雪で狭くなった歩道も譲り合いながらすれ違う、この季節になると他人同士のちょっとした気遣いが心をほっこりさせてくれる場面によく出会います。厳しい気候や環境も小さな気遣いの積み重ねでなんとか乗り切って春を迎えるのだな〜。とつくづく思います。

現場に向かう車窓より

現場に向かう車窓より
雪かきに追われ、車の渋滞にイライラしながらも、はっとする美しい光景に慰められます。

そんな中でも果敢に現場は進みます。昔は、現場の大工さんと言えば季節労働者で冬は工事をしないものでしたが、冬にお休みする大工さんはいなくなりました。特に今年は世相を反映して工事件数は例年よりも多く、さらに職人さんや資材の不足、材料の価格高騰など、順調な工程を阻む要素が非常に多くて、本格的な冬を前にあらかた工事が終わる予定だった物件も、厳しい季節のまっただ中進めなくてはならないところも少なくない状況です。冬期間の工事は採暖養生や雪かきに労力も費用もかかり、環境負荷も大きくなるので避けたいところなのですが、止むを得ません。遠方の工事となるとなおさら。現場に通うのも大変です。

△12月の倶知安(くっちゃん)の現場 本当はもうちょっと全容がわかるところまで進んでいるはずでしたが……。一晩に80cm積もった時は足場が一部破損するアクシデントも。

12月の倶知安(くっちゃん)の現場
本当はもうちょっと全容がわかるところまで進んでいるはずでしたが……。一晩に80cm積もった時は足場が一部破損するアクシデントも。

倶知安はウインタースポーツに親しまれている方ならご存知の方も多いはず。お隣のニセコと並んで、北海道の中でも一番を争う豪雪地帯です。昨年の4月の中頃敷地を見に行った時は全面にまだ2m以上の積雪が残っていました。黙っていればあっというまに一階部分は雪の中。そんな中でも降り積もる雪を見ながら「また雪かきか。憂鬱だなぁ〜」と思わずに、美しい雪をわくわく愛でられるようなすまいにしたい。というのがテーマになっている住宅です。そのためにはまず、3mの積雪があっても1階が暗くならないように2階への吹抜けから光が下りる事。また、その大開口からは羊蹄山が望める事。雪かきをしなくても使える雁木空間を十分確保する事。そしてなにより、言うまでもなく断熱気密をしっかりとり、温かで快適な室内環境を整える事。そのことで環境負荷と冬期間の暖房費用を最小限に抑える事を強く意識して計画しています。

△2層に吹き抜けた雁木空間 ちょうど、職人さんたち総出で、200kg以上あるトリプルガラスの木製サッシを納めているところ。

2層に吹き抜けた雁木空間
ちょうど、職人さんたち総出で、200kg以上あるトリプルガラスの木製サッシを納めているところ。

南側に傾斜した片流れ屋根は南側全面に設けた2層吹抜けの雁木空間を包み、日射遮蔽も兼ねています。南側に落ちた屋根の雪は日射で解けやすいことも期待しています。壁面は外張りも含めて240mm、屋根面300mmのグラスウール、サッシはダブルLow-eのトリプルガラス木製サッシで、分厚いコートを着込んだような仕様です。換気は自然給気を床下に導入し、床暖房で暖まったところで室内に供給、重力差で一番高いところから自然排気をとるパッシブな方法を採用しています。

△江差の平屋 足場で見えずらいですが、写真奥には日本海が望めるロケーション。 冬はその日本海からのたば風と言われる季節風が容赦なく吹き付ける。

江差の平屋
足場で見えずらいですが、写真奥には日本海が望めるロケーション。
冬はその日本海からのたば風と言われる季節風が容赦なく吹き付ける。

一方、古くから樽前船の公益で栄えた、北海道の中でもっとも歴史の古い道南の江差町では、平屋の住宅の現場が進んでいます。こちらは積雪は多くても30cm程度。そのかわり冬の日本海から吹き付けるたば風は、常時風速20mほどと聞いています。同じ北海道でもこうも気候が違うものかと、あらためて地域の環境の多様さと北海道の広大さに驚きながら通っています。

こちらのすまいは、このたば風をいかに受け流して快適に住まう事が出来るか。ということを意識して低く、低く構え、ガレージを風上側に配置したコートハウス形式としました。道南杉の外壁で囲まれた中庭は冬でもたば風の影響少ない貴重な外部空間となるはずです。倶知安の住宅と同じく、断熱気密をしっかりとり、温かで快適な室内環境を整える事は基本です。始めて真空のトリプルガラスの樹脂サッシを採用し、温熱環境がどのようになるか楽しみなところでもあります。

△千歳ありがとうファームでの試み 築50年ほどのコンクリートブロック造の農家住宅の2階を快適空間にリノベーションしています。限られた予算で手探りしつつのセルフビルドに挑戦中です。

千歳ありがとうファームでの試み
築50年ほどのコンクリートブロック造の農家住宅の2階を快適空間にリノベーションしています。限られた予算で手探りしつつのセルフビルドに挑戦中です。

「千歳ありがとうファーム」の詳細はこちら(外部サイト)をどうぞ
https://readyfor.jp/projects/783

一方、新千歳空港からほど近い千歳市内で、自然栽培にこだわって農業を営んでいらっしゃるありがとうファームさんでは、セルフビルドで断熱改修工事を進めています。隣町の苫小牧市で製造されているウッドファイバーを、床、壁、天井面に充填し、すっぽり包み込む工事です。ウッドファイバーは元はドイツの技術で、チップ状の道産材を、木質バイオマスを利用して蒸してほぐしてボード状に固めてあり、熱貫流率はグラスウールと同等ですが、木質繊維は蓄熱効果があり、環境負荷も少なく、大変優れた断熱材です。
詳しくは木の繊維HP: http://www.kinoseni.com

新築だけではなく、既存の建物をいかにして暖かく快適に改修し、大切に使って行くかということは、これからもっと求められる技術です。構造はまだしっかりしているのに、「寒い」ということで取り壊されてしまう建物も多いのです。限られた資源を活かして、環境負荷の少ない丁寧な暮らしを目指す上で、すまいを環境に優しく断熱化して行くことは大きなテーマです。

△2013年12月の下川町環境共生型モデル住宅 美桑(みくわ) 竣工して3度目の冬を向かえました。この3年あまりで延べ4000人あまりの方々に良さを体感して頂きました。

2013年12月の下川町環境共生型モデル住宅 美桑(みくわ)
竣工して3度目の冬を向かえました。この3年あまりで延べ4000人あまりの方々に良さを体感して頂きました。

最後に、私の設計活動の原点である、下川町の美桑を再びご紹介したいと思います。今シーズンは始めて、地中熱ヒートポンプから切り替えて、暖房も給湯も熱源の全てを木質ペレットでまかなっています。11月から4月にかけての厳冬期、美桑はその優れた環境性能を体感するのに最適な季節を迎えます。宿泊して体感できる施設は数少ないので、北海道にお越しの際にはぜひ下川町へいらしてください。
宿泊体験問い合わせ:五味温泉http://gomionsen.jp/mikuwa/
TEL:01655-4-3311

130731_sakurai北海道からの便り-特派員/櫻井 百子(さくらい ももこ)

1973年北海道旭川市生まれ。北海道東海大学芸術工学部卒業後、都市計画事務所、アトリエ設計事務所を経て2008年アトリエmomo設立。子育てしながら、こころや環境にできるだけ負荷の少ない設計を心がけている。平成22年度 北海道赤レンガ建築奨励賞、2011年度 JIA環境建築賞 優秀賞 (住宅部門) 受賞。