ソノマからの便り vol.2 『カルフォルニアの家づくり』


今年の北カリフォルニアの春は雨が多く、寒さが長引きましたが、6月半ばに入り、急に真夏の気候に突入、そしてまたもや大雨、急な天候の変化で体調を崩している人も多いようです。私はこの地に住んで16年経ちますが、6月の大雨は初めての経験です。

さて今回の記事は、住まいづくりにおけるこちらの人々の考えかた、規則などについて書いてみます。

アメリカに来て多く目にしたのは“家を自分たちで修理する光景”でした。修理といっても、家全体の改築から、部屋のペンキ塗り替えまで様々です。ボストン在住時、私たちが引っ越す前に大家さんが部屋のペンキ塗り替えをしていたのを覚えています。家の持ち主によるペンキの塗り替えは、アメリカの文化なのでしょう。家族の週末プロジェクトとして、子供の頃から自然に身につくようです。

私はこれまでの16年間に2度、家の大リフォームを経験しました。1度目はリフォームによって家の価値を上げ売却に貢献できました。2度目は、古家を手頃な価格で購入し、モダンな家に全面リフォームしました。古家を購入し建て替え、価値を上げたところで売却、また別の家を購入してリフォームを繰り返し、リフォームそのものを楽しむこともこちらの文化かもしれません。
また知人である建築家は、15年前に古家を購入し、住みながら少しずつリフォームし続けています。現在は、キッチンを工事中、リフォーム計画が全部終わる頃には、子供たちはみんな巣立ってしまっているだろうと笑っていました。家のリフォームは生活の一部というのもこちらでは決して珍しい話ではありません。

カリフォルニアの場合、1978年施行の建築基準規則「タイトル24」と呼ばれる省エネ対応建築を目的とした法律があります。住居、非住居にかかわらず、新改築の建物全てにおいて従わなければならない法則です。
http://www.energy.ca.gov/title24/enforcement/

この法則は、屋根、断熱材、窓の種類、給水、電気のスイッチ等など、更には電球の種類に至るまで、建物に関わる全てに対し詳細の規則があります。これも年々厳しくなってきており、設計図承認から認可が下りるまで、かなりの忍耐を要します。まず設計図を持参し、役所内の専門職員によるコンサルテーションから始まります。初回通過はほとんど無く「また、直して戻ってらっしゃい。」と設計図面を返却されます。数回のやり取りの後、ようやく受理されてから認可が下りるまで約一ヶ月かかり、その間にも申請費をしっかり取られます。財政困難なカリフォルニアだからでしょうか・・・公共機関にかかる費用は、何でも高価です。
6年前に私が経験した2度目のリフォームでは、申請費用に30万円以上かかりました。申請から一ヶ月以上、ようやく承認の通知が来た時は、お祝いパーティでした!

役所では個人の家の設計図、敷地図も保管されており誰でも閲覧可能になっています。図面内容と実際の建物に違いが見つかれば認可を得ずに勝手に改築したことがわかります。
改築認可は厳しく費用がかさむため、勝手に家を改造してしまう人も珍しくはありませんが、売却時の大きな問題に繋がります。やはり法則に従ってリフォームしたほうが妥当でしょう。

では私が経験した2度目のリフォームについてお話ししましょう。

売主が認可を得ずにガレージを居室に改造してしまったため、私たちは正式に登録された図面通り、元のガレージに戻すことから始めなければなりませんでした。居室を取り壊し、ガレージを再び造り直し、そこがリフォームの本当のスタートラインになるという理解です。私たちの最終的なプランは、この場所はダイニングルームになる予定でしたので、100%無駄作業となるのですが、スタートラインが保管図面通りでないと、巨額な罰金を課せられます。ガレージの改造が無認可であることは図面上わかっていたため、購入時に売り主との折衝により申請料や工事費などの想定額を割引いてもらいました。

さて、認可も無事下り、リフォームスタート!工事中は、決められた各段階ごとに、役所担当者が現場検査をします。各段階でパスしながら、次の工事段階に進むことができるということです。私の家では、完成するまでに、3回ほど、検査員が現場検査にきました。完成後、最終検査に合格したらゴールです。

お役所から承認された、図面をわかりやすいところに置いておく

リフォーム中は、お役所から承認された、図面をわかりやすいところに置いておきます。
役所から渡されたビニール袋に承認図面を入れておき、検査官が来たときに、この図面に基づいて検査をします。

リフォーム工事中

古家を手頃な価格で購入し、モダンな家に全面リフォーム。
リビングは天井をくりぬいて高くしました。

工事中の家でクリスマスパーティー

古い部分を全て取り壊して、新しい組み立てをしたところ。
リフォーム中に、工事現場でクリスマスパーティーを開きました。

リフォーム後のリビングルーム

工事中の外観の様子

リフォーム後の家の外観

ここまで苦労してリフォームするの?と思われるかもしれませんが、リフォームの大きな理由は、自分の好きな住まいをつくりたいということと、リフォームによって家の価値を上げたいという2点です。

最近、面白い記事を目にしました。「お金をかけて苦労しても、家の価値にあまり影響しないリフォーム項目」というものです。いくつかご紹介しましょう。
まず外部仕様から、近所に釣り合わない仕様の住宅には価値がつきません。新築でも改築でも隣地のレベルに合わせることが大切です。たとえ美しい豪邸を建てても、その場所が中流階級の住宅地であれば、家の価値もその場所を基準として決められます。それからプール、アメリカではプールがある家は珍しくありません。プール工事費は大きな金額ですが、プール付き=家の価値とはなりません。逆に安全性から避けられる場合もあります。またガーデンや外構、高級感のあるパティオや噴水、デッキ、芝生の美しい庭を保有していても売却時の価格には関係ないようです。次に家の中では、高級な素材や製品は価値に繋がらないようです。お金をかけて造ったブランドの造り付け電化製品、造付家具、バスタブ、タイルなどは個人の趣味として認識されてしまいます。またカーペット、売却前にカーペットを新しくすることが多いのですが、家の価値には関係ありません。そして残念ながら目に見えない部分のリフォーム、下水管や給排水システムなども努力や金額の割には価値が上がらないのが現実です。

このような話をすると、利益ばかり考え、リフォームが楽しいものではなくなってしまいがちですが、私は自分の住まいを好きなように造る醍醐味が味わえることが何よりも幸せだと思います。プールが家の価値を上げなくとも、自宅の庭で泳げるなんて!ガーデンが家の価値に関係なくとも、素敵な時間を過ごせ、ほっとできる場所があることは本当に幸せなことですよね。

夜はプール沿いで、バンファイアーを楽しみます。

ついでにツリーハウスも作りました!

 

さて話は変わり、友人の陶芸家が手掛けたアートスタジオのリフォームを取材しました。

彼女がそれまでいた借りていたアートスタジオは、大家さんが急に土地を売却することになり、新しいスタジオを探さなければなりませんでした。そして見つけた場所が、なんと鶏小屋!6つある鶏小屋のうち、使っていないひとつを月250米ドル(2万円ほど)で借りられるとの情報でした。大きさは、5.0×8.0=40m2でスタジオとしては適当な大きさなのですが、なんと言っても鶏小屋です。話を聞いた時には、急なことでどこも見つからず切羽詰っているのだろうと思っていました。ところが鶏小屋アートスタジオを訪れてみて、その考えは一転しました。濃い緑色だった小屋は明るい黄色に塗り替えられ、ドアはラベンダー色、友人がひとりで塗装したそうです。

これと同様の鶏小屋を…

アートスタジオに改装

鶏小屋に並んでアートスタジオがあります

遠目からでも、黄色い外観が目を惹きます

壁をくり抜いてドアと窓をつくると内部が明るくなりました。中に棚を造り、テーブルや椅子、冷蔵庫などを配置すると、そこには鶏小屋だったことを忘れさせるようなアートスペースが完成していました。

アトリエ内観

アトリエ内観

リフォームには2500米ドル(20万円)ほどかけたそうですが、友人の手によってボロボロの鶏小屋がとても楽しいアートスタジオに生まれ変わったのです。今では本来のアートスタジオとしての機能だけでなく、彼女の作品を買い求めるお客さんのショッピングのにぎやかな場でもあり、友人知人の集う場所としてパーティを開いたりと、場の使い方が広がってきました。友人は、最初に鶏小屋を見て、既に頭の中でこの楽しいスペースを描いていたのでしょうね。自分の理想のスペースは自分でないと描けない、自分の場所は自分で造りたい、彼女の気持ちが表現された素敵な場所でした。

陶芸作家のニコールさん

豪邸でも小さな家でも、また家族みんなでつくる場合も個人であっても、工事の大きさに関わらず、自分自身がほっとできる場所があることが大切なんだと思います。アメリカで人々の住まいへの思い、愛情を強く感じています。時に忍耐や厳しさもありながら、それでも常に自分の住まいを快適なものにしようとするパワーに脱帽です。

★ソノマからの便り

※この記事は2011年にご寄稿いただいたものです。文中の情報は寄稿当時のものです。
特派員:清水 圭子
ソノマ在住のデザイナーズ家具輸入会社支配人。
(主にヨーロッパより高級モダン家具を直輸入、環境に適した品物をアメリカ市場に提供)

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