沖縄からの便りvol.10


 

避暑地の沖縄

セミが朝からシャンシャンジージーと競うように鳴いています。夏がやってきました!今年は、青い蝶をよく見かけました。7月なのにトンボが真夏の空を仰いでいます。何かを知らせているのでしょうか。

全国各地のニュースで「猛暑日」「熱中症」が毎日のように報道され、どうしてこんなに命が奪われるのかと心を痛めながら観ています。

このままだと、どうやら沖縄は避暑地になるようです。

環境省地球環境局提供 2100年あすの予報 より

沖縄には、意外にも猛暑日はほとんどありません。また快晴日も一年に8日程度しかありません。

もちろん紫外線は最強なので、日向には居てもたっても居られません。
しかし日陰に来るとグッと温度が下がり、涼風を受けこのままハンモックにでも揺られながら、お昼寝ができそうです。

ビーチの日陰でお昼寝をしている赤ちゃん

以前の「ベトナムからの便りvol.2 “暑い夏の風物詩”」に、
“外出時間は早朝と夕方以降に限ります。日中暑い時は外に出ないのが基本。
それでも昼時に外で過ごす場合、日陰で休み体力温存を心がけるのが最良策といえます。”
とありました。

まさに沖縄でも同じです。暑い日は昼間、外を出歩きません。犬すら歩きません。どうしても歩くときは影を伝って歩くか、日傘をさします。運動公園でウォーキングする人が増えるのも、夕方から夜にかけてです。

ビーチで、サンサンの日差しを浴びて泳いでいるのは、長袖のラッシュガードを着せられたパワーを抑えきれない子供たちか、非日常的な南国の太陽を楽しむ観光客の方です。
どちらかというと、地元の人はビーチでは日影でバーベキューを楽しみます。
そして、やっぱり海で泳ぎたいなら、朝か夕方です。水着やビキニで泳ぎたいならば、日焼け止めが必須、しかも短時間が限度です。

ほとんどの人が長袖かTシャツ着用している地元のビーチ

 

風と共に生きる文化

沖縄で家を建てる時に重要視すべきことは、まず防災です。
当たり前のことですが、強い台風が来ます。台風時に耐えられること、命を守れること。これが一番大切です。
そして、その次が風の有効利用・日射遮蔽と続いていきます。
「風はいつも吹いているとは限らない。」
いえいえ、海に囲まれた沖縄では3.5m/s以上の風は流れている割合が8割にも上がります。

風速の時間割合(%)

庇に期待するもう一つの効果

とはいえ、那覇市の密集市街地では、なかなか風を取り込む事が困難な場合もあります。
ここで、強い日差しを遮る「庇」の出番です。
実は、庇を設ける事で風を取り込む事ができるのです。

風土に根ざした家づくり手引書より抜粋 発行:沖縄県土木建築部住宅課

袖壁も有効です。ウィンドキャッチャーとしての庇は、特に大きく出さずとも効果的です。設計者は、この有能な庇を多用せずには勿体ないですね。

風のシミュレーションは、今のところ一般人には難解です。
シミュレーションソフトも高価で、個人の設計事務所が気軽に購入することはできません。
もし、身近な存在のソフトが開発されれば、沖縄県の設計者が全国で一番影響があるかもしれません。

そんな中、楽しい流体シミュレーションアプリを教えていただきました。
手描きなので、図面をそのまま再現は難しいですが、無料なのでiphoneやipadをお持ちの方は、ぜひ楽しんでいただけたらと思います。

wind tunnelアプリで見つけた袖壁の効果

未来の沖縄を考えよう

先日、日差しが柔らかくなってきた夕方、散歩がてらに街中のサーモグラフィを撮影してきました。
熱いのは道路です。そして屋根面です。つまりは日差しを直接受ける水平面です。

那覇市内 国際通り付近

サーモグラフィを見てみるとよくわかります。赤いところ、白くなっているところが一番熱いところです。

あるRC造のアパート

エアコンの室外機の位置まで教えてくれます。
エアコンを使うことは、熱中症予防にも欠かせません。でも、このままだと地域を熱くする負のループになってしまいます。

そんな中、一際青く(涼しく)なっている家を見つけました。

地球温暖化対策のモデル建築?

100年後200年後の沖縄が、今より熱くならないためにはどうしていけばいいのだろう。キンキンに冷えた泡盛入りレモンサワーを飲みながら、ひとり考えにふけた夜になりました。

DSC_0749

「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年より特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事に就任。現在特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事長。一級建築士。

◇沖縄からの便り 他の記事を読む
・vol.1 2013年夏編
・vol.2 2014年冬編
・vol.3 2014年夏編
・vol.4 2015年冬編
・vol.5 2015年夏編
・vol.6 2016年冬編
・vol.7 2016年夏編
・vol.8 2017年冬編
・vol.9 2017年秋編
・vol.10 2018年夏編