沖縄からの便りvol.13


だんだんと風が涼しくなってきました。
沖縄にもやっと夏の終わりを感じはじめました。

皆さん、今年はどんな夏をお過ごしでしたか。

沖縄では緊急事態宣言が4カ月も続き、思うように外出も出来ませんでしたが、
私は娘の自由研究を理由に沖縄県内の天然ビーチ巡りをしました。

google mapで砂浜を探す

国頭村辺土名ビーチ

名護市東江ビーチ

今年も台風被害があまりなかった印象で、農作物や住まい手にとっては、良いことなのですが、海の中では、サンゴの白化現象が進むようです。
沖縄のサンゴは台風が来ると、海水温が下がり、ストレスを減らすことができるそうです。

気候変動の影響で、海水温度は上昇を続け、今年の平均海水温度29.9度になりました。サンゴが白化していく温度は30度なので、29.9度と言う海水温は、ほぼ限界の状態です。

2100年には世界中のサンゴが死滅する可能性があるという、科学者の言葉も現実化してきました。地球温暖化はもう止められない。そんな現実を海から目の当たりにしました。

2100年那覇空港の滑走路は半分近く水没と予想 https://www.climatecentral.org/

母として娘に、美しい沖縄を残していけるのか。
娘は娘の子供に、美しい沖縄を残していけるのか。

建築士として、私に今何ができるのか。
海を眺めながら、そんなことを考えていました。

先日設計を行った住宅を案内しているときに、こんな質問をされました。

どうして住宅の北東面の外壁は花ブロックで日射遮蔽を行っているのに南東面や南西面の壁面にはしないのですか。

花ブロックの家 立面図

理由は2つあります。
1つめは
方角的に南西面のほうが北西面より日射量が少ないからです。

那覇・各季節晴天日の日射量

沖縄の夏期の日射量はほとんど南面からは受けません。
東京と比べると半分程度になります。
圧倒的に1番多いのは水平面で、その次に東西面が日射を受けます。
実は南西面よりも北西面の方が日射量は大きいです。

2つめは、日射遮蔽方法として耐候性のある白色塗料を採用しているからです。

白色塗料を施行した外壁面の温度は約30度になります。塗料を塗っていないコンクリートの壁に比べ約15度も違いがあります。

サーモカメラによる表面温度の違い

実際に手を動かして計算してみると、どこの日射性能を高めると効果があるのかがよくわかります。

南西面の外壁は白色塗料で低減される。
北東面の大開口は花ブロックで低減される。
南西面の窓には簾を設ける。ランドリー部分は西日を利用して洗濯を乾かす。

確かに敷地に余裕があれば、もっとコストに余裕があれば全周囲に花ブロックを設置できたかもしれません。
でも常に予算を考え、使い勝手を考え、バランスをとってその場所に相応しいものを取捨選択していくのが建築士の役目です。

建築士は、施主の要望に常に100%応えるのが理想ですが、ここは80%、ここは20%と判断することで、建物全体の施主の満足度を上げていきます。
つまり常に白黒はっきりさせるのではなく、グレーゾーンを攻めていきます。

同じように
断熱をすれば室内に熱が入ってこない=断熱しなければ熱が入ってくる
という考えではなく、断熱できない場合の対処法を用意する。という選択肢を増やすことが望ましいと考えています。

日射遮蔽性能は熱を入れない。
断熱性能は熱を逃さない。

一見同じような性能で、どちらかを高めればどちらも効果が上がりそうですが、

日射遮蔽性能には、日射の条件が大きく関わってきます。
方位や建物の周囲の条件も重要な要件です。

例えば、隣地に高層建築物があり影になるところは、
そこから日射は入ることはほぼ有りません。
隣地に建物がなくなってしまうと話が変わるので、
建築物省エネ法では認められていませんが、
建築士の判断としては敷地を読んで計画を行えると思います。

外部ルーバーをつける
和障子を設置する
庇や軒を設ける

といった建築物省エネ法では認められている手法でなくても、

白色塗料で反射させる
ガラスに何かしらシートを貼る。
遮光カーテンをつけ、昼でも外出時は閉める。
すだれをつける。
緑化をする。
雨水を溜めて打ち水をする。

等、たくさんの選択肢があります。

大切なのは、いかにエネルギーを減らすことなのだから、熱的に効果があると明らかである場合、どんどん採用していいと思っています。

なるべく設備を使わないで過ごせる住宅が増えていけば、沖縄県の住宅に使うエネルギーは今後削減されていくかと思います。

地方別の世帯当たりの年間エネルギー消費量

地方別の世帯当たりの年間 CO2 排出量

(出典:環境省より https://www.env.go.jp/press/files/jp/114774
(エネルギー量は少なくても、原子力発電のない沖縄ではCO2排出量は多い)

沖縄県には約9割を超える鉄筋コンクリート造のストックがあります。
今後これらの省エネ改修工事について真剣に取り組んでいかなければいけません。

その際より多くの省エネ手法による選択肢を用意していければ、より経済的に合理的に省エネを進めていけます。

敷地を読み、建築条件を捉えて、コスト、施工条件を検証する。
我々建築士の力の見せどころです。
美しい未来を子供達に残せるように、身を引き締めて取り組んでいきたいです。

糸満市 潮崎ビーチ

DSC_0749

「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年から2019年まで特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事を務めた。一級建築士。2020年、松田まり子建築設計事務所設立。

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