沖縄は台風シーズン真っ盛りです。
今は鉄筋コンクリートの建物が大半なので、台風を恐れる人は少なくなりましたが、実は昭和初期、田舎の方では戦後でも茅葺屋根の家に暮らしていました。
そんなに昔、昔のお話ではありません。
現在、茅葺屋根に住んでいる方はいないと思いますが、先日沖縄最後の茅葺職人と言われる方にお会いしてきました。
大田孝全さんは昭和5年9月1日の現在85歳。国頭村奥間の出身です。
茅葺の実績として、現存するものは、おきなわ郷土村の家屋数棟、座喜味城址の高倉2棟、名護博物館の高倉1棟、沖縄県立博物館・美術館の高倉、本部・崎山の神アサギ1棟、安波ダムのトイレ等があります。平成20年に撮影された映画「ゲゲゲの鬼太郎」の家(ロケ用)も太田さんが手掛けたそうです。
平成17年に内閣総理大臣より瑞宝章を受章。平成24年には、森に関わる達人技を賞する国土緑化推進機構の『森の名手』に『かやぶき屋根職人』として選ばれました。
大田さんが言うには、材料の使い分けは、家屋はリュウキュウチク(ダキガヤ)、家畜小屋などはマカヤ、ススキを使用するそうです。
また、これらの材料は比較的容易に見つけることができ、一人で1日に25束刈ることができる、とのことです。
沖縄には、建築材料となる木材がないという中で、茅葺は手に入りやすい貴重な建築材料だったのです。
伐採する時期は「ダキロク、ハヤ(カヤ)ハチ、キジュー」の言葉にいう「竹は6月、茅は8月、木は10月以降」が良いそうです。(ただし旧暦。)
量は、屋根面積(勾配を考慮した)1坪当たり、50束(茅を直径20cmに束ねたもの)必要で、1棟あたり3日もあれば施工可能だといいます。
台風で屋根が吹き飛ばされても、すぐ修復できるという利点があるのかもしれません。
そういえば以前サモアから来た方に聞いたお話しだと、サモアでは現在も茅葺屋根で暮らしているそうです。台風は来ないのかと聞いたところ、来るとのこと。
台風が過ぎ去ったあと、飛ばされた茅を拾いに行って、またすぐ取り付けるんだよ、と聞いてびっくりしたのですが、沖縄もかつてそうだったのかもしれません。
王国時代の沖縄では、1737~1889年の間、身分によって屋敷や家屋の大きさが制限され、農村では屋敷が9間角(81坪、265平方m)、家屋は4間に3間の主屋一棟と、3間に2間の台所一棟に限られました。また、建築用材の使用にも制限があって、農家は屋根を瓦葺にすることを固く禁じられていました。もし逆らった場合は、罰金も科せられていました。
美ら海水族館で有名な海洋博記念公園には、「おきなわ郷土村」という琉球王国時代(その中でも17~19世紀頃)の沖縄を再現した村落があります。
その中にも茅葺屋根の住居がいくつか再現されています。
これらは、最古の穴屋形式を伝える建物と言われています。
この穴屋形式の建物は王国時代の農家を想定した間取りで建物は主屋と台所(殿小)の二棟からなり、四隅の柱はすべてサンゴ石灰岩を使用し、床は低く(当時は板床)屋根は小丸太組の茅葺です。
壁は二棟とも二重のチニブ壁(竹壁)に茅をつめ、台所のかまど周りの壁はサンゴ石灰岩の野面棲で目地には土をつめてあります。そして、二棟の屋根の接する部分に樋を設け、雨水を背後に流すよう勾配がつけられています。
茅葺屋根の家でも、人々は集落で集って住む、屋敷林や石垣で囲むなどをして暴風からの被害を避けてきました。
また、屋敷の中にアタイグワー(家庭菜園)と豚舎をおき、豚舎はトイレとしても使用していました。人が用を足すと、それが豚の飼料となるシステムです。
もしかするとその豚が用を足すと家庭菜園の飼料になり、それをまた人が食べる。そんな循環型の生活があったのかもしれません。
更には、屋根を伝った水は溜められ、飲料水としても使用されていました。
これぞ沖縄型の省エネ住宅の原型なのだと思います。
首里城という立派な建物が造られた当時、民家の人は暴風にも耐えがたい原始的な住居に暮らしていました。
台風をどんな気持ちで過ごしていたのでしょうか。家族で寄り添って、嵐が過ぎ去るのを祈っていたのでしょうか。
たとえ暴風でも安心して眠ることができる今、私達は次の時代未来にどんな暮らしを、どんな住まいを残していくことができるか、改めて考えていきたいです。
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「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年より特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事に就任。現在特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事長。
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