二月も終わりに、福島市の南東に位置する飯野町を訪ねました。
2008年より福島市に編入された飯野町は阿武隈高地の丘陵地に在り、美しい山並みを望めます。また、町の中心部はかつて養蚕業で栄えた屋敷の塀や蔵の街並みが残り、その佇まいや裏路地には飯野町らしい趣が残っています。
訪問したこの日は、ひな祭りのイベントの「飯野つるし雛まつり」が開催されていました。
これは、町興しの為に町の商工会がはじめたイベントで、今年で節目の10年目を迎えました。
学習センターや商店街の各店舗で、町民が思い思いにこしらえた人形を吊るし、町内外から人々が訪れ、眺めたり写真を撮ったり、買い物や食事を楽しんでいました。
“いいの「虹の家」”
今回の福島からの便りでは、町の中心の表通りから1本南側に入ったところに、2014年に建設した“いいの「虹の家」”の冬の住まい方について取材をさせて頂きました。
建て主さんは、ご夫婦と中学生のお子さんふたりの4人家族です。
敷地は奥行きが約8m、間口が25mと東西に非常に細長く、三方は高低差約1.5mの石垣に囲まれています。北側は敷地と同レベルで小道が走り、飯野町特有の裏路地の景観が見られます。
建物は、西側の2階建ての棟に寝室・風呂・家事室・子供部屋等を集約してプライバシーを保ち、東側の1階建ての棟にはLDKと客間等を設け、交友関係の広い施主さんの集いの場となっています。
その二つの棟を繋げる中二階の回廊が風洞の役目も担い、東側の棟にある薪ストーブの暖気がその回廊を抜け、西側の棟の2階の隅々まで温めてくれます。
冬の住まい方
取材をさせて頂いたこの日は、小春日和となり穏やかな一日でしたが、朝は-6℃まで冷え込んだそうで、春間近といえども朝晩はまだまだ寒く、天気が傾けばこれからも雪が降ることもあります。その外気が-6℃の時に室内は17℃を保っていたそうで、外出したら寒くてびっくり、車のフロントガラスが凍結していて更にびっくりだったそうです。
断熱材は昨年の冬編で紹介した“かわまた「結の家」”と同じく、調湿性と蓄熱性に優れ、薪ストーブと相性の良い「ウッドファイバー」を採用しています。
さらに内装仕上げについては一般的な珪藻土より細孔が小さい珪藻土(MPパウダー)を塗り、その優れた調湿機能により暑さ寒さを和らげます。
そのおかげで、薪ストーブから最も離れている2階の寝室まで適度な温度を保ち、朝の支度の1時間程度はリビングのエアコンを補助暖房として使用するが、常時は薪ストーブのみで暖房をまかなっているそうです。夏場もエアコンは使用しないとのことで、光熱費は以前の借家の時よりもかなり低く押さえられているそうです。以前は灯油だけで月20,000円を超えていたのが、現在は電気代が高くても約18,000円、その他に32,000円/梱包の薪をひと冬に1~2個程度購入するだけです。ちなみに、熱源は電気(オール電化)と薪ストーブのみで、薪は入手の仕方で購入しなかった年もあるそうです。
冬の調湿
一方で薪ストーブが暖かな室温を保ってくれるために、徐々に室内の湿気が無くなって乾燥が進み、薪ストーブのあるリビングでは湿度が40%を下回り乾燥状態になることがあります。やや温度の下がる2階では約50%とリビングよりも湿度が高めです。これは、相対湿度の特性でしょう。
高校受験を控えるお子さんがいることもあり、特に調湿には気を配っているそうで、湿度が低い時はMPパウダーの壁面に霧吹きを広範囲に吹き付け、常に40%以上を保つようにしているそうです。おかげでこの冬は子供達が風邪にかかることもなく、“いいの「虹の家」” に暮らし始めてから3度目の冬となるが、家族の風邪が顕著に減少しているとのことでした。
また、浴室のある2階は入浴時に加湿され、就寝時には寝室の湿度が60%程度まで上がり、程よく眠りに就くそうです。脱衣室の欄間をわざと開放した効果もありそうです。
また、脱衣所には換気扇はあえて取り付けませんでした。
薪ストーブの特性を生かすように適した断熱材や仕上げ材の選択、適した間取りの工夫をすれば暖かな室内環境を得ることができ、かつ光熱費を抑えることができます。
その一方で、いかに適度な湿度を保てるようにできるかが、「冬場」の設計の重要な課題です。
つるし雛のお顔紹介
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齋藤史博(さいとう ふみひろ)
1973年福島県福島市に生まれる
1997年に新潟大学工学部建設学科卒業後、組織事務所を経て2006年に「さいとう建築工房」を設立。
無理をしない、素直な家づくりを目指して地元福島で頑張っています。
2013年に“かわまた「結の家」”にて、第6回JIA東北住宅大賞2012「優秀賞」、第8回木の建築賞「木の建築賞」を受賞。
■バックナンバー
・福島からの便り Vol.1
・福島からの便り Vol.2
・福島からの便り Vol.3