沖縄からの便り vol.4


ここ二、三日ぽかぽかしていて、日中は20℃を超える暖かい日が続いていました。桜もポツリポツリ咲きはじめ、タンポポやすみれもあちらこちらに顔を出しています。

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さて、皆さんは低炭素建築物の認定を始めていますか?

改正省エネ法のロードマップによると2020年までにすべての建築物が、省エネ基準に関わってきます。沖縄県は、住宅も一戸建て住宅より共同住宅の割合が他府県に比べ大きく、全国より少し早めに省エネ法対象建築物認定が始まりそうです。

 

「都市の低炭素化の促進に関する法律(エコまち法)」に基づく低炭素建築物の認定制度については、平成24年12月より開始しています。住宅性能評価・表示協会のホームページによると全国で、平成24年度には154件公布、平成25年度には2112件、平成26年度(あと二か月残っていますが)は現在1892件公布されているようです。

残念なことに、沖縄県からは平成24年度0件、平成25年度1件、平成26年度2件しか公布できていません。

原因はなんでしょうか。低炭素建築物の認定に対する設計者の認識がまだ薄いということもあります。沖縄では家を建てるときハウスメーカーや工務店よりも、個人の設計事務所に依頼するのが一般的です。その場合は、その設計者の意識次第ということになります。

さて、実際に認定するに向けて何がネックになっているか検討してみました。

認定基準としては、定量的評価項目と選択的項目に分けられていますが、実際モデル住宅を計算してみて、一番クリアが難しかったのは、定量的評価項目の「外皮の熱性能」に関することでした。

(※国土交通省「低炭素建築物認定制度パンフレット」より)

※国土交通省「低炭素建築物認定制度パンフレット」より

沖縄県は、RC造の住宅が約9割を占めています。建具のサッシュなどはコンクリート打設後、型枠を外した後、個々に計測し全て特注することが通常です。ガラスも全て特注サイズですので、単価が安く加工のしやすい単板ガラスがメインです。

(※国土交通省「低炭素建築物認定制度パンフレット」より)

※国土交通省「低炭素建築物認定制度パンフレット」より

また日射遮蔽に関する措置に関して、沖縄では(沖縄からの便りvol.3でも紹介しました)花ブロックを利用することも多いのですが、これを算入しようとすると、材料選択時に材料種別の熱伝導率の項目がないので困難です。

構造に関しても定義しにくい半外部空間が多く、また混構造も少なくなく、複雑化していて計算しにくいということも言えます。またリビングと寝室等が一体空間化しているワンルームのような空間も多く、居室面積の計算では不利になる傾向があります。

半外部空間の住宅

半外部空間の住宅

※国土交通省「低炭素建築物認定制度パンフレット」より

※国土交通省「低炭素建築物認定制度パンフレット」より

選択的項目に関しては、①は、節水型トイレを採用すればコストもそんなに高くなく選択できます。

問題はこれ以外に何を選択すればいいのかです。

②の雨水・井戸水・雑排水の利用のための設備も、コストや設置に制限があります。

エネルギーマネジメントにおいても、③HEMSや④太陽光発電は導入設備が高価で、たとえ太陽光パネルを設置していても蓄電池がなければ選択できません。ちなみに今後沖縄電力は太陽光の買電をしなくなるので太陽光を導入するとなると蓄電池の設置も必要となるので、更に導入設備かかる費用は高価になります。敷地が広く庭等の面積が多ければ、⑤ヒートアイランド対策は簡易に導入できそうです。

躯体の低炭素化に関しては、⑥の品確法の住宅性能評価書を交付していれば選択も容易に可能、また⑦木造に関しては、木造にすればそれだけで選択項目になるので良いのですが、土地によっては適さなかったり、猛烈な台風時のことを考慮すると住むのをためらったりする方もまだまだ多いです。

そうなると⑧のフライアッシュセメント等も材料として、少し高価にはなりますが、今後期待できそうです。

節水の話も出てきたので、沖縄の水事情について少しお話ししたいと思います。

沖縄県は多くの離島を抱え、古くから水不足に悩まされてきました。平成6年以来給水制限は行なわれていませんが、昭和56年から昭和57年にかけての大渇水ではなんと326日間も給水制限が続きました。

沖縄がサンゴ礁の台地でできた地域であることは、ほとんどの人がご存知かと思いますが、このサンゴ礁の台地は保水力が非常に低いのです。また雨が梅雨や台風時に集中して降ること、河川が短く急で、雨の約70%が海や地下に流れてしまうことも、水不足の原因になっています。

それに加えて沖縄の人口密度の高さです。那覇市、浦添市、宜野湾市に至っては東京並の人口密度であり、水不足に拍車をかけているのです。人口や観光客は増え、社会様式も変化し、水を多く使う社会になっています。

街の中の家にはそれほど多く見かけませんが、少し郊外に行くと、殆どといってもいいほど、屋根にタンクがのっています。

屋根の上の給水タンク

屋根の上の給水タンク

近年は、ダム開発が進み、かつてと比べると水不足で悩まされることも少なくなりましたが、根本的に水不足になりやすい環境であることには変わりありません。空梅雨などのときには未だに給水タンクが活躍しています。

話を戻しますが、そう考えると低炭素認定基準の選択項目②の雨水・井戸水または雑排水の為の設備の設置も将来的にも期待できるかもしれません。

沖縄での省エネ住宅の普及に向けて課題はまだまだ多いですが、ひとつひとつ解決して、エネルギーをなるべく使わなくても暮らしていける住まいを増やしていけたらいいなと思っています。

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「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年より特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事に就任。現在特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事長。

◇沖縄からの便り 他の記事を読む
・vol.1 2013年夏編
・vol.2 2014年冬編
・vol.3 2014年夏編
・vol.4 2015年冬編
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