夏に引き続き最北の北海道からお届けします。
今年も寒い冬がやってきました。
前回お知らせしていた余市エコカレッジのご報告をさせていただこうと思います。このプロジエクトは2012年から足掛け3年。里山長屋からの便り~夏編を執筆されていたビオフォルムの山田さん、小樽の風のふ設計室の今井さん(http://www.kazenohu.com/index.html)
と3人で設計チームとして関わらせて頂きました。
フィールドワークを通してこの場の魅力探しをしながら、まちの縁側育くみ隊代表理事でありまち育ての語り部である延藤安弘先生にもアドバイスを頂きながらデザインミーティングを重ねつつ方向性を探って行きました。
計画が進むに連れて夢も膨らみますし、それについて語り合うのも楽しい時間なのですが、同時に進める資金計画や事業計画とバランスを、とても苦しみながららすりあわせて行き、ようやく現実的なところが見えてきました。マスタープランを一度に叶えようとすると3億円かかるという驚きの試算に絶句しつつも、まずは何が最優先なのか、そこでどんな活動がしたいか、できるのか、計画にはどのくらい資金が必要で、費用対効果や、収益と回収期間がどれくらいか。検討を重ねるミーティングが続きました。
山田さんにパーマカルチャーの考え方をレクチャーしていただきながらこの土地の魅力を活かしたマスタープランをつくりました。
そんな中、私たちはまず進めるべき活動として、「持続可能な地域」を実現するための学び合いと、それを仕事や仕組みとして体現する実践の場を作るところからはじめようと決めました。ここでようやく「エコカレッジ」づくりに目標を絞り込み、敷地内にあるコモンハウス(写真1の赤い屋根の農家住宅)を改修することから計画を進めることにしました。
コモンハウスのサーベイから改修案を持ち寄り、環境配慮の項目も含めて必要な要素を絞り込んで行く。元々の空間が大きいため、改修費用もかなりかかる試算となった。
結果、ゴミを出さない姿勢や既存のものを大切にすることも活動の骨組みとして大切だけれども、建物としてコモンハウスへの思い入れはあまりないこと、老朽化の進んだ建物に多額の費用をかけてもその後の活動での回収に時間がかかること、「エコカレッジ」の目玉となる学び舎の機能に特化した場の整備が急務なことなどから、コンパクトで環境負荷の少ない学び舎を新築することとなりました。
大きなスパンを木組で美しく見せながら、使用する木材のほとんどを道産材でまかない、シンプルでコンパクトなワンルーム空間となりました。研修機能をメインにしっかり断熱気密を行うことで環境負荷を最小限にし、厳しい冬も含めた四季の環境を快適に過ごすことができます。
その後、実施設計を経て限られた予算に合わせるために苦渋の設計変更をしつつ、クラウドファンディングでさらなる資金集めも平行して行い、雪解けを待っていよいよ着工。地盤を掘削し始めたところで大量のがれきが出て来たり、棟梁が入院してしまったりとアクシデントが続きましたが、無事上棟を迎えて、関係者一同感無量。たくさんの地域の方々にもお祝いしていただき、竣工に向けてますます士気が高まったのでした。
道産材の骨組みが美しく立ち上がりました。屋根の色は上棟式の参加者で投票して決定。施工して下さった武部建設さんの秘蔵の古材も近隣の納屋を解体したもので、棟梁自ら材の由来を丁寧に説明して下さいました。ホッとしたのもつかの間、ここからまた大変だったんです。
工事費が大変限られている中、工務店さんの承諾をいただき、断熱材入れ、内壁の漆喰施工、床張り、塗装工事はセルフ工事です。人手のの確保や工程管理に苦労しながら、暑い中での工事は本当に大変でした!
まずは道産カラマツでできているウッドファイバー(木の繊維 http://www.kinoseni.com)
を軸組内に100mm、外張りで100mm自分たちで入れて行きます。内壁はケンコート施工。学生さんたちがずいぶん頑張ってくれました。床は全国床張り協会(http://yukahatter.jp)のみなさんが棟梁の丁寧な指導のもと奮闘!これらもエコカレッジの学びのプログラムの一環です。
きれ道産カラマツのワイルドな外壁を背景にいに咲いたコスモスと学び舎。
試行錯誤しながらも10月にはセルフ工事もほぼ終わり、無事お引き渡しすることができました。お披露目会では代表の坂本純科さんがこれまでのプロセスをまとめた感動大作が上映され、感激ひとしお。既に始まっていた研修プログラムも回を重ねながら、まだ課題はいくつかあるものの空間を上手に使いこなして下さっているようです。
運用が始まり、初めての厳冬期を迎えつつあるエコカレッジから近況報告を伺いました。余市は北海道の中でも豪雪地帯。雪よけの竹格子や寒さを乗切るための薪集めなど、周到に準備されていました。優れた断熱気密性能で薪の使用量も少なく、朝晩ちょっと焚けば快適。
11月末:外気温マイナス6℃。学び舎は15.5℃(暖房なし)
12月末:5日間留守にした学び舎は、さすがに5~6℃まで冷えていた。(体感温度は10℃くらい)
ちなみにコモンハウスはマイナス3~4℃。
1月初め:10日間留守にして夜帰宅したときの室温が10~11℃。
(外気温マイナス6℃、
コモンハウスが1℃)
この日は外も暖かいので、朝だけストーブ焚いて
あとは暖房要らずとのこと。
今シーズンを快適に乗切っていただけそうです。
最後に、この余市エコカレッジはこのような場を目指しています。
1.環境負荷の少ない食の生産や住まいに必要な適正技術を学び、家庭や地域における実践
者を育てます。
2.一人ひとりの個性が発揮されるとともに、組織やコミュ二ティの中で互いの多様性を
尊重しながら協調するためのコミュニケーションやグループワークを学びます。
3.貧困や環境破壊を産むグローバル経済に対して、地域で分かち合い・支え合うための
「しごと」や「仕組み」を提案し、実践の基盤を創ります。
今年度は周囲の門学地域の皆さんとの連携も始まりそうですし、春からは学び舎に取付けたコンポストトイレや廃水浄化システムが活躍するはずです。暖房と煮炊きを兼ねる手作りのかまどを作ることも今後の活動の中で実現して行く予定で、とても楽しみです。
学び舎は一般向けの公開講座や大学、企業などのグループ研修のほか、各種会議やイベントの会場として利用していただけます。利用条件についてはお問い合わせください。
問い合わせ先:NPO法人北海道エコビレッジ推進プロジェクト
札幌事務所 :札幌市中央区宮ヶ丘2丁目⒈−1−303
電話:011−640-8411 FAX:011−640-8422
余市事務所 :余市郡余市町1963
坂本 純科 junkasakamoto@gmail.com
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北海道からの便り-特派員/櫻井 百子(さくらい ももこ)
1973年北海道旭川市生まれ。北海道東海大学芸術工学部卒業後、都市計画事務所、アトリエ設計事務所を経て2008年アトリエmomo設立。子育てしながら、こころや環境にできるだけ負荷の少ない設計を心がけている。平成22年度 北海道赤レンガ建築奨励賞、2011年度 JIA環境建築賞 優秀賞 (住宅部門) 受賞。
[北海道からの便り バックナンバー]
・北海道からの便り vol.1
・北海道からの便り vol.2
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・北海道からの便り vol.7
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