当地の新年はまぶしい日差しの中で迎えました。雪の無いお正月となり、気温も高めに推移しているとのことです。これは全国的な傾向のようで、エルニーニョ現象が原因ではないかとの説明です。北陸の地で雪の降らないことは誠にありがたいのですが、一方、何か不自然な感じで、地球の温暖化を思わずにはいられません。
昨年暮れ12月にパリで開催された国連気候変動枠組み条約第21回締結国会議(COP21)で京都議定書に代わる「パリ協定」が採択されました。
これは、すべての国が温室効果ガスの削減に参加する、化石燃料に依存しない社会を目指す新たな枠組の誕生という評価がなされています。
このままでは大変なことになるとの危機感を世界中の国や地域が共有したと言うことだと思います。
海面の水位がだんだん上がってきて水没の危機にある・・・などのニュースが地球の温暖化を実感させています。
身近でも、自分の子供の頃、昭和30年代の記憶は、冬はもっと寒かった。雪もたくさん降った。毎冬雪おろしをするのが当たり前だったのです。
寒い朝は窓ガラスが凍ってきれいな結晶の模様になりました。水道の凍結や破裂も稀ではありませんでした。今、そんなことはありません。確実に冬が暖かくなったことを実感します。
夏もそうです。昭和50年ごろまで家にクーラーなどありませんでした。暑い夜もあったけど簀戸と蚊帳と扇風機でなんとか寝られたし我慢できました。30度超えも少なく、35度以上など想像もできなかったように思います。
冬も夏も確実に温暖化の方向で気候が変化しているのを実感しないわけにいきません。
自然界でも今から十年ほど前からだったでしょうか。里山から標高千メートルにいたる広範囲の木々に大量の枯れ死が発生しました。夏の山が紅葉したかのように赤枯れしたのが痛々しいほどでした。
これは体長5ミリほどのカシノナガキクイムシの大発生によるものでした。この虫がナラ類の樹幹に大量に入り込むと水揚げが出来なくなり立ち枯れをおこすということでした。南の石川県側から広がり、県内を蝕みだんだんと北上して行きました。
山に入ると百年も超えるかと思われるミズナラの大木の根元にオガ屑よりも細かい粉が重なり積もっていました。周辺のほとんどのナラを壊滅させ、5年ぐらいでおさまりはしました。
こうした異常な自然界の動きは地球温暖化の気候変動が引き金になったものと想像させられ、なにか恐怖心さえ感じさせる出来事でした。
その昔、兼好法師は徒然草で「家の作りようは、夏をむねとすべし。」と言いました。
様々な技術開発が進んだ今、同じでよいとは思いませんが、かつては通風や日当たりを一番に考えました。 開口を大きく取り風通しに配慮しました。庇を深くし真夏の日差しを遮りました。地域の気候風土に応じて永い時間をかけて工夫してきました。美しく作ることにも意を用いました。
近年の新築住宅はどうでしょう。一般に自然の風通しなど考えていないかのようなつくりが多いように思われます。通風など必要ない考えで設計しているのかもしれません。夏も冬もエアコンなどによる人工的な空調前提の造りになっているのでしょうか。
高気密、高断熱そして高耐震。窓も小さく、庇も無い。サイコロのような家が多くなってきているように感じられます。一年中窓を開けない家さえ出現しているようです。
確かに灼熱の夏の冷房は必需です。冬期の暖房も必要なものです。そのための設備はどうしても考えなくてはならないと思います。しかし、気持ちの良い春や秋の季節は自然の中の暮らしが最適です。そう考えれば家の作りも出来るだけ自然を取り込むことを第一に考え、冷暖房や給湯、照明、家電などは必要性を十分考慮し、省エネルギーを大前提とすべきでしょう。そして、使うエネルギーも化石燃料を出来るだけ避け、風力や小水力、太陽光など再生可能エネルギーを活用する考え方が大切になるのではないかと思っています。
そんな視点でYKKが黒部市で進めている「パッシブタウン黒部モデル」の進捗がとても気になり先日現地を見てきました。当初の予定より少し遅れているようでしたが、第1期の事業は仕上げ工事に入っているようでした。この2月には完成するとのことであり、その成果がとても楽しみになります。
さらに、現地では2期工事も始まっているとのことでした。この街区は槇文彦氏が担当され、建築計画のポイントとして、「自然のポテンシャルを積極的に活用するデザイン」「 断熱・気密・窓などの建築性能の強化」「 最小限の設備エネルギーで補う快適な住まい環境」が提示されています。
一般的な北陸地方の集合住宅と比べて、冷暖房エネルギー(冷暖房負荷80%減)と給湯エネルギー(給湯熱負荷30%減)の省エネ性能を実現し、快適性向上を目標としているとのことであり、完成に期待するところ大です。
この茅堂地内での事業は全体で8街区の計画がなされており、今後の様々な提案がとても楽しみになります。
今冬も我が家のストーブに火が入りました。薪はずっと自前で用意しています。使う木は何でも良いわけではなく、ナラやケヤキなどの堅木が良いのです。杉は燃えるのが早いし松は油があり燃焼温度が高くてストーブには不適ということです。
昨秋も薪作りをしました。汗をながし、薪を作る作業は運動にもなり山の空気を吸い本当に気持ちのよいものです。自分で調達した薪の燃えるストーブはまさに極楽です。温暖化にほんの少し貢献していると思えるのも心嬉しいものです。
近年、諸外国の様々なタイプのストーブが紹介されています。3次燃焼させるとか、自動車のように触媒を使う方式もあるようです。燃焼性能が年々向上しているようです。願わくは日本の住宅に合うデザインで、熱効率が良く、排気ガスのきれいなストーブが日本の技術で開発され、普及して行くことを願わずにはいられません。
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川﨑政善(かわさき まさよし)
1947年富山県生まれ。1970年芝浦工業大学建築学科卒業。日本住宅公団を経て1974年富山県庁へ。以来一貫して建築住宅行政に従事。2006年富山県住宅供給公社常務理事を経て、富山県建築設計監理協同組合相談役(2015年3月退任)。
バックナンバー
・富山からの便り Vol.1
・富山からの便り Vol.2