美濃地域からの便りvol.3~夏場の既存木造住宅の温度変化~


2015年の夏も全国各地で暑い日が続きました。私が暮らしている東京でも、8月は最高気温が30℃を超える日が殆どで、7日には36.2℃を記録。今年も全国各地で熱中症の被害があり、私自身も暑さから体調を崩さない事を心掛けながら過ごした夏でした。

以前このコラムでも紹介した「身の廻りの温度変化」を測定した2011年の夏(http://chiiki.kkj.or.jp/2014summer_info/140902_kashimo/)は、さまざまな測定を行いました。日本の既存住宅の8割を占める、築年数が古い(1980年以前の)住宅の温度変化について興味を持ったことで、当時生活していた木造2階建住宅の実測を行いました。岐阜県美濃市で昭和29年に建てられた既存住宅の夏の温度変化を紹介します。

【建物概要】木造2階建 2世帯住宅(借家) 築年数:昭和29年建築(築62年)       改修履歴:平成15年 トイレ・下屋

【建物概要】木造2階建 2世帯住宅(借家) 築年数:昭和29年建築(築62年)
      改修履歴:平成15年 トイレ・下屋

【建物配置と外観撮影位置】

【建物配置と外観撮影位置】

(左)建物外観:北面(右)建物外観:南面

(左)建物外観:北面(右)建物外観:南面

建物中央付近に玄関があり赤線で囲った部分が生活スペースでその範囲を測定。
測定日:2011年8月17日
最高外気温34.6℃ 最低24.4℃
※測定条件は一日を通して概ね晴れている日で、窓(開口部)は解放しており、その部分の日射遮蔽はなし。①室温と②表面温度に③温度分布を測定。

【2階】データロガー設置・室内状況

【2階】データロガー設置・室内状況

①部屋別【室温・外気温】

①部屋別【室温・外気温】

②2階寝室 南【部位別温度・室温】

②2階寝室 南【部位別温度・室温】

①②の測定結果から、外気温の上昇にともない室温も上昇していることが分かります。1階リビングは北西に位置し、午前中は日射侵入が少なく14時を過ぎるまで外気温を下回っています。14時を過ぎ外気温が下がってきたあとも、2階天井の表面温度は高く、室温が下がりにくい状況になっています。これは昼間あたためられた屋根裏の排熱が進まない事が主な原因になっています。また1階の開口部に比べ、2階は開口部が小さい事も室内の排熱を妨げていると考えることが出来ます。

【温度分布】撮影面③上段:北西 撮影面④下段:南

【温度分布】撮影面③上段:北西 撮影面④下段:南

午前8時・12時・午後2時・6時の温度分布の変化 ※③④とも午前8時の温度分布は、その他の時間帯と温度域設定が低くなっています

午前8時・12時・午後2時・6時の温度分布の変化
※③④とも午前8時の温度分布は、その他の時間帯と温度域設定が低くなっています

③④の測定結果から、③北西側は午後2時過ぎから壁全体の温度が上昇しており、西日の影響が大きい事が分かり、外気温低くなった夕方(午後4時)に、撮影間隔の中での最高気温になっている。外気温が下がった午後6時半には、殆どの部分が冷えていますが、コンクリートで出来ている電柱と、プロパンガスボンベに熱が残っています。中でもボンベ内は高い温度を保っています。
地表のアスファルトに関しては、コンクリートの電柱と同じく熱が残っているいると予想していたが、意外に低い温度だった事に驚きました。

④はコンクリートブロックや石積みの塀が時間をかけて温まり、一度温まった部分は外気温が下がってもジワジワと冷めていきます。

【これらの測定を通して】
これらの測定から、外気温の低い時間帯には窓などの開口部を閉める事で外部の熱気を室内に入れないようにし、室温が外気温を上回る時間帯及び、外気温が室温を下回る時間帯には、開口部の外部側で日射遮蔽を行うと共に積極的に開口部を解放して、室内の熱気を室外に逃がし、排熱を心掛ける事が大切だと感じました。

また室内への日射侵入を防ぐ手法としては、開口部である窓面よりも外側で遮蔽する事によって効率的な日射遮蔽の効果が期待できる事も、測定データから知ることが出来ました。

しかしながら上記のような対策を講じた場合においても、屋根断熱のない2階の寝室2室については、小屋裏で温まった空気が天井を介して室内へ熱伝達され、その結果室温が上がっています。

夏場においては屋根面(小屋裏)部分の断熱施工及び、小屋裏に換気を設ける事で、小屋裏の空気が温まりにくく、冷めやすい環境への改善が見込めます。断熱材施工などの中規模以上の改修が難しい場合には、夏場において住まい手さんが1階部分を主とした生活を心掛ける事もおススメです。四季に合わせて衣替えを行うように、季節によって家の中で寝室や生活スペースが変わるというのもお勧めです。

これらの測定データから2階部分の温度の変動が大きかった事から、平屋建てで屋根面が無断熱の住宅は、更に温熱環境が悪い事が予想出来ました。

【最後に】
これらの測定を行った森林文化アカデミー在学中は、これまで紹介した以外にも、温湿度変化の測定を行いました。今回ご紹介した測定結果のデータの分析や、そこから考えらえれる対策などは、他の温熱環境に関する書籍などでも読み解く事が出来ますが、自ら測定を行う中で感じた事や失敗例などはアカデミー卒業後に家造りの設計実務に携わるようになり4年目となる現在でも「温熱環境を分かりやすく住まい手さんに伝える」ことや「興味をもって貰う」ための大切な財産になっています。

nakajima中島 創造(なかしま そうぞう)

(株)中島工務店 東京支店勤務。
1980年岐阜県中津川市加子母(かしも)生まれ。現場監督として木造建築に携わり、温熱環境に配慮した家造りに出会い、岐阜県立森林文化アカデミー 木造建築スタジオに入学。在学中は身の廻りや古民家の温度変化など、さまざま実測を行う。2012年同校卒業後は、温熱環境に配慮した住宅設計を行いながら、加子母(かしも)地域の木材を利用した家づくりに携わり、同地域を巡るツアーガイドや講演を通して、国内における森林の現状や地域木材についても知って貰う活動も行う。

[美濃地域からの便り バックナンバー]
美濃地域からの便りVol.1 ~夏場の身の廻りの温度変化~
美濃地域からの便りVol.2 ~冬場の身の廻りの温度変化~