デンマークからの便り vol.3『デンマークの住宅、建築事情』


コペンハーゲンの街を歩かれたことのある方は,ご存知かもしれませんが、街の中は古い建物であふれています。100年前に建てられたものがほとんど。レンガ造りの素敵なアパートが建ち並んでいます。
ではアパートの中も100年前のままかというと、そんなことはありません。
今では、いろいろと手を加えられ、住み心地良く改良されています。

昔はほとんどのアパートに暖炉があったようで、私の住んでいるアパートのフローリングにも、暖炉の跡がうっすらと残っています。(屋根にはいまだに煙突もあります。)
今では、デンマークの大きな規模の街のほとんどがセントラルヒーティング。ゴミ処理場から、各アパートに温水が引き込まれ、ハンドルひとひねりで部屋を暖めます。各部屋のパネルごとにカウンターが付いていて、年に一回どのくらい使ったかを計りに来ます。このセントラルヒーティング、空気も汚れないし、火事の心配もなし。全く優れものだと思います。
アパートの窓も二重窓がほとんどです。冬は寒いデンマークですが、部屋の中に入ると、暖かく、薄手の服装で十分快適です。逆に日本に戻ったときの、日本の住宅の方が、寒く感じられます。
台所やお風呂、トイレなどの水周りも、やはりアパートそれぞれ手を加えて改良されています。住民が手を加えて、アパートの中を改良した経費は、その住宅の価値を上げたものとして、住宅の資産に加えられるので、売却したときに加算されます。
少しずつの改良が建物に蓄積されてゆくので、住み手にとっても良いことですし、その人々の意識の連続が古い建物を残し、次の世代に受け継ぐ姿勢に繋がっていると思います。

今、私が働いている事務所の建物も1754年に建てられた、馬小屋だったものを、事務所として使っています。今はもちろん、設備などを改良し、快適な事務所空間になっています。

 この建物、いまでは国の保存対象のリストに登録さてれいます。

コペンハーゲンは秋も深まり、
事務所のあるコートヤードのりんごの木も収穫時期となりました。
 ミーティングスペース
 黒く見えるのが、事務所のセントラルヒーティング。
白く見えるノズルを回すと温度が調節できます。

デンマークは物価が高い!ってご存知でしたか?ちなみに消費税25% そして人件費もまた高い。アパートを改良する場合の職人さんの労働賃金も、ものすごく高い訳です。ですから、デンマーク人は自分たちでできることは、自分の手でやることを惜しみません。部屋のペンキ塗りはもちろん、壁を取り払うこと、床のフローリングの張替え、台所のシステムキッチンまで、がんばればなんでもできるものです。こちらの人々は、そのプロセスまでも楽しんでいるようです。

私の周りの友達は建築家やデザイナーが多いせいか、友達たちのアパートはお金を賭けずに、それでも、とても素敵に暮らしている人々が多いです。彼らから、住まいのセンスを学んだことはたくさんあります。


同僚のフランス人建築家、Gillesのアパート。
奥さんも建築家だけあって、彼らのアパートは素敵です。
キッチン、バスルーム、収納など、彼らのデザイン。
自分たちで大工仕事もしたそうです。

Special thanks to Mr. Gilles Charrier.

※この記事は2007年にご寄稿いただいたものです。紹介している情報は2007年当時のものです。

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特派員:林 英理子(デンマーク在住のランドスケープデザイナー)

Vol.10 『デンマークの春』
vol.9 『デンマークの冬/コントラストのある生活』
vol.8 『地域性とエコロジカル』
vol.7『物を大切にする暮らし』
vol.6 『社会に蓄積していくデザイン』
vol.5『Jorn Utzon』
vol.4『デンマークのクリスマス』
vol.3『デンマークの住宅、建築事情』
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vol.1『10回目の夏』