【台風がきて、いちばん何が困るのか】
7月末に発生した台風6号の威力は、沖縄県民の予想を上回りました。
ここ数年、“台風来る来る詐欺”といわれるようなことが何度もありました。
そんな事が続き、多くの県民が、警報級の台風と言われても、半信半疑で対策をしていた矢先のことです。一時、沖縄県全体の30%以上が停電すると言う状態が続きました。
復旧するまでに3日かかった地域もあります。
いかに電力に頼って生活をしているのかを身に染みて感じることになりました。
一方、私はそのとき金沢出張中でした。暴風域の沖縄のことをニュースで聞くだけで胸が張り裂けそうな気持ちになっても、近づくことすらできない歯がゆさを感じました。結局沖縄に戻れたのは、予定より4日も後になりました。私の住んでいる地域は40時間停電だったそうで、留守番をお願いしていた暑がりの主人はエアコンのない家でどう過ごしたのか、気になりました。
「そんな暑くなかったよ。ただ冷蔵庫の中のものは、だいぶダメにしてしまって食料が底をついてきたときは不安になった。」。
それを聞くとやっぱり沖縄で災害が起きたときには、暑さや寒さよりも食料等の物資の方が弱点になりやすいのかもしれないと、感じました。
【扇風機で育った南国の肌】
先日、沖縄の旧盆で、実家に帰ってお手伝いをしていて思い出したのですが、私は小さい頃からエアコンを使わない生活をしておりました。両親もほとんど使いません。寝るときに少しだけ。
さすがに外が33度になっているときはエアコンをつけているのだろうと思っていましたが、実際実家に行くとエアコンは使っていませんでした。お客さんがいらっしゃるときにだけ付けます。
ところが、旧盆中お客様がいらっしゃるからと、久しぶりにエアコンをつけようとしたら、故障していることに気が付きました。結局、エアコンがない状態で旧盆の宴がはじまりました。
不快になるかなと思いきや、冷えたビールが美味しいこと!窓から入ってくる風に汗が当たって、より涼しく思えました。帰宅後に冷水シャワーを浴びて、なんだか健康になったような気すらしてしまいました。
これは子供のころから作られた体質のせいからなのかもしれませんが、南国の人が感じる快適性と北国の人の感じる快適性は、別物なのだろうと思います。
同じようにエアコンの住まいで育った子供と、扇風機の住まいで育った子供の快適性も別物になるのかもしれませんね。
あと、沖縄の人は、いや沖縄の犬でも猫でも昼間は歩かないようにしていました。歩くとしても影を伝って歩くか、夕方以降になって活動します。ビーチパーティも夕方からが基本ですし、昼間から始めたとしても誰も海に飛び込みません。
太陽高度に合わせて、行動を変えています。
今年イラクでは日中に40度を超える日があったそうで、その日は国民の休日としたというニュースがありました。そんな国民の休日、今後も増えていくかもしれませんね。
【都会にある“田舎”のような暮らし】
ちょうど一年くらい前に築40年の高層マンションのリノベーションの提案を行いました。
那覇市の市街地の中心にあるマンションで、なんとこの階の住民の方はエアコンをほとんど使用しないで暮らしていらっしゃいました。代わりに、共用廊下側の玄関ドアを少し開けたり、窓を開けたりして暮らしています。高層階なので、風の力が地上よりも強いのです。風量は、窓の開け加減で調整しています。
たしかに玄関から奥へと流れを繋げていくことで、すうーっと風が通ります。
玄関前が涼しくて、現場に通っていた時も打ち合わせはいつもこの場所でした。
(ただ図面等は飛んでしまうので注意は必要でしたが)
部屋の中央に可動木造部屋を設置したのですが、この木造部屋の高さを低めて上部はロフトとしても使用できるようにしました。ロフトの上部でも室内同様、高層階に吹く心地よい風が感じられます。
このプロジェクトで何より嬉しかったのは、この住まいで、子どもたちが活発に動き回り、自然光と暮らすことで体内リズムが外の環境とリンクして、早寝早起きの健康的な暮らしになったと報告を受けたことでした。
自然と健康的な人間の暮らし、まだまだ切っても切れない関係にありそうです。
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「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年から2019年まで特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事を務めた。一級建築士。2020年、松田まり子建築設計事務所設立。
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