沖縄を暴風から守る
ここ数年、毎年のように襲来する台風の数は減っているように感じます。
一方でその強さ、滞在時間、動きなど、急には対処できないような事象が増えてきています。
実は竜巻発生率も全国で一番高い地域です。
自然災害が起こりやすい地域であることに身を引き締めて、設計と向き合っています。
恐怖を感じる台風と住まい
「今週、台風来るってよー」
「1000ヘクトパスカル切ったよ。」
「あい〜、買い物いっとかないとね。」
台風の大きさは、ヘクトパスカルで会話しているのをよく耳にします。
私が小学生の頃、台風が来る前にせっせと母がおにぎりを作っていたのを覚えています。
ロウソクとトランプとおにぎり。
停電になると、家族肩を寄せ合ってロウソクを灯してトランプをする、その時間が大好きでした。そんな実は平和な台風時間を楽しめるようになったのは、鉄筋コンクリート造の家に住み始めてからでした。
私に物心がつき始めた頃には、木造の家に暮らしていました。柱にしがみついて、登って遊んでいたのを覚えています。
今考えると、現在の木造とは異なり、建築基準法も未整備な曖昧な時期に建てられたものだったと思いますが、その家では、台風が近づき大雨が降ったら、畳を上げて子供たちは二階に避難することになっていました。当時、那覇は毎年のように浸水していました。
水不足で悩まされると同時に浸水もするという、水害に対して弱い地域でした。
(貯水タンクの話は、vol.4でも少しお話ししましたね。)
台風が近づき始めると、家のどこかに潜んでいたネズミたちが走り出す音が聞こえてきました。ネズミが苦手な母の悲鳴や、強風によってミシミシと揺れる音、ゴォーーーーっという強風の音、そんな音を聞きながら押入れの中に入って、布団の中に潜って夜を過ごしていました。
私が幼稚園生になった頃に、父が鉄筋コンクリート造の家を建てました。
「もう(避難しなくても)大丈夫だよ。」
すっと身体で覚えた安心感は、生活に対する豊かさを生むことをあらためて感じました。
日本で最も美しい村
多良間村は、宮古島と石垣島の中間に位置する宮古列島の島、多良間島にありますが、「日本で最も美しい村」として沖縄で唯一登録されています。
島の周りの珊瑚礁が囲い、集落を囲う擁護林が植えられ、家の周り敷地内に防風林を植えるというように幾重にも守られています。
集落の周りには、さとうきび畑が広がっていますが災害が起こると、孤立化する危険性が高い離島を地域で守っていく「琉球風水」のカタチが残っています。
沖縄の民家は、「屋根の建築」と言われています。
私たちの先人は、高温多湿な上、毎年襲ってくる暴風雨という厳しい条件のもとで、丈夫で美しい屋根を作るために、試行錯誤を繰り返してきました。
雨はできるだけ早く外に排出しなければいけないので、屋根の勾配は瓦葺きで5/10、茅葺きでは10/10を原則としていました。
風を避ける形態として、寄棟型が標準となり、切妻造はよっぽどのことがない限り採用されませんでした。
自然条件に対する共通の対処方法として、美しく丈夫で無理のない形が集落全体の統一的な景観が広がり、美しい集落を守っている形になりました。
首里城の城壁
暴風から守る琉球風水といえば、首里城の城壁のデザインは、欠かせません。
自然の地形を生かした緩やかなカーブになっています。湾曲することで強風を和らげていると言われております。また双方からくる風を城の上空で合殺し風から城を守っているという説もあります。
さらには隅角部が上を向いて一部天を指すかのようなデザインがありますが、これは、城壁の角で風を切り分圧させる効果を狙ったという説もあります。
CFDのような風シミュレーションソフトなどない時代に、風解析を行っていたという事実こそ、強風と涼風と共に暮らしていた歴史が感じられます。
建物や住まいを一戸一戸守ることも大切ですが、集落で守る、島全体で守る、その精神が根付いているのが沖縄らしさなのかもしれません。
その形態が強く美しい地域につながっていった先人の心を忘れずに、私たちが何を大切にしていけばいいかを考え続けていきたいと思います。
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「沖縄からの便り」特派員
松田まり子(NPO蒸暑地域住まいの研究会)
1977年沖縄県那覇市生まれ。2000年武蔵工業大学工学部建築学科卒業。卒業後、沖縄県内設計事務所および東京都内の設計事務所、デベロッパー勤務。2010年から2019年まで特定非営利活動法人蒸暑地域住まいの研究会理事を務めた。一級建築士。2020年、松田まり子建築設計事務所設立。
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