ワシントンからの便り vol.1 『アーバンからルーラルまで』


アメリカの首都・ワシントンDCは政治色が強い街です。ニューヨークやロサンジェルスのような勢いや華やかさは少なく、政府関連機関、美術館や博物館、アメリカの歴史を伝える記念建造物などが多く存在します。

ワシントンDCで一番有名な建物・ホワイトハウス

転職・教育が引越し理由

衣“食”住よりも、衣“職”住を重視する人が多いアメリカ。多くの人がより条件の良い仕事に就きたいと考えています。そして現在の住まいから通えない職場へ転勤・転職した時、家探しが始まります。また子供の教育に熱心な親が多いワシントンDC近郊。人々は子供に良い住居・学習環境を与えるため引越しをします。特に子供が義務教育(5歳から)に入る前や進学(小学校から中学校へ、さらに高校に)する時期に多くの人が引越しを考えます。

住まいの候補地候補

新しい家を探す条件の一つとして、多くの人が職場に通い易いことを挙げています。しかし、ワシントンDC内に職場がある人がDC内で治安・環境の良い地域で家を探すとなると、賃料はワンルームの部屋で一ヶ月1,500ドル以上、寝室二つあるアパートの部屋での賃料は一ヶ月3,000ドル以上からが相場になります。これらの物件は、日常品の買い物など生活面を考えると不便が生じる。そのため通勤時間・方法、賃料と治安・環境および生活面など様々要素から、人々はDC近郊へと家を探していきます。
就学年齢の子供を持つ家庭では、治安・環境面が良い地区とともに良い学校の地区であることは重要な要素なります。公立学校へ通わせる場合、住居地域で子供が通学する小学校から高校まで決まります。家を購入した方に何故その地区を選んだのか訪ねると、就学年齢の子供がいる家庭は大抵「学校で選んだ」と答えが返ってきます。子供の教育に熱心な土地柄ゆえ、住まいの候補地を選ぶ際、職場への近さよりも子供の学校が優先されるようです。

住まいの形態
ワシントンDCおよび近郊の住宅の形態には、一軒家、タウンハウス、コンドミニアム/アパートメントなどがあります。ワシントンDC内には、3階建てのタウンハウス、コンドミニアム/アパートメントが多く存在します。
築年数が古いタウンハウスは外壁にレンガを使っており、改修時にペンキを塗り重ねていくため、レンガ表面が見えない家が多くあります。これらの家は、夏は涼しく冬は暖かいという利点がある反面、築年数が古いため隙間風・配管などの痛み、改修が頻繁に必要など問題点も多くあります。

ワシントンDCにあるタウンハウス

ワシントンDC寄りのメリーランド州・バージニア州にある地下鉄駅周辺では大きなショッピングモールと高層住宅(コンドミニアム/アパートメント)が密集し、徒歩圏で生活が成り立つような街づくりが行われています。

徒歩圏で生活が成り立つような街づくり

車社会と考えられているアメリカですが、開発された地下鉄駅近くに住む人の中には車を持たない生活を選択している人もいます。ただし、これが出来るのはワシントンDCとその近郊では本当に限られた地域になります。

DC郊外で地下鉄の駅から離れた地域では、一軒家、タウンハウスが多い傾向があります。この地域はDC内や地下鉄駅近くの商業地域にある住居地域とは周辺の雰囲気が変わり、より自然豊かな環境になります。この地域の古い一軒家は、DC内のタウンハウスと同じくレンガを外壁に使っています。

地域により住居形態が大きく異なるため、候補地を選ぶ上で住居形態も決めての一つとなります。私がアメリカへ引っ越してきて始めて住んだアパートの部屋には洗濯機が付いておらず、各棟に共有のランドリーが設置されていて、そこで毎回使用料を払って洗濯する決まりになっていました。洋服もスニーカーも洗濯機で洗ってしまう、ベランダに洗濯物を干すことが禁止されているなど、洗濯に関しては驚くことが多くありました。

通勤時間をより短縮することを考え地下鉄駅近くのコンド/アパートを選ぶか、通勤時間は気にせず環境の良い一軒家を選ぶか。ワシントンDCとその近郊では、賃料さえ気にしなければ住まいの選択肢は多様にあります。

近隣確認は重要要素

候補地を絞り込んだ後、候補地内で住まいを探していきます。主な探し方として、インターネットで検索する、不動産会社を通す、自分の足で探す方法などがあります。
家の探し方は日本とほとんど変わりがありませんが、インターネットに掲載されている賃貸物件は、不動産会社を通さず個人(大家)対個人(借主)での契約が多いという違いがあります。

候補地が見つかったら、現地へ行って近隣状況を確認します。道を一本裏手に入るだけで周辺の雰囲気が大きく変わるため、住まいを決める前の近隣確認は重要な要素になります。遠くから引っ越してくる場合、しばらくホテルに仮滞在し、ある程度住まいの目星をつけた住まいの近隣確認をしてから入居を決める方が多くいます。

一軒家の売り出し看板

街並みを美しく

購入や賃貸により一軒家やタウンハウスに入居した日から、庭のお手入れが始まります。休みの日に芝刈り機でこまめに庭の芝の刈り取りをしている風景が初夏から秋にかけてよく見られます。

ワシントンDC郊外へ引っ越した当初、どのお宅も庭のお手入れを綺麗にされており、『どの家もきちんと前庭の手入れしており、住居環境に対する意識が高い地域』と考えていました。しかし前庭の芝生は綺麗に刈り込まれているが、鉢植えを置く・花壇を作るなど芝以外は手を加えない家が多く、本当に意識が高いのか?と疑問に思い始めました。

その後、街並みが美しく保たれている理由に、“ホームオーナーズ・アソシエイション(Homeowners association)”という組織と決まりごとがそれぞれの地域にあることを知りました。街並みを美しく保つ条文が大抵明記されており、手入れを怠ったまま前庭を放置しているときちんと手入れをするようにと通達される為、人々はこまめにお手入れをせざるを得ないのです。

庭の様子

前庭は条文により自分の好きなように出来ないため芝生のみになっているが、裏庭は菜園になっているというお家は郊外へ行くほど多くなります。裏庭とは思えない家庭菜園を持っているお友達の家では、夏の間はスーパーで野菜を買わないと言っていました。

街並み

彼らの悩みは、庭へやってくる動物の対策とのこと。何か視線を感じるなと思ったら後ろに鹿がいた、なんてことがよくあるそうです。通勤には少し不便ですが、郊外に住むと様々な生活の楽しみが見つけられます。

住む地域によってアーバンからルーラルまで様々な楽しみが得られる、それがワシントンDC近郊の特徴だと思います。

★ワシントンからの便り
※この記事は2010年にご寄稿いただいたものです。紹介している情報は寄稿当時のものです。
特派員:秋山 優
ワシントンDC郊外在住の“面白いもの探検隊”をやっている主婦。
造園事務所に勤務後、兵庫県立淡路景観園芸学校を卒業。2007年、ワシントンDC郊外に引越し。
夫と二人暮らし。面白いことを探して、いつもカメラを持ち歩いている好奇心の塊。

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