京都からの便り vol.2『南禅寺の家 冬の便り』


2015年元日から、京都市内は大雪に見舞われました。気象庁の過去の気象データを確認すると3日に22cmの積雪。61年ぶりの大雪だそうです。2日の昼頃、墓参りを兼ねて帰省したのですが、道路の雪も融けかけており思ったほどではなかったので、3日の記録的大雪は、深夜だったのかもしれません。

夏に生まれたカマキリが卵を産んだ模様。

夏に生まれたカマキリが卵を産んだ模様。

さて、昨年のクリスマス前に竣工4年目を迎えた南禅寺の家に訪問しました。
今年の紅葉は、雨の影響か色付きが良かったそうで、永観堂や哲学の道も観光客で賑わっていたようです。

南禅寺の家。紅葉前11月の様子。

南禅寺の家。紅葉前11月の様子。

この日の平均気温は約6度。寒さが増したことで、池のメダカもじっと動かず冬支度に突入です。4度目の冬は、羊毛と土壁の調湿・蓄熱効果もあってか、結露もほとんどなく、暖房も良く効き快適に過ごされています。完成した年の冬は、家が冷えきり部屋を暖めるのに苦労されたようですが、数年経つと室温も安定し、今はとても居心地が良いとのこと。ただ、家を出るのが億劫になってしまうので気をつけないといけないようです。(笑)

まずは、土壁の施工時期について、少し話をしておければと思います。南禅寺の家は、5月頃に土を塗ったので外気温の影響はなかったのですが、冬に土を塗る場合、土の水分が凍るなど何か問題があるのか左官職人さんに聞いてみました。まず、そもそもの話で「今は、温暖化しているので、冬に塗っても凍りにくいのでは?」との回答。早速、気象庁の過去の気象データから、京都市の最高最低気温の変遷をグラフ化してみました。最高最低気温ともに上昇傾向にありますが、特に最低気温は約-10度から約-3度へと上がっておりグラフを見ても上昇率が高いのがわかります。職人さんの言うとおり、水も凍りにくい時代になっているようです。

別の職人さんに土壁が凍ったことがあるか聞くと、「忘れもせん。30年前の1月に土壁が凍って、えらい目にあったわ!」とのこと。詳しく話を聞くと、内外真壁造で外部の土を塗った際、土壁の表面が寒さで凍り、暖かくなった次の日に水分が溶けて流れだし、土壁周囲を汚したそうです。なかなかリアルな話です。もう一人、別の職人さんに聞くと、「水分が凍っても土は剥がれたりはせん。仕上がりが鳥の足みたいな模様になる。」とのこと。
まとめると、仕上がりにどう影響をするのかが職人さんには重要で仕上がりを綺麗にしたいなら、冬に塗る際は温度に注意し塗るのが良いようです。

京都市の最高最低気温変遷

京都市の最高最低気温変遷

南禅寺の家は、土壁の背面に羊毛を充填することで、暖かく涼しい・結露で困らない家づくりを目指しました。(土壁の詳細は、『南禅寺の家 夏の便り』をご覧ください。)

筆者は、子供の頃、土壁でできた京町家に住んでおり、「家の寒さ=隙間風」というイメージが先行していました。同世代の友人に聞いても、
「俺ん家、土壁やしめっちゃ寒い。隙間から外見えるしな。」
とのこと。土壁の悪いイメージを払拭し、伝統的な土壁を後世に伝えるためには、イノベーションしかない!と思い、土壁と羊毛とのハイブリッドを実践しました。もちろんただ単に、壁に羊毛を入れれば良いというわけでもなく、家全体の断熱バランスを考慮し、家の性能をQ値=2.7W/㎡K程度として家づくりを進めました。

竣工後、土壁に羊毛を加えた効果がどの程度か知るために、温湿度計を6機設置させて頂き、約2年間の計測をしました。測定結果を見ると、冬の一番寒い日で、主たる居室の自然室温(朝7時頃の外気と室温の差)は約12度、非居室は約9度と、それなりの室温です。客間である和室は、使用頻度が少ない上、日射も入りにくいことから、約4度と低い。サーモカメラでLDKと和室の土壁を撮影してみると土壁の断熱・蓄熱効果もあり、壁の表面温度の違いがはっきりわかります。

LDKの土壁・2013年1月撮影。

LDKの土壁・2013年1月撮影。

和室の土壁・2013年1月撮影。

和室の土壁・2013年1月撮影。

一方、1年間の光熱費・使用量は、室温の割に暖房機器の使用頻度もそれほど多くなく、とても省エネルギーな暮らしをされています。住まい手に冬の暮らし方を伺ったところ、起床後、エコアンでLDKを暖め、室温が上昇すれば電源をOFFにし、温水床暖房に切り替え。その後は、床暖房をON・OFFしつつ、夕方以降は、起床時と同様にエアコンと床暖房をうまく使い分け生活をされています。住宅・住戸の外皮性能の計算プログラムで一次エネルギー消費量を見える化すると、基準値728 MJ/㎡年、設計値642 MJ/㎡年となり、実測値552MJ/㎡年と比較すると、基準値比較約24%減、設計値比較14%減となりました。暖房は、それぞれ約2割を占めており、約100~120 MJ/㎡年程度です。

南禅寺の家1年間の一次エネルギー使用量実測値

南禅寺の家1年間の一次エネルギー使用量実測値

結果的に、断熱性を向上するのは大切ですが、エネルギー消費量から見ても住まい手にあった適切な性能設計が必要のようです。省エネルギーな暮らしをされる方であれば、「断熱性はこのぐらいの性能で」快適性を求める方には、「このぐらいで」といった感じです。住まい手がどのタイプなのか探る方法は、設計段階のヒアリングに加え、日々の光熱費・使用量が重要であると言えるでしょう。

南禅寺の家 設計時の一次エネルギー消費量

南禅寺の家 設計時の一次エネルギー消費量

エネルギーと伝統的な土壁、どちらもあと5年で大きな岐路を迎えそうです。100年後、後世の建築史家に汚点を残したと言われないよう活動していきたいと思います。

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toyoda_1豊田保之/トヨダヤスシ建築設計事務所代表

1974年京都生まれ。瀬戸本淳建築研究室、Ms建築設計事務所を経て、2005年トヨダヤスシ建築設計事務所開設。岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師。京都造形芸術大学非常勤講師。一般社団法人住宅医協会理事。代々続く左官職人の家に生まれた経歴から、土壁や漆喰など左官職を生かした家づくりを行っている。
「南禅寺の家」では、(財)建築環境・省エネルギー機構主催「第5回サスティナブル住宅賞」において「国土交通大臣賞〔新築部門〕」の他、第9回木の建築賞 木の住宅賞、第7回地域住宅計画賞 地域住宅計画奨励賞も受賞している。

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南禅寺の家Vol.1 夏の便り