美濃地域からの便りVol.1~夏場の身の廻りの温度変化


現場監督という立場で木造建築に携わりながら、温熱環境に配慮した家づくりに出会い、学びはじめた2010年。

当時は、新たに建築された建物の性能や室内外の温度差、部屋ごとの温度変化などをまとめたデータは多く存在するものの、「人」が生活する際に、どのような温度変化の中で暮らしているというデータが少ない事に気付きました。

また断熱・気密などの躯体性能などを数値化する事で、心地良さを「定量的」に表す取り組みが行われ、温熱環境の向上と健康との関係性が確認されはじめていました。しかし、それらを一般の住まい手さんに伝えようとした時に、沢山の数字と単位が並び「温熱環境」を分かり易く伝える事の難しさも感じていました。

また温熱環境に興味を持ち学び始めた私自身も、残念ながら数字が苦手で、どちらかといえば文系より。

そんな私でも、自らが身の廻りの温湿度を測定する事で、普段どのような温度変化の中で生活をしているかを把握し、どれくらいの温湿度の際に心地良い・暑い・寒いと感じるかの感覚をつかむ事で、それらを住まい手さんに楽しく伝える何らかのヒントになるのではと考えました。

そこで、データロガー(測定機器)を腰からぶら下げ、朝起きてから寝るまで食事・トイレ・入浴の際も四六時中肌身離さず生活して、温湿度の測定を行いました(入浴の際には水に濡れない場所に設置して浴室の温湿度を測定)

データーロガー

データーロガー

 

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人体につけたデーターロガー

データロガーは、人体(測定者)の温湿度が影響しないよう、データロガーボックスを制作。周囲を薄ベニア材で囲み背面はスタイロ系断熱材を使用。測定と並行して、自分の行動と時刻をひかえました。

美濃の家(測定者の住まい):築55年以上 木造2階建ての2世帯借家

美濃の家(測定者の住まい):築55年以上 木造2階建ての2世帯借家

夏(9月)の身の廻りにおける温度変化は次のようになりました。その中でも温度変化が大きかった9月17日を取り上げてみます。

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この日は温熱環境に関するイベントお手伝いの為、車で名古屋に移動。日中はイベントスタッフとして建物と外部との行き来が多かった一日でした。

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睡眠時(在宅時)の緩やかな温度変化とは対照的に、家を出た時点で少し温度が下がりますが、そこからどんどんと温度が上がり、車内にて最高気温32.6℃を記録。これは腰部に取りつけていたデータロガーが、腰と座席の間の温度を拾った為と考えられます。

車内には5名が乗車しており、20℃設定で空調設備が稼働していた、当日の車内温度は23~24℃前後であると推測できます。身体の部位によって大きな温度差(10℃前後)となっています。(※参考:普通の皮膚の表面温度は30~33℃、密着していると36℃くらいまで上がる)

次にイベント参加時は建物内部から外部、外部から内部への行き来が多く、一日を通しての温度変化の波が一番荒くなっています。最後に帰り道(車移動)で5℃近く温度が下がっているのは、夕食でお店に入った事によるもの。帰宅後は温度変化は落ち着き、入浴時も殆ど温度変化は見られません。

一日をとおしてみると、美濃の家を出たのを境に、温度変化の波が激しくなっているのが分かります。また外出時は施設内の空調によって、短い時間で急激な温度変化に身を置いていた事が分かります。外部から建物内に入る際に大きな温度変化(温度が下がる)があり、建物から外部へ出る際の温度変化(温度が上がる)も同じく大きな温度変化になっています。

一般的に、冬場に比べると気づきにくい(感じにくい)温度変化であるものの、外を歩き回って汗をかいた場合には、温度差以上に身体を冷やしてしまいます。これらから夏場も身体にかかる負担が大きくなる事が分かります。

人間の身体は歳と共に、暑さ・寒さを感じにくくなる。各地で35℃を超える日が続く近年の夏。熱中症は勿論の事、温度変化によって体調を崩す事にも注意をしなければなりません。

驚きの冬場の温度変化については2015年冬編にてお伝えします。

nakajima中島 創造(なかしま そうぞう)

(株)中島工務店 東京支店勤務。
1980年岐阜県中津川市加子母(かしも)生まれ。現場監督として木造建築に携わり、温熱環境に配慮した家造りに出会い、岐阜県立森林文化アカデミー 木造建築スタジオに入学。在学中は身の廻りや古民家の温度変化など、さまざま実測を行う。2012年同校卒業後、現職。岐阜県加子母(かしも)地域発信の家づくりに携わると共に同地域を巡るツアー等を通して、国内における森林の現状や地域木材について知って貰う活動も行う。