■白州次郎が住んだ鶴川というところ
私の住んでいるエコヴィレッジ鶴川「きのかの家」は東京都町田市に約6年前(2006年末)に竣工しました。鶴川は東京の都市部と田園部の境目といえるような位置で、まだまだ林や田畑も多く残っており、利便さと自然環境の良さの両方を享受できるというところが気に入っています。
有名なところでは、太平洋戦争をはさむ激動の時代を生きた白州次郎・正子夫妻が住んだ茅葺の家「武相荘(ぶあいそう)」(今は記念館)がすぐ目の前にあります。欧米をよく知る白州次郎は日本の敗戦をいち早く予測し、昭和15年には鶴川村に転居し畑を耕しながら自給自足の生活を始めています。その頃はこの辺はまだ全くの田舎であったようですが、今思えば都会人のエコライフの先駆者としての白州次郎が選んだ場所が鶴川であったともいえるでしょう。
■エコと健康がテーマのコーポラティブハウス「きのかの家」
「きのかの家」は「健康と環境共生」をテーマとしてつくられた30戸のコーポラティブハウスです。地元の大地主さんの敷地の一部約2,500㎡を30人で共同購入してRC造の6階建ての共同住宅をつくりました。
企画と募集は(株)アンビエックス(代表・相根昭典氏)で、募集を始めて約半年で30世帯が決まり、その後建設組合を結成し、話し合いと設計に約1年、工事に約1年、入居は募集から2年半後となりました。工事中も管理規約の作成をはじめ総会の他様々な部会の会合があり述べ回数で100回以上も集まって相談をしたでしょうか、今考えてもよくやれたと思います。
参加者は40歳前後の若い人が多く、私のような60歳台がほとんどいなかったのは意外でした。小さいお子さんのいる家族の方が健康とかエコに敏感なのかもしれません。入居したときには全員がよく知り合った仲になっていましたので本当に暮らしやすいコミュニティになりました。
■化学物質や電磁波に敏感な人たちも参加してきた
もう一つの大きな特徴は、アレルギー体質であったり、その疾患で悩んでいたり、化学物質や電磁波に敏感なために困っている人が3分の1程度を占めることです。その人たちは普通の仕様の住宅では暮らすのが難しく、鶴川に健康をテーマにした自由設計のマンションができるということで参加してきたのです。
私にはアレルギーはなく、話では聞いていましたが、一緒に住む人たちからいろいろな話を直接聞いて驚かされました。蛍光灯の下では暮らせない、電磁調理器は使えない、冷蔵庫が傍にあるとだめ、パソコンや携帯電話も使えない、無線LANは隣家が使っているのでもだめ、などは電磁波に敏感な人の話。合成洗剤で洗った洗濯物を外部に干されるとだめ、建材に合板を使うとホルムアルデヒドなどの化学物質で具合が悪くなる、化粧品や香水の匂いがだめ、煙にアレルギーがある、タバコの匂いがだめ、などは化学物質に敏感な人の話です。それらについても徹底して話し合い、建物や建材、設備の仕様を決め、生活のルールもまとめました。
■水を通さない密なコンクリート躯体を実現
構造躯体はできれば300年は持たせたい、という設計者の意向を受けて逆梁、外断熱工法とし、水分の少ない生コンを指定して強固なコンクリートを打ちました。
どの位密に打てたかはテストピースの強度試験だけでははっきりしなかったのですが、それを証明する事件が我家で起こりました。1年ほど前に、浴室の蛇口の取替えを自前でやったのですがジョイントの水密が悪かったらしく、壁内のジョイントから水が少しずつ漏れて知らないうちに床下に溜まっていたのです。1ヶ月後位に火災報知器の異常が我家の下の住戸で見つかり、調べてみたら天井の火報からポタポタと水が漏れているではないですか。これは我家が原因かと床下をのぞいてみたら何と浴室の床下を中心に深さ20センチ以上の水が溜まりプール状になっていたのです(逆梁ですから床下は60センチほどあります)。
結局溜まった水が行き場がなく、配線の隙間を伝って長時間かかって下の住戸の火報から漏れてきたのです。普通のマンションであれば例えば洗濯機から床下に水が漏れると、割りに早く下の住戸の天上から漏れてくると考えられます。しかし我家のコンクリートは全く水を通さないほど密にできていたということなのです。昔のコンクリートはすべてそうだったというのですが・・・。
■化学物質低減と電磁波対策を徹底
余談が長くなりましたが、健康のためにここでは、化学物質を含む建材を使用しないことを徹底しています。内装はむくの木材を中心に、漆喰や土壁や自然塗料を使用し、合板を排除しました。合板を使わないとなると普通のシステムキッチンや洗面化粧台が使えないので設計には苦労しました。電磁波にたいしては、IH調理器は使わず、電子レンジや無線LANは自粛、蛍光灯はやめて白熱球かLEDを選択しました。室内の電気配線から出る電磁波を低減するためにコンセントをアース付きにする、配線周りの電磁波をアースするという室内低周波対策は住人の希望に応じて最高の3レベルから1レベルまでの3段階から選べるようにし、我家は寝室だけを対策しました。
これだけ電磁波に配慮したマンションはめずらしいと思いますが、敏感なために徹底した対策をした4階の住人が入居してみたら窓から入ってくる携帯電話やテレビの電磁波で暮らせないという事態も生じました。彼女はその後特殊な金属を含むカーテンを輸入するなどして苦労の末暮らせるようになりました。
■夏の夜間冷気の利用
夏は、周辺にまだ緑が多く、夜間の外気温が結構下がるので、夜間冷熱を夜の内に壁天井に蓄冷して、昼間は窓を閉じて高温の外気を遮断し、なるべくエアコンを使わないような生活スタイルを心がけています。新築時に夜間外気を導入するファンダクトを特別に設計し、使用した時の内外の温度変化を示したのが(図1)です。
2007年のすごく暑かった夏の例で、日中の外気温が36度を越えていますが、夜間は27度近くまで下がっています。この冷熱をファンで導入することで室内温度はエアコンを使わずに昼も夜も31度前後で安定しています。これは夜間蓄冷と室内熱容量の効果を示しています。その後ファンの送風量もっと大きくする必要があることがわかり、3年後に吸排気型ウィンドファンを北側の窓に追加設置しました。
今年もすごく暑かったのですがそのおかげで夜は何とかエアコン無しで過ごせています。マンション全体では約半数の住戸がエアコンなしの生活をしていたのですが、ここ2~3年の猛暑でエアコンを設置する人が増えました。温暖化が進んでいることを実感します。
■冬の省エネ⇒太陽熱をパッシブ利用
エコの面については、まず省エネですが、125ミリのロックウールで外断熱をしていますし、ベランダも躯体と熱絶縁し、窓は複層ガラス、屋上は菜園なので断熱性は非常によく、一地域(北海道)の推奨基準に適合するほどです。外断熱の良さは室内をコンクリートむき出し(漆喰塗りや塗装でも可)にすることで非常に熱容量の大きい、熱的に安定した室内環境をつくることができる点です。我家も壁、天井はすべてむき出しで、冬は昼間南からの太陽熱で壁、天井、床の一部に蓄熱して夜の熱放出で暖房を節約しています。薪ストーブも使用しますが、2~3時間燃やすとやはり躯体に蓄熱しますので消えてもその後数時間は暖かさが持続します。今年の冬は500Wの椅子式の電気コタツと廃木材を燃料とする薪ストーブと太陽熱で過ごし、エアコンやガス暖房機は使わずに済みました。
■太熱温水器の利用
太陽熱のアクティブ利用では、二重ガラス管型の「太陽熱温水器」を約半数の世帯が利用しています。屋上に設置した真空断熱されたガラス管で集熱し、そのまま管の中に温水が保存されるので温水タンクが不要である点がすぐれています。8本の管で約200Lのお湯を保存できます。
このお湯は夏場には80度以上の高温ですが給湯時には水道水を混ぜて50度程度にします。我家では高温のお湯を使いたいので別途に配管し、浴室に高温のお湯が出る蛇口をつけました。差し湯もできエネルギーの有効利用になりますが、小さい子供などが不用意に蛇口をひねれないようにしておかないとやけどの危険があります。太陽熱温水器のおかげでガスの使用量は大きく減って助かっています。
■屋上菜園はさまざま
建物の屋上はソーラー温水器と広場以外の場所はすべて菜園になっています。コンクリートブロック2個分の40センチの深さです。菜園は約30区画(10~15㎡)に分けられて最初は希望または抽選で全世帯が1区画ずつを保有しました。現在の耕作状況は、熱心に野菜を作っている人、花を植えている人、忙しくてほとんどやっていない人などさまざまです。屋上菜園は狭く、土量が少ない分むずかしく、皆さん土作りや連作障害の回避に苦労しています。もちろん無農薬、無化学肥料をめざしていて、秋には収穫祭を毎年やっています。
■手作りカーシェアリングを工夫
ここだからできている仕組の一つが「手づくりカーシェアリング」です。計画中に提案して、入居後に2台の車を持ち主に提供してもらい、シェアをしました。使用希望者はネット上のカレンダーに希望日時を記入し、当日保管ボックスから鍵を取って使用します。最初に記録票に出発時間と距離計の数字を記入し、使用終了時に時間と走行距離を記入します。料金は距離料金と時間料金の両方を合わせて計算する仕組で、記録票を会計担当のポストに入れておくと、月毎に料金が請求されます。
料金の設定にはいろいろ工夫して、短距離短時間は民間会社のカーシェアの料金、長距離長時間はレンタカーの料金を参考にし、いずれよりも安くなるようにしています。
私も車にあまり乗らなくなったので手放しましたがカーシェアがあるので経済的で本当に助かっています。車を減らすという効果もありますが、自分の車だとどこに行くにもすぐ使ってしまうのに、カーシェアだと使う前に判断が入るので、自転車になったり、電車になったりすることも多く、結果として各人の自動車使用が減るという結果が出ています。
記録票はすべて自己申告制なので相互の信頼関係がないと成り立ちません。普通のマンションでもやれるようにするためには、距離や時間が伝票で打ち出されてでてくるドライブメーターのような装置が開発されるといいのですが・・・・
■都市型コンポストトイレでエコな循環
エコのシンボルの一つとしてコンポストトイレも採用したいね、と皆で話し合ったのですが予算その他の問題で集会室につけるのをあきらめました。いくつかの住戸でも検討したのですが結局実際に設置したのは我家一戸だけになりました。
床下に微生物を含むオガクズの大きな分解発酵槽を入れなければなりませんが、幸い床下が60センチあったのでトイレの床を20センチあげるだけで納める事ができました。これは電気を使用して発酵槽の温度を上げて水分を蒸発させ、モーターを利用してオガクズをかきまぜるアクティブな都市型コンポストトイレで、自然農園などで使われる電気などを全く使わないパッシブなタイプとは違います。
電気を使うところがエコでなくて残念ですが、水を使わない、汚染物を外部に出さないという点は評価できます。また生ごみはほとんどこれで分解しますのでゴミも減ります。年4回位コンポスト化したオガクズをバケツ5~6杯取り出して菜園にいれると良い肥料になります。減らした分オガクズを足します。菜園の野菜を食べて、残りや排泄物が肥料になってまた野菜が育ついうエコな循環がささやかながら成立しています。
■コミュニティ活動とMLの効用
コミュニティ活動の中心は約76㎡の集会室とその前面の広場です。年間行事は、春の総会、夏の流しそうめん、秋の収穫祭、年末の餅つきと音楽祭、などが定例で、他に30人くらい居る子供たちのためのイベントとして、お花見会、カプラワークショップ、お泊り会、七夕の会、映写会、不要品持ち寄りリサイクル市などが随時あります。
毎月第一日曜の午前中は大掃除で全員で草取りや共用部の掃除をします。全員に知らせたいことは全員のML(メーリングリスト)に流します。これは便利で、常にいろんな情報が流れ今どんなことが起きているかが皆にわかります。
「実家から野菜が届いたので持って行ってください」
「不要なものが出たので使う人はいないか」
「食品や日用品を共同購入する人求む」
「しばらく旅行に行くので駐車場使ってください」
「どこそこに蛇や蜂が出たので注意してください」
「〇〇ということがわからないので知っている人はいますか」
「〇〇で困っているのですがアドバイスください」などなど、
相互に助け合う暮らしが成立しています。
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中林由行(なかばやし よしゆき)
1943年 熊本生れ、一級建築士。
1972年より(株)綜建築研究所 主宰。2008年に引退、現在は会長。
NPO法人 コーポラティブハウス全国推進協議会 副理事長。
一般社団法人 環境共生住宅推進協議会(kkj) 技術顧問。
現在は、コーポラティブハウス、エコハウス、高齢者のためのグループハウスなどの普及推進をはかるNPO関連で活動中。