阿智村からの便り vol.2


信州の南端、長野県下伊那郡阿智村で一軒の空き家を借り、暮らし始めて5年。今回は、この地での晩秋から少し厳しい冬の暮らしについてお話したいと思います。

前回、夏の便りでご紹介したように、元空き家である我が家は、省エネ性能や耐震性能は全く期待できず、雨と風を凌ぐ事で精一杯な感じの建物になっています。
それ故、冬の寒さがダイレクトに伝わってくるのはもちろん、日中は、屋外のほうが過ごしやすい、なんて日もあるくらいです。

では、そんな少し厳しい冬の時期、どのように室内の温熱環境を向上させ、暮らしやすさを実現しているのか。結論から言えば、今のところ屋外から伝わってくる寒さを軽減するような、特別な工夫や手法は用いていません。

冬期間の室内環境を考えた時、この建物の最大の問題点が断熱性能と気密性能の低さにあることは疑いようもない事実ですが、それらのマイナス要素を排除するために、借家である建物自体に手を加えることは非常に困難なのです。
仮に、住まい手が自由に建物をイジることが出来、原状復帰を求められないとしても、元空き家の場合、最低限の暮らしをするために既にある程度の改修を行っている事がほとんどです。電気や機械設備の改修に床材の張り替え。照明器具の交換に建具の取替え。とても断熱改修工事にまでコストを掛けられないというのが実情です。

改修前の空き家と解体中の倉庫

改修前の空き家と解体中の倉庫

そんな我が家の冬の暮らし。

現在使用している暖房装置と言えば開放型の石油ストーブを数台。これに、就寝時は布団の中に湯たんぽを忍ばせる。更に、エネルギー消費を少しでも削減するために、家族はなるべく一つの部屋に集結し、暖房する面積を小さくする。
全てが昭和の時代から変わっていない冬の暮らし。まるで時間が止まっているかのような感覚さえありますが、それはそれでそんなに悪くないとも思えるのです。

それでも、この空き家での冬の暮らしが、もう少し楽になれば良いのになあ、と日々あれこれと妄想しているのも事実です。

そんな妄想の一つが別棟の建築です。別棟と言っても小屋のような小さな建物。昨今、小屋の魅力が様々なメディアで取り上げられ、雑誌の特集記事でも目にすることがあります。そんな小屋こそが、農村の元空き家で暮らす移住者にとって最適なオプションであると考えています。

多くの場合、農村の空き家は敷地が広く、小屋を配置するスペースに困りません。基本的には母屋を生活の拠点とし、小屋は母屋のサテライト的なスペース。仕事場であり、寝室でもある。来客時にはゲストルームとしても利用出来そうです。
小屋の安全性については検討の余地がありますが、現状の母屋より安全性を高める事は比較的容易なのではないか、と想像しています。また、気密性はそこそこに断熱性は必要十分なレベルを確保すれば、厳冬期でも比較的楽に過ごす事が出来ると思われます。更に、重要なのはデザイン性。シンプルながらきちんとデザインされた小屋は、住まい手の生活の質を大きく向上させる要素になります。

全国の多くの山村が限界集落化の危機に直面し、移住定住対策が必須の情勢になっています。我が村でも移住定住希望者に「村での暮らしの魅力」を感じてもらえるよう、WEBやチラシ等を用いて必死にアピールしているみたいですが、なかなか思ったようにはいかないようです。
もしかすると、「空き家+小屋」の暮らしが、移住定住対策の一つのヒントになりのではないかと密かに考えています。

また、給湯や暖房に使用するエネルギー源についても、少々考えている事があります。前述の通り、気密性ゼロのほぼ無断熱仕様である我が家では、冬期の暖房・給湯に用いられるエネルギー使用量がかなりのものになっています。そこで燃料の一部を別の燃料に置き換えられないか模索しているところです。
前回の夏の便りを読んで頂いた方は、思い当たる部分があるかも知れませんが、我が家の敷地内には、伐っても伐っても減らない密集した竹林があり、この竹こそが灯油やガスに代わる無償のエネルギー源として最有力なのです。

伐採して枝葉を落とした竹の山

伐採して枝葉を落とした竹の山

竹や竹を粉砕したチップを燃料とするボイラーについては、大学や企業、自治体等において幅広く研究され実用化されているものの、ボイラーの設置費用や、竹を燃料とする際の不具合、さらに供給体制の未確立等が大きなハードルとなって、一般に広く利用されるには程遠い状況であります。しかし、多少の不便はあっても、あくまで灯油やガスの使用率を減らし、その分を補完する程度の使用であれば無理なく導入できる出来るのではないか、と考えています。
なお、竹を粉砕する自走式チッパーシュレッダーは村が保有しており、村民は安価な使用料金と燃料費の負担のみで使うことが出来ます。(ただし、機器回送用に2トントラックの手配が必要)

荒廃竹林の整備

荒廃竹林の整備

竹チップストーブのイメージ

竹チップストーブのイメージ

村保有のチッパーシュレッダー

村保有のチッパーシュレッダー

地域を見回すと、あちこちに荒廃した放置竹林が存在し、もはや手のつけようもない状態に近づいています。全国的にこのような状況は見られますが、当地域では特に顕著だと思われます。放置竹林は、周囲の田畑や住宅地にまで範囲を拡大することで、景観を悪化させたり、風の流れを止めるだけでなく、降雪時には折れ曲がった竹による道路の通行止め等も起きています。

雪の重みで倒れた竹林

雪の重みで倒れた竹林

道路をふさぐ折れた竹

道路をふさぐ折れた竹

このような放置竹林を減らしていく事は今後の取組みとし、まずは自宅の竹林整備を計画的に行い、竹林から搬出される竹をチッパーシュレッダーにて裁断。チップ化した竹を燃料とした補助暖房を導入したいと考えています。

南信州は新年を迎え、ひっそりと静かな時間が流れています。今回触れた小屋にしても竹チップにしても、まだ妄想段階のため、今回の便りでは具体的なご報告が出来ませんが、機会があれば続報としてお伝え出来ればと考えております。

平成29年1月 玄関先からの風景

平成29年1月 玄関先からの風景

阿智村からの便り 特派員

nakajima_recent中島隆之

1975年1月神奈川県横須賀市生まれ
1997年北海道東海大学芸術工学部建築学科卒業。
設計事務所、造園会社等勤務の後、2009年横須賀市にてアトリエタムロ開設。
現在は長野県下伊那郡阿智村に移転し、主に住宅や店舗の庭づくりを行っています。

■バックナンバー
阿智村からの便り Vol.1