武蔵の国 高麗からの便り
「埼玉県日高市の郊外住宅団地から」


1.はじめに

はじめまして。石塚禎幸と申します。
一昨年秋に、長らく務めたミサワホームを退職し、現在は埼玉県日高市にある「こま武蔵台団地」に設計事務所を構え、住宅団地再生とリフォーム設計を生業としております。併せて東京大学住宅都市再生研究センターで特任研究員をしており、研究から社会実装まで一貫して取り組み、長く安心して住み続けられる、また住み継がれる住宅地に再生するべく日々活動をしています。 日本には主に高度経済成長期に作られた郊外住宅地が約3,000か所あると言われていますが、今回はその一つである「こま武蔵台団地」の様子をお伝えしてまいります。

こま武蔵台団地全景

2.こま武蔵台団地について  

こま武蔵台団地は、池袋から西武池袋線に乗り、飯能で乗り換え2つ目、池袋から約1時間の高麗駅前に広がる戸建て住宅団地です。

こま武蔵台位置図

東急不動産によって1977年から開発が始まり、1987年まで約2,200戸が分譲されました。私がこま武蔵台団地の1住戸を購入した際不動産屋さんから頂いた、分譲当初のパンフレットには『こま武蔵台は池袋へ一直線の足で結ばれた街です。「10人のうち7人ぐらいが”高麗~都内”の通勤定期…。」池袋へはもちろん副都心新宿へも所沢乗り換えでとても便利』という記載があり都心通勤者のベッドタウンとして開発されたことが分かります。  

分譲当時のパンフレット

現在は人口が約4,500人、高齢化率が約51%と人口減少と高齢化が進んでいます。空き家率は約7%とそれほど多くはありませんが、分譲当初の住宅購入世代が後期高齢者となり、今後空き家の急増が危惧されています。

3.団地の様子~3つの環境から  

私がここに事務所を構えた理由はいくつかありますが、最大の理由は住環境がとても気にいったからですが、具体的には以下の3点になります。

①自然環境

日高市は「遠足の聖地」を謳っているように、都心からの交通の便がさほど悪くなく、子どもから愛好家まで訪れる低山が連なる丘陵地があり、こま武蔵台団地はそんな自然豊かな丘陵地のふもとを開発した団地です。ですから団地内の移動は坂道・階段を必ず通ることにはなりますが、団地に隣接する丘陵では身近に山歩きが楽しめますし、登らずとも家の窓から、あるいは団地のそこかしこから山の風景を眺めることができます。ただ冬は山からの吹きおろしの風があり、夜寝ていると聞こえる雨戸のカタカタ音はこま武蔵台住民共通の記憶かもしれません。

②住宅地計画

こま武蔵台団地が開発された1970年代の高度経済成長期の日本では数多くの住宅団地が建設されています。その手法の多くは「近隣住区論」に大きな影響を受け計画されています。こま武蔵台団地も道路計画や緑地計画、あるいは商業地の配置にその影響を色濃く受けています。「近隣住区論」では自動車での移動を前提としつつ、通過交通を排除し、団地内部の歩行者の安全確保すること、都市の匿名性を克服するために小公園、レクリエーションスペースなどのオープンスペースを配置することが特徴になっていますが、こま武蔵台団地ではループ状の道路や数多くの公園があり、また多様な属性の世代が居住できるよう戸建てエリアとテラスハウス(長屋)エリアがまとまった形で混在した計画となっています。特に道路計画と公園の配置計画は秀逸で、当時の開発者の街に対する想いを大いに感じることができ、それが今も読み取れる形で残っていることに惹かれています。

③景観計画

先に述べた①と②がこの景観計画に見事に昇華されていて、例えば団地内を貫き高麗駅に向かう、地形なりに緩やかにカーブし下るメインストリーㇳは日高市のシンボルである日和田山をビスタにした景観となっており、高麗駅に向かう住民にとって原風景体験として街への愛着を生む要素になっているに違いありません。

日和田山をビスタにした景観

また団地内にある17か所の階段は日々の徒歩移動では厄介なのもですが、階段上からの景観は丘陵に囲まれた団地だからこその風景が広がり、こま武蔵台団地の魅力の一つになっています。

4.「こま武蔵台モデル」を創る

今回は事務所を開設して約1年半の私のこれまでの取り組みの中で私の活動拠点である住宅のリフォーム事例をご紹介いたします。

こま武蔵台モデル(つなぐ暮らしの設計室事務所)

リフォームのコンセプトは「郊外住宅団地で安心して住み続けられる環境改修モデルを創る」です。リフォームの内容としては3点あり、①1階への機能集約②断熱強化③地場産材の活用です。それぞれご説明します。

①1階への機能集約

高齢化に伴い、全ての生活を1階で完結させるために寝室を1階に移動をしました。寝室と洗面・浴室を隣接させ、トイレも含めた水廻りへの移動距離を短くすることは高齢期の生活を考えた時に必ず検討すべき内容です。

②断熱強化  

この住まいはもともと1階床無断熱、開口はアルミシングルガラスでした。ここでは床断熱充填、1階壁断熱材増し貼り、開口に内窓設置、または樹脂サッシに変更をしています。その結果冬季においては夜エアコン停止後翌朝の室内外温度差が改修前9.1℃→改修後12.6℃と高く保たれています。

冬季の室内外温度

③地場産材活用  

こま武蔵台団地は西川材と呼ばれる杉、ヒノキの林業地である山に囲まれた住宅地です。周辺には製材所、建具屋さん、家具屋さんと林業地ならではの地場企業が集積しています。それほど木材の流通量が多くないため都市部の住宅にはあまり使われていませんが、いくつか西川材を使うことをアピールポイントにしている工務店もあります。今お住まいの方が安心して住み続けられることはもちろん、新たな移住者や二地域居住者を流入させることは団地再生に取り組む上では重要な課題です。こま武蔵台団地でリフォームを行うにあたり、西川材を使ったこの地域らしい住まいをシンプルなデザインで実現し、年代を問わず魅力のある住まいの提案をしました。また施工はすべて地元の大工さん、職人さんにお願いして作っていただきました。住宅リフォームは住宅地の中では大きな経済活動であるため、地場産材活用や地場企業との協業は団地再生、ひいては地域活性化のために重要なポイントになります。

以上、今回は「こま武蔵台団地」と「こま武蔵台モデル」のリフォーム事例を紹介させていただきました。次回は団地全体で住まいのこれからについての取り組みをご紹介したいと思います。

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【著者略歴】  
石塚 禎幸(いしづか よしゆき)
つなぐ暮らしの設計室 代表
HP:https://sites.google.com/view/tsunagu-kurashi
東京大学住宅都市再生研究センター 特任研究員
一級建築士/宅地建物取引士/福祉住環境コーディネーター1級
2024年9月にミサワホームを早期退職し、つなぐ暮らしの設計室を設立。『研究から社会実装まで一貫した取り組みを通して、地域の力をつなぎ、心豊かな暮らしを次世代につなぐ』をコンセプトに郊外住宅団地再生とリフォーム設計に取り組んでいます。